第55号:中国の初・中等教育の現状と動向
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北京市普通高校段階における生徒のイノベーション意識及び実践能力育成の実践的模索について

2011年 4月13日

張鉄道

張鉄道(Zhang Tiedao):
北京教育科学研究院副院長、教育学博士

ユネスコ生涯学習研究所監事、ユネスコ『国際教育評論』編集委員会メンバー兼任。主な研究分野は、農村基礎教育、成人学習理論、教員専門業務発展、カリキュラムと教学、義務教育、成人教育、国際教育など。主なテーマ:『甘粛省小学校教育の質の全面的向上における総合的革新についての研究』、『中国西部少数民族の女児教育の質と効果についての研究』、『北京市の流動人口における子女教育の問題についての研究』、『首都基礎教育のバランスのとれた発展戦略についての研究』、『中国の義務教育の発展についての研究』及び教員専門業務発展戦略についてのシリーズ研究。主な研究成果:『流動人口における子女教育の問題』未来出版社、『中国西部少数民族の女児教育の質と効果についての研究』甘粛文化出版社、『子供たちにとっての良い先生』ユニセフ、『中国義務教育発展シリーズ研究』民主法制出版社、『教育研究』所載「教員専門業務発展促進戦略についての研究」、『人民教育』所載「アメリカの教育指導者から見た中国の基礎教育」、『人民教育』所載「仲間研修:個人の体験を集団の資源にする」、『北京教育』所載「'群盲象を撫でる'と教師研修」、『教育研究』所載「教員専門業務の学習と発展を促す10の原則」(訳文)。

共著者:張 毅

 北京市教育委員会は2007年に普通高校カリキュラム改革をスタートさせて以来、高校段階における生徒のイノベーション意識、実践能力、社会的責任感の育成という目標要求の実現を目指して「飛翔プロジェクト」を企画実施するとともに、北京教育科学研究院に委託して「北京青少年科学技術イノベーション学院」を設立し、これにより基礎教育における首都の豊富な大学、科学研究院・研究所の科学技術実験室や専門家資源の利用、青少年に対するテーマ研究の展開指導を開始し、その中で、科学、科学的探究プロセス、問題解決、知識構築等方面についての総合的学習を達成してきた。

 本報告では、主に数年来の実践的模索に基づき、北京市「飛翔プロジェクト」における生徒のイノベーション意識と実践能力育成の具体的方法及び我々の初歩的認識を、五つの側面から紹介する。

一、「飛翔プロジェクト」の実践上の特徴―高校生を「科学者の身近で成長させる」

 2007年以来、「飛翔プロジェクト」は北京市教育委員会の直接的指導の下、国の高校カリキュラムが定める生徒の「イノベーション意識、実践能力、社会的責任感」を育てるという目標に的をしぼり、北京の豊富な科学技術、文化、教育資源を利用して、教科書教学に基づく現有の学校の教育育成方式を打ち破り、高校生を「科学者の身近で成長させる」という体験型学習メカニズムを確立し、生徒を大学、科学研究院・研究所の実験室に送り込み、科学者のそばで本物の科学研究の環境の中で科学的探究を経験させ、彼らの科学研究に対する興味をかきたて、彼らの科学的姿勢、イノベーション意識、実践能力、社会的責任感を育成してきた。

 「飛翔プロジェクト」の実施以来、全市より相次いでやってきた500名近くの優秀な学生が、数学・物理・化学・生物・情報技術・地理等の学科を研究的学習分野として、生徒の在籍学校に開設された基礎的カリキュラム、20の優秀な高校から成るユニークな学科基地が開設した過渡的カリキュラム、25の大学と科学研究院・研究所の100近くの実験室が開設した総合的カリキュラムに参加し、一人ひとりの生徒が科学者、基地学校指導教員、在籍学校指導教員の下で、一定の特殊テーマ性、探究性を持った学習を達成してきた。

 このような一つの人材育成モデルと教学方式の革新的模索は、基礎教育と高等教育を密接に結び付け、教育と科学技術資源を融合一体化し、専門家の指導と高校生の自主的探究を結び付け、専門家、教師、生徒、その他の一般有識者及び各種社会資源の深いレベルでの連動を形成し、高校生のイノベーション意識、実践能力、社会的責任感を育成するための、優れた制度基盤、カリキュラム基盤、人文的基盤を築き、今の時代のニーズに合致した人材育成モデルと教学モデルを模索しようと努めるものである。

