中国原子力エネルギーの開発動向及び先進原子炉評価法
周 志偉 (清華大学原子力及び新エネルギー技術研究院原子炉工程研究所副所長) 2009年4月24日
周志偉(ZHOU Zhiwei):
中国原子能科学研究院副院長
清華大学原子力エネルギー及び新エネルギー技術研究院原子炉工事研究所副所長、教授。1957年中国重慶市に生まれ。1996年,チューリッヒスイス連邦理工大学(EHTZ), 機械学院にて技術科学博士学位取得(D.Sc.Tech)。1989年、清華大学、核反応炉工程及び安全コースにて工学博士学位取得。
近年主な研究:融合炉ヘリウム冷固体産へリチウムコーティング及び融合-核分裂混合炉コーティング物理熱工概念設計;加圧水型炉原子力発電所における重大事故と水素の危険性分析;先進原子炉評価方法;高温気冷却炉模擬機の中性子動力学および熱工流体のリアルタイム模擬方法。
中国国家磁場閉じ込め核融合専門家委員会委員;中国教育部磁場閉じ込め核融合研究センター学術委員会委員;《原子エネルギー科学技術》期刊編集委員;中国全国原子炉熱工流体専門委員会委員。
要約
近年の中国原子力発電の急速な市場ニーズ拡大に基づき、中国原子力発電の持続的成長のための方向性及び技術開発の動向について議論した。まず、中国原子力発電業界の主要な専門家に幅広く意見を聴取し、中国原子力発電の成長のために最も関心を寄せるべき問題への見解を総合して、独自の評価基準を打ち立てた。また、階層分析ファジー総合評価法、ボルダールール法などの総合評価法を採用し、中国の原子力発電工業が採用することのできる先進原子炉について詳細な研究及びシステム評価を行った。その評価結果に基づき、各種先進原子炉の具体的特性について分析、比較、総括を行った。その結果、中国が原子力発電を積極的に成長させる必要性、長期的に持続可能な成長戦略、現在の課題と展望が明らかになった。1. 概要
21世紀がに入りグローバリゼーションが日々進展していく中、持続可能な成長を追及することはすでに人類の共通認識となった。世界経済の持続可能な繁栄および成長には、廉価で環境に優しく、規模が大きくエネルギー密度の高い一次エネルギーが長期的に供給されうることが必要である。原子力工業は半世紀余りの成長の歴史の中で、無から有に至り、繁栄から衰退に及ぶという世の変転を経験している。しかし、人類が化石資源に過度に依存した結果今まさに地球環境を決定的に破壊してしまうかもしれないという未曾有の危機のもとで、原子力エネルギーはその優れた技術と良好な運用経験によって再生の機会を得た。世界原子力エネルギー工業の全面的な復興は今中国から全世界に静かに広がり始めている。
中国経済は1978年の改革開放以来、すでに30年にわたり急速な成長を続けている。おそらく2008年末までに中国経済総生産量は、ドイツを抜き世界第三位となるであろう。その中国経済の急速な成長は中国エネルギー工業の空前の成長に強力に支えられてきた。2004年から中国は世界第二の大エネルギー生産国となり、同時に第二の大エネルギー消費国となっているのである。
2007年中国は23.7億トン(標準炭換算)の一次エネルギーを生産し26.5億トン(標準炭換算)を消費して、ともに世界第2位となった。そのうち石炭の生産量は18.2億トン標準炭(25.5億トン原炭換算)以上、消費量は17.89億トン標準炭以上であり、すでに長年連続して世界第1位で全世界石炭消費総量の27%を占めている。原油の生産量は約1.84億トン、消費量は約3.50億トンでそれぞれ世界第2位と第5位である。発電設備容量はすでに700GWeを超え、発電量は32777.2億kW/hで、世界第2位で安定している。そのうち水力発電設備容量は148GWeで世界第1位であり、原子力発電設備容量は9.08GWeに達し、総設備容量の約1.27%、発電量約1.9%を占めている。2008年末までに中国の発電設備容量はすでに800GWeに達しているだろう。中国の個人平均エネルギー消費量(1.85トン標準炭/人)は依然世界平均(2.33トン標準炭/人)よりも低いが、中国のエネルギー消費総量と石炭を主とする一次エネルギー構造(60%~70%)は間違いなく主な地球温暖化ガス放出源の一つである。そこで、中国のエネルギー構造の改善に対して中国政府は強い関心を寄せている。すでに中国は原子力発電及び再生可能エネルギーの成長に力を入れ、風力発電および太陽エネルギーなどの新エネルギーを早急に成長させることを、中国が今後数十年間にわたり温暖化ガス放出を減らしエネルギーの持続的な供給を可能とするための重要国策としている。中国は十数年という年月をかけて多くの千万キロワット級の風力発電所を建設してきたが、これによって2020年には風力発電設備規模約1億kW[1]が達成されるであろう。また、あわせて原子力発電設備容量約60GWeも達成されるであろう。
