第30号:日中の再生可能エネルギー
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実用化バイオマス転換プロセスの研究開発

2009年3月12日

坂西欣也

坂西欣也:(独)産業技術総合研究所・バイオマス研究センター長 

最終学歴

九州大学総合理工学研究科分子工学専攻修士課程修了(1985年)
1985年九州大学助手、工学博士取得(1989年九州大学)
1999年資源環境技術総合研究所・主任研究官
2001年産業技術総合研究所・エネルギー利用研究部門・主任研究員
2005年6月 循環バイオマスラボ長、2005年10月 バイオマス研究センター長
2007年4月 アジアバイオマスエネルギー研究コア代表併任。広島大学客員教授兼務
現在に至る

専門分野

バイオマス転換化学、石油精製化学、石炭転換化学、炭素材料化学、触媒化学。

主な著書

「トコトンやさしいバイオエタノールの本」日刊工業新聞社 (2008)ほか
1993年5月 石油学会奨励賞受賞, 1998年2月 日本エネルギー学会進歩賞受賞

1.はじめに

 バイオマスのエネルギー利用については、第一に石炭、石油、天然ガス等を代替することによって化石資源の使用量を削減し、炭酸ガス排出量を低減することで地球温暖化防止に貢献することが重要である。バ イオマス資源は、カーボンニュートラルであるものの、無制約で使用できる量がある訳ではなく、あくまでも未利用のエネルギー源としての用途開発により化石資源の節約を図るべきである。

 大量の炭酸ガスを排出する石炭火力発電所において木質バイオマスを混焼する場合、木質バイオマスのエネルギー利用のメリットを最大限に発揮し、デ メリットを最小限にとどめるためのビジョンを策定することが、最も重要であると考えられる。大規模火力発電所で主として用いられている石炭は、燃料としての価格は安いものの、化 石資源の中で最もCO2排出量が多く、しかもSOx、NOxのみならず、煤塵、微量有害金属の排出が危惧されていることから、その低環境負荷利用法の開発が進められており、既に石炭税が導入され、そ の利用に関わる環境コストが上昇している。

 また、オンサイト型エネルギー変換利用する場合は、バイオマス発生量が10dry-t/d前後であることから、この規模のエネルギー変換方式として現時点で有力視されているのは、1)木 質バイオマスの直接燃焼による熱供給、2)木質バイオマスの直接燃焼による蒸気タービン発電と熱供給,3)固定床ガス化炉とガスエンジンによる発電と熱供給である。これらのうち、1)および2)に ついては既に技術開発が終わっており,導入・普及レベルにあり、③については国内外でさまざまな技術開発が進められつつあり、実証レベルにあると考えられる。これらの技術を含め,木 質バイオマスのエネルギー変換技術について、現状を図1に整理している1)。

図1 木質バイオマスのエネルギー変換プロセス

 大規模集中型の利用促進には、国家的コンセンサス、あるいは世界情勢に基づいた日本としての戦略的導入シナリオ、ならびに変換プロセス開発が不可欠である。これは、決 して短期的なビジョンにとどまらず、オ オ 日本におけるエネルギー需要見通しと地球環境保全(温暖化対策を含む)目標に基づいた、2 1世紀の炭化水素系エネルギー資源の安定供給を可能にするバイオマス全体の高効率利用プログラムを策定し,今 後の研究開発の優先順位を決定しておく必要があることを意味する。長期ビジョン( 2050年頃を目標とする。例えば、海外、特に東南アジア地域からのバイオマス輸入も含めたトータルシステムの提案)を 念頭に置いたバイオマス利用の促進シナリオも想定しておく必要があろう。

 また、バイオマスエタノールやバイオディーゼル燃料(BDF)に代表されるバイオマス由来の液体燃料の製造技術は、世界のエネルギー消費の大部を占め、かつ日本は政治・経 済的に不安定な中東地域への依存度が90%近くあることから、石油代替エネルギー開発の観点からも非常に重要である。特に、自動車燃料の大半を賄っているガソリン燃料へのエタノール添加、いわゆるE10、E5、あ るいはE3(それぞれエタノール10、5、3%添加)によって、輸送用燃料から排出されるCO2の削減に大きく貢献できると期待される。例えば、日本で年間約6000万kl/年 消費されているガソリンにE10を実施すると仮定すると、日本のCO2排出量が1%低減できると試算されている。BDFについても、日本で回収される廃食用油のみならず、植物由来の菜種油やパーム油、J atropha油等の利用によりその生産量を確保することによって、B5(5%)のディーゼル燃料を代替する見通しが示されている。

