第36号:資源循環利用技術
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炭素資源循環技術-水熱によるバイオマスとCO2の資源への転化

2009年9月16日

金放鳴

金放鳴:
同済大学環境工程学院炭素資源循環研究所所長・教授、
博士課程院生指導教官、
教育部長江学者特別招聘教授、東北大学客員教授

1957年5月生まれ。1994年、高知大学理学部付属水熱研究所、客員研究員。1999年、東北大学大学院工学研究科地球工学専攻修了、博士。1999年、東北大学大学院工学研究科、客員研究員。2004年、東北大学大学院環境科学研究科、准教授。2007年より現職。自然界における炭素資源の循環促進に関するシミュレーション研究に従事。これまでに200編近くの研究論文を発表、そのうち90編余りがSCI、EIに収録。13件の特許を申請。

1. 前書き

 地球の資源枯渇と温室効果は世界の2大問題である。化石燃料の大量使用により、工業と市民生活から生じる廃ガス排出量が次第に増え、大気汚染と温室効果は人類が生存の拠り所とする地球環境をひどく脅かすようになった。6種の温室効果ガス(CO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6)のうち、地球の気温上昇に最も大きな影響を与えているのは二酸化炭素である。

 42万年前、大気中のCO2濃度は190×10-6~280×10-6にほぼ保たれていた。1万年周期で計算した変動幅は7.0×10-5~8.0×10-5となる。1750年以降、CO2濃度は明らかな上昇が始まる。この30年間は急激に上昇し、年平均増加率も加速している(表1)。2005~2007年の年平均増加率は3.0×10-6に達し、これは1750~1957年の17.6倍、1957~1991年の2.5倍である。断固たる措置を講じなければ、2200年には900×10-6に達すると予想される。21世紀末の地球の平均気温は1.4~5.8℃上昇すると見られており、これは20世紀の気温上昇(0.6℃)の2~10倍に相当し、1万年の中で最も速い昇温ペースとなる。

表1 大気中CO2の増加傾向
時間/a 大気中CO2濃度/10-6 CO2の年平均増加率/10-6
過去42万年~1750 190~280  
1957 315 0.17(1750~1957年)
1991 355 1.2(1757~1991年)
2000 368 1.4(1991~2000年)
2003 379  
2004 379  
2005 379 2.2(2000~2005年)
2007 385 3.0(2005~2007年)
2200(予想) 900  

 研究結果が証明しているように、過去50年の気候温暖化は主に人類の化石燃料使用で排出される大量の二酸化炭素など温室ガスの昇温効果がもたらしたものである。予測によれば、今後50~100年にわたり、世界とわが国の気候は引き続き温暖化に向かうと見られる。気候変動は既に世界とわが国の自然生態系及び社会・経済システムに対し、第1レベル、第2レベル等の深刻なマイナス面の影響を及ぼしている。第1レベルの影響:地球が温暖化し、地表気温が上昇した。過去100年で地表温度は0.3~0.6℃上昇したが、この5年間を見ると、地球の平均気温は0.2℃上昇しており、通常の状況に比べ100倍の高さとなる。2050年の地球の平均気温は16~19℃に達し、これまでの温暖化ペースを上回ると予想される。第2レベルの影響:気候が異常で、気候帯が変化し、エルニーニョ、ラニーニャ現象が起きている。地表気温の上昇により、水の蒸発量が増え、高山の雪線が上昇し、一部の大河川が断流して枯渇に直面し、人類の生存を脅かすようになった。日照りのために地球が砂漠化、砂質化し、草原が劣化し、砂塵嵐を引き起こしている。また、幾つかの種が消滅し、農作物が減産となり、飢饉がもたらされ、外来種の侵入が激化し、生物多様性が失われ、多くの病気が流行している。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の研究によれば、有効な規制措置を講じなかった場合、大気中の二酸化炭素濃度は今世紀内に550ppmを超え、環境と社会に深刻な災難をもたらす恐れがある。このため、2050年までに世界のCO2排出量を50~60%減らさなければならない。2005年に発効した「京都議定書」は、各国はいずれも二酸化炭素排出削減の義務を負うと規定し、また、先進国に対し、2008~2012年の排出量を少なくとも1990年比で5%削減するよう明確に求めている。これにより、CO2の排出削減は世界が注目する大きな問題となった。