二、「飛翔プロジェクト」の実施上の特色―生徒の体験をチャレンジングな科学的探究と知識構築に富んだものにする

写真1

「北京青少年飛翔科学フォーラム」において共同達成した
学習成果を発表する「飛翔プロジェクト」の生徒2名

 高校生を「科学者の身近で成長させる」という教育理念が表しているのは、一つの新しい、イノベーション意識と実践能力の育成を趣旨とするカリキュラム観、教学プロセス観である。この理念は我々に、既製の書物上の知識や教師の既存の知識を基盤とするのではなく、真の問題の態様を知識学習及び能力構築の媒体とし、講義という方法を通じて学習者の知識に変えていくことを促している。すなわち、生徒のために一つの本当の意味での研究的学習の全過程体験を提供するということであり、その目的は生徒の科学的興味と人生追求の意欲をかきたてること、研究テーマ実施プロセスの助けを借りて、問題解決能力、協力能力、探究能力、論文執筆及び学術交流能力などを含めた、彼らの科学的資質を育成することにある。真の探究という学習態様の中で、学習者は必ずより多くの主体的発見、主体的分析、問題解決、交流協力などの学習プロセスを担わねばならず、そうして初めて知識構築という目的を達することができるのである。「飛翔プロジェクト」における生徒の学習上の成果を確実に保証するために、我々は一人ひとりの生徒が大学及び科学研究院・研究所実験室指導教員、基地学校指導教員、生徒在籍校指導教員という三者の教員の共同指導の下で、特別テーマの研究を展開し、比較的規範に合った論文を完成させ、かつ比較的厳格な論文口頭試問を受けることを要求している。

 このほか、我々はさらに「北京青少年イノベーション能力発展リソースネット」を開設し、プロジェクトに参加する教師と生徒のために空間、時間を越えたネットワーク学習、インタラクション・交流プラットフォームを提供しており、さまざまな学習資源とプロジェクト情報は彼らのためにタイムリーなサービスを提供し、また他の人々のためにも「飛翔プロジェクト」教学資源を理解し、共有するチャネルを提供してきた。

写真2

実験研究をする盧嘉瑞

 能力訓練と成果評価の一つの措置として、我々は毎年、全生徒参加の「北京青少年飛翔科学フォーラム」を盛大に開催し、「飛翔プロジェクト」の生徒一人ひとりに論文口頭試問を行い、科学者の評価と指導を受けさせる機会を持たせている。同時に、これをベースとして改訂した研究報告及び「科学者の身近で成長する」ことについての生徒たちの学習体験をまとめ、出版している。これらの成果は彼らの学習業績に対する承認であり、また北京市のすべての高校生が研究的学習を展開する際の重要なカリキュラム資源を提供している。

 「飛翔プロジェクト」の実践が示しているように、本物の状況の中で発生した、開放性とチャレンジ性のある(単一の受容性や検証性ではない)学習プロセスは、学習者のイノベーション意識と実践能力をかきたてるのに有利である。例えば、中国人民大学付属高校出身の数学分野2009年度入学生盧嘉瑞が研究テーマ『与えられた湯の中に冷却水を加える時機についての研究』を決めた際、彼が注目したのは、「どうすればできるだけ速く冷却して、その効率を最大化できるか」ということであった。だが、このような大きなテーマは明らかに一高校生が達成できるものではない。そこで、彼は何重にも細分化し、最終的に「小さなところから着眼分析し、大きな応用を発掘する」というテーマに焦点を絞った。

写真3

「振動吸着壁這いロボット」を設計製作する孫漢鑫

 北京市第二中学出身の情報技術分野2008年度入学生孫漢鑫は、あるとき、母親が吸盤を壁に貼りつけるのを偶然目にした。しばらくして取り外し、壁に貼ってはまた取り外していたが、こうした生活の中から生まれた小さなことが、彼に、沢山の吸盤を使って順番に振動させることは可能だろうかということを思いつかせた。彼は考えた。「吸盤が壁に吸着しているということは一種の相対的に密閉された環境にあるということだ。空気の漏れる原因は壁面に長時間吸着していることができないせいだが、それならばたくさんの吸盤を使って順番に振動させ、常に三個の吸盤を吸着状態に保つことにより、持続的な吸着力が生まれれば、それによって壁面に長時間吸着させておくという目的が実現できるのではないだろうか」。彼はこの生活の中の小さな観察から出発し、自身の努力と教師の指導を経て、振動吸着壁這いロボットを設計し、さらに北京青少年科学技術イノベーションコンクールにおいて一等賞を受賞した。

