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【17-05】「一帯一路」と人民元の国際化

2017年 5月25日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):
日本大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫を経て、2017年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

 5月14日、15日の2日間、北京において「一帯一路国際フォーラム」が開催された。130か国以上が参加し、そのうち29か国は首脳が参加した。日本からは自民党の二階幹事長が率いる代表団が参加した。北朝鮮代表団も参加する中、開幕当日の朝に北朝鮮がミサイル打ち上げ実験を行うなど、軍事・外交面でも注目されたが、本稿では、金融面で注目すべき点として人民元の国際化との関係を論じてみたい。

金融面での中国の提案

 「一帯一路」政策は陸のシルクロード経済帯(一帯)と海上シルクロード(一路)沿線国家と中国の間で、貿易、投資、金融、文化など多方面での協力を内容とするものである。2016年3月の全国人民代表大会で承認された第13次5か年計画では、その推進においてアジアインフラ投資銀行(AIIB)や新開発銀行(BRICS銀行)、中国独自で設立したシルクロード基金などを活用し、さらに国際機関や、金融機関との協力を強化するとの方針が示された。

 習近平国家主席は、今回のフォーラムの開幕式典におけるスピーチで、「一帯一路」における金融面での中国のこれまでの施策について、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が一帯一路沿線国に対して9件、合計17億ドルの貸出を実施しており、シルクロード基金は40億ドルの投資を行ったと述べた。さらに中東欧16か国との間で金融持株会社を設立したとも述べている。

 習主席はさらに、今後の方針として、シルクロード基金の資金を1000億元拡大すること、金融機関による3000億人民元規模の海外ファンド業務展開を奨励すること、中国国家開発銀行と中国輸出入銀行がそれぞれ2500億元、1300億元の一帯一路向け貸出を行うことを挙げ、一帯一路のインフラ建設に対する資金面での支援を強化することを表明した。また、AIIBやBRICS銀行、世界銀行その他の多国間開発金融機関との協力を進めて、「一帯一路」関連プロジェクトを支援し、関係部門と協力して一帯一路融資ガイドラインを作成する方針を明らかにした。

 これらの施策と、人民元の国際化との関係をみると、現段階では、AIIBやシルクロード基金の沿線国プロジェクト向け融資はドル建てで行われており、対象地域における中国の影響力は増加するであろうが、これまでのところは直接的に人民元の国際化につながるものではない。今後、AIIBやシルクロード基金が人民元建てで資金調達を行い、人民元建ての融資を沿線国向けに行うようになり、また国家開発銀行などが人民元建ての融資を増やしていけば人民元の国際化に貢献するが、これらの施策だけであれば、人民元国際化との関係は部分的なものであり、習主席のスピーチでもこれらの施策と人民元の国際化を直接結びつけてはいない。

人民銀行による説明

 一方、今回の「一帯一路フォーラム」では、人民銀行によって「一帯一路」と人民元の国際化の関係がより幅広くかつ具体的に提示された。人民銀行の周小川行長(総裁)は、今回のフォーラムの中で5月14日にスピーチを行っており、その内容が人民銀行のウエブサイトに公開された。その中で、「一帯一路」の沿線国との間で投融資の領域で協力することが望ましいとして、何点か協力の具体的な内容を挙げているが、その一つとして、「一帯一路」において現地通貨を積極的に使用することを挙げている。これはドルなど第三国通貨ではなく域内の自分たちの通貨を使おうということを意味しており、直接的に人民元の国際化進展を意味するものである。

 周行長はそれによって域内の貯蓄を直接利用することが可能となり、通貨交換のコストを削減することもでき、金融リスクも抑制することができると指摘している。そして、現地通貨の利用については中国の経験が利用できるとして、具体的に中国がこれまで行ってきた人民元と相手国通貨の間の通貨スワップ協定、人民元と相手国通貨の直接交換取引、人民元クリアリング銀行の設置、人民元のクロスボーダー決済システム(CIPS)などを挙げている。さらに、「一帯一路」の協力の中で共同して現地通貨の使用を拡大する方策を検討していきたい、と述べている。

 また、同じく人民銀行の易綱副行長(副総裁)は、フォーラム開催に先立ち5月11日付けで人民日報のインタビューに応じ、「一帯一路」のために長期安定的な金融支援を行うことが重要であると述べている。そのインタビューの中で現地通貨の利用に関する中国の経験は「一帯一路」において、既に大きな進展を遂げているとして、中国は沿線国家のうち21か国との間で現地通貨間の通貨スワップ協定を締結済みであり、6つの国が人民元適格海外機関投資家制度(RQFII)の投資枠を獲得していることを指摘している。

 通貨スワップについては人民銀行のウエブサイトに2016年6月末までに締結した33か国のリストが掲載されており、マレーシア、タイ、シンガポールなど海のシルクロード沿線国家や、ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタン、タジキスタンなど陸のシルクロード沿線国家が含まれている。直接交換取引については、本年1月の本コラム でも述べたとおり、従来からロシア、シンガポール、マレーシアとの間で行われていたが、2016年9月にはUAE、サウジアラビア、12月にはハンガリー、ポーランド、トルコなど沿線国家が加わっている。また、RQFIIについても2016年6月までに枠を設定した17か国のリストが人民銀行のウエブサイトに掲載されており、シンガポール、カタール、ハンガリー、マレーシア、UAE、タイが含まれている。

「一帯一路」と人民元国際化

 周行長と易副行長が挙げた上記の諸施策は、これまで人民銀行が人民元の国際化を進めるために実施してきた施策である。人民元と相手国通貨との通貨スワップ協定は、2国間の取引を人民元か相手国通貨で行う場合に、それぞれの通貨が相手国で足りなくなったら中央銀行間で通貨を融通しあうという協定であり、2国間の取引をドルなど第三国通貨ではなく人民元か相手国通貨で行うことを促進する効果を持つ。直接交換取引は銀行間為替市場での取引にドルを介在させず、人民元と相手国通貨で直接取引するものであり、人民元取引のコストとリスクを低減する。人民元クリアリング銀行は相手国において人民元の調達を容易にし、中国との間の決済を人民元で行うことを便利にする効果を持つ。CIPSも中国と相手国との間の決済を人民元で行うことを便利にするものである。RQFIIは相手国が中国の証券市場に人民元を使って投資することを認める制度であり、やはり2国間の取引において人民元の利用を促進するものである。

 今回、周行長のスピーチと易副行長のインタビューによって、従来から人民元国際化のために行われてきた幅広い措置が、一帯一路構想と具体的に結びつけられた。中国は今後、一帯一路沿線国を対象に、これら人民元国際化のための諸措置をさらに拡大・強化していき、一帯一路構想とともに人民元の国際化を着実に進めていく方針であると思われる。