中国の『863エネルギー技術領域研究作業の進展』[2]のエネルギー予測によると、中国原子力エネルギーの発電容量は2050年には今までのおよそ9GWeから240GWeにまで成長する可能性があるという。このことから、今後50年間中国は非常に大きな原子力発電の潜在市場であることが分かる。1986年から中国は863ハイテクノロジー研究成長計画を開始し、徐々に下記のような中国特有の原子力エネルギー技術路線のアウトラインを形成してきた。すなわち、短期的には主に加圧水型炉原子力発電所を成長させ、総発電容量に対して原子力発電が占める割合を急速に拡大させる。中長期的には高速炉及び超高温炉を主とする第四世代原子力エネルギーシステムを成長させる。長期的には核融合炉及び加速器駆動という次世代臨界炉技術に基づく新型原子力エネルギーシステムを成長させるというものである。
現在の商用原子力発電技術の成熟性の分析によると、中国でこれから2020年まで、ひいては2035年までの間に建設される原子力発電所は主に加圧水型炉原子力発電所であるとされている。2015年以降生産を開始する原子力発電は技術が成熟しており、経済性、安全性が良好であり、放射性物質も少なく、拡散防止能力の高い新世代の先進加圧水型炉を主に採用するであろう。従って、中国の国情に基づき客観的全面的に現在の原子力発電新技術を評価することは、将来の原子力発電原子炉の科学政策体系を選択確立することにおいて特別重要な意義を持つものであるといえる。ただし、本文は筆者が2002年から2004年の間に完成させた先進原子炉評価に関する独自の研究を記したものであり、当時中国政府組織によって開始されたばかりの第三世代先進加圧水型炉原子力発電所の技術評価作業とは関連しない。
2. 評価方法
先進核反応炉評価を行うために、まず簡単、明確、独立、操作可能という原則に基づき先進核反応炉評価指標を選出した。それから一定数の中国原子力エネルギー界の専門家の意見を聴取して分析し、安定した評価基準[3]を創出して専門家評価分析表を作成した。その後専門家評価分析表の採点により統計処理を行って各指標の重要因子を確定した。それから選択的方策評価方法を採用し必要な演算処理を行い、数量化された評価結果を得た。評価方法の固有特性は評価結果に影響を及ぼすため、不確実性総合評価法および不確実性Borda数評価法を取り入れて比較研究を行った。
2.1 階層分析(AHP Analytical Hierach Process)法による各指標加重値設定
AHP法を採用し問題を2つの階層と若干の指標に分け、各階層で一定の準則にのっとり該当階層要素に対して2つずつ比較を行う。それから標準度定量化に基づき判断マトリックスを形成する[4]。その後判断マトリックスの最大特性値と対応する直交化特性ベクトルを計算し、該当要素の該当準則に対する加重値を導き出す。階層分析法の主な階層は下記の通りである。
(1)構造判断マトリックス。同一段階の各指標の相対重要性の判断値を用いた構造判断マトリックスである。各指標の相対重要性は専門家による評価分析の平均値により確定し、9つの相対重要比例標準度(9,7,5,3,1,1/3,1/5,1/7,1/9)、及び表示(きわめて重要、大変重要、重要、やや重要、普通、あまり重要でない、重要でない、ほとんど重要でない、全く重要でない)を採用する。隣接する評価の中間値は8,6,4,2,1/2,1/4,1/6,1/8を取り、相互反判断マトリックスBを構成する。
(1)
マトリックス中の要素Bij は指標iと指標jの比較の重要性を示しており、かつ以下の通りである
bij>0, bij =1, bij =1/bij
(2)単一準則下での相対加重を計算し、n個の要素Bi(i=1,2,...,n)加重ソートを確定して、nをマトリックス段階数とする。それから判断マトリックスB対応の特性方程式で解を求め、最大特性根をλmax、その特性ベクトルWとする。すなわち、以下の通りである。
(2)
これによって得たWを正規化し、同一段階の相応の指標の該当準則の下での加重ベクトルとする[5]
(3)判断マトリックスに対し一致性検査を行い、判断マトリックスの不一致程度の指標 を下記の通りとする
(3)
CIの値が小さいほど、判断マトリックスBの一致性は良好である。一致性を保証するためにランダム一致性パラメーター を導入し、ランダムにサンプル値を抽出して算出したいくつかの判断マトリックスの一致性指標平均値を得る。判断マトリックスBの備える十分な一致性参考準則比例値は下記の通りである
(4)
ランダム一致性指標RIの値については、専門の表で調べることができる[5]
2.2ファジー総合評価法
ファジー総合評価法はメンバ関数を最大の仲立ちとし、不確定性の形式を転化して確定性とし、あいまいさを定量化して従来の数学の方法で分析、処理を行えるようにするものである。直接観察のため本研究ではファジー総合評価法を最終単純値化し、評価集合を割り当てる。不確実性総合評価法の基本計算工程は下記の通りである。
