第38号:中国の知的財産制度と運用および技術移転の現状
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日中著名商標法律保護制度の比較研究

2009年11月25日

李正華

李正華(LI ZHENGHUA):
中山大学法学院副教授、中山大学新華学院法律学系主任

 1963年6月生まれ。2004年、中南財経政法大学民商法学科卒業。法学博士。中山大学法学院副教授。1995年から1996年まで東海大学法学部を訪問。松下電工(広州)等の中外合弁企業で常任法律顧問、長年にわたり西部石油公司の契約分析、評価。現在は年間50件あまりの仲裁案件の審理を担当。毎年、各種民事、商事紛争案件多数の代理を務める。国内の大企業または関連業界で、数多くの法律講座をこなす。香港で『中国での経営にあたっての法的問題と対策』を出版。中国大陸で、普通高等教育「第十次五カ年計画」の教材『経済法』、「第十一次五カ年計画」の教材『経済法』および『経済法概論』を出版。『企業の技術イノベーションと契約の法的保護』を中心となって編集。『法学大辞典』、『精編法学辞典』、『国際貿易法大辞典』、『民法大辞典』の編集および『商法』等全国統一教材の執筆に参加。各種学術刊行物に80本あまりの論文を発表。

共著者 李 昱

要旨

 日本は経済及びブランド大国として、中国が著名商標法律制度を構築する上で多くの優れた経験を持っている。本論文は日中両国のブランドの成長状況を始めとして、両国の著名商標法律制度の概要を紹介する。また、それを基に両国の著名商標制度の内容、例えば著名商標の認定制度、著名商標の個別法的保護、商標制度防御について比較研究した。文末では中国の著名商標法律保護を今後いかに整備するかについて私見を述べた。

 著名商標(馳名well-known trademark)は周知商標とも言われ、市場では非常に名の通った、よく知られた、高い競争力を持った商標である。

 中国の著名商標保護に対する歴史は長くないが、すでに世界標準の著名商標法律制度を制定している。中国における市場化の進行過程及び国家ブランド戦略の実施にともない、国家・市場・企業にとって著名商標の保護は重要な意義を持っている。日本は、すでに世界のブランド大国であり、ソニー、松下等の著名ブランドは国際市場において大きな社会的及び経済的影響力を持っている。日本ブランドの市場での成長は、長年にわたる著名商標保護法律制度の充実と切り離して考えることはできない。従って、日中両国の著名商標の成長水準及び著名商標法律保護制度について比較研究するのは、中国にとっても有益であり、中国の著名商標制度の整備を促進するためにも有効であろう。

1.日中両国のブランドの成長の現状

①日中両国の経済成長状況及び両国の貿易関係

 21世紀に突入後、中国経済は良好な勢いを維持している。2008年の中国の国内総生産は30万億人民元を超え、経済総量は世界第3位、輸出入貿易の総額は世界第2位の2.56万億人民元であった。2009年6月末の中国の外貨準備高は世界第1位の21,316億ドルである。これらのデータは、いずれも中国の経済成長が収めた大きな成果である。しかし、経済強国達成という中国の目標とはまだかなりの隔たりがある。

 日本経済の成長速度は前世紀の90年代から大きく減速し、世界経済総量第2位の地位も中国に追い越されようとしているが、日本人の1人当たり平均国内総生産、海外資産、産業構造等の主な経済データでは世界をリードしており、日本は疑いもなく世界の経済強国である。

 隣国である日中両国は貿易活動が盛んで、両国の対外貿易においても互いに重要なポジションにある。中国税関の統計によると、2005年の日中貿易総額は9.9%増の1,844.47億ドル、中国の対外貿易に占める割合は13%であった。対日本の輸出は14.3%増の839.92億ドル、輸入は6.5%増の1,004.55億ドルであった。1993年~2003年、中国にとって日本は11年連続して最大の貿易パートナーであった。日本側の統計では、2005年の日中貿易総額は対前年同期比12.7%増の1,893.9億ドルである。その内、日本の対中輸出は8.9%増の803.63億ドル、輸入は15.7%増の1,090.2億ドルとなっている。日中貿易が日本の対外貿易に占める割合は17%に達し、輸出の13.4%、輸入の21%を占め、それぞれ対前年同期比0.5、0.3と0.3ポイント増加した。2007年、日本の対中貿易は対外貿易総額の18%を占め、中国が初めて米国を抜き日本の最大の貿易パートナーとなった。

②日中両国ブランド水準の対比

 ブランドは国の経済成長の縮図であり、国際的影響力を持つブランドの数が、その国の企業の競争力をある程度示している。

 中国は建国以来、ブランド構築に力を入れ、品質が良く、信用と名声が高いブランドを育て上げてきたが、中国ブランドの国際的な影響力は依然として弱く、先進国の水準とはまだ隔たりがある。米国「ビジネスウイーク」の2007年度世界トップブランド・ベスト100に中国企業は1社も選ばれていない。コカコーラ、マイクロソフト、IBM、ゼネラルエレクトリック、ノキア、トヨタ等のブランドが上位に名を連ねている。中国の輸出額は多いが、国際市場全体から見ると、中国の有名ブランドが占める割合は3%にも達していない。輸出総額に自主ブランドが占める割合は小さく、企業の多くはOEM製品を輸出しているため、中国は輸出強国とは言えない。ここ数年、中国の著名商標の数は大幅に増えてはいるが、大部分の著名商標の品質はそれほど高くなく、市場競争力及び国際的影響力を持っておらず、海爾(ハイアール)・康佳(KONKA)・格蘭仕(ギャランツ)等のような中国有名ブランドは非常に少ない。