図1

図1

 地球上の炭素循環過程(図1)からわかるように、CO2は自然界のバイオ処理器、例えば植物の光合成等によってバイオマス又は生物有機物となり、廃棄バイオマス又は有機物が地下に沈降し、地下の高温高圧水及び微生物の働きで石化資源に転化される。しかし、自然条件の下では、この形成速度はかなり緩く、百万年以上を経る必要がある。それなのに、人類は快適な物質的生活を追求するため、節制することなく盲目的に大量の化石エネルギーを消費し、現在の地球上の資源枯渇と環境悪化を招いたのである。バイオマスとCO2を人工的に高速で有機資源に転化できるなら、石化資源の過度な使用が引き起こした温室効果と資源枯渇の2大問題を根本から解決することができる。水熱反応は地球炭素資源の調和の取れた循環過程で重要な役割を果たしてきた。従って、この調和の取れた循環という自然現象によれば、バイオマスとCO2を資源及びエネルギーに高速で転化することが期待できる。

 こうした構想に基づき、我々は地球の炭素循環のバランス改善を出発点とし、環境、資源、エネルギーの諸要素を総合的に考慮し、水熱反応によるバイオマス廃棄物とCO2の資源への転化について多くの研究を行った。本論文では水熱技術を利用し、バイオマスとCO2を高付加価値の化工原料に転化することに関する研究について、その最新の進展状況を紹介する。

2. バイオマスの水熱反応による酢酸生成

 水熱反応は高温水(200~600℃)を溶剤とする化学反応過程である。温度、圧力の変化に伴い、高温高圧水は誘電率、粘度、密度及びイオン積等の性質に急激な変化が生じる。このため、温度、圧力を変えることにより反応の調節・制御という目的を達成することができる。同時に、高温水は気体、無極性有機物に対する溶解度が比較的大きく、また、気体が拡散、運動しやすい特性を備えており、良好な溶剤となる。この他、250~300℃の高温水のイオン積Kwは常温水の1,000倍であり、反応過程において、水は酸・塩基触媒の役割を果たし、酸塩基触媒反応を大いに促進することができる。それはアルコールの脱水、アルドール縮合、二重結合・加水分解、Friedel-Craftsアシル化反応等でいずれも触媒作用を持つ。

 我々は有機廃棄物の分解処理に関する研究を行った時、その種類に関係なく、ほぼ全ての有機物の水熱酸化プロセスにおいて、酢酸が安定した中間生成物となることを発見した。酢酸への完全分解にはかなり高い温度、圧力又は大量の酸化剤が必要となり、処理コストがかさむのは避けられない。

 酢酸(Acetic Acid)は非常に重要な有機化工製品である。強制分解するのでなく、酢酸を生産・利用する方法を考えるなら、水熱反応を利用して有機廃棄物を新生資源に転化する新たな道を開くことができる。このため、我々は有機廃棄物から酢酸を生産することを研究の指針とした。採用した主な有機廃棄物には稲わら、もみ殻等の農業廃棄物が含まれる。稲わら、もみ殻等のバイオマスを酢酸に転化する研究は既に大きな進展が得られ、酢酸の生成率は約30%に達する。

3. バイオマスの水熱反応による乳酸生成

 乳酸は重合させてポリ乳酸を生み出すのに用いることができる。ポリ乳酸は現代の化工プラスチックと同様の物理的特性を備え、さらにはそれより優れている点もある。より重要なのはポリ乳酸が自然界の微生物によって分解され、最終的に二酸化炭素と水に変わり、環境を汚染しないことである。また、有機肥料として農地に施肥し、植物養分とすることができる。一方、ポリエチレン、ポリプロピレン等の化工プラスチックから作られる製品は、たとえ地下に深く埋め、長い時間が経過したとしても分解されず、よく耳にする「白色汚染」を引き起こすことになる。このため、ポリ乳酸は化工プラスチックに取って代わる可能性が最も高いバイオマス材料の1つと言える。