(1)評価集合の設定:V ={よくない,普通,比較的良い,良い,非常に良い}={Vj}→(60,70,80,90,100),原子力発電原子炉の最終評価結果は評価集合に対する各評価要素の従属度を表す。
(2)評価指標集合の設定:U ={Ui},AHP法及び専門家の評価分析表の結果を用いて評価指標集合の各指標の加重分配ベクトルAを確定する。
(3)単要素不確実性評価マトリックスの計算:R = (Rij), Rijは評価対象の第i技術指標Ui が評価集合の第j属性Vjの従属度で現され正規化されたものである。先進核原子炉の指標の複雑性から具体的な不確実性分布を確定することが難しいため、専門家の評価判断法を採用することが比較的適している。それから有効な独立コンサルティング次数をkとし、yij をUiのために評価されるVjの次数とする。すなわち、Rij = yij/kであり、専門家の評価分析表の結果を用いて統計を得ることができる。
(4)内積合成によりB=A•Rと結果Bの正規化を演算して不確実性総合評価の結果を得ることができる。そして、評価集合設定の分数を用いてすべての評価対象の総合評価ブランチ値Mを計算する。それから総合ブランチ値Mの大きさによりソートを行い、総合性能の最も良好な先進原子力発電原子炉を選出する。
2.3. ボルダールール法
ボルダールール法は、従来のボルダー方式に評価値を基礎とする委託群体効用関数分析方法を採用したものをベースに成長させた新しい方法である。この方法は評価対象における各準則の評価の優劣序列関係を強調したものであり、評価中の突出した強項因素の地位に有利となる[6]。その方法工程は下記の通りである。
(1) 第i二級指標において、すべての評価対象xj (j=1,2...,N)を求め、「優」の従属度に属する
(5)
(2) 下記数式でファジー頻数統計表を形成する
(6)
その中で 、かつxjが第i指標評価測定結果により優劣順序が第h位ならば、 もしくはである
(3) ファジー・ボルダ数FB(xj)を計算し、その大きさから評価対象の優劣順序関係を導き出すことができる
(7)
ただしQh=(N-h)(N-h+1)/2である。ファジー・ボルダー数FB(xj)の大きさのソートを通して、最良の先進原子力発電原子炉を選出することができる。
3. 評価結果および分析
ここまで述べてきたとおり、近年の中国原子力発電は加圧水型炉原子力発電所の成長を主体としている。そこで、現有の採用可能な加圧水型炉技術に対する全面的な評価を通して、中国のために優先的に成長した加圧水型炉原子力発電ユニットの方策を選択し、独立した技術評価を提供するということが本研究の課題である。分析結果はすでに以前発表した論文に詳細に述べており[7]、本文では異なる規格の先進加圧水型炉原子力発電ユニットを評価するミクロ的評価効能モジュールが与える専門家の評価結果について述べるにとどめる。評価の対象は以下の通りである。すなわち、中国百万キロワット加圧水型原子炉CPR1000、西屋/日立の非能動安全百万キロワット加圧水型原子炉AP1000、そして阿海法の160万キロワット欧州加圧水型原子炉EPRの3種の炉型である。
表1は、システム加重の計算結果(AHP法)であり、表2および表3は2種類の異なる評価計算方法の実際評価結果である。評価結果から、2種類の評価方法が異なるにもかかわらず、評価の結論は同様であることがわかる。すなわち、AP1000型原子炉が第1位、EPRは第2位、CPRは最下位なのである。具体的な指標から見ると、CPR1000型原子炉は総合順位は第3位だが、技術成熟性と自主化および国産化の二方面では第1位となっており明らかに優勢である。このほかにも経済競争性で第2位であり、EPRよりも優れている。この結果は近い将来自主化成熟技術の採用が求められれば中国において原子力発電が大規模に成長するであろうことを物語っており、このことからCPR1000を採用するのが最も現実的であると言える。AP1000は、技術成熟性と独自開発化および国内適応化の両指標で第3位であり、その他の指標の性能はすべて第1位である。少しずつ独自開発化および国内適応化を実現しているという観点から分析するならば、AP1000は最も成長の潜在能力を有している。2種類の評価方法から得た評価結果が一致していることは、専門家の異なる原子力発電炉に対する集体評価の意見を各方面から総合的に反映したものである。
一級性能 |
一級指標加重 |
評価指数 |
二級指標加重 |
総体特性 |
0.151599 |
基本規格 |
0.089795 |
安全信頼性 |
0.322417 |
事故抑制能力 |
0.279163 |
経済競争性 |