 一方、技術革新とブランド構築を重視する伝統が日本にはある。百年におよぶ経済成長の過程では、次々と市場力のある良質な有名ブランドを育て上げ、日本製品が国際市場を寡占するのに重要な役割を果たしてきた。現在、有名ブランドでリードする日本の製造業は、毎年海外の販売総額が数億万ドルにも達している。日本のソニー、トヨタ、松下、東芝、キャノン等の数多くのブランドが世界有名ブランド・ランキングの常連となっており、国際市場では高い名声を誇っている。

 日本の有名ブランドの製品は、1980年代に中国市場で販売を開始してから、各分野の市場に進出し、特に工業及びハイテク産業に根を下ろすことに成功した。中国のさらなる対外開放と、その他の国の製品の急激な流入及び中国製品の急速な増加により、日本製品の優位はこれまでの20年間のようにはいかなくなる。しかし、日本のブランドが中国で培った幅広い認知度は、無視できない。

 中国の著名商標とブランドの水準は日本に比べれば大きな開きがあり、中国の経済的実力は日本と比べれば低く、そのうえ市場化されたのが遅かったため、市場の規模や生産の水準、企業の実力、ブランド意識など多岐に渡って今後向上させなければならない。また、著名商標制度もまだ整備されていない。したがって、日中両国の関連制度について比較研究するのは、中国が日本の発展の経験を参考に、自国の著名商標制度を整備し、著名商標の水準向上に役立つことになる。

2.日中著名商標法律制度充実の歴史

①著名商標に関する日中両国の法律規定

1. 著名商標に関する中国の規定

 1985年、中国は「パリ条約」のメンバー国となり、条約の規定に従い著名商標保護業務関連の司法制度を開始した。1987年、国家工商行政管理総局商標局は商標異議事件において、米国ピザハット国際有限会社の「PIZZA HUT」を著名商標と認定し、オーストラリアの企業が同一商品で横取り登録した同一商標に対しては登録を許可しなかった。これは中国が「パリ条約」加入後初めて認定した著名商標であった。その後、中国の「同仁堂」、英国の「マルボロ」を次々と著名商標として認定した。

 1993年、中国は「商標法」を修正し、「商標法施行細則」に「広くよく知られた商標」を保護することに関する条項を追加し、「誠実信用の原則に違反し、複製・模倣・翻訳等の方法で、第三者が広くよく知られた商標を登録すること」は、登録の不当行為であり、法に従って取り消さなければならないと規定した。この規定は恐らく中国の著名商標保護における最初の法律文書である。1996年8月、国家工商行政総局は「パリ条約」、8TRIPS協定の著名商標保護に関する規定と総括に関連した司法制度を参考にして「著名商標認定及び保護暫定規定」を公布した。この規定は異なった、または類似した商品、またはサービスにおける著名商標の保護の始まりであり、同時に著名商標の概念等について境界線の画定を行った。「暫定規定」の公布によって、著名商標の認定と管理において、これ以降は法制化、適正化のレールを踏まなければならなくなった。

 2001年10月27日、中国は商標法の二回目の修正を行い、さらに2002年8月には「商標法実施条例」を公布した。この修正は、著名商標の保護を国の法律と法規の段階にまで高めたものであり、著名商標の保護政策を大きく強化した。その内、「商標法」の第十三条の規定は、著名商標保護制度にとっては核心的条項または基本原則と見ることができる。「同一または類似品の登録を申請した商標が、第三者が中国で未登録の著名商標を複製、模倣または翻訳したものであり、混同しやすい場合は、登録を不許可として使用を禁止する。異なったまたは類似しない商品について登録を申請した商標が、第三者が中国で登録した著名商標を複製、模倣又は翻訳したものであり、公衆を誤って導き、当該著名商標登録者の利益に損害を与える恐れがあるものは、登録を不許可として使用を禁止する。」

 2002年10月、人民法院は「商標民事紛争事件の審理における法律適用のいくつかの問題に関する解釈」を採択、人民法院が商標紛争事件を審理する際は、登録商標が著名商標か否かについて認定を行うことができると規定している。2003年4月、国家工商行政管理総局は「著名商標の認定及び保護規定」を公布し、「著名商標の認定及び保護暫定規定」を廃止して、著名商標の概念、認定基準、考慮する要素、企業名との衝突等の問題について一層の解釈をしまた整備した。

 2009年4月、最高人民法院は「著名商標保護に係る民事紛争事件の審理における法律適用のいくつかの問題に関する最高人民法院の解釈」(以下「著名商標のいくつかの問題の解釈」と略称)を公布した。この解釈は主に著名商標司法認定適用の範囲、認定の要素、挙証責任、保護要求等についての規定であり、その目的は基準を明確にし、条件と範囲を厳格に適用し、司法の尺度を統一し、著名商標保護の「異質化」を防ぐことにある。

2. 著名商標に関する日本の法律規定

 日本は1868年の明治維新後にドイツと英国商標法の影響を受け、1884年に出願原則の基本方針である「商標条例」を制定した。その後、この条例は何度も修正された。1888年には欧米諸国商標法の長所を吸収して条例の不明確な点を修正し、1899年にパリ条約に加入して再度修正を行い、名称を「商標法」に変更した。1909年に著名商標の保護、合同商標及び登録商標使用の監督実行等の条項を追加し、日本は初めて著名商標の保護を法律に書き入れた。この修正は「パリ条約」の著名商標の保護よりも早いものであった。1921年、「商標法」が全面改訂された。出願手続きが大幅に修正され、申請公告、申請異議、再審査放棄制度を追加し、裁判所に直接起訴ができることを規定し、商標保護が類似商品に係ることを規定し、団体商標制度を制定し、専用使用権放棄の制度を取り入れた。日本は「パリ条約」とTRIPS協定の基準に従って著名商標を保護している。その後も数回、修正されたが、これらは基本的に国際条約の修正によるものである。

