第36号:資源循環利用技術
トップ  > 科学技術トピック>  第36号:資源循環利用技術 >  循環型社会の構築における日中協力の可能性

循環型社会の構築における日中協力の可能性

2009年9月24日

吉田綾

吉田綾(よしだあや):
(独)国立環境研究所 循環型社会・廃棄物研究センター研究員

1978年10月 生まれ。2006年3月東京大学工学系研究科都市工学専攻 博士(工学)。
2006年4月に国立環境研究所に入所。現在の研究テーマは、アジア地域における廃電気電子機器の処理技術の類型化と改善策の検討。

(独)国立環境研究所 循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン 環環:
http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/top/20090824.html

 循環型社会を構築する上での基本法である「循環型社会形成推進基本法」が2000年に成立した。循環型社会とは、天然資源の消費と廃棄物の発生を抑制し、再利用する物質の流れを作り、廃棄物の処分や資源の循環的利用が適切な管理手法のもとで行うことで環境負荷を出来る限り低減される社会と位置付けており、発生抑制、再使用、再生利用、熱回収、適正処分を廃棄物・リサイクル対策の基本的な優先順位と考えることが規定されている。

 この枠組み法のもとに「容器包装リサイクル法」「家電リサイクル法」「自動車リサイクル法」「建設リサイクル法」「食品リサイクル法」などの個別の廃棄物・リサイクル法が施行されている。拡大生産者責任を導入した使用済み製品の回収・リサイクルの制度の構築されている。産業界では副産物利用の促進や政府による環境配慮製品の購入の促進、市民によるごみの分別排出、レジ袋削減などの取り組みが実施されてきた。これまで多くの技術、制度、システムを生み出しており、アジアなどの途上国の今後の施策作りにも貢献できる可能性がある。

本稿では、国立環境研究所 循環型社会・廃棄物研究センター(以下、循環センター)において進めている中核研究「国際資源循環を支える適正管理ネットワークと技術システムの構築」の研究概要を紹介しつつ、中国における循環型社会形成に関する取り組みの現状の理解のもとに、今後の日本のどのような取り組み・経験を紹介することが可能かについて述べてみたい。

国境を越える資源循環

 日本において、リサイクル法が制定された時期と現在とで、最も大きく変化したのは、「資源の流れ」である。これまでは廃棄物として国内で処理・処分されていたものが有用な資源として国内でリサイクルされ、一部は国外へも輸出されるようになった。経済のグローバル化によって、国境を越える資源循環も無視できなくなっており、廃プラスチックやe-wasteと呼ばれる使用済みの電気電子製品などがその代表例である。

 循環センターでは、使用済み電気電子機器、いわゆるE-wasteの国際資源循環に関する研究を行ってきている。例えば、使用済みパソコンについては、誤差最小化法を用いて、2000、2001と2004年度のデスクトップ(本体)およびノートパソコンのフローを推計し、リサイクル制度の施行前後の変化を把握した。その結果、2000年度および2001年度は、それぞれ392万台、488万台の使用済みパソコンが排出され、そのうち約3分の2にあたる量が国内で処理・リサイクルされ、4分の1が国内でリユースされ、8%が海外へ輸出されたと推計された。一方、家庭系パソコンのリサイクルが開始された後の2004年度は747万台が排出され、国内処理・リサイクル、国内リユースおよび海外輸出の割合は37%、37%、26%と推計された。

図1 2001年度の使用済みパソコンのフロー(単位:千台)

図1 2001年度の使用済みパソコンのフロー(単位:千台)

図2 2004年度の使用済みパソコンのフロー(単位:千台)

図2 2004年度の使用済みパソコンのフロー(単位:千台)

 リサイクル法制定まで、使用済みパソコンや家電は粗大ごみとして自治体で破砕され、鉄などの金属回収した後の残渣を埋立処分されていた。リサイクルが自治体からメーカー系に移行したことは、資源利用・埋立処分量の削減の観点から効果があったが、使用済みパソコンは、なかなか国内では回収できていないのが実情である。

 リサイクル法制定時にはこれほどの規模での国際資源循環を想定しなかったため、リサイクル法のシステムと国際循環の実態との調整を図る検討や見直しが進められている。循環センターでは、有価金属の国外への流出や国外の技術でどの程度効率的な貴金属や希少金属の回収ができているかといった視点から、調査研究を行っている。