0.186952 |
基本建設投資 |
0.5 |
建設可能性 |
0.07119 |
建設周期 |
0.341226 |
人間機械関係 |
0.066078 |
人間機械インターフェイス |
0.571429 |
技術成熟性 |
0.12205 |
不要な原型モデル発電所 |
0.121957 |
環境優越性 |
0.040433 |
中低放射線廃棄物処理能力 |
0.123038 |
独自開発化および国内適応化 |
0.03928 |
技術の譲渡範囲、深度および合作方式 |
0.285714 |
原子炉の類型 |
総体 |
安全 |
経済 |
建設 |
人間機械関係 |
技術 |
環境 |
自主化 |
総合 |
CPR1000 |
86.77 |
79.70 |
81.159 |
81.057 |
80.285 |
91.281 |
82.629 |
84.938 |
82.920 |
AP1000 |
88.95 |
90.49 |
82.297 |
86.361 |
89.847 |
76.978 |
85.774 |
77.460 |
86.033 |
EPR |
88.91 |
88.12 |
80.000 |
84.311 |
88.571 |
83.620 |
85.643 |
80.079 |
85.525 |
原子炉ユニット類型 |
CPR1000 |
AP1000 |
EPR |
評価点数 |
70.66 |
100 |
74.99 |
ソート |
3 |
1 |
2 |
4. 結論
いくつかの評価方法の詳細な紹介と比較を通して「先進核反応炉の評価」問題について多角的に観察することができたわけであるが、この結果先進原子力発電所の評価問題を解決する方法がより全面的、客観的および公正かつ有効なものとなった。このような方法は最新コンピューターソフトウェア技術とデータシステムによる先進核反応炉評価システムの重要理論の基礎に基づいて開発されたものである。依然詳細な研究が必要な以上の数種の評価方法は、中国の原子力発電市場及び環境が絶えず成長を続けるという特殊情況下での適用性と合理性を有するに過ぎないが、初歩分析の結果は相当合理的であり、政府専門機関及び原子力発電事業経営者が進める原子力発電プロジェクト政策の独立技術の参考になるであろう。中国の現在の原子力発電プロジェクトの加速度的成長動向と、我々の評価結果はかなり一致している。中国が現在建設中の商用原子力発電所プロジェクトの設備容量規模はすでに25GWeに達しており、そのうち24GWe設計ではCPR1000加圧水型炉ユニットを採用している。このほかに、中国はすでに世界一のAP1000原子力発電ユニットを導入しており、2009年から4台のAP1000ユニットの建設段階に入るであろう。2015年以後にはAP1000の運用が、このような先進原子力発電ユニットがすでに商業発電の技術的成熟性を満たしていることを証明しているであろう。そして独自開発化能力を打ち立てた後には中国の原子力発電所新規建設プロジェクト、特に内陸部の原子力発電所プロジェクトは、主にAP1000ユニットを選択するであろう。中国原子力発電のさらなる成長は原子力燃料の市場価格を引き上げ原子力発電の大規模で急速な成長を抑制するであろうが、その時に原子力エネルギーが急速に成長するかどうかは核の増殖分裂が容易な第4世代先進原子力エネルギーシステムの商業化成功のタイムテーブル如何であろう。
参考文献:
- [1]「我国始動の6個の千万キロワット級風力発電基地計画」、市場報(編集責任:魏敏),2009年02月23日。
- [2]《863エネルギー技術領域研究の進展》超仁恺 原子能出版社,2000。
- [3]Yang M.,Ren J., Zhou Z. and Zhu S., "The Role of Expert Evaluation System for Deploying Advanced NPPs in China," GENES4/ANP2003, Sept. 15-19, 2003, Kyoto, Japan, paper 1180.
- [4]楊孟嘉. 先進原子力発電所評価システムの研究と開発[J]. 原子力発電,2005,卷(1);2~7。
- [5]《総合評価理論と方法》,郭亜軍 科学出版社。
- [6]《原子力発電所操作員の能力評価研究》,韋力博士論文 清華大学原子力および新エネルギー研究院
- [7]高斌,任俊生,周志偉,楊孟嘉,顧軍揚,"先進核反応炉専門家評価システム構築の設計と実現",原子能科学技術[J],2007, Vol. 41, No.3, p.301-308.
- [8]張奇,朱書堂,周志偉,高姗姗,花俊,"不確実性段階分析法に基づいた先進原子炉評価システムの研究",核動力工程[J], vol.26, no.1, 2005, pp. 91-95。