 日本の現行商標法は1959年に制定されたもので、その後、数回修正されている。特記するに値するのは、2004年の修正が、第三者に横取り出願された商標を事実にしたがって無効にする権力を裁判所に付与したことである。これは著名商標の保護を強化することとなった。現行の日本商標法の著名商標に関係する規定は、主に第四条第一項第10、11、15、19号、第三十二条第一項、第三十三条第一項、第六十四条第一項に具体的に示されている。この他、1999年に日本の特許庁は修正後の「周知商標、著名商標の保護に関する審査基準」を公布し、著名商標の保護範囲、権利侵害基準、損害賠償等について規定し、商標法の施行に対応した。

 触れておくべきこととして、日本の「不正競争防止法」が著名商標の保護に重要な役割を果たしているということである。同法は未登録の著名商標の保護、著名商標のカテゴリを跨いだ保護等の問題に対し規定している。「商標法」と「不正競争防止法」の結合した保護方式は、権利侵害行為に対し幅広い防御になり、その詳細な規定は施行段階において更によい操作性を持っている。

 これまで日中両国の著名商標法律制度の充実について述べてきたが、つぎに、著名商標法律制度で比較的重要な問題である著名商標の認定及び著名商標の個別法的保護について、具体的な比較分析について述べる。

3.日中両国の著名商標認定制度

 著名商標の認定とは、簡単に言うと関係機関が法律に規定される手続き及び基準に基づき、市場における商標に対し著名なのか否かを判定する過程である。著名商標の認定は、行政機関及び裁判所(法院)が著名商標保護の実践段階で最初に着手すべきことであり、これは著名商標法律制度のうちの重要な部分である。

①著名商標認定機関

1. 中国の著名商標の認定機関

(1)行政機関の認定

 1991年1月~9月、中国では中国消費者協会、法制日報と中央テレビ局が合同で中国著名商標消費者評定選考キャンペ-ンを行い、300余りの企業から337の商標が評定選考に応募し、全国の約8万人の消費者が投票に参加して、茅台ブランド(酒)、鳳凰ブランド(自転車)、青島ブランド(ビール)、琴島・利勃海爾ブランド(電気冷蔵庫)、中華ブランド(タバコ)、北極星ブランド(時計)、永久ブランド(自転車)、霞飛ブランド(化粧品)、五糧液ブランド(酒)、瀘州ブランド(酒)、健力宝ブランド(飲料)等の商標を著名商標に選出した。これらには商標局より証書が授与された。

 関連の司法解釈が発表される前に、中国既存の「著名商標の認定と管理暫定規定」の第三条では、「国家工商行政管理総局商標局は著名商標の認定と管理業務に責任を負う。ほかのいかなる組織と個人も著名商標の認定または同様の商標の認定してはならない。本条の規定に基づき、国家工商行政管理総局は我が国の著名商標認定の唯一の機関である」と規定している。このことは法院(裁判所)が著名商標紛争事件を審理する際、事実に基づき係争中の商標が著名であるかを認定する権力を持たないことを意味している。法院は法院の著名商標認定を主張する全訴訟請求を却下し、認定の権利を持つ国家機関、即ち国家工商行政管理総局商標局に著名商標の認定を申請したうえ起訴が出来ることを告知した。

 行政機関の単一認定のメカニズムには、明らかに弊害が存在する。その一は、国家工商行政管理総局が、大量の外国企業の商標を中国の著名商標と認定することはほとんど不可能である。その二は、当該局によって著名商標と認定された場合でも、所要期間が分からないため、著名商標紛争事件における原告の損失は見積もることは難しい。

(2)司法審判機関の認定

 行政機関単一認定の状況を改めるため、2001年7月、最高人民法院は「コンピュータネットワークのドメイン名に係る民事紛争事件の審理における法律適用のいくつかの問題に関する解釈」を公布、第6条では「人民法院のドメイン名紛争事件の審理は、当事者の請求及び事件の具体的状況に基づき、係わる登録商標が著名商標なのか否かを法に従い認定することができる。」と規定している。2002年10月施行の「民事紛争事件の審理における法律適用のいくらかの問題に関する解釈」の第6条では、「人民法院は著名商標紛争事件において、当事者の請求及び事件の具体的状況に基づき、係わる登録商標が著名商標なのか否かを法に従い認定することができる。」と規定している。これにより、法院が著名商標に対し司法保護を行う審判のメカニズムが初歩的ながら規定され、この後、人民法院もこれに従い多くの著名商標を認定した。2009年4月発表の「著名商標保護に係わる民事紛争事件の審理における法律適用のいくつかの問題に関する最高人民法院の解釈」により、中国の著名商標司法認定のメカニズムはさらに整備された。

 これにより、中国は著名商標認定の二重制度を採用したことになり、認定の原則を確立することになった。これは財産権保護として著名商標の保護も絶えず強化する国際的情勢に合うものであり、また中国の市場経済成長の要求にも合致している。これにより商標主管機関の具体的行政行為に対する法院の司法審査が法に基づき処理ができるようになった。

2. 日本の著名商標の認定機関

 日本の法律は著名商標の認定機関について明確に規定していない。実践段階において、商標行政管理機関としての特許庁と裁判所は、いずれも周知及び著名商標を認定することができる。2004年に修正された日本「商標法」の第39条では、関連の商標権の権利侵害訴訟において、原告の登録商標が「無効の手続きにおいて無効と宣告された」場合、登録商標の所有者は被告が自己の商標権を行使するのに対抗してはならないと規定している。これは事実上、裁判所に商標権無効の権力を付与したものであり、同時に著名商標認定における裁判所の権威を一層向上させるものでもある。

