【18-001】小鵬汽車(XPeng Motors)夏総裁らJST中国総合研究交流センター来訪
2018年3月16日 周少丹(JST研究開発戦略センターフェロー)
3月5日、小鵬汽車の夏珩総裁(President XIA Heng)と劉明輝副総裁(Vice President LIU Minghui)が科学技術振興機構(JST)中国総合研究交流センター(CRCC)を訪れ、沖村憲樹CRCC上席フェローと自動車の未来について意見を交わした。
写真1 小鵬汽車(XPeng社)夏総裁らの来訪
(左から劉明輝副総裁、沖村上席フェロー、夏珩総裁)
夏総裁は清華大学自動車学科を卒業し、その後、広州汽車グループ中央研究院で電気自動車の制御に関する研究開発に従事した。2014年にアリババモバイル事業担当総裁(役員)の何小鵬氏と広州汽車グループの同僚だった何濤氏と共に新鋭の電気自動車(EV)会社である小鵬汽車を創設した。
当時、夏総裁はわずか30歳。2018年1月29日、小鵬汽車はアリババ、フォックスコン、IDG投資ファンドなどがリードした22億元のBラウンド(製品やサービスをAラウンド以上拡大する段階のベンチャーキャピタル融資)の資金調達の完了を発表した。2回のAラウンド(プロトタイプからプロダクトの量産へシフトし、ビジネスモデルが確立される段階のベンチャーキャピタル融資)も含めて、これまでに調達した資金は既に50億元近くに上る。この額はEV関連のスタートアップでは第2位で、資金調達に要した期間はわずか3年。同社は今後数年以内にさらに200億元の資金調達を計画している。
夏総裁は、自動車の発展の方向を左右するのは電動化、スマート化、IoT(モノのインターネット)化と予測する。この大きなトレンドでは、既存の成熟したハードウェアの技術よりソフトウェアの技術がますます重要であることから、小鵬汽車はスマート化とIoT化において他社との差別化を図っている。例えば、小鵬汽車は世界中から優秀な人材を獲得し、広州、北京とシリコンバレーに研究開発センターを設置し、スマート化における優位を構築しつつある。同センターでは一つのモデルに数百名規模の研究開発者を投入する態勢をとっている。
また、自動運転への投資金額では、同社が中国トップで、既に自動駐車機能、混雑時の自動追尾機能を含むレベル2(自動運転の統一基準は、レベル5が最高)を実現した。自動運転については、自社開発に加え、ドイツのボッシュとも共同開発を行い、レベル3達成に向けて注力している。2021年までには特定区域におけるレベル4の実現を計画している。自社開発するEV用のバッテリ制御システムも、中国で最高のエネルギー密度(152KW/Kg)を達成している。小鵬汽車はこれらの研究開発を加速するために、従業員数を2018年中に1,500名、2019年末までに3,500名に拡大して、年間生産量を2018年に1万台、2019年に7万台、2020年に15万台にする野心的な目標を設定している。
写真2 世界最大の先進技術の見本市CES 2018で展示されたG3モデル
出典:小鵬汽車より資料提供
「なぜ既存の大手EVメーカーと協力する道を選ばず、自ら起業するのか」という沖村上席フェローの質問に対して、夏総裁は広州汽車グループの勤務経験と日本、ドイツなどの自動車メーカーと協力した経験から、既存の自動車メーカーに対して次の様な持論を展開した。「彼らは頭が回っていて、お尻が動かない巨人と同様である。換言すれば、自動車大手メーカーは巨大組織で、上層部が自動車の電動化、スマート化とIoT化を認識しているが、組織全体にその動きを及ぼすには時間がかかる。したがって、自分の手でスマートEVを作り、車社会を再定義するチャンスは今しかないのだ」と。
沖村上席フェローは、20年ほど前にJSTが慶應義塾大学環境情報学部の清水浩教授(当時。現・同大学名誉教授)のEV研究開発を支援したことを紹介した。「当時は、いかにエネルギーの変換効率を向上させるかが中核的なコンセプトで、この研究では、最先端の技術を駆使し、優れた走行性能や広い室内空間を持ち、航続距離の長い高性能新世代電気自動車の試作に成功した。ただし、当時はガソリン車に比べて劣っていることが明らかで普及に至らなかった」。こうした沖村上席フェローの説明に対し、夏総裁は「小鵬汽車はスマート化による差別化を求めるが、そこではまず高品質な自動車製造技術が基本となる。つまり、日本の自動車メーカーの優れた技術、ノウハウと、中国のスマート化技術は補完関係にある。日中の間ではWin-Win関係が構築可能だ」と述べた。
写真3 小鵬汽車(XPeng社)創設者チーム
(左から何涛副総裁、何小鵬会長、夏珩総裁)
その他、沖村上席フェローは夏総裁らと、スマート自動車に見えた未来社会、アリババなどの協力のあり方について議論を展開した。「創設者の何小鵬氏、夏珩氏、何濤氏の名字の日本語の発音はいずれも『カ』で英語の「Car」と語呂合わせもよい。創設者メンバーがこの事業に関わることは使命であり、大きな追い風と感じる。ぜひ頑張って成功してください」との言葉を沖村上席フェローは夏総裁に贈った。
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