第43号:光触媒技術
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有機汚染物質の光触媒分解およびそのメカニズムの研究

2010年 4月20日

趙進才

趙進才(Zhao Jincai):中国科学院化学研究所研究員、
国家重大科学研究計画プロジェクト首席科学者

 1960年12月生まれ。1994年日本の明星大学において理学博士学位を取得。現在中国科学院化学研究所光化学重点実験室副主任、エネルギーおよび緑色化学研究センター副主任。国際的定期刊行物において論文180篇以上を発表しており、研究成果はSCIほかによって4000回以上引用されている。発明パテントの認定は16項にのぼり、国際学術大会での招待報告は20回以上である。国際的定期刊行物『Environ. Sci. Technol.』 (ACS)、『Energy Environ. Sci.』(RSC)、『ChemCatChem』、『Catal. Comm.』、『Int. J. Photoenergy』および『J. Adv. Oxid. Technol.』において顧問編集員を担当しており、また中国の『環境科学学報』および『環境化学』の副編集主幹である。1997年に国家傑出青年基金を受け、2002年には中国科学院-バイヤー(ドイツ)青年科学者賞を、2005年には国家自然科学二等賞をそれぞれ受賞した。

共著者:王兆慧1&2、馬万紅1、陳春城1(1中国科学院化学研究所北京分子科学国家実験室、2東華大学環境科学・プロジェクト学部) 


 1972年、日本の科学者であるFujishimaとHonda[1]は、近紫外線の作用により、ルチル型TiO2の単結晶電極が常温常圧下で水の分解反応を起こしうることを初めて報告した。この記念碑的重大発見は、金属酸化物半導体異相の光触媒研究において新時代の幕開けを告げるものであった。光励起半導体TiO2が初期電荷分離を生み出す原理にもとづき、TiO2光触媒が太陽エネルギーと空気中の酸素を直接利用して、有毒有害汚染物質を分解することが可能になったのである。こうして、環境汚染物質の処理に応用出来る可能性の高い緑色酸化技術が登場した。

 本論文は、主に光触媒による有毒有機汚染物質の分解に関する研究の最新状況について論述することを課題とし、特に可視光線の光触媒が環境親和性酸化剤(O2またはH2O2)の有機汚染物質分解作用を活性化するという新しいシステムと、鉄の光化学反応および地球化学的反応の環境に対する影響を紹介することに重点を置いている。

1.可視光線の光触媒による染料汚染物質分解の原理[2-5]

 中国は世界一の染料生産国かつ主要染料輸出国であり、2008年の中国の染料総生産量は67.8万トンに及ぶ。しかし、染料生産の廃水は毒性が高く、生物による分解の可能性も比較的低いため、すでに生態系に深刻な環境被害をもたらしている。このことから、染料分解の緑色・クリーン酸化技術の開発は避けることのできない課題であるといえよう。

 これに対応して、近年、可視光線を照射して染料汚染物質を光分解する研究分野において系統的な研究が進んでいる。現在すでにフリーラジカル測定、中間生産物分析、in situ特性など分解メカニズムに関する研究方法が確立されており、数十種類の染料汚染物質の分解および一過性生成物と中間生成物のトラッキング測定によって、従来の紫外線光触媒とは異なる可視光線光触媒による染料汚染物質分解の詳細なメカニズムが明らかにされている(図1参照)。まず、可視光線が照射されてもTiO2自体には光反応は起こらないが、染料分子(TiO2ではないもの)が励起され、励起状態染料(dye*)を生成する。この励起状態染料はTiO2半導体の伝導帯に電子を一つ注入してフリーラジカルイオン(dye·+)を生成する。すると、伝導帯の電子は触媒剤表面のO2などによって捕獲され、O2·-、·OHそして·OOHなどのフリーラジカルを生成する。そして、さらに複雑な反応を経て染料分子は少しずつ分解し、最終的にはCO2を生成するのである。

 また、研究の結果、TiO2触媒剤が存在するという条件では、フルオレセイン、ローダミンB、アシッドピンクB、エオジン、ピーコックブルー、アシッドオレンジ、エチルオレンジ、ローズベンガル、クリスタルバイオレット、マゼンタ、アリザリンレッド、スクアリリウム、アルカリブルー、ジアゾ染料、フェノサフラニン、活性ブリリアントレッドX-3B、活性レッド198およびオレンジⅡなどの染料すべてで感光分解が発生しうることが明らかになった。可視領域の主な吸収ピークにおいて光反応が進むにつれ、大部分の染料は消失し、よく知られている通り吸収帯が出現する。こうして、染料の共役構造や発色団はすべて破壊ないし分解され、CO2とH2Oとなるのである。有機分解の生産物は、CO2を除けばジエチルアミン、N-エチルアセトアミド、N-エチルホルムアミド、N、N-ジエチルアセトアミド、N、N-ジエチルホルムアミド、フタル酸、安息香酸、そしてギ酸などの有機小分子である。

