第56号:中国の小中等教育事例
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先駆けて、バランス良く、科学的に発展--上海のPISA2009調査での結果を見て

2011年 5月23日

張珏

張珏(ZHANGJue):上海市教育科学研究院 副院長

1960年12月生まれ、(2002年6月、華中科学技術大学教育学学院教育管理学)博士、研究員、上海市教育科学研究院副院長。主に社会においては復旦大学教授、上海市教育決定諮問委員、第5回上海市視学官等を兼職。主な研究方面は、教育発展政策、教育発展計画、人材資源開発、高等教育理論、日本教育研究等。

 経済協力開発機構(OECD)が実施した生徒の国際学習到達度調査(The Programme International Student Assessment、略称PISA)は、世界の教育における学習到達度の新たな傾向を反映している。PISAは主にOECD加盟国の15歳の生徒を対象に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー等について調査が行われ、応用能力の調査に重きを置き、比較性、信頼性、有効性が高い。2000年、PISA第1回調査が行われ、28カ国の約265000人の生徒が参加し、以後3年ごとに行われている。PISA2009には65の国と地域が参加し、これらの国と経済体は世界のGDP全体の90%を占め、現在の先進国のほとんどが含まれる。PISA2009の実施には4年が費やされており、2007年に調査ツールが開発され、2008年に試行調査が行われ、2009年に正式調査が行われ、2010年に世界に発表された。2009年には上海市152校の生徒5115人が調査に参加しており、これは上海のみならず中国大陸部でも初めての参加であった。

一、上海PISA2009調査結果

 2010年末、OECDはドーハにおいて、上海が義務教育を受ける生徒の学習能力を調査するためのPISAに参加し、「世