富坂聰が斬る!
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【13-04】大学生の就職事情

2013年12月 4日

富坂聰

富坂聰(とみさか さとし):ジャーナリスト

略歴

1964年、愛知県生まれ。
北京大学中文系中退。
「週刊ポスト」(小学館)「週刊文春」(文芸春秋)記者。
1994年「龍の『伝人』たち」で第一回21世紀国際ノンフィクション大賞受賞。

著書

  • 「中国人民解放軍の内幕」(2012 文春新書)
  • 「中国マネーの正体」(2011 PHPビジネス新書)
  • 「平成海防論 国難は海からやってくる」(2009 新潮社) ほか多数

 中国の大学生の新卒就職状況が厳しいと言われて久しい。

 2013年に卒業した699万人の学生は契約率(日本の内定率に当たる)が約30%という過去最も厳しい状況に直面することとなったが、

 2014年には、これが一段と悪化するとの見通しが早くも出されているのだ。

 今年6月に卒業した学生たちは、まだ多くが職にありつけていないなか、すでに2014年卒業見込みの学生たちの戦いが始まっているというのだ。

 教育関係者が語る。

 「われわれのような大学関係者の認識では、中国の大学生の本格的な就職難が始まったのは2005年くらいからという印象ですが、あらためてこの10年を振り返ってみると、苦労しなかった年はないといった状況であることに気づかされます。あまりの就職難のため、2009年ごろには大学進学に対する熱が明らかに覚めるといった現象さえ確認されたほどでした。しかもこの状況は、2014年にはさらに悪化し、これまでで最も厳しい就職戦線となることも予測されているのですから大変です」

 今年の春には、職が見つからなかった学生たちが一つの部屋に群れて暮らす様子がニュースでも何度も取り上げられた。その一つに新華社が報じたものもあり、その見出しには「80平米のマンションに25人が暮らす」と説明が加えられていたのだ。

 こうした事情を受けて、就職戦線が盛り上がる時期を過ぎたにも関わらず、相変わらず国内のメディアには大学生の就職難をテーマにした特集記事があふれている。

 そうしたなか『北京晩報』(2013年11月14日)が組んだ特集記事がひときわ目を引いた。

 「『史上最難就職季』のAB面」― こんな見出しが付けられた記事の副題には「一方では学生の怨嗟の声が響き渡る就職戦線だが、その一方では人手不足に悩む経営者のため息が漏れる」といった一見矛盾する説明がつけられていて興味をそそられるのだ。

 いったいどういうことなのか。

 見出しを見る限り「マッチングの問題」であって、その背後からは「選ばなければ仕事はある」といった批判の声が聞こえてきそうなのだが、事情はそれほどシンプルではないらしい。

 北京の夕刊紙の記者が解説する。

「記事にあるように大学生側の要求は高い。月4000元が基準というのですから。しかし、彼らもインタビューに答えて語っているように、北京で暮らせばワンルームを2人でシェアしても第4環状線の内側ならば2000元はかかるのです。さらに切り詰めた食費として1000元は必要ですからね。新入社員とはいえ社会人ならば最低限の要求です。決してわがままといった類の要求ではありません。ただ一方の経営者の言い分にも一分の理はあるのです。昨年までの実績では新卒の初任給はたいてい2000元前後で、なかには1500元でも応じたという例もあったというのです。また彼らに重くのしかかっているのは、政府がにわかに力を入れ始めた社会保障費の負担です。例えば、新卒に4000元の給料を出すためには、まともな企業であれば社会保障費としてさらに2000元を負担しなければならないのです」

 つまり、大学生に「世の中厳しいんだぞ」といって埋まるギャップではないのだ。

 調査ではこのほか、どこに就職したいかというアンケートも行っているが、大卒で66%、修士で76%というように圧倒的に政府機構と国有企業に偏っていたのも現在の特徴なのだろう。数年前まで人気の高かった外資は大学生、修士ともに22%と21%にまで落ち込んでいたのも興味深い現象だ。