図1

図1.染料の光触媒感化メカニズムの概略図

 また、ローダミンB、アシッドピンクB、そしてクリスタルバイオレットのようなN-アスキル基アミン基団を含む染料には、N-アスキル基または染料発色団を取り除き、直接開環するという典型的な分解反応が二種類ある。この反応の相対的な傾向は、表面上の修飾の類型によって決定される。例えば、染料アシッドピンクSRBは、未修飾のTiO2の表面においては主に直接開環されるが、マイナスイオンの表面活性剤(DBS)があるときはまず脱N-エチル基の方式で分解される。また、近年の研究が明らかにしたところによると、F修飾のTiO2(F-TiO2)は染料分子の吸着モデルと分解反応を改変することができる。TiO2システムにおいては、ローダミンB(RhB)はカルボキシル基によってTiO2表面に吸着し、主に直接鉱化する。これに対しF-TiO2システムにおいては、染料はN-アルキル基アミノ末端吸着によってすばやく脱エチル基反応を起こし、そのまま鉱化にいたるのである。また、TiO2表面吸着貴金属であるPtナノメートル粒子とPtCl62-修飾の進行も染料汚染物質の光触媒分解速度を加速させることに有効である。近年の研究によると、TiO2ナノメートル粒子がAl2O3薄膜を表面的に修飾することは、染料のプラスイオンのフリーラジカルと注入電子の複合反応を抑制することに有効であり、染料の触媒分解速度は5倍に上昇することが明らかになったのである。

 以上のように、染料の可視光線光触媒の基本原理にもとづいて、可視光線を照射して染料の汚染物質を有効に分解することが成功裏に実現した。しかし、それだけでなく、染料のフリーラジカル循環駆動有機触媒剤TEMPOによって、染料の汚染物質を高選択的に酸化有機溶剤中のアルコール類化合物と反応するアルデヒドにすることが可能になった。本システムは、芳香族アルコール、脂肪族アルコール、α-βの二重結合を含むアルコール、アゼピンを含むアルコールなど、第一級アルコールの選択的酸化に適用されるもので、選択率は99%よりも高く、代謝回転数(TON)も600より高いことがある。本システムは室温で進行し、可視光線を駆動力とし、酸素を酸化剤として行われるものである。すなわち、本システムは貴金属や中間金属イオンと関連せず、また強い酸化剤や酸・アルカリを使用しない、染料の可視光線光触媒原理を利用した緑色選択性酸化法であるといえる。

2.可視光線光触媒活性化O2/H2O2の有機汚染物質分解新システム[6-8]

 太陽光線にはTiO2に吸収されうる紫外線が非常に少ない(わずか5%前後)。このため、どのようにして波長を可視光線区域に拡張して光触媒剤に反応させるかが、現在 TiO2光触媒分野において最も挑戦すべき課題の一つとなっている。本実験室は非金属元素と金属酸化物の同時修飾を利用し、新型のNi2O3/TiO2-xBx可視光線光触媒剤を製造した。図2の通り、BとNiをともにTiO2触媒剤の吸収帯にドープ処理し、純TiO2の390nmから650nm前後にレッドシフトする。そして、一定量のNi2O3をTiO2触媒剤の表面に吸着させることによって、触媒剤の触媒活性は顕著に向上するのである。これによって、二成分のシナジー改質を通してTiO2の光触媒剤吸収波長を可視光線区域に拡張し、正孔/電子を抑制するという複合的な二重目的を達成した。そして、可視光線の光触媒を直接利用して多価クロロフェノールなどの無色の有毒汚染物質を分解することが可能になった。このように、この研究は可視光線光触媒の有機汚染物質分解システムに新たな構想を提供したと言えるであろう。

図2

図2.純TiO2(a)、BドープTiO2(b)、そしてB、NiドープTiO2(c)の紫外線-可視光線拡散反射スペクトル

 従来からの半導体光触媒研究にもとづいて、高い光触媒活性と安定した廉価な鉄基可視光線光触媒システムが発展した。これは可視光線の照射、広いpH範囲そして室温という条件のもとで、活性化されたO2またはH2O2によって有機汚染物質(特に高毒性で新型の難分解性有機汚染物質)を有効に分解することを実現したものであり、また鉄窒素配合物が可視光線を吸収し、電子の転移を引き起こすことによってO2またはH2O2を活性化する際の細部メカニズムを提示したものである。