写真4

沽源壩の草原でフィールドワークを行う劉逸儂

 北京市第八中学出身の生物分野2008年度入学生劉逸儂は教師について大草原へ行き、データを得るため、照りつける太陽の下、強風に吹かれながら、長さ2メートルの網を持ち、全身汗だくになりつつ、いちどにそれを200回以上も振るい、その手は一面豆だらけになっていた。草原の天候は予測不可能なほど目まぐるしく変化し、10分前には太陽が燦々と輝いていたのが、10分後には暴風雨になる。だが、風雨を経なければ、虹を見ることはできない。彼らは尻込みせず、あきらめず、反対によりいっそう闘志をもやし、本物の生のデータを手に入れ、人々を納得させる研究論文を書き上げた。「名刀の切っ先は研ぐことによって出来、梅の花の香りは厳寒の中から生まれる」。自分自身の体験を振り返り、劉逸儂は感慨深げにこう語る。

 北京市通州区潞河高校出身の物理分野2008年度入学生張文江は実験室の中で、多くの機械がどれも中国製でないこと、国産の実験機器に何らかの性能上の欠陥が存在しているばかりに、大多数の実験室が輸入機器に依存するしかなくなっているのだということに気づいた。これが「中国製造」を「中国創造」に変えようという彼の研究への夢をかきたて、そこで『Csl(Ti)検出器の製作とテスト』という選択テーマが決まったのだった。

写真5

「飛翔プロジェクト」2008年度入学生修了式で修了生代表としてあいさつし、修了証書を受け取る張文江

三、「飛翔プロジェクト」の実践的意義―イノベーション人材育成方式に対する我々の認識の幅を広げた

 「飛翔プロジェクト」のこれまでの実践は我々に、普通高校の新カリキュラム改革という背景の下で、青少年のイノベーション意識と実践能力の育成に役立つカリキュラムと教学を創設することについて、いくつかの初歩的認識をもたらしてきた。

 第一に、国内外の既存の経験を参考にすること。「飛翔プロジェクト」の全体プラン及び具体的な実施プロセスの中で、我々は国内外の既存の成功体験を広く学習し、参考にしてきたが、それには、アメリカ、インド、オーストラリア、ニュージーランド等諸国の天才教育の経験及び、中国科学技術大学、北京第八高校、人民大学付属高校、北京第四高校、北京師範大学付属実験高校などの各校が展開している英才児童教育、科学技術優秀生科学技術教育プロジェクトの有益な経験が含まれている。このほか、我々は事業推進プロセスにおいて、絶えず新しい任務、新しい状況、新しい問題と結び付けて専門家コンサルティング、チーム研究、交流ディスカッションを展開することにより、我々の模索にいっそうの時代性、専門性、実効性を持たせている。

 第二に、探究的体験型学習を提唱すること。イノベーション人材の育成はもはや、優れた教師が権威ある教科書をもとに生徒を組織して展開するある一つの学科の知識構造についての全体的認知と学習ではなく、ある一つの学科分野内において、科学の発展と現実生活の特定の問題をめぐって展開する特別テーマ研究、実証調査、実験研究にこだわることにより、学習者に真の問題解決のプロセスの中からより深い学習を達成させている。このような学習方式が示しているのは、一種の広義のカリキュラム資源観、知識構築観、そして探究能力の発展を目的とした学習発展観である。「飛翔プロジェクト」のカリキュラムは特に学習者の直接的、プロセス的な問題解決体験プロセスに重きを置いており、それには彼らが文献閲読の助けによって得る間接的体験、特定の問題状況に対する現場経験、問題探究と資料収集のプロセス体験、他人の知識経験を共有する体験、教師の指導下で論文を完成させる構築的学習体験、ネットワーク交流による磨き合いの学習体験などが含まれている。つまり、我々が追求しているのはマルチな体験が学生に豊かな、個性に富んだ深い学習歴をもたらすとともに、それによって学習者のイノベーション能力の発達を効果的に刺激することである。我々は、「飛翔プロジェクト」の最も重要な価値は、ある特定の問題解決の学習プロセスの力を借りて、学習者の研究能力と問題解決能力を育てることにあると考えている。したがって、我々は「飛翔プロジェクト」のカリキュラム配置と教学プロセス設計及び実施プロセスの中で、生徒に十分な体験時間を与えることを特に強調している。なぜなら、学習者の問題研究に対する体験の豊かさと深さは、彼らの学習の成果を決定づけるものだからである。

