第27号:日中の地震・防災研究
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特集巻頭言:日中両国の地震・防災研究への取り組み

中国科学技術月報2009年1月号(第27号)  2009.1.5発行

はじめに

 去る2008年5月12日、中国四川省汶川でマグニチュード 8.0の大地震が発生し、死者9万人近く、被災者4,500万人以上を出したことは人々の記憶にまだ新しい。中国では、歴 史的出来事をよく発生日を用いて命名することから、四川大地震を「512大地震」とも呼んでいる。それまでにも中国各地で時々地震発生のニュースが報道されるが、今回の四川大地震ほど内外の関心が高く、世 界中から中国に援助の手が差し伸べられたことは未だかつてなかった。中国国内では「万衆一心、衆志成城」(全国民が心を一つにして協力すれば、堅固な城もできるの意)というスローガンを掲げて、挙 国一致の救助活動が繰り広げられたことは言うまでもなく、海外でも日本をはじめ各国政府に国際救援隊と医療隊の派遣を要請し、国際社会の支持と援助を積極的に受け入れた。

 四川省大地震と対照的なのは、1976年7月に河北省の唐山市付近を震源として発生したマグニチュード7.8の唐山地震だ。大きな地震被害があったにもかかわらず、文革末期の混乱期にあったため、挙 国一致の救助活動も見られなければ、被害状況の公表もなく、いわんや国際社会に援助を求めることなどは当然なかったのである。地震による犠牲者数の公表は3年後の79年に人民日報に初めてあった。公 式には死者24万人、負傷者14万人、被災者は唐山市住民全員 100万人以上とされ、20世紀最大の地震被害であったことは間違いない。

 32年前の唐山地震と今回の四川大地震での政府の対応を比較してみれば、ここにも「改革開放」の成果が一目瞭然であることが分かる。

 日本に地震が多いことは誰もが知っているが、中国にも地震が多いということは意外にあまり知られていないのである。

 四川大地震の1ヶ月後の2008年6月14日に日本でもマグニチュード 7.2の岩手・宮城内陸地震(いわて・みやぎないりくじしん)が発生し、死者13名、行方不明者10名、負 傷者448名の地震被害があった。

 その際、胡錦濤中国国家主席と温家宝首相から当時の福田総理に対し見舞いの言葉が伝えられ、中国大使館から日本赤十字社に多額の岩手・宮城内陸地震の義援金が届けられた。

 「災いを転じて福となす」という言葉があるように、中国では四川大地震発生後、国民の間に団結と同胞愛の精神はかつてなく高揚し、地震被災状況はメディアによってリアルタイムで報道され、中 国と国際社会との連帯は一層緊密になった。日本の緊急援助隊は被災地で活躍し、がれきの下から見つけ出した若い母子の遺体の前に隊員たちが整列して黙祷を捧げた映像が一瞬にして世界中に広がり、救 助活動での真剣な姿勢が評価され、中国人の対日感情の改善にも大きな効果をもたらした。

 日中両国ともに大きな地震災害に見舞われ、経済・社会・金融など難問が山積する2008年が過ぎ去ろうとし、新しい希望に満ちた2009年が訪れようとする年の瀬に、中 国総合研究センターは地震特集を組み、日中両国の地震問題専門家に特別寄稿を書いてもらって、読者の皆様にお届けすることにした。この特集が地震分野における日中両国の相互理解を深め、科 学的地震研究と地震減災での両国の交流・協力を促進するきっかけとなれば幸いに存じる。

中国総合研究センター

記事一覧

「汶川地震の緊急対応と主な経験」

・・・ 臧 克(中国民政部国家防災センター 災害応急部幹部 補佐研究員)

中国大陸における主な活構造帯の定量的研究、及び強震予知についての検討

・・・ 江 娃利(中国地震局地殻応力研究所研究員)

「中国における橋梁の構造安全性概要」

・・・ 孫 利民(同済大学教授)

「中国の地震防災の現状と展望」

・・・ 何 永年(中国科技労働者退職者協会副会長、地震分会会長)

「地震の揺れの前に警報を ―緊急地震速報―」

・・・ 干場 充之(気象庁気象研究所地震火山研究部第4研究室長)

「津波地震のメカニズムおよび予測」

・・・ 瀬野 徹三(東京大学地震研究所教授)

地震予知・長期的な地震発生予測・リアルタイム地震防災

・・・ 八木 勇治(筑波大学大学院 生命環境科学研究科 准教授)