②著名商標の認定基準

1. 中国の認定基準

 著名商標認定基準に関する中国の規定は、「商標法」第14条「著名商標の認定は次に掲げる要素を考慮しなければならない。(1)関連する公衆の当該商標に対する了知の程度。(2)当該商標使用の継続期間。(3)当該商標の何らかの宣伝工作の継続期間、程度及び地理的範囲。(4)当該商標が著名商標として受けた保護の記録。(5)当該商標が著名であることのその他の要素。」に具体的に示されている。商標法が規定する著名商標基準は、商標行政機関の著名商標認定において考慮すべき要素であるが、必須条件ではない。この点は国の慣習と同様であり、最高法院の「著名商標保護事件の審理」司法解釈の第四条においてもさらに明確にされている。当該条項では、商標が著名であるか否かの人民法院の認定は、著名であることの事実を証明することの根拠として、全要素を考慮しなくしても、事件の具体的状況から、著名商標と認定するのに十分である場合は除いて、商標法第十四条に規定される諸項目の要素を総合的に考慮しなければならない、と規定している。

 「著名商標の認定と保護規定」の第2条第二項では、「関連する公衆」についても規定しており、関連する公衆は、商標が標示する商品、またはサービスの使用に関係する消費者、前記商品を生産またはサービスを提供するその他の経営者、及び取次販売において関わる販売者や関連要員等であるとしている。

2. 日本の認定基準

 1999年、日本特許庁は、日本商標法第四条第一項第10、11、15、16、19号に関連する内容を含む「周知商標、著名商標の保護に関する審査基準」を修正して公布した。この文書では、著名商標に対する日本の認定基準には確かな規定はないが、基本的には「パリ条約」とTRIPS協定の関連規定に合っており、関連する公衆における知名度を著名商標認定の核心的要素としている。

 日中両国は著名商標認定基準の法律規定において似た点がある。例えば関連する公衆の範囲に対する解釈において、両国はいずれも関連する公衆には消費者だけでなく、関連する取引者も含まれている。両者には違いもあり、明らかに異なる点は、中国の著名商標認定のエリアは中国国内だけであり、海外の著名な商標を含まないが、日本の法律は日本国外の商標の周知性や著名性を承認している。

③著名商標認定の原則

1. 主動的、大量認定及びその利点と弊害

 現行の法律法規から見ると、著名商標に対する中国と日本の認定は、いずれも「受動的保護、個別事件認定」の国際的に広く一般に用いられる管理法を採用している。いわゆる受動的認定の原則とは、紛争が発生した場合、商標所有者の請求に応じて、裁判所または商標行政機関によって個別事件の商標に対して著名か否かの認定が行われる。この原則は、実質的には著名商標認定保護市場化を具体的に示したものであり、即ち著名商標の認定は、主観的な認定要素の制御を受けることがなく、市場によって運営され、その時点の市場の実際状況によって商標が著名か、一般的かが反映される。

 受動的認定の原則と対峙するのは「主動的保護、大量認定」の方式であり、中国は「著名商標の認定及び管理暫定規定」を実行した際に、この種の認定方式を採用した。主動的認定の長所は、国内ブランドの誕生を促進し、著名商標紛争の発生を予防し、企業のブランド意識を高めることが出来る。しかし市場の大規模化により、商品紛争は日増しに増加し、主動的認定の保護方式に存在するいくつかの問題が徐々に明らかになってきた。

 第一に、不公平な競争をもたらしやすい。ある商標がひとたび行政機関によって著名商標と主動的に認定されると、著名商標としての個別法的保護を永遠に享受することになる。しかし、認定された著名商標が一定期間を過ぎた後、著名の基準に合致しなくなっても、依然として著名商標としての個別法的保護を受けるのは、明らかに不合理である。主動的認定の方式において、著名商標と認定された企業は、容易に著名商標を「看板」として市場競争での大きな優位性を持つことになる。しかも事実上の著名な商標であっても速やかに認定の出願をしなかった場合は、紛争が発生した際に著名商標としての法的保護が得られない。

 第二に、権利の金銭取引による腐敗問題が発生しやすい。著名商標は有利な待遇を受けるにもかかわらず、行政部門によって主観的に認定されるため、一部の企業は利益のために巨額の資金を投入して「著名商標」の認定を受けようとすることになる。これは市場競争にとって不公平であるだけでなく、行政機関の腐敗にもつながることになる。

2. 個別事件の受動的認定の利点と弊害

 著名商標保護についての「パリ条約」とTRIPS協定の個別事件の認定の原則に合わせるため、また、主動的認定に存在する弊害を克服するため、中国は「著名商標の認定及び保護規定」を通じて受動的保護の原則を確立した。主動的認定の方式に対して、受動的保護及び個別事件認定の合理性は次の点にある。

 第一に、商標が著名であるか否かがより客観的に認定される。個別事件の原則に従うと、権利侵害の紛争が発生した場合、商標所有者は証拠を提示し、自己の商標が著名商標であることを証明できさえすれば、法院または商標行政機関は当該商標に対して著名商標の個別法的保護を実行できる。しかし、この種の認定はその事件に対してのみ有効であり、第三者に及ぶことはなく、社会全体には及ばない。著名商標として保護された記録については、次に紛争が発生した時に、商標行政機関または法院の考慮すべき要素となるだけである。個別事件認定の原則は、市場競争の実際状況にも合致しており、過去の著名商標でも時間が過ぎれば著名と認定されない可能性もある。

 第二に、著名商標が第三者に横取り登録される問題を効果的に防ぐ。受動的保護、個別事件認定の原則は商標の使用が優先されることになり、たとえば、ある企業があらかじめ著名商標の称号を申請していなかったり、または称号を未取得であったとしても、商標が第三者によって横取り登録された時に、もし企業が自己の商標が著名であることを証明できた場合は、商標行政機関または法院に申し立てを行い、権利侵害当事者の登録の取り消しを要求し、自己の合法的権益を保護することができる。

 第三に、行政の腐敗問題を効果的に抑制することができる。受動保護と個別事件認定は著名商標の認定において、人為的要素や主観的要素に左右されることなく、市場の客観的状況を根拠にすることができる。

