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【23-03】【調査報告書】『国際的な科学技術活動における中国のプレゼンス』

2023年11月24日 JSTアジア・太平洋総合研究センター

書籍イメージ

 科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『国際的な科学技術活動における中国のプレゼンス』を公開しました。以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#fy23_rr01

 

エグゼクティブ・サマリー

 中国は、論文の発表数に見られるとおり科学技術活動の活発化が顕著であり、国際的な科学技術活動におけるプレゼンスも大きくなっているといわれる。この調査では、その活動の姿を事実に即して把握することを目指している。

 習近平政権となって以来、グローバル・ガバナンス体制の改革へ積極的に関与する姿勢を強化し、科学技術活動においてもそのプレゼンスを拡大する動きが目覚ましいといえる。一方、中国による国際的な科学技術活動について全容を整理する調査は見かけない。本調査では、科学ジャーナル、国際会議・国際大会、国際機関、国際プロジェクトおよび高等教育機関の5分野において中国が進めている国際的な活動を事実としてできるだけ体系的に整理することを試みた。

 調査に当たっては、先行する若干の調査について触れつつ、科学技術の特殊性を考慮した。つまり、科学技術は、その成果をもたらした当該国の経済力や軍事力の強化に、ひいては国際政治での発言力の強化に直結する部分がある反面、競争と協力による研究開発の成果が当該国のみならず国際的に共有されることで、国際社会全体が利益を享受するという側面を持つ。その意味において、交易による互恵と競争が共存する経済との類似性はあるものの、軍事とは性格を異にするものであるといえる。つまり、中国が国際的な科学技術活動を活発化させることにより、一定の国際貢献が果たされているとみることができる。

 事実の整理に当たっては、中国共産党中央および国務院等関係政府各部が示している政策文書による基本的な方針を確認し、その方針に基づき国家自然科学基金委員会(NSFC)、中国科学院(CAS)、中国科学技術協会(CAST)、さらには著名大学等が進めている具体的な活動を主に視野に入れた。

 中国の国際的な科学技術活動におけるプレゼンスの特徴を概括すると、以下のとおりである。

 科学ジャーナルでは、近年、国の主導的政策もあり国際的な科学ジャーナルを目指す活動が積極的に展開されているが、依然として世界の研究者の注目度を上げていく必要はある。科学ジャーナル総合実力世界1位を目指す上で達成目標とされる2035年までの動向から目が離せない。一方、世界の主要ジャーナルにおけるエディター等の数には明らかに存在感があり、中国研究者の評価が高くなっているといえる。

 国際会議・国際大会では、より広い調査が必要であるが、一帯一路等の枠組みの活動が目立っており、この枠組みを超えたより広い国・地域を巻き込んだ活動になるかどうか、注目される。国際機関については、中国がトップを務める国連専門機関の数では一時期ほどは多くないが、一帯一路の協力活動を通じた国・地域との関係形成が影響すると見られ、今後さらに分析、評価を行うことが重要であり、また単に国際機関等の長に留まらず、職員数、財政支援の規模とその受益国の動向も見ていく必要がある。

 国際プロジェクトも一帯一路を中心とする人材育成に熱心といえる。国際熱核融合実験炉(ITER)計画に代表される大規模国際プロジェクトへ積極的な参加も確認できる一方、宇宙開発では宇宙基地建設等で独自の動きを展開している。

 最後に高等教育機関に関する国際的な活動は、中国独自の歴史的経緯もあって発展してきたものであるが、最近の欧米における中外大学(中国と外国の教育機関が協力し、主に中国国内で行う中国国民を対象とした高等教育を行う大学。少数ではあるが中国国外の合弁大学を含む。)および孔子学院(中国が世界各国の大学等と提携してその地(中国国外)に設立する、中国語および中国文化に関する教育機関)に対する見方の変容もあり、中国語教育や文化交流などの方面で影響力を発揮するという当初の目標に沿った展開が難しくなっているといえる。

 科学技術を含めた各種の分野において、国際的に自国のプレゼンスを高めてイニシアチブを取ることは、その分野において一定の価値観に基づき、さまざまなアジェンダを設定する力を持つことである。そしてそれは、自国主導による国家、経済の安全保障の構築にも繋がるものである。その意味ではいずれの国であれ、一定の科学技術力を背景として、当然プレゼンスの拡大を目指すこととなる。もちろん、そのためには実力が伴うことが前提である。

 米国主導の日米教育交流振興財団(通称「フルブライト財団」)の例を引くまでもなく、優秀な外国の学生、研究者の人材育成と、自国の文化圏、経済圏の構築、発展とはある意味一体となっていたともいえ、国が異なっても、時代を経てもその意義は恐らく変わらないのであろう。

 中国が国際的な科学技術活動において高めているプレゼンスがどのような結果を生むかは、分からない。しかし、最近の米中対立といわれる状況が価値観の相違を巡って進んでいることを思えば、その帰趨を見極める必要はあるが、今はまずファクトの整理が重要な段階と言えるのであろう。

 いずれにしてもこの調査で整理した事実をさらに充実させ、将来の分析評価に生かして行くことを期待したい。