【14-02】反腐敗キャンペーン
2014年 6月18日
富坂聰(とみさか さとし):拓殖大学海外事情研究所 教授
略歴
1964年、愛知県生まれ。
北京大学中文系中退。
「週刊ポスト」(小学館)「週刊文春」(文芸春秋)記者。
1994年「龍の『伝人』たち」で第一回21世紀国際ノンフィクション大賞受賞。
2014年より現職。
著書
- 「中国人民解放軍の内幕」(2012 文春新書)
- 「中国マネーの正体」(2011 PHPビジネス新書)
- 「平成海防論 国難は海からやってくる」(2009 新潮社) ほか多数
習近平政権の代名詞にもなった反腐敗キャンペーンは、全国人民代表大会が閉幕した後も厳しさを増し、摘発の範囲が拡大され行われている。
2014年6月11日には、中国の最高人民検察院が環境部門に対する取り締まりを行ったことを記者会見で明らかにした。
当日発表された統計によれば、今年1月から4月まで環境汚染に関わる汚職事件に関わり処分された環境監督管理部門に所属する官僚は、349人に上ったという。
処分の対象となった監督管理責任者は、個人や所属する組織のために賄賂を受け取って環境破壊行為を見逃したり、環境基準を満たしていないプロジェクトにも許可を与えていたという。
記者会見で質問に答えた最高検察庁副長官のコメントは、おおむね以下のようなものだったとされる。
「むやみに経済発展を推進し、監督管理部門の仕事をかえって妨害した罪が深刻である。商務濫用などの汚職事件が後を絶たず、環境問題にかかわる犯罪はこれまでほとんどが執行猶予付き判決ばかりだったため、懲罰の効果を期待することができなかった。しかし今後は生態環境に対する犯罪については監督管理部門の犯罪を徹底的に追及するだけでなく、その後ろ盾となっている組織や個人に対する責任も糺してゆくつもりである」(上海RTS『東方新聞』2014年6月12日)
汚職官僚の問題は、いまや海外に資産を映す〝裸官〟に焦点が移っている。南部の広東省では配偶者や子供を海外に移住させ、不正に蓄財した問題を問われた事件がキャンペーン期間を通じて1000件を上回ったと報じられている。
そのうち海外に居を移した配偶者や子供を強制的に帰国させられた官僚は約200人。860人が懲罰としての降格人事に処せられるという大がかりな処分となった。
広東省でのこうした動きの一方で陝西省では、中間管理職に昇進する官僚に一律個人資産の届け出を義務付ける規則が全国に先駆けて決定された。こうした資産は一般に公開されることはないということなので、その効果を疑問視する声も聞かれるが、価値観の変化を象徴するという意味では大きなアナウンス効果を生んだと考えられている。
中央及び各地の紀律検査委員会を中心とした取締り当局のこうした華々しい成果の喧伝の一方で、昨今では官僚側の反感も強まっていると言われている。
こうした大量の官僚が紀律検査の〝双規〟の対象となることで、これまで謎とされた紀律検査委員会の身柄拘束の傾向を調べ始めたメディアが現れるなどの興味深い現象も生まれている。
その記事を掲載したのは星島環球ネットである。タイトルは、〈高級官僚摘発に傾向 多くは午後か深夜に身柄を押さえられている 木曜日と土曜日に公表されるパターンが最多〉である。
紀律検査委員会の行う取り調べには5つの段階があり、そのうち最初の2つの段階は本人が知らないうちに進められる調査を指す。そして紀律違反が固まると、次に身柄拘束をして〝双規〟となるのだ。
このとき当局がどのように身柄を押さえてどのタイミングで世間に公表するのかを調べたのがこの記事だ。
〈18回大会(全人代)閉幕後、落馬した(捕えられた)大臣級の高級官僚は26人。このうちメディアによって逮捕時の様子が伝えられている官僚はわずかに10人。この10人の傾向を見ると、うち9人が午後、または深夜に逮捕されているのだ。〉
〈逮捕場所は主に自宅とオフィス、出張先、会議中である。(中略)自宅の場合には多少の配慮がなされるが、その他の場所で拘束する場合は、一罰百戒の効果を最大限発揮されるようなやり方になる。元貴州省政治局常務委員で遵義市書記廖少華は会議が終わったばかりの党委員会ビルで逮捕された。〉
記事によれば、湖北省の副省長は上級幹部の視察に同行している中で身柄拘束され、ほかには家で子供とピンポンしている最中に紀律検査委員会が訪問したというケースもあったという。
また、多くの人が週末に身柄拘束の事実が公開されると感じていることについては、実際は〈木曜日と土曜日が多い〉のだという。だが、人々がそう感じるのにも理由があり、それは〈大物の身柄拘束が発表されるのは週末が多い〉ためだという。
謎の多い組織の生態が少しずつだが明らかになり始めたようだ。