 第三に、生徒に様々な教学方式を感受させること。我々は特に、より実質的に有効な方法を見つけることに重きを置いている。我々はそれまでの、教師が教材に基づいて教学プロセスを組み立て、生徒が知識を理解し、知識を記憶し、学んだ知識を使って問題を解決するという教学モデルを、チャレンジ性に富んだ問題環境の中で関連の資料データを収集し、テーマの糸口を構築し、相応の結論をまとめ、ひいては問題探究に対する理性的認識を生み出すという学習プロセスの創設へと転化すべく努めてきた。既存の実践が示しているように、価値のある学習は学習者が特定の知識をマスターするのを助けると同時に、どのように効果的に学ぶかということについての感得を彼らにもたらすことができ、そして後者はしばしば広範囲に遷移する作用をそれ以上に具えている。したがって、生徒が方法についての知識を身に付け、科学的方法を応用して問題を解決することには、知識そのものを学ぶことよりもさらに価値がある。なぜならば、方法は、学習者が事実的知識の処理能力を把握し、それによって一人の主体的な、成果に富む学習者となる上で助けとなるからである。

 我々にとっていっそう大きな励みとなるのは、「飛翔プロジェクト」を実施して三年近く、上記の教育理念と教学原則のイノベーション実践の中で、多くの優秀な生徒が「科学者の身近で成長する」という学習体験によって成長し、多数の基地学校の学科の優位性と育成能力が強化され、我々の実践がますます多くの教師や専門家によって認められ、高校生のイノベーション意識と実践能力を引出し、奨励するカリキュラムと教育制度が徐々に蓄積されるようになる上で役立っているということである。

四、「飛翔プロジェクト」の教育的価値―教育理念の転換と更新を促進

 北京市教育委員会のこれまでの指導者はすべて、北京は国の首都として「大らかな教育」を追求しなければならないと主張してきた。この大らかな教育は、「飛翔プロジェクト」について言えば、主として以下のいくつかの方面に表れている。

 第一に、現行の学校教育は「学力的に余裕のある」優秀な生徒の英才教育のニーズに積極的に応えなければならないこと。学力的に余裕のある生徒にとって、学校で学ぶ内容は彼らの知識や技能に対する渇望をもはや満足させることができない。そこで、各当事者の共同努力の下、「飛翔プロジェクト」は数学、物理、化学、生物、情報技術、地理の6つの学科分野の高校段階のイノベーション人材育成の個性的カリキュラムを開発したが、その主なものとして過渡的カリキュラム、基礎資質カリキュラム、考察実践カリキュラム、専門拡張カリキュラム、大学及び科学研究院・研究所実験室の「薫陶体験型カリキュラム」がある。基地学校は生徒を連れて大学、科学研究院・研究所の実験室に入り、「研究テーマ決定、研究計画立案、選修カリキュラム学習、テーマ研究展開、科学研究論文作成」などのプロセスを経て、生徒の個性的な発達ニーズを満足させ、高校生を「科学者の身近で成長させる」ことを実現している。

 第二に、首都の豊富な科学技術資源と教育資源を十分に利用し、より広域なカリキュラム空間を創設していること。首都には豊富な科学技術、教育、経済、農業、文化等の社会資源があり、これはイノベーション人材育成事業のために、特に恵まれた資源基盤を提供している。高校段階のイノベーション人材育成の重要な任務の一つは、イノベーション人材育成のために資源を提供し、土壌をはぐくみ、雰囲気を作り出し、基礎を築くことである。「飛翔プロジェクト」は首都の豊富な資源的優位性を十分に発揮させ、専門家、教師などの知的資源、科学技術・文化・経済・農業などの社会的資源を整理統合し、開発し、利用し、体制の砦を打破し、教育の内外を貫く育成チャネルを確立し、イノベーション人材の長期的育成と発展のために保障を提供している。

 第三に、生徒在籍校指導教員、学科基地学校指導教員、大学及び科学研究院・研究所実験室の科学研究専門家から成る「三教員」指導メカニズムを創造的に提供していること。生徒在籍校指導教員は生徒の生活の実情により近い距離で接触し、人に応じて適した教育を施し、生徒を助けて個性的育成案を立案することができる。基地学校指導教員はある一つの学科分野において、生徒のために豊富多彩な選修カリキュラムを開設し、生徒の学科知識を効果的に深めることができる。大学、科学研究院・研究所実験室の指導教員は、科学の最先端に近い専門的視点に立って、生徒の科学的資質を養成し薫陶することができる。「三教員」の優位性は相互に補完し合い、相互に支え合い、共同でイノベーション人材の育成を推進している。