 しかし、受動保護や個別事件認定の原則は、絶対的かつ合理的だとは言えない。中国のここ数年来の司法手続きでは、この原則下の著名商標認定のメカニズムには様々な問題があることがわかってきた。例えば、受動認定は紛争の予防、司法認定の衝突、地域の保護などには不利である。このため、著名商標の認定制度のさらなる整備が待たれている。

4.著名商標に対する個別法的保護

 著名な商標は、商品やサービスが市場での名声と競争の地位を獲得しており、それは企業の重要な無体財産であり、また国の経済成長の原動力でもある。このため、著名商標は市場において第三者による横取り登録や偽造等の不正競争の侵害を受けやすくなる。従って、著名商標に個別に法律上の保護を与えることは重要な意義がある。

 現在、国際的に著名商標に対する保護規定が比較的整っているのはTRIPS協定である。その規定によると、著名商標の所有者は、第三者の同類、または類似商品における登録、またはその商標と同一、または類似する商標の使用を禁止できるだけでなく、第三者がその商標と同一、または類似する商標を非類似の商品において登録または使用することを禁ずることができる。

 日中両国はWTOの加盟国であり、両国の商標法とその他の法律法規は「パリ条約」と「TRIPS協定」の要求に従って、著名商標を保護している。しかし、具体的な法律規定と関連する司法処理段階では、日中両国の著名商標に対する保護には違いがある。

①著名商標の保護範囲に対する日中両国の相違点

 著名商標の保護に対する日中両国の相違点は、著名商標に対する保護範囲に具体的に示されている。著名商標に対する中国の保護はカテゴリを跨いだ保護を採用しているが、その前提条件は、当該商標が中国で登録されていることである。しかし、日本は著名商標が登録されているかを問わず、いずれもカテゴリを跨いだ保護を採用している。

 著名商標のカテゴリを跨いだ保護の理論的基礎は、希釈化理論である。著名商標が商品とサービスを区別する機能を備えているだけでなく、商品の品質の特色と商業的名声を獲得しているため、著名商標の同じ商標を非類似商品またはサービスに用いることは、混同とは異なるものの、著名商標及びその標示する商品とサービスの特色と名声を希釈化するだけでなく、はては著名商標の特色と名声を汚し、貶めることになり、従って著名商標に対してカテゴリを跨いだ保護を行い、その無形の富の流失を防ぐ必要がある。これが即ち著名商標希釈化理論が持つ基本的な意味である。

 伝統的な混同理論には、著名商標の保護が明らかに不足しており、TRIPS協定は希釈化理論に基づく著名商標の保護を正式に確立したため、多くの国に受け入れられ、認可を得ている。日中両国は、著名商標保護の法律に関連する内容を規定している。

 しかし、中国の著名商標に対する希釈化理論に基づいた保護は、主に「商標法」の第13条第2項の規定「同一でない商品または類似しない商品について出願した商標が、第三者の中国で登録した著名商標を複製、模倣または翻訳したものと、公衆に誤認させるものであり、著名商標登録者の利益に損害を与え得る場合、登録させないうえ使用を禁止する。」に反映されている。このことから、希釈化の理論を中国で使用する場合は、中国で登録された著名商標でなければならない。

②著名商標保護における司法機関と商標行政機関の役割

 裁判所(法院)と商標行政機関は日中両国の法律体系では、いずれも著名商標保護の権力を持つ機関であり、両者には分担がある。日中両国はいずれも大陸法系国家に属し、両国とも商標の登録を優先する主義であるため、それぞれが著名商標保護の過程において果たす役割は似通っている。商標行政機関は主に出願審査、及び異議と無効請求に対する処理により、裁判所(法院)は著名商標権利侵害事件に対する審理により保護に当たる。

 しかし、法律の規定の違いと裁判所(法院)と行政機関の権限の違いにより、日中両国には違いがある。

 中国の商標局と商標評定審査委員会及び日本の特許庁の権力と職能は基本的に同じであり、それぞれの商標法の具体的な規定に基づき、登録を許可しなかったり、無効と判定したり、登録商標の取消し及び使用禁止等の行政決定を行ったり、著名商標に対する権利侵害商標の侵害を阻止したりすることが出来る。この他、関連する行政法規は両国商標行政機関の職権行使の重要な典拠である。例えば、日本の「周知商標、著名商標の保護の審査基準」、中国の「著名(馳名)商標の認定と保護規定」である。

 裁判所(法院)の司法保護において、日中両国の違いは、主に裁判所が登録商標の無効を直接判定できるか否かにある。日中両国は登録を商標権獲得の基本としており、登録を許可された商標には好意的で、裁判所は通常商標権無効の訴求を受理しない。しかし2004年以後、日本は商標法を修正し、第39条では、商標権の権利侵害訴訟において、原告の登録商標権が「無効手続き中で無効と宣告されるべきもの」であった場合、登録商標の所有者は被告に対し自己の商標権を行使してはならないと規定している。つまり、裁判所は事件の審理では、事実と証拠に基づき、商標権の無効を判定することができる。明らかに、不正に登録された商標の効力が、紛争を処理する裁判所によって直接否定され、商標行政機関の決定を待つのではなく、手続きが簡略化され、当事者の時間とコストが節約され、手続を長く引き延ばされて生ずるさらなる損害を避けることができ、未登録の著名商標を効果的に保護できる。日本の改革は中国の参考に値する意義がある。

③防護標章制度

 防護標章は衛星標章とも言い、著名商標所有者が、当該著名商標が使用を査定した商品または類似商品以外に第三者が同一商標の使用を防止するため、その他の商品にも登録することを指す。防護標章は「保護主義拡大」に基づき、著名商標のために創設した制度であり、その目的は、第三者が非類似商品、またはサービスで著名商標と同一、または類似の商標を登録または使用し、その顕著性を希釈化することを防ぐことにある。防護標章制度は一種の著名商標所有者の自発的な事前の保護措置である。

