田中修の中国経済分析
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【18-01】2018年の経済政策

2018年1月9日

田中修

田中 修(たなか おさむ):日中産学官交流機構特別研究員

略歴

 1958年東京に生まれる。1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信 州大学経済学部教授、内閣府参事官、財務総合政策研究所副所長、税務大学校長を歴任。現在、財務総合政策研究所特別研究官(中国研究交流顧問)。2009年4月―9月東京大学客員教授。2009年10月~東京大学EMP講師。学術博士(東京大学)

主な著書

  • 「日本人と資本主義の精神」(ちくま新書)
  • 「スミス、ケインズからピケティまで 世界を読み解く経済思想の授業」(日本実業出版社)
  • 「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)
  • 「検証 現代中国の経済政策決定-近づく改革開放路線の臨界点-」
    (日本経済新聞出版社、2008年アジア・太平洋賞特別賞受賞)
  • 「中国第10次5ヵ年計画-中国経済をどう読むか?-」(蒼蒼社)
  • 『2020年に挑む中国-超大国のゆくえ―』(共著、文眞堂)
  • 「中国経済はどう変わったか」(共著、国際書院)
  • 「中国ビジネスを理解する」(共著、中央経済社)
  • 「中国資本市場の現状と課題」(共著、財経詳報社)
  • 「中国は、いま」(共著、岩波新書)
  • 「国際金融危機後の中国経済」(共著、勁草書房)
  • 「中国経済のマクロ分析」(共著、日本経済新聞出版社)
  • 「中国の経済構造改革」(共著、日本経済新聞出版社)

はじめに

 12月18-20日、党中央と国務院の共催により、2018年の経済政策を決める中央経済工作会議が開催された。本稿では、2018年の経済政策の重点を解説する。

1.マクロ政策の基本方針

 2018年の意義づけとしては、「2018年は、19回党大会精神を貫徹するスタートの年であり、改革開放40周年であり、小康社会を全面的に建設し、第13次5ヵ年計画を実施するうえで前半の成果を受けて後半を切り拓くカギとなる一年である」とする。

 そのうえで、「安定の中で前進を求めるという政策の総基調は、国政運営の重要原則であり、長期に堅持しなければならない。『安定』と『前進』は弁証的に統一されたものであり、一体として把握すべきものである」とする。2017年が19回党大会を控え、「安定」が強調されたのに対し、2018年は改革開放40周年という節目の年でもあり、経済構造調整・経済体制改革で一定の前進が必要とされるのである。

 マクロ政策の総論としては、次の項目が挙げられている。

(1)積極的財政政策の方向は不変

 2016年会議の「より積極・有効」という表現はなくなり、財政支出構造の調整・最適化と、地方政府の債務管理強化が述べられている。企業減税による景気浮揚のニュアンスも、営業税の増値税転換改革が一段落したため、消滅した。

(2)穏健な金融政策は中立性を維持

 「マネーサプライの総バルブをしっかり管理し、マネー・貸出と社会資金調達規模の合理的な伸びを維持する」とし、金融緩和を否定している。2017年7月の全国金融工作会議を踏まえ、「実体経済に更に好く奉仕し、システミックな金融リスクが発生しない最低ラインをしっかり守る」ことが強調されている。

(3)構造政策は大きな役割を発揮

 「消費の基礎的役割をしっかり発揮させ、有効な投資とりわけ民間投資の合理的な伸びを促進する」とする。2017年「政府活動報告」の「有効な投資の積極的拡大」といった、投資で需要を刺激するトーンは弱まり、むしろ「供給構造の最適化」に対する投資の役割が強調されている。また、民間投資の役割が重視されている。

(4)際立った民生問題の解決を重視

 19回党大会を踏まえ、「基本公共サービスを強化し、社会矛盾を遅滞なく解消する」としている。

(5)改革開放を強化

 改革開放40周年を意識してか、「経済体制改革の歩みを再び速め、財産権制度の整備と生産要素の市場化された配分に重点をおき、基礎的でカギとなる分野の改革を推進しブレークスルーを得る」と再び改革に力を入れる姿勢を示している。開放面でも、市場参入を大幅に緩和する、としている。

2.2018年の重点政策

(1)サプライサイド構造改革を深化させる

  「中国による製造から中国による創造への転換、中国の(成長)速度から中国の(発展の)質への転換、製造大国から製造強国への転換を推進しなければならない」と3つの転換を提起する。ここでも、19回党大会報告を受け、サプライサイド構造改革は、従来の5大任務(過剰生産能力の削減・住宅在庫の削減・脱レバレッジ・企業のコスト引下げ・脆弱部分の補強)よりも、内容が広がっている。

