【16-03】日本の対中直接投資の大幅な増加
2016年 3月18日
露口 洋介(つゆぐち ようすけ):
信金中央金庫 海外業務支援部 上席審議役
略歴
1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。同年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)など。
前回 、中国の対外負債の過半は安定的な対内直接投資で占められていると述べた。中国の国際収支統計では2015年第4四半期まで対内直接投資は増加を続けている。今回は、日本サイドで対中直接投資について2015年の統計が公表されたので紹介したい。
2015年の日本から中国への直接投資は大幅に増加
2月8日に日本の財務省が公表した平成27年(2015年)の国際収支状況によると、日本の対中国直接投資は1兆685億円で、前年比48.5%の大幅増となった(10~12月の数字は速報)。2014年に国際収支マニュアル第6版に移行して、統計の連続性が失われているが、2年連続で減少したと見られる後の大幅増で、過去最高水準に並ぶレベルの金額となった。一方、中国側統計では国際収支統計に対内直接投資の国別内訳がないので、商務部公表の「全国吸収外商直接投資状況」で見ることになる。2015年の全世界からの投資は1262億7千万ドル、前年比5.6%の増加であるが、日本からの投資は32億1千万ドル、前年比25.9%の減少となっている。この統計は日本側国際収支統計と比べると基本的にカバー範囲が狭く、計上時点も遅い。ちなみにアメリカについてみても、昨年1~9月の対中直接投資は中国側統計では前年比14.3%減少となっているが、アメリカ側の国際収支統計では37.1%増加となっている。
(資料)日本側統計:財務省「国際収支状況」、2013年まではIMF国際収支マニュアル第5版準拠、2014年からは同第6版準拠。2015年10~12月は速報。中国側統計:商務部「全国吸収外商直接投資状況」、実際使用外資金額 | |||||||||
2009年 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016年1月 | ||
日本側統計(億円) | 6,492 | 6,284 | 10,046 | 10,759 | 8,870 | 7,194 | 10,685 | - | |
前年比(%) | -3.1 | - 3.2 | 59.9 | 7.1 | - 17.6 | - | 48.5 | - | |
中国側統計(億ドル) | 41.17 | 42.42 | 63.48 | 73.80 | 70.64 | 43.30 | 32.10 | 3.90 | |
前年比(%) | 12.7 | 3.0 | 49.6 | 16.3 | - 4.3 | -38.7 | - 25.9 | 18.2 |
日本の対外直接投資全体の伸びに対する寄与度(国毎の増減の前年合計に対する比率)を見ると、中国は英国、アメリカ,オランダなどに次ぐ大きさで、アジアでは香港、韓国、シンガポール、タイ、インドネシアなどがマイナスとなった中で、最も大きなプラス寄与となっている。
(資料)財務省「国際収支状況」。2015年10~12月は速報。 | ||||||||||||
中国 | 香港 | 韓国 | シンガ ポール |
タイ | インド ネシア |
マレー シア |
ベト ナム |
アメリカ | 英国 | オラ ンダ |
合計 | |
金額 | 10,685 | 2,865 | 1,994 | 7,915 | 4,333 | 4,300 | 3,421 | 1,680 | 53,052 | 18,918 | 10,036 | 159,884 |
前年比 | 48.5 | - 4.0 | -40.1 | - 2.5 | -21.3 | - 8.6 | 219.4 | 18.5 | 18.1 | 109.5 | 201.0 | 25.2 |
寄与度 | 2.8 | - 0.1 | - 1.0 | - 0.2 | - 0.9 | - 0.3 | 1.8 | 0.2 | 6.4 | 7.8 | 5.3 | 25.2 |
日本からの直接投資額を日本側統計で2015年の四半期ごとに見ると、各四半期で満遍なく増加していて、一時期に特定の巨額投資があったわけではないことが分かる。
(資料)財務省「国際収支状況」。2015年10~12月は速報。 | ||||||||||
2014年 | 1~3月 | 4~6月 | 7~9月 | 10~12月 | 2015年 | 1~3月 | 4~6月 | 7~9月 | 10~12月 | |
実行 | 10,628 | 2,154 | 2,396 | 2,546 | 3,533 | 14,535 | 3,331 | 3,750 | 3,711 | 3,745 |
回収 | 3,435 | 857 | 661 | 882 | 1,035 | 3,850 | 669 | 690 | 1,573 | 919 |
ネット | 7,194 | 1,296 | 1,735 | 1,664 | 2,497 | 10,685 | 2,662 | 3,059 | 2,137 | 2,825 |
前年比 | 48.5 | 105.4 | 76.3 | 28.4 | 13.1 |
また、現時点では2015年1~9月中までしか統計がないが、業態別の対中投資額を見ると、全体の伸びに対し卸売・小売業の寄与度が一番大きい。ただ、電気機械器具や一般機械器具なども大きく寄与しており、製造業合計の寄与度が非製造業合計を上回っている。ここでも特定の業態ではなく多くの業態で対中投資が増加したことが分かる。
(資料)日本銀行「国際収支統計:業種別・地域別直接投資」 | |||||||||
製造業 | 鉄・非鉄 ・金属 |
一般 機械器具 |
電気 機械器具 |
輸送 機械器具 |
非製造業 | 卸売・ 小売業 |
金融 保険業 |
合計 | |
金額 | 4,535 | 250 | 1,303 | 768 | 1,076 | 3,196 | 1,458 | 1,021 | 7,731 |
前年比 | 73.4 | -36.1 | 229.9 | 1921.1 | 27.3 | 100.9 | 182.0 | 29.2 | 83.8 |
寄与度 | 45.6 | - 3.4 | 21.6 | 17.4 | 5.5 | 38.2 | 22.4 | 5.5 | 83.8 |
背景にあるのは対中直接投資収益の増加
このように、日本の対中直接投資額が大きく伸びたのは、新規の投資による部分もあろうが、既存の投資が高い収益を上げ、内部留保として蓄積され、これが直接投資に計上されたことも大きな要因と思われる。日本の世界全体に対する直接投資収益は2015年1月~9月の間に約8兆円、前年同期比47%の増加となっているが、中国への直接投資からの収益は前年同期比70%増の1兆1200億円と高い伸びを示しており、統計の連続性は欠けるが、既に年間の過去最高額である2012年の6912億円を大きく上回っている。寄与度でみてもアメリカに次ぐ大きさである。
(資料)日本銀行「国際収支統計:業種別・地域別直接投資」 | |||||||||
中国 | 韓国 | タイ | インドネシア | ベトナム | アメリカ | 英国 | オランダ | 合計 | |
金額 | 11,201 | 2,433 | 6,257 | 1,981 | 1,224 | 18,294 | 5,763 | 5,647 | 80,773 |
前年比 | 70.2 | 41.8 | 8.9 | 42.9 | 90.4 | 35.1 | 37.9 | 65.6 | 46.9 |
寄与度 | 8.4 | 1.3 | 0.9 | 1.1 | 1.1 | 8.6 | 2.9 | 4.1 | 46.9 |
中国から得られた投資収益の業態別内訳を見ると、単独では卸売・小売業の全体の伸びに対する寄与度が高いが、製造業と非製造業を比べると製造業がより高い。
(資料)日本銀行「国際収支統計:業種別・地域別直接投資」 | |||||||||
製造業 | 鉄・非鉄 ・金属 |
一般 機械器具 |
電気 機械器具 |
輸送 機械器具 |
非製造業 | 卸売・ 小売業 |
金融保険業 | 合計 | |
金額 | 7,590 | 416 | 1,517 | 1,724 | 2,917 | 3,610 | 2,656 | 521 | 11,201 |
前年比 | 45.1 | 67.1 | 99.9 | 68.5 | 16.8 | 166.8 | 203.2 | 98.1 | 70.2 |
寄与度 | 35.8 | 2.5 | 11.5 | 10.6 | 6.4 | 34.3 | 27.0 | 3.9 | 70.2 |
以上から読み取れることは、日本から中国へ工場進出などで投資していた企業は、製造業、非製造業ともに、2015年1~9月中、大きな収益を上げたということである。それに伴って、2015年の中国への直接投資も製造業、非製造業ともに大幅に伸びたと見ることができる。
(了)