 ポリ乳酸の応用意義は環境保護面に具現されるだけでなく、それは循環型経済、節約型社会の構築にとっても有意義な役割を果たす。化工プラスチックの原料は再生不可能な化石資源である石油から抽出されるが、石油は今や希少な消耗資源となりつつある。バイオマスを使って生産されるポリ乳酸は原料が無尽蔵にあり、分解後は植物に吸収され、物質の循環利用が行われる。しかも化工プラスチックに比べ、ポリ乳酸はより多くの二酸化炭素を生じさせることがない。なぜなら、その原料であるバイオマスは生長過程で植物の光合成により二酸化炭素を消費するからだ。この他、ポリ乳酸の産業化は農作物の付加価値を大いに高めることになろう。ポリ乳酸はエンジニアリング材料、包装材料、日用器具、農業用マルチフィルム等の方面で使われる他、医薬品・医療分野にも大いに活用できる。ポリ乳酸で作った骨釘、手術用縫合糸は体内で完全に分解されるため、抜去、抜糸等を行う必要がない。さらに人工骨や人工皮膚の組織工学的足場を作り、そこで骨細胞又は皮膚細胞を培養することができる。足場材料が分解する頃には、人工骨や人工皮膚も成長している。また、ポリ乳酸で作った緩慢放出型のカプセル担体は人体内で徐々に消化・分解され、薬物が一定時間持続的に放出される。しかし、現在の乳酸製造はトウモロコシ等の食糧作物を発酵させる方法を用いており、人間との食糧の奪い合いが引き起こされることになろう。乳酸原料の代用物を探るため、我々はわら等のリグノセルロース系バイオマスを用い、水熱反応により乳酸を生成する研究を進めた。研究の結果、わら等のリグノセルロース系バイオマスを原料として用いれば、いかなる前処理も必要とせず、乳酸に直接転化できることを発見した。その乳酸生成率はトウモロコシ発酵と同程度の収量に達する。

4. バイオマスの水熱反応によるギ酸生成

 ギ酸は最も単純な脂肪酸である。それは基本的な有機化工原料の1つであり、農薬、皮革、染料、医薬、ゴム等の工業に幅広く応用されている。現在、世界のギ酸需要量は年2%~3%のペースで増大していると思われる。そのうち欧州は飼料添加剤としての需要量が大きく、年平均伸び率は8%~10%に達する。主な原因は欧州連合(EU)が処方されていない飼料用抗生物質の使用を2006年から全面的に禁止したためである。この他、アジア太平洋地域の需要の伸びは4.6%/年に達し、アフリカ・中東地域の需要は3.5%/年のペースで伸び続け、米州地域では3%/年の伸びが見込まれ、日本は1.9%/年となる。アジア太平洋地域ではギ酸の応用の見通しが非常に明るいと専門家は見ている。現在、この地域では主に天然ゴムの凝集剤として用いている。アジアの飼料市場は今後大きく伸びると予想される。より興味深いのは、ギ酸からギ酸燃料電池を直接作れることが最近の研究でわかったことである。

 水熱法による多糖類バイオマスの酢酸への転化に関する研究の中で、我々は水熱酸化法を用いれば、多糖類バイオマスが高い収率でギ酸に転化する可能性の高いことを発見した。このため、水熱による多糖類バイオマスのギ酸への転化について研究を進めた。結果が示すように、ギ酸の収率はかなり高く、約80%に達した。

5. CO2の水熱による資源化の研究

 周知のように、CO2が引き起こす地球温室効果は世界的に最も注目される環境問題の1つとなっている。バイオマスと比較するなら、化石燃料の使用はCO2を一方的に放出するだけだと考えるのが現在の見方である。この見方の本質はCO2の吸収速度と放出速度のアンバランスにある。化石資源も元々は、CO2と水の光合成によって作られる炭水化物から生まれたものだが、ただ炭水化物から化石燃料に至る周期が非常に長いため、こういうことが起きるのである。従って、CO2の有機資源への還元を人為的に速めることができるなら、地球上のCO2の循環を好ましいものにし、地球の温室効果を防ぐことが期待できる。

