富坂聰が斬る!
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【19-05】2020年の中国経済の課題

2019年12月11日

富坂聰

富坂聰(とみさか さとし):拓殖大学海外事情研究所 教授

略歴

1964年、愛知県生まれ。
北京大学中文系中退。
「週刊ポスト」(小学館)「週刊文春」(文芸春秋)記者。
1994年「龍の『伝人』たち」で第一回21世紀国際ノンフィクション大賞受賞。
2014年より現職。

著書

  • 「中国人民解放軍の内幕」(2012 文春新書)
  • 「中国マネーの正体」(2011 PHPビジネス新書)
  • 「平成海防論 国難は海からやってくる」(2009 新潮社) ほか多数

 日本で中国を分析していると、なんとも窮屈な思いをさせられる瞬間がある。

 態度を鮮明にしろとばかりに勝手に仕分けされることだ。曰く、中国を分析する人は、「すごいぞ中国派」と「やばいぞ中国派」に分かれる、というのだ。

 もはやこんな視点を持った時点で、その人は中国を正確に知ろうとする資格を欠いていると言わざるを得ない。

 背後にあるのは二つ欲求である。一つは、手っ取り早く中国を知りたいというせっかちな要求であり、巷にあふれるニーズだ。私もよく尋ねられるが、要するに「中国は良いの?悪いの?」というやつである。まるで小学生の質問だ。

 もう一つは、その結果を受けて、「中国に阿るべきか」、「中国なんて、と見下す」か、態度を決めたいという欲求だ。その裏には、相変わらずアメリカに仕えてさえいれば良いのだ、と安心したい気持ちがあるのかもしれない。いずれにせよ、与したくなるものはない。

 だから仕分けしようとする人には、「放っておいてほしい」と願うのみだ。

 そもそも中国経済だって、人間の体と同じように、悪いところがあれば、良いところもある。長期的なトレンドはあるが、好悪が併存しているのが通常の状態だ。その上で、とても元気だけど血圧が高い、というのはどう判断するのかという話だ。

 外部の要因や予期せぬ変化が決定的な役割を果たすことも多い。

 リーマンショックや大きな自然災害、そして米中貿易戦争のような政治の問題もあれば本当の戦争もある。

 グローバルサプライチェーンがこれほど複雑に絡みついている世界で、単に「すごいぞ中国派」と「やばいぞ中国派」で議論が成立すると考えているなら、あまりに現実を知らないと言わざるを得ない。つまり、中国一国がどれほど凄くても、外部の要因を抜きに、中国経済の未来は予測できないし、よしんば中国崩壊というフィクションが現実になったとして、それをすべて中国政府のせいとか、中国人の気質のせいにする議論に意味はないということだ。

 さて、前置きが長くなったが、それでも中国経済の見通しについて少し書きたい。

 目下、中国の問題には、かつての高速発展を支えたオールドエコノミーが衰退し構造不況産業となり調整を余儀なくされていること、不動産業に依存した体質の改善が進んでいないこと、地方政府と国有企業を中心にした債務の問題、それに加えて世界経済の先行き不透明感と米中貿易摩擦がある。とくに米中貿易戦争によって財務体質の改善が途中で止まってしまったことが挙げられる。

 一方、好材料は、ITなど最先端を担う企業が育ちニューエコノミーの台頭が著しいこと、実質的に中国経済の主役である民間企業が活発であること、第三次産業へのシフトが進みネットを中心とした個人消費が堅調であること、国家の歳入が堅調であること、米中貿易戦争の下でも外資の流れが止まっていないこと、今後発展が見込まれる新興国から発展途上国での競争力があることなどが指摘できるだろう。

 いうまでもないことだが、一つの材料だけを取り上げて語ることには意味がない。

 では、中国自身はこれをどう考えているのか。参考にしたいのは『人民日報』(12月6日)の記事〈勝負の年、順調な目標達成を確実にするために――政治局会議が2020年の経済五大サインを伝達〉である。

 勝負の年とは、中国共産党の「二つの百年」目標のうちの最初の「百年」である2021年の中国共産党結党100周年に小康社会を実現するという目標だ。具体的には2020年のうちに貧困を撲滅しなければならないのだ。これに加えて経済計画である「十三・五」(第十三次五か年計画)の最終年にも当たる。

 記事では、中国が抱える問題を「今年になって国際社会には一国主義や保護貿易主義が広がり、世界経済に減速傾向が顕著となった。地政学的な不安定要素も高まり、国内経済には構造的な問題が突出し、下振れ圧力が大きくなってきている。」と列挙し、それに対しては「サプライサイド構造改革を深化させ、為替リスクを軽減させるため逆周期的調整を強化し、経済が安定することを目指す」としているのである。

 さらに「勝負の年」の問題に関しては、最大攻略戦の目標として、「脱貧困」、「汚染防止」、そして「金融システムリスク」への取り組みを挙げている。

 いうまでもないことだが、中国の問題はもはや外国人が指摘するまでもない。これこそがいま彼らが備えている「心配」の中身であり、それをきちんと把握している点にある。