 有機配位子錯体生成のFe(Ⅱ)/Fe(Ⅲ)触媒剤は、フェントン(Fenton)反応のpH範囲を酸性から中性に拡張することができ、また紫外線のフォトフェントン(Photo-Fenton)反応を可視光線区域に拡張することができる。スルホン化フタロシアニン、ビピリジルそしてスルホサリチル酸などを配位子とするFe(Ⅱ)またはFe(Ⅲ)配合物(図3参照)は、可視光線を照射すると水中の有毒有機汚染物質を有効に分解および鉱化することができるのである。このほかに、Fe(Ⅲ)/Fe(Ⅱ)を直接プラスイオン樹脂と交換した場合も、中性条件のもとで有機染料と小分子汚染物質の光分解の有効な触媒となる。しかし、基質が存在しない場合には、システムのH2O2は光を照射しても分解しない。これは、この反応システムにおけるH2O2の分解が基質支配的であることを示している。また、Fe(Ⅲ)の還元は主に光による電荷転移によって行われるものであり、直接過酸化水素との反応によって行われるものではない。これによってH2O2の利用率を大きく向上させることができると言えるであろう。

図3

図3.可視光線光触媒活性化O2/H2O2を利用した金属配合物システム(a)、
b-CD-ヘム;(b)、スルホン化フタロシアニン/樹脂;(c)、Fe(bpy)32+ /樹脂;(d)、
Fe3+吸着;(e)、MTPPS4/樹脂;(f)、Fe(cbpy)32+

 Fe(Ⅱ)の有機配合物は、紫外線・可視光線活性化分子を利用して有機汚染物質を酸化することもできる。例えばビピリジル配合物[Fe(Ⅱ)(bpy)3]2+ のようなポリスチレン樹脂に吸着したFe(Ⅱ)複合光触媒剤は、可視光線の励起の下で有効に空気中の酸素を活性化させ、生物分解が困難なローダミンB(RhB)、ピーコックブルー(MG)そしてN、N-ジメチルアニリン(DMA)などの有毒有機汚染物質を容易に有効に分解することができる。ESRの研究が明らかにしたところによると、反応において関連するのは分子を酸転化して・OOH/O2-・にする部分であり、強酸化中間物(例えば・OHフリーラジカル)には関連していない。すなわち、[Fe(Ⅱ)(bpy)3]2+をNaY分子にスクリーニングした際に、可視光線と分子酸素を利用してピーコックブルー(MG)を酸化することはできるが、酸化は第一段階の加酸素反応段階にとどまるのみで、鉱化率はゼロである。

3.環境における鉄触媒の有機汚染物質光分解反応メカニズム[9-11]

 周知の通り、鉄は自然界において最大の含量を有し、その分布も最も広範囲にわたっている元素の一つである。各類型の鉄種は自らの光化学循環反応、すなわちFe(Ⅲ)とFe(Ⅱ)の間の相互転化を通じて、その環境において他の元素の原子価転化を引き起こし、有機汚染物質の分解と活性酸素種の生成と消耗を促進する。すなわち、紫外線輻射下で酸性の自然水系や大気中の液滴に溶解性有機物(DOM)を流入させると、Fe(Ⅱ)/Fe(t)の比率周期振動を引き起こすが(振動の周期と幅度はDOMの性質によって決定される)、DOMの消耗にともなってFe(Ⅱ)/Fe(t)は等しく光定常均衡となるのである(図4参照)。例えば、Fe(Ⅲ)/Fe(Ⅱ)システムに比較的高濃度のマロン酸(Mal)が存在する場合、Fe(Ⅲ)-Mal配合物(FMCs)は比較的強い錯体生成強度と比較的高いモル吸光能力を有するが、そのFe(Ⅱ)生成効率は極めて低いものである。このため、鉄の光酸化速度と光還元速度はともに抑制されることになる。しかし、このシステムに無機クロムイオンを追加すると、Fe(Ⅱ)/Fe(t)の光定常均衡はFe(Ⅱ)に有利な方向に移動し、同時に多価カルボン酸類DOMの光分解過程を抑制する。また、紫外線の照射によって直接Fe(Ⅲ)/Fe(Ⅱ)の転化が生じる以外にも、暗反応、紫外線照射、可視光線照射において生成された、もしくはDOM光分解中に形成されたハイドロキノン/キノン類DOMによる転化が存在する。すなわち、ハイドロキノン/キノン類DOM特有のハイドロキノン/キノン循環加速Fe(Ⅲ)の還元が、Fe(Ⅱ)種に依存する各種還元反応の進行を極大的に促進するのである。実験の結果、外部からのハイドロキノン/キノンDOMの追加はターゲットDOMの分解速度を高めるが、その分解ルートは改変しないことが明らかになっている。