 第四に、生徒の育成によって高校教員の専門業務の成長を促していること。「飛翔プロジェクト」は生徒の育成を重点とした教員専門業務研修方式、任務による強制を手段とした教員専門業務訓練方式を確立した。大学、科学研究院・研究所の協力チャネルが確立され、学科の特色に富んだ科学教育の優位性が形成されるようになり、しかも自校の科学的特色のある教育をすでに促し始めている。教員は生徒育成の任務を内的強制力として、生徒の展開するテーマを探求し学習プロセスの構築について再考する過程で、彼らに正規の学校教育の中では追求することの難しい成功体験をもたらしている。

 第五に、多層的協力が「飛翔プロジェクト」カリキュラムの実効性を高めてきたこと。基地学校は学校間協力を主体的に展開している。例えば、北京第八十高校、清華大学付属高校、人民大学付属高校は情報技術に的をしぼった学習分野と共同教学を組織し、北京第二高校、北京第四高校は北京第五高校と提携し、共同で化学分野の特色ある選修カリキュラムを開設している。2009年にスタートした数学分野は、教育部高校数学カリキュラム基準チーム及び首都師範大学専門家グループの優位性に依拠して、数学学習カリキュラムを研究・開発するともに、5つの基地学校を設立し、数学の生徒全員を共通の対象として、教学活動及び冬・夏のキャンプを交替で組織している。上記の多方面にわたる協力メカニズムは、「飛翔プロジェクト」カリキュラムの具えている比較的高い教学資源含有量と専門的水準を保障している。

 第六に、基地学校の学科優位性の向上を促していること。「飛翔プロジェクト」の20の基地学校は、イノベーション人材の基礎能力育成を展開する面(理念から実践、大量の個別事案蓄積、学校の教育教学制度変革等までの面を含む)において、すでに大きな一歩を踏み出している。人心の励みとなるこれらの変化は我々に、しばらくすれば、我々の模索が革新的意義に富んだ一つのイノベーション人材育成の教育改革の実践となり、かつそれによって相応の作業メカニズムが蓄積され、徐々に整備され、さらには長期にわたる実践を通じて改善され、最終的に首都の基礎教育段階におけるイノベーション人材育成のための現代教育の一つの制度的特色となる可能性が大きいことを、根拠をもって期待させてくれる。

 この二年余りの間に、我々が基礎教育段階のイノベーション人材育成という大筋をめぐって展開してきた集約的業務作業を振り返ると、多方面にわたる協力という雰囲気の中で、人々が共に、科学――教学の協力、大学――高校の連合、イノベーション人材の共同育成という教育メカニズムを作り上げてきたということがわかり、喜ばしく思われる。生徒たちを「科学者の身近で成長させる」という創意を現実のものとしていく多くの革新的模索の中で、我々は一つひとつの教学活動を入念に設計し、「飛翔プロジェクト」の毎回の活動が参加者に豊かで深い学習体験をもたらすことができるように極力努めてきた。

五、「飛翔プロジェクト」の発展方向―実践からメカニズムへ、さらに制度へという転換を実現する

 「飛翔プロジェクト」が数年間に及ぶ努力を経て、一定の成果を収めるのと同時に、我々はこれまでの実践について総括・検討の助けを借りて、実践からメカニズムへ、さらに制度へという転換を実現する必要があるということをも意識するようになった。展開すべき事業は、まず指導教員の生徒に対する方法についての指導を真剣に研究分析すること。第二に、指導教員を組織し、二つの期の生徒の論文を事例とし、「飛翔プロジェクト」の生徒のテーマ選択、研究計画作成プロセス、資料収集、データ資料分析、論文執筆、口頭試問などの教学段階をどのように指導するかをめぐって研究を行い、実践の中から効果的な生徒指導の原則と方法を蓄積すること。第三に、現有の飛翔ネットワーク資源プラットフォームの建設を完全なものにし、これをプロジェクト情報発表、学習経験交流、学科・学校にまたがる、特に学習仲間同士の交流の効果的な媒体とする、ことである。第四に、各基地学校は生徒の学習及びその成果・収穫を研究対象として、個別事案研究を展開し、「飛翔プロジェクト」の生徒の学習と成長の過程の中での本当の話を書き記し、その中から個性と普遍性のある教学原則をまとめればよい。第五に、成功経験と現存する問題の総括を前提として、基礎教育段階における青少年のイノベーション意識と実践能力の発見、養成のための有効な方策、事業メカニズム、制度建設について研究し、それによって基礎教育のイノベーション人材育成への参入を促す制度を探し出すことである。

 以上は、我々の初歩的な模索に過ぎない。「飛翔プロジェクト」という革新的意義に富んだ教育の模索の持続的推進にともない、我々は青少年のイノベーション意識と実践能力にとって有益なカリキュラムと教学理念及びその実践戦略の認識と構築についても、徐々により多くの経験を蓄積していくであろう。