中国における循環経済の推進

 中国は改革開放以来、目覚ましい経済成長を遂げてきた。しかし、その一方で、エネルギー消費量の増加や資源不足、低い資源利用率が、経済発展のボトルネックとなっているといわれている。この問題に対して、中国政府は、資源節約型、環境友好型(環境にやさしい)社会の建設、人と自然の調和の取れた経済・社会の発展を目指し、資源の有効利用と環境保護を達成することは、経済成長への制約を緩和し、経済的な利益を得ることに繋がると明確に位置付けている。この考えに基づいた「循環経済」 (Circular Economy) 政策では、廃棄物のリサイクルだけにとどまらず、省エネルギー、省資源(原材料)、節水を含めた広義の循環利用の意味で捉えており、日本の「循環型社会」と比べると、より幅広い概念となっているのが特徴である。

 企業の生産活動において省エネルギー、副産物利用などの促進し、クリーナープロダクションを進めるため、「清潔生産促進法」が2002年に制定、2003年1月1日から施行された。循環経済への転換の基本法として「循環経済促進法」が制定され、2009年1月1日から施行に至っている。このほか、生態工業園区 (Eco-industrial park) の建設が進められている。エコタウンについては、2009年6月に東京で開催された第2回日中ハイレベル経済対話において、環境省と中国環境保護部の間で、瀋陽市―川崎市の間で環境にやさしい都市の構築に関するモデル事業を共同で推進することが合意されており、今後さまざまな調査研究や事業が実施される見込みである。

 家電リサイクルについては法案が公布され、2011年1月1日に施行される見込みであるが、その他の各種廃棄物については、まだ対策が不十分である。中国政府は、日本に対して容器包装、廃タイヤ、庭園(剪定)、食品廃棄物などの回収リサイクルについて、処理リサイクル技術や制度構築に関する協力を求めている。

アジア向けの現地適合型の技術開発

 アジア地域の一部の大都市では急速な経済発展により、廃棄物対策も進んできているが、中小都市や農村地域などにおいては、生活雑排水・し尿などの液状廃棄物の適正処理が遅れている状況にある。循環センターでは、アジア地域における分散型の高効率、低コストな液状廃棄物対策として、これまでに蓄積してきた生物工学および生態工学を基盤とした浄化槽などの技術やノウハウを活用し、アジア地域での適正な資源循環に資するシステムを提案しようとしている。これまでに、中国をはじめとしたアジア地域の生活雑排水・し尿などの汚水処理の実情を調査し、生活排水の特性が日本と異なる場合があることや、浄化槽技術等の導入による環境負荷削減効果などについて検討を行ってきている。こうした経験をベースとして、 2006年には、中国環境科学研究院(北京)においてアジア向けの高度処理浄化槽などの汚水処理システムの性能評価装置が導入され、その展開が期待されている。

日中の社会経済状況の違い

 中国における生活ごみ収集運搬量は1億4841万トン(2006年)に達している。中国では、ほとんどの都市で混合収集が採用されている。約8割が埋立処分されているが、一部の都市部では堆肥化や焼却処理も行われるようになっている。

 日本の分別収集についての取り組みが周知され、多くのアジア諸国でも取り組まれるようになった。中国においても、都市ごみの分別収集が1985年ごろから各地で提案・実施されているが、市民の意識が低く習慣として定着しない、収集運搬の効率が悪く、分別用ごみ箱を設置しても結局は混合収集されているなどの理由により、依然としてモデル事業の展開にとどまっている。

 これらの背景には、資源ごみを有価買取する非公式な回収・分別業者や個人の存在や、効率的な物流業者、適切な引き渡し先(リサイクル・処理業者)がないなどのインフラ未整備の問題があげられる。分別回収された資源ごみの引き渡し先の開拓、行政とリサイクル事業者との調整業務が不可欠であり、このようなソフトな分野においても日本経験ノウハウを伝えていく必要がある。

 しかしながら、日本と中国では経済社会状況に大きな違いがあるため、日本の制度設計の経験や技術がそのまま役に立つ訳ではない。例えば日本ではリサイクル企業が処理費用をもらって処理・リサイクルをする必要がある廃棄物も、中国では安価な労働力による手分解・選別によって処理されるため、有価で取引されるものが多く、これらの回収処理に従事する個人や小規模事業者を管理(監視)できないという特有の難しさがある。このような社会経済状況の違いを認識しつつ、研究活動を一層推進し、我々の研究成果がみならず中国における処理リサイクル技術の改善や制度構築に貢献できればと思う。