 日本は比較的整備された防護標章制度があり、「商標法」の第64条から68条までに規定され、防護標章登録の条件、出願の手続き、権利侵害行為等の問題について詳細に規定している。全体的に日本の防護標章商標には2つの特徴がある。(1)従属性。防護標章登録の権利は基礎となる登録商標に依拠または従属し、防護標章は基礎となる商標権利の移転、終了に伴い移転または終了する。(2)防護性。日本の防護標章制度の狙いは防護と保護にあり、登録のためではない。当然、防護標章には登録後に使用する義務はない。

 日本の防護標章制度の歴史は長く、著名商標は保護されるべき優位な立場にある。最初に、日本では、防護標章は知名、著名商標の排他権の範囲を予め画定し、保護拡大の目的を達成できる。次に、費用を節約できる。防護標章の登録は、基礎登録の費用を納付する必要があるだけで複数のタイプ別の商品またはサービスを設定することができる。さらに、防護標章は登録成功後に不使用であったとしても、取り消される可能性がない。

 現在、中国は防護標章制度を確立させていないが、施行段階では、多くの企業が防護標章を登録することにより著名商標を保護し、積極的な効果を上げている。今後は、中国は立法を通じて防護標章制度を確立することを考えるべきである。

5.中国の著名商標法律制度整備についてのいくらかの提案

 中国の現行法律法規は、著名商標の保護において進歩を遂げており、長い経験・鍛錬により、行政法執行、司法業務においても顕著な成績を上げているが、市場規模が大きくなり、商標権利侵害行為が日増しに複雑化し、しかも制度建設がまだ不足しているため、著名商標の全面的保護を達成するには、さらに整備しなければならない。日本の著名商標の保護には国際的にも進んだ独特な手法があり、同じような大陸法系の中国にとっては、その中から有益な手法を選んで用いるべきである。

①著名商標認定制度の整備

 近年、中国はWTO加盟が著名商標の保護に提起した新しい要求に適応するため、行政機関と人民法院は二重認定制度、時効認定、受動的保護を特徴とする公平、開放、適正化、受動的の著名商標認定のメカニズムをすでに構築している。この種の認定メカニズムは、その合理性を持っているが、中国の具体的な著名商標法律の施行効果から見て、関連する制度は一層の整備が待たれている。

1. 中国の著名商標認定で現実に存在する問題

(1)著名商標の濫用

 多くの著名商標の所有者は個別認定の原則に背き、認定後に商標の「著名」に長時間、広範囲な広告宣伝を行い、自己ブランドの知名度を不正に作り上げ、しかも広告には虚偽、誇大の文言を経常的に使用し、商品販売促進の目的を達成しようとしている。

(2)著名商標の数を政府の成績とリンクする地方政府

 著名商標本来の意味に対する誤解のために、中国の多くの地方政府は自分たちが管轄する地区の著名商標の数が多いほど、自分たちが管轄する地区の企業の実力が大きく、政府の仕事を立派に行っていると考える。そこで、一部の地方政府は自らの成績を顕示するため、「著名商標」の数の増加を積極的に追求するようになった。はては著名商標の認定を獲得した現地企業に高額の奨励金を支給し、一部企業の著名商標の認定申請を不当に奨励している。

(3)著名商標の認定緩和による地区間の基準不統一の問題

 統計では、2007年1月から2008年2月の間に行政の認定を受けた著名商標だけでも427件に達する。中国の広大な地域、経済の急速な成長及び商標紛争の日を追っての増加といった要素を加えても、この数字は大き過ぎる。こうした状況と権力を持った機関が、著名商標の認定を厳格に行っていないこととは関係がある。司法認定においては、「著名商標のいくつかの問題の解釈」が法院の著名商標認定の基準を詳細に規定し、法院の自由裁量権を制限したものの、現在数十の中級人民法院が著名商標認定の権限を持っており、判定基準を完全に統一することは容易ではなく、さらにその他の要素が加わって、法院が異なれば同一商標に対して異なった認定結果が出るのを避けるのは難しい。

 この3項目の現象は、現在の著名商標認定過程において明確になった。前2項目は著名商標保護の趣旨を踏み違えたものであり、後者の1項目は制度上の欠陥がもたらしたものである。

2. 著名商標認定制度整備の提案

(1)著名商標認定を個別事件のみで有効とする原則の一層の強化

 日本では、特許庁が商標の審査、異議と無効請求において認定した著名商標でも、裁判所が商標紛争処理中に認定した著名商標でも、紛争の解決にのみ問題となり、長期にブランドを認定するわけでなく、また広告宣伝とも関係がない。中国もこのような理念に従い個別事件の原則を厳格に実行し、広告で著名商標を宣伝することを禁止し、著名商標に対する大量公布、集中宣伝を止めるべきである。この他、地方政府は現地の「著名商標」に対する奨励金の支給を停止すべきであり、また「著名商標」の評定も停止し、著名商標制度に対する市場の誤解を避け、関連する投機的行為を防がなければならない。

(2)必要に応じて行使する著名商標認定のプロセス

 例えば、登録商標侵害の事件において商標を保護する場合、法院または商標行政機関は、当該登録商標が事実上高い知名度に達していたとしても、「著名」として認定する必要はない。このようにすれば、著名商標に対する認定を厳格にし、濫用を防止することになる。また、関連の司法資源を節約することもできる。「いくつかの規定」は、第二条において法院はどのような状況において著名商標の認定を行うべきかについて規定しており、このことは著名商標の司法認定の施行を適正化する上で重要な意義を持つ。