 また、生産要素の市場化配分改革を深化させ、重点を①無効な供給の「打破」、②新しい動力エネルギーの「育成」、③実体経済のコスト「引下げ」におくとしている。コスト引下げについては、減税ではなく、費用徴収とエネルギー利用・物流のコスト引下げに重点がおかれている。

(2)各種市場主体の活力を奮い立たせる

 19回党大会報告における「国有企業の強大化」から「国有資本の強大化・優良化」という表現変更を受け、国有企業・国有資本改革方案を整備し、資本管理を主とすることを軸に、国有資本の授権経営体制を改革するとしている。他方で、「国有企業の党の指導と党の建設を強化」するとも述べ、左右の主張のバランスをとっている。

 民営企業の発展支援については、「財産権保護政策を実施し、法に基づき社会の不満が強烈な財産権紛争事件を弁別し是正する」とし、引き続き私有財産権保護強化の姿勢を示している。これは、民間投資の合理的な伸びを確保する手段でもある。

(3)農村振興戦略を実施する

 農業においても、「サプライサイド構造改革を推進し、質の面での農業振興・グリーンな農業振興を堅持し、農業政策を増産から質向上の方向へと転換する」としている。

(4)地域の協調発展戦略を実施する

 19回党大会を受け「基本公共サービスが均等化し、インフラの普及程度が比較的バランスがとれ、人民の生活水準が大体相応であることを実現しなければならない」とする。インフラについても、地域格差を縮小させる趣旨が盛り込まれた。また、「高い起点・高い質で雄安新区計画を編成しなければならない」としている。

 「シルクロード経済ベルト・21世紀海のシルクロード」建設をめぐっては、「対外投資方式を刷新し、投資により貿易の発展・産業の発展を牽引しなければならない」としている。19回党大会報告では、「一帯一路」は、「開放」「平和発展」の項目において語られているが、今回は「地域発展戦略」の対外投資として語られており、しかも「刷新」が必要とされている点が注目される。

 また、農業からの移転人口に対する都市の吸引力・受容力を増強し、戸籍制度改革の実施の歩みを加速する、としている。

(5)全面的な開放の新たな枠組みの形成を推進する

 改革開放40周年を踏まえ、「開放の範囲・レベルを一層推し進め、開放の思想・観念、構造・配置、体制メカニズムのレベルを一層推し進めなければならない」と強いトーンになっている。具体的には、外資関連の法律整備、知的財産権の保護強化等が挙げられている。また、米国を意識してか、「貿易のバランスを促進し、一部製品の輸入関税を引き下げる」ともしている。輸出強国建設の面では、「輸出の質と付加価値の向上をより重視し、サービス貿易を大いに発展させる」としている。

(6)民生の保障・改善のレベルを高める

 雇用については、「構造的な就業の矛盾の解決を重視し、性別による差別・身分による差別の問題をしっかり解決する」とする。男女の定年格差(中国の定年退職の年齢は男性60歳、女性50歳、幹部女性55歳)が問題となっているのだろう。

 社会保障では、「基本年金保険制度を改革・整備し、年金保険制度の全国統一を早急に実現する。『医療難・医療費高』の問題を引き続きしっかり解決し、社会資金の年金・医療等の分野への参入を奨励する」とする。ここ数年、年金の全国統一は財政面での大きな課題となっている。

 また、インターネット金融の普及に伴い、新たに「ネット上の虚偽情報・詐欺、個人情報の売買等の際立った問題の解決に力を入れる」という表現が追加されている。

(7)多くの主体が供給し、多くのルートで保障し、賃貸・購入が並列した住宅制度を早急に確立する

 住宅賃貸市場とりわけ長期賃貸を発展させ、専業化・機構化した住宅賃貸企業の発展を支援する、としている。一線都市から四線都市まで不動産市場の状況が異なり、過度な引締めにより不動産価格の全面的な急落を回避する必要があるため、「不動産市場のコントロール政策の連続性と安定性を維持し、中央と地方の権限をはっきり分け、差別化したコントロールを実行する」と慎重な表現を採用している。不動産市場の安定は、地方財政収入の安定化にもつながる。

(8)生態文明建設の推進を加速する

 19回党大会報告では、環境対策が非常に重視されていたため、大規模な国土緑化キャンペーンの始動、生態保護・修復に専門に従事する専業化した企業の育成、水質汚染防止行動計画・土壌汚染防止行動計画の実施、自然資源・資産の財産権制度整備、生態環境の監督管理体制改革等が列挙されている。大気汚染対策は、2020年までの3大堅塁攻略戦のメインテーマになっている。