 有機物の水熱による資源化又は処理に関する研究の中で、我々は多くの有機廃棄物が水熱反応において還元性を示し、しかも水中の水素が比較的低い温度で放出されることを発見した。従って、この水素を利用すれば、水熱によりCO2を有機資源に還元することが期待できる。有機廃棄物の水熱反応時に水中から発生する水素を利用してCO2を有機資源に還元できるなら、CO2の有機資源への転化を人為的に速めることができる。また、反応条件を制御することにより、有機廃棄物を分解して価値の高い有用物質とすることが期待できる。そうなれば、CO2を資源に還元すると同時に、有機廃棄物自体も資源化されるのである。先に述べたように、高温高圧水は地下で反応場となり、有機物の形成と循環に極めて重要な役割を果たしてきた。この自然現象はCO2の循環について言うなら、植物の光合成以外に、高温高圧水を利用してCO2を有機資源へと循環させる道も非常に有望であることを示している。

 反応平衡の視点から見ると、式(1)に示すように、有機資源化の反応システムにCO2を加えた時、CO2と水中から発生する水素の反応で有機資源が生成されるため、有機廃棄物の資源化反応平衡は右側の資源化方向へと進むはずである。CO2を加えた時、水素が絶えず消費されるため、水中での水素の発生を促すことができる。これはCO2を効果的に有機資源に還元すると同時に、廃棄物の資源化反応を促進することになる。この反応の全過程は式(2)で表すことができる。

このため、我々はCO2の水熱還元技術に関する研究を進め、還元性を備えた有機物又は無機物を採用し、水熱システムの中でCO2の還元を行い、CO2をギ酸、メタン、メタノール等の有機資源に還元した。これと同時に、加えた有機又は無機の還元剤も酸化されて高付加価値の製品となった(図2)。

図2

図2

 最新の結果が示しているように、特定の条件下で、80%のCO2がギ酸に還元され、選択率は95%以上に達した。この他、研究の過程で、幾つかの状況下では、CO2がメタン、メタノール等に還元できることを発見した。この技術のもう1つの注目点であるが、メタン、メタノールの生成率向上にはなお課題が残る。

水熱によるCO2の有機資源への還元は以下の特徴を持つ。(1)高温高圧水は即ち水素源として、環境に優しいクリーンな媒質となる。(2)高温高圧水の中で、水又は有機廃棄物から発生する水素は高い活性を備えている可能性があり、原位置で直接CO2を還元できる。このため、高効率・高速でCO2を有機資源に還元することが期待できる。(3)一般のCO2+水素還元反応と異なり、水熱によるCO2の還元では高純度のCO2を必要としない。一般のCO2+水素還元反応の場合、CO2は必ず高純度でなければならない。このため、CO2を純化するのに大量のエネルギーが必要となる。(4)純化水素、及び水素を反応システムに送り込むのに必要な動力費を節約できる。

 このため、水熱技術によるCO2の有機資源への還元は大きな可能性を秘めており、グリーン(環境調和型)化工生産過程となる。経済的な原子反応というだけでなく、現代のグリーン化学の発展動向にも一段と適い、資源の有効利用と環境保護にとって重大な意義を持つ。

6. 結論

 地球の資源枯渇と環境悪化は世界の2大問題である。地球上の炭素循環過程からわかるように、この2大問題の根源は人間活動のもたらすCO2の排出速度が、CO2が自然界のバイオ処理器により石化資源に再転化する速度を遥かに超えていることにあり、石化資源の枯渇と温室効果が引き起こされた。このため、バイオマスの有機資源への転化又はCO2の有機資源への還元を効果的に高速で行い、地球上のCO2の好循環を実現するための研究を進めることは非常に差し迫ったものとなっている。

 そこで、我々は地球の自然現象のシミュレーションを通じ、水熱反応を中心に据え、廃棄物バイオマスとCO2の資源及びエネルギーへの転化について研究を進めた。結果がはっきり示しているように、水熱反応を応用すれば、広範囲のバイオマスを酢酸、ギ酸、乳酸等の付加価値の高い化工原料に転化することができる。同時に又、温度較差と水熱条件の下、高効率・高速でCO2を有機資源に転化することもできる。従って、水熱反応は地球の炭素資源バランスを改善する上で大きな可能性を秘め、応用の見通しが明るい。

謝意

 本論文の中で述べた研究の一部は日本の東北大学で行ったものです。ここに、東北大学を既に退職された夏本兵治教授、田路和幸教授並びに木下睦准教授に謝意を表します。