(3)著名商標の司法認定制度の整備

 その一、異なった法院の著名商標認定の基準の統一が困難な状況を打開するには、著名商標に対する司法認定を集中し、著名商標を認定する法院の数を減らす必要がある。その二、監督のメカニズムを確立することである。法院は著名商標認定の過程において、外界からのさまざまな干渉に直面することは免れ難い。認定の合理性を保証し、司法の腐敗を防止するためには、上級法院審査決定制度の確立を図る必要がある。受理した法院が発効した判決に関する統計報告表を、再審査のために一級上の法院に送付する必要がある。

②著名商標に対する個別の法的保護の明確化

1. 希釈化理論を根拠に、中国での未登録の著名商標のカテゴリを跨ぐ保護

 中国の商標法第13条は、希釈化理論を根拠に著名商標にカテゴリを跨ぐ保護を与えているが、保護範囲は中国に登録済みの著名商標だけに限っており、未登録の著名商標は含まない。しかし、日本の希釈化理論による商標の保護はほぼ整っており、商標法と不正競争防止法に関連する条項があって、保護範囲は日本に登録済みの著名商標にとどまらない。これは国際的な手法とほぼ合致している。

 ひとたび著名商標となった場合は、異なる商品やサービスにも商業的価値と機能を持つ。したがって同様の個別の法的保護を受けるべきである。未登録の著名商標の侵害も同じように著名商標の価値の評価を貶め、低下させる。まず、著名商標が国際的範囲で個別に保護を受けているのは、著名商標が持つ社会的属性、即ちその信用名声の価値のためである。ある商標がひとたび著名になると、独立した価値を獲得することになり、生産源を区別する識別機能を備えるだけでなく、表彰機能を備え、その所有者の信用・名声を具体的に表し、巨大な商業的名声を示すことになる。次に、著名商標に対し個別に保護を与える目的から見ると、著名商標が標示する信用・名声の価値は、国際、国内市場において巨大な影響力を享受しており、著名商標を希釈化するいかなる侵害行為も、必然的に著名商標の商業的価値の低下と消滅をもたらすことになる。業者間に競争関係、商標間に混同の可能性が存在するか否かについては、斟酌すべきではない。業者間に競争関係が存在しないとしても、消費者に混同と誤認が生ずることはなく、著名商標の絶対的顕著性を希釈化する行為も法的制裁を受けなければならない。これが著名商標に対して反希釈化保護を提供する根本的な原因である。従って、未登録の著名な商標に対しても、カテゴリを跨ぐ保護を行わなければならない。

 中国の2002年の「商標民事紛争の審理における法律適用のいくつかの問題に関する解釈」は、この制度の問題点をある程度補充しており、その第二条では「第三者が中国において登録していない著名商標、またはその重要部分を複製、模倣または翻訳し、同一のまたは類似の商品において商標として使用し、混同を招きやすいものについては、侵害停止の民事の法的責任を負わなければならない」と規定している。しかし、司法解釈は結局のところ法的レベルが比較的低く、しかも当該規定は損失賠償を含むその他の救済方式を規定していない。従って、未登録の著名商標に対する保護の水準を高めようとするなら、立法を通じて未登録の著名商標のカテゴリを跨ぐ保護に対し詳細に規定し、権力を有する機関が根拠にできる法律を持つべきである。

2. 防護標章制度を確立した著名商標の保護

 現在、中国の商標法と不正競争防止法の著名商標に対する保護は、事後救済の傾向にある。防護標章制度は一種の事前の著名商標の保護である。著名商標権者が自身の市場経営の状況に基づき、適切な商標登録手段を選択し、防護標章を利用すれば、第三者による権利を侵害する登録を未然に防ぎ、著名商標に最も有効な法律の保護を与えることを保証し、損害の発生を源から避けることができる。

 中国は現在、防護標章の内容を、法律ではまだ規定していないが、中国の商標の登録と管理において、企業はすでに合同商標または防護標章を採用する措置を講じており、商標が第三者によって横取り登録されるのを避けている。例えば、ある商標権者は著名商標である「両面針」を登録した以外に、さらに「面面針」、「双面針」等の商標を登録している。またある企業、例えば娃哈哈は全タイプの商品の登録の方式を採用して自己を保護している。しかし、制度的な構築に欠けているため、この種の自発的な防護標章登録の行為には、いくつかの問題が存在している。例えば、防護標章の登録は企業のコストを増やし、しかもたとえば「連続3年使用を停止した」ために、登録商標の取り消しを招くことになるリスクが存在する。

 日本の防護標章制度は比較的発達しており、商標法には詳細な法律の規定がある。中国は日本の経験を参考に、商標法には防護標章の内容を追加し、防護標章登録の条件、出願手続き、時効、費用等の具体的問題に対し規定を作ることは、企業の防護標章登録の実践指導と企業の権利意識向上にとって重要な意義を持つ。防護標章制度の「主動的防御、事前保護」と一般の「受動的保護、事後救済」を結び付ければ、著名商標の保護はさらに全面的なものとなる。

③法に基づいた著名商標の行政法執行

 著名商標に対する行政保護は、中国の著名商標制度の一大特色であり、国内の法執行の基礎に立脚し、国外の先進理論の成果と法執行の経験を参考にし吸収して、長足の進歩を遂げてきた。しかし、WTO加盟後の経済のグローバル化と日増しに激しくなる経済競争及び著名商標保護の進展という新しい情勢に直面して、中国の著名商標の行政法執行制度には、まだ多くの軽視できない問題と解決が早急に待たれる矛盾が存在し、新たな挑戦と試練に直面している。

1. 法執行の主体の明確化と、協調のメカニズムの整備

 中国において商標事件行政法執行権を持つ機関には、工商行政管理総局、技術監督局及び物価管理部門等がある。各部門の商標違法事件処理における分担が明確でなく、職権がはっきりしていないため、幾つかの部門が商標を事件として処理する際の衝突は避けられず、法執行の効率低下をもたらしている。WTO加盟後、国内各機関の商標違法事件捜査・処罰の権限を明確にすることが特に重要となっている。

