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【25-03】【調査報告書】『「宇宙科学強国」を目指す中国の宇宙開発』

2025年09月02日 JSTアジア・太平洋総合研究センター

書籍イメージ

 科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『「宇宙科学強国」を目指す中国の宇宙開発』を公開しました。以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#fy24_rr08

 
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サマリー資料 (PDF: 742KB)

エグゼクティブ・サマリー

 本報告書は、中華人民共和国(以下、中国)の宇宙開発の最新状況について、特に進展著しい2020年以降にフォーカスして、著者が長年継続的に収集し蓄積してきた中国の宇宙開発関連情報に基づきその実態を明らかにすることを目的としている。

 中国の宇宙開発は、1950年代から「両弾一星」(核爆弾・ミサイル(導弾)及び人工衛星)という国威発揚のスローガンの下で始まり、1970年4月、旧ソ連、米国、フランス、日本に次いで世界で5番目の人工衛星打ち上げ国となった。その後の衛星の打ち上げ推移を見ると、2010年までの40年間に88機だったところ、第12次五カ計画(2011~2015年)の5年間で131機、第13次五カ年計画(2016~2020年)の5年間では314機と、飛躍的に拡大している。この間、様々な衛星を打ち上げるためのロケット「長征」シリーズの開発が進められ、超大型の「長征5号」など多種多様な宇宙輸送手段が整備されてきた。このような宇宙輸送システムの発展が、地球観測、通信、衛星測位、宇宙ステーションや月惑星探査など中国の広範な宇宙活動の展開を支える基盤となっており、一部では先行する米国、ロシアを凌ぐ成果を上げるまでになっている。中国の主な宇宙活動分野の進展状況を以下に示す。

 有人宇宙活動分野では、2021年には中国宇宙ステーション(CSS)の運用が始まり2022年以降3名の宇宙飛行士が常駐している。注目される外国人宇宙飛行士の搭乗に関しては、2025年2月、パキスタンが最初の対象国になることが発表されている。

 月惑星探査分野では、2019年に「嫦娥4号」がデータ中継衛星「鵲橋」の支援により世界で初めて月の裏側に着陸した。米国、ロシアも成し遂げていない世界初の壮挙となった。2024年には「嫦娥6号」が月の裏側からの初のサンプルリターンにも成功した。将来的には、2030年までに有人月面着陸を行うとともに、2035年から2045年にかけて月科学研究ステーション(ILRS)の建設を構想している。

 火星探査でも2021年に「天問1号」がロシア・米国に次ぎ3番目に火星に着陸し、火星ローバ「祝融」の走行にも成功した。初めての火星探査で、軌道周回、軟着陸とローバ走行を一挙に成功させたことからも、中国の探査分野での技術水準が着実に高まっていることが窺える。

 宇宙科学分野ではそれまで打ち上げられたことがなかった天文観測衛星や宇宙物理学衛星の打ち上げが多数行われた。2024年、中国科学院(CAS)は2050年までの「国家宇宙科学中長期発展計画」(以下、宇宙科学中長期計画)を発表し「宇宙科学強国」を目指す段階的な目標を示した。これは中国が宇宙科学において革新的な基礎科学の進歩を通じて、人類の知の拡大さらには人類文明の発展に貢献することを目指すものである。

 地球観測分野では2015年から始まった10か年計画「民生用宇宙インフラ中長期発展計画」において陸域観測衛星・海洋観測衛星・大気観測衛星など多種類の地球観測衛星を多数打ち上げている。なお、これらには人民解放軍が運用する偵察衛星「遥感」シリーズも含まれる。

 衛星通信分野では、米国のスペースX社のStarlinkに対抗すべく、2024年から静止衛星、低軌道衛星、極軌道衛星などを次々に打ち上げ、インターネット中継衛星網を整備中である。

 航行測位分野においては2000年以降、3段階に分けて整備が進められ、2019年に北斗3型衛星35機による全球測位システムの構築を完成させた。

 中国は、今後も「宇宙科学強国」の達成に向けて着実に宇宙開発を推進していくものと考えられる。2026年から始まる第15次五カ年計画(2026~2030年)期間においては、中国宇宙ステーションへの外国人宇宙飛行士の搭乗機会の提供(今後数年内)や火星からのサンプルリターンを目指す「天問3号」探査機の打上げ(2028年頃)、さらには米国と競い合う有人月面着陸(2030年まで)など注目される計画の実施が予定されており、中国の宇宙開発動向について引き続き幅広く注視していく必要があろう。

 なお、タイトルに「宇宙科学強国」を目指す中国の宇宙開発と掲げたが、これは中国科学院(CAS)が2024年に発表した2050年までの宇宙科学中長期計画で示された目標である。宇宙科学とあるが、天文観測など狭義のサイエンスだけでなく宇宙ステーションや有人月探査などを含む広義のサイエンスを対象としている。中国は、宇宙輸送、有人、地球観測、通信分野等々、様々な技術開発の蓄積の先に、宇宙科学のフロンティアを開拓できる地位を築き、宇宙科学中長期計画で今後「宇宙科学強国」を狙っていくものと見られることから、本報告書では地球観測、通信分野等の重要な進展も含めて取り上げた。

 

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