図4

図4.電位法観測:有機物が存在するという条件における
電位(Fe(Ⅲ)/Fe(Ⅱ)と正比例をなす)の光照射時間にともなう周期性の変化
シュウ酸;(b)安息香酸;(c)染料アシッドピンク(SRB)

 そのほかに、鉄酸化物や富鉄粘土鉱物を含む環境鉄種に関するやや幅広い研究がなされている。まず、環境において重要な活性酸素種H2O2は、針鉄鉱(α-FeOOH)と表面複合物を形成し、紫外線を照射されると光分解して水酸基フリーラジカルと活性の高い鉄種(FeIV=O)を生成し、DOMの異相システムにおける分解を加速させる。そして、環境に普遍的に存在する粘土鉱物は、表面を含む遊離酸化鉄のほかに、層間交換可能鉄や八面体結晶格子の構造鉄など異なる類型の鉄種に存在している。結晶格子鉄種本体は顕著な光化学活性を備えていないが、光活性の有機物励起後は電子を直接またはシリカ層を通して間接にFe(Ⅲ)に伝達し、それをFe(Ⅱ)に還元することができる。そして、それは過酸化水素水の活性分解反応に関わることになる。両者を比較してみると、層間交換可能鉄の光化学活性は結晶格子に束縛されている構造鉄よりも明らかに優れている。

 以上から、光を照射した際に起こるFe(II)/Fe(III)間の相互転化とその環境システムにおける過酸化水素活性化への関与、有機物の分解そして重金属の酸化/還元の循環に関する研究は、環境において鉄が関連する生物地球化学的反応と環境自浄化過程について深く理解するために、極めて重要な意義を有していると言えるであろう。

4.今後の展望

 太陽光は地球にとって巨大なエネルギー源であり、クリーンで廉価な太陽エネルギーの利用は、有毒で分解困難な有機物の分解を可能にしてくれる。これは、間違いなく最も応用の展望が開けている未来の環境浄化テクノロジーの一つであろう。この点から、半導体光触媒に関する研究とフォトフェントン反応に関する研究は、もっとも幅広く、また水処理過程において実際に応用することがもっとも期待されている汚染物質処理方法の研究である。現在TiO2光触媒が直面している主な課題は、汚染物質の濃度と種類が増加した場合に、分解速度が遅くなり、光効率が低下し、反応過程が予測できないということである。また、半導体光触媒生産の超酸素や水酸基フリーラジカルなどの活性酸素種や価電子帯の正孔が、有機物の分解過程において果たす作用とその詳細なメカニズムもまだ明らかになっていない。これらの半導体光触媒の基本原理を深く理解することは、新型光触媒剤を調整し光触媒効率を向上させるなど、さまざまな面で非常に有効であろう。このほかに、高効率の可視光線対応の新しい光触媒剤の開発、太陽光利用率の向上、光触媒の性質の構造活性相関と光触媒剤の安定性の解明は、依然として半導体光触媒の領域が直面している最先端の課題である。

 太陽光または人工光源で駆動させるフォトフェントンテクノロジーは、特に中等汚染濃度の廃水に幅広く応用されうるポテンシャルを有している。現在研究のホットイシューは、1)吸着性鉄基触媒剤、2)反応効率またはpH適用範囲を高めることのできる方法、3)反応動力学モデルと実験条件の最適化、4)過酸化水素水の用量を減らす方法である。将来的な発展の方向と傾向は、1)可視光線に反応し、分離しやすく、少量で反応が得られ、pH適用範囲が広い新型触媒剤を開発すること、2)フォトフェントンテクノロジーおよびその他の水処理エレメントメソッド(例えばオゾン酸化、電化学および微生物による方法などを集成した製造工程)を発展させ、処理の総合効率を向上させること、3)過酸化水素水を代替する新型酸化剤を探し出すことであろう。そして、温かい条件の下で活性化する廉価な分子酸素について探ることが環境触媒領域の挑戦的課題である。

主要参考文献:

  • [1] Fujishima, A.; Honda, K. Nature 1972, 238: 37-38.
  • [2] Zhao, J. C.*; Chen, C. C.; Ma, W. H. Topics in Catalysis 2005, 35, 269-278.
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