 従って、商標部門と経済検査、市場管理部門は密接に協力しなければならない。当事者の合法的権益に資するようにし、法に従った行政を推進し、法執行の機能を増強するため、政府知的財産権保護工作委員会を構築し、ハイレベルの協調メカニズムを通じて、行政システムの内部で法執行の権利と責任に関係する矛盾及び紛争を適時解決する必要がある。システムの外部では、工商行政管理機関は商標権利侵害を捜査・処罰する過程において、法院、検察院、公安局、税関等の部門と協力し、商標特に著名商標の保護作業を共同で整備しなければならない。

2. 著名商標行政保護責任制度の健全化

 中国の現在の商標法律制度は、主に著名商標紛争当事者に対しさまざまな責任を規定しているが、著名商標の行政保護の主体である商標行政管理機関に対する法的責任の拘束が欠けている。従って、知的財産権保護は単一の「職権」であって、「職責」ではなくなっており、管理機関が管理の職能を履行しなかった、または履行が適切でなかった時に、著名商標の権利の当事者が行政機関の責任を追求するのが困難となる状況をもたらしている。

 このため、「著名商標の認定及び保護規定」の第16条に各種の著名商標行政保護機関の責任の規定を追加すべきである。責任を受け持つ主体の設定上の欠陥を補充し、行政機関に法的責任の拘束がない状況を改め、行政機関が管理の職能を履行しなかった、または履行が不適切であった場合に、行政と民事の責任を設定する。行政責任では、例えば商標行政管理問責制、商標行政管理部門法執行考査制を確立し、民事責任では、例えば行政機関の法執行が不適切であったために著名商標権者に損害を被らせた場合、行政機関はその受け持つ責任の範囲内で、著名商標権者に対し賠償を行うべきである。

④社会のブランド意識の高揚と、著名商標の法律保護の促進

 第一次、第二次五カ年社会法律普及教育により、人々は過去の「法を学ばない」、「法を知らない」状況から脱却しており、広範な消費者は商標法と消費者権益保護法について、いずれも程度の違いはあるが理解をするようになっており、すでに「ブランドを見て品物を買う」ように変化している。これによって「ブランドに従って損害賠償を求める」という意識が強まっている。

 商品ブランドに対する消費者の確認能力が強まるのにともない、企業経営者も経営戦略を変更しており、ますます多くの企業がブランドを中心に生産と経営管理を行うようになり、外国企業が本土以外に投資し工場を設ける際、最初に必要なことは、製品が使用する商標の問題である。すでに正常に運営されている企業については、商標戦略と販売を同時に重視する。例えば、「National」は日本では婦人も子供も知っているブランドとなっているが、当該商標は米国ではすでに第三者によって先に登録されている。松下は日本国内では「National」の商標を引き続き使用しているが、本土以外の場所では「Panasonic」の新しい商標を使用し、同時に「National」をできるだけ使用するようにしている。「National」は長期に渡って使用したことから、徐々に古くなった感覚を与え、「伝統的商号」の概念を残しているが、「Panasonic」は「生気に満ちている」、「革新的」、「若くて活力がある」等のまったく新しい印象を与えている。製品多様化の増加にともない、松下はまた「愛妻」(洗濯機)、「飛鳥」(音響)、「樹氷」(家庭用クーラー)等のまったく新しい商標を送りだしている。商標以外に、松下は商品の名称に対しても同じように重視しており、例えばテレビに使用された「画王」はその成功した例の一つである。

 中国企業のブランド意識の高まりが待たれる。一方で、中国企業は国際市場の範囲で良好な商標とブランド保護の意識が作られていない。2004年世界ブランド実験室が公表した「中国の最も価値を持つブランド500」の内、46%が米国で、50%がオーストラリアでまだ登録されておらず、EUでの未登録率は76%にも達している。しかもここ十年来、中国国内の著名商標が国外で横取り登録される状況が頻繁に発生している。例えば、商標「海信」はドイツBSH社に横取り登録され、「大宝」は米国で横取り登録された。もしこのような情勢において、企業が依然として海外における登録と保護を重視しなかった場合、企業のブランドが持っている商業的利益と市場の優位性を喪失してしまう可能性がある。もう一方で、中国企業は市場の情報に対する関心と自身の行為に対する規制を欠いている。中国企業は市場情報獲得のメカニズムを確立し、市場における各種の商標の状況を理解し、不必要な紛争に陥ってしまうことを避けなければならない。しかし、現在市場で一段と激しくなっている「山寨(山中の集落)」行為は、中国の多くの企業にオリジナルブランドを育て上げる意識がなく、同時にこの種の「山寨」行為が、関連企業の経営を常に権利侵害の危険の中に置いている。

 従って、企業の経営要員と管理要員は商標の法律意識を強め、ブランド戦略を積極的に運用すると同時に、市場の状況に密接な関心を寄せ、著名商標を偽称・偽造する行為に対し、直ちに法律の武器を手にして自己を保護しなければならない。広範なメーカーが法に従って生産・経営を行い、著名商標権者が製品の質を絶えず高め、著名商標の名声を保ち、著名商標を主動的に、積極的に保護し、同時に消費者を教育し、著名商標偽造・偽証の行為を阻止し、摘発することによって、著名商標は初めて真の法的保護が得られるのである。

 中国市場経済が絶えず発展するのにともない、ますます多くの国内国外商標が市場の競争に参入することになる。この種の状況において、著名商標の法律制度は市場の秩序を維持し、企業の富と国の利益を保護する上で重要な役割を果たすことになるであろう。日中両国の企業と著名商標保護機構が相互に参考にし、学習し、著名商標個別法的保護制度を整備し、著名商標の保護水準を高めることは、ますます重要になる。