2.産総研のバイオマスエネルギー研究開発

 産総研・バイオマス研究センターでは、バイオマス資源の中で最も炭酸ガス固定化能の高い木質系バイオマスからのエタノール・ETBE(Ethyl Tertiary-Butyl Ether)製造、な らびにガス化・ホットガスクリーニング・FT(Fischer-Tropsch)合成・水素化分解からなるBTL(Biomass To Liquids)トータルシステム開発によるBTL-FTディーゼル燃料製造技術の開発を重点課題(図3参照)とし、さ らにバイオマスからのクリーン燃料製造プロセスのシミュレーションによるシステム評価を行うことにより、石油を中心とする化石資源代替を促進し、か つ循環型エネルギー社会の構築に貢献できるバイオマス転換プロセスの実証を目指している。

図2 産総研・バイオマス研究センターの研究概略スキーム

 木質系バイオマスの主要な構成成分はセルロース、ヘミセルロース及びリグニンである。木質系バイオマスからエタノール等液体燃料を製造するためには、セルロースやヘミセルロースを構成単糖にまで加水分解( 糖化)し、発酵によってエタノールに変換する必要がある。従来、木質の糖化では硫酸法が用いられていたが、環境負荷が高く収率が向上しないという課題があり、低環境負荷・高 収率が期待できる酵素糖化法によるエタノール製造技術の確立を目指している。木質系バイオマスを酵素糖化するためには、木質の前処理技術が重要で、1 00℃以上の加圧熱水を用いた水熱処理およびメカノケミカル処理を複合化することにより、木質構成成分を分離して、低コスト・高効率での木質の活性化技術について研究開発を行っている。メ カノケミカル処理した木質では、酵素糖化性が大きく向上する。酵素糖化法で得られた単糖は、セルロース由来のグルコースおよびヘミセルロース由来のキシロース等から構成されるが、エ タノール発酵に用いられる微生物は通常キシロースをエタノールに変換できない。木質系バイオマスからのエタノール製造の高収率化を目指し、酵素糖化に最適な条件下、木 質前処理物の糖化および生成したキシロースとグルコースの発酵が同一槽内で行える高温エタノール発酵微生物の育種を行い、さらにエタノール吸着剤を用いて発酵中のエタノールを連続的に回収する、産 総研独自の発酵リアクターの研究開発を行っている。また、海外バイオマスの日本への輸送を目指し、嵩高いバイオマス原料を産地で輸送用燃料に製造するBTLプロセス研究開発を行っている。  関連する技術開発として、バイオマスのガス化により得られた合成ガスからのメタノールやジメチルエーテル製造についての検証がなされてきている。

 さらに、種々のバイオマス資源の導入・普及には、経済的に成り立つトータルシステムの構築が重要である。従って、種々のバイオマス資源をデータベース化し、バ イオマスシステムのプロセスシミュレーション技術を開発するとともに、シミュレータを用いた最適化と経済性・環境適合性評価を行うことにより実用化可能なバイオマストータルシステムを提案している(図3参照)。

図3 バイオマスシステム評価シミュレーション技術

 また、国内の地産地消型およびバイオマスアジア国際展開を含む循環型新産業のためのバイオマス全利用システムを図4に示している。こ のような国内外のバイオマスのトータルシステムの構築は、国産のバイオマス資源の高度有効利用を可能にし、農工連携に基づいた自然との共生とともに、日本の化石資源への依存度を低減しながら、ア ジアのエネルギー安定供給と地球環境保全を実現するための方策を提供すると期待される。

図4 循環型新産業のためのバイオマス全利用システム

3.終わりに

 京都議定書の発効を受けて、より一層の炭酸ガス削減が求められており、カーボンニュートラルのバイオマス由来の新燃料を導入することによって石油、石炭、天 然ガス等の化石資源を代替する要請が高まっている。バイオマス資源は、未利用の木質系を中心に草本系の天然バイオマスや、農産廃棄物系、古紙、生ごみ、汚泥等の廃棄物系バイオマスに大別され、各 地域で分散して存在するため、その効率の良い収集・運搬システムの構築も重要である。

 このようなバイオマス資源をエタノールやBDF、DME等の輸送用燃料に変換して利用することは、山間部を含む地域分散型のエネルギー供給システムを確立する上でも非常に重要である。また、こ のような取り組みは、単に日本だけの問題ではなく、アジア諸国や世界に共通する地球規模の重要な課題であることから、日本のバイオ燃料製造技術に関する研究開発や技術援助を通じて、こ のような地球環境問題の解決に資することが期待される。

引用文献

  1. 吉岡拓如、平田悟史、松村幸彦、坂西欣也、エネルギー学会誌、81(4), 241 (2002).