露口洋介の金融から見る中国経済
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【17-04】銀行間市場金利の上昇

2017年 4月21日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):
日本大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫を経て、2017年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

金利上昇の状況

 SHIBORの動きを昨年の9月末と今年の4月14日で比べてみると、オーバーナイト金利は2.3270%から2.4290%へ、1週間物で2.4770%から2.6740%へと比較的小幅な上昇にとどまっているが、1か月物は2.7410%から3.9972%、3か月物が2.8015%から4.2634%、1年物は3.0265%から4.2013%と長めの金利はかなり大幅に上昇している。

 この間に、中国人民銀行が銀行部門にベースマネーを供給する金融政策手段と位置付ける中期貸出ファシリティの入札金利は、1月24日に6か月物と1年物がそれぞれ2.85%、3.0%から2.95%、3.1%へと0.1%ポイントずつ引き上げられ、3月16日にはさらに0.1%ポイントずつ引き上げられてそれぞれ3.05%、3.2%となった。また、より短期の常設貸出ファシリティもオーバーナイト、一週間物、1か月物の金利が、2月3日にそれぞれ従来の2.75%、3.25%、3.6%から3.1%、3.35%、3.7%に引き上げられ、3月16日にはさらにそれぞれ3.3%、3.45、3.8%に引き上げられている。

 中期貸出ファシリティ(Medium-term Lending Facility: MLF)は2014年9月に導入されたもので、人民銀行自身の説明によると人民銀行が銀行システムに中期の資金を提供するための金融政策の手段とされている。現時点では6か月物と1年物が実施されている。

 常設貸出ファシリティ(Standing Lending Facility: SLF)は2013年1月にやはり人民銀行の流動性供給手段として導入されたもので、当初は期限1~3か月と説明されていたが、現在はオーバーナイト、7日もの、1か月物が実施されている。

人民銀行の説明

 人民銀行はそのウェブサイトにおいて、3月16日のMLF金利引き上げについての解説を掲載した。人民銀行は、まず「MLFの金利は入札で決定される。今回の金利上昇は金利が市場で決まった結果である」と述べている。そして、その背景として国内経済の回復傾向や米国FRBの金利引き上げなどによって市場金利が上昇したことを挙げ、「MLF金利が市場金利の動きに追随することは正常なことである」としている。そして「両者の開きが大きくなれば鞘取りの余地が広がり、不公平を生み、市場の金利決定機能も捻じ曲げられる」として、MLF金利の引き上げ前に市場ではMLF金利引き上げに対する強い期待が存在したとしている。

 そして「(人民銀行による)金利引き上げ(政策)か否かは預金貸出基準金利の変更を見るべきである。MLF金利の上昇は(人民銀行による)金利引き上げ(政策)ではない。現在の中国の金融政策の枠組みにおいて、金利引き上げ(政策)とは預金・貸出基準金利の引き上げを指し、その場合、かなり強い主導的なコントロールの意図を有する」と指摘している。また、「価格(金利)をコントロールしようとすれば量が市場で決定され、量をコントロールしようとすれば価格(金利)が市場で決定される。したがって毎回の価格や数量の操作に対して、過度の深読みをすべきでない。入札で決まる金利は常々変化しており、金融政策変更の方向を示すものではない」とも指摘している。

どう解釈するか

 以上の人民銀行の説明は興味深い内容を含んでいる。まず、説明でも指摘されているように、入札で資金供給を行う場合に数量を市場の決定にゆだねるなら指値のオペレーションを行って金利をコントロールすることは可能である。現在の銀行間市場金利の動きを見ると、少なくとも人民銀行は金利を低下させようという動きを示していない。従って、人民銀行は高めの金利を容認している、あるいは放置しているという言い方が可能である。

 さらに進んで、現在、銀行の預金・貸出金利は基準金利によって規制されており、銀行間市場金利もおおよそこの基準金利の範囲内で動いている。今回の金利上昇局面でも、現在までのところ貸出基準金利近辺で上昇が止まっている。ターム物の預金・貸出金利について人民銀行が決定している状況の中で、銀行間市場金利について完全に自由であるということは考えにくく、人民銀行が誘導していると考えるのが自然であろう。

 もう一つ興味深いのは、金融政策として金利を引き上げるということは公式には、預金・貸出基準金利の引き上げを意味するということを明確に宣言したことである。そして、現状では基準金利の引き上げを行っていないので利上げではないと言い切っている。

 以上のような状況は、日本のバブル期の1987年8月末からの短期市場金利の高め誘導を彷彿とさせる。当時、正式の金融引き締めの発動は公定歩合の引き上げであったが、公定歩合は1987年2月に当時の史上最低水準である2.5%に引き下げられた後、1989年5月に3.25%に引き上げられるまで据え置かれた。こうした中、日銀による短期市場金利の高め誘導が行われ、CD(譲渡性預金、Certificate of Deposit)新発3か月物レートはブラックマンデー直前の1989年10月19日には4.920%と8月末に比べて0.84%ポイント上昇した。この時の、短期市場金利の高め誘導は公定歩合引き上げを展望して行われたが、1989年10月のブラックマンデーの発生によって停止された(注)

 中国でも、米金利の上昇を受けて生じた人民元安圧力を緩和するためなどの理由で市場金利を引き上げたいが、一方で景気が減速傾向にある中、金融引き締めと受け取られるわけにもいかないという状況で、日本のバブル期の短期市場金利の高め誘導と類似のことが行われていると見ることができる。先ほどの人民銀行責任者による解説の最後の部分でも「ここしばらくの動きを見ると、金利はより弾力的に動き、レバレッジの解消、バブルの抑制、リスクの防止に役立っており、中央経済工作会議の精神に符合するものである」と述べられており、中央経済工作会議の方針に沿って人民銀行が高めに金利を誘導しているということが伺われる。

 なお、中国では預金・貸出基準金利の引き上げは、金融引き締め開始のメッセージとなるが、金融引き締めの実質的な部分は、主に銀行の貸出量をコントロールする「窓口指導」によって行われる。

 日本の短期市場金利の高め誘導と同じく、中国でも現在の銀行間市場金利の上昇が公式の金融引き締め政策発動と位置づけられる預金・貸出基準金利の引き上げにつながる可能性もあるが、米金利の上昇などに対する一時的な対応である可能性もある。今後の推移を見守りたい。


(注)翁邦雄、白川方明、白塚重典「資産価格バブルと金融政策:1980年代後半の日本の経験とその教訓」『金融研究』2000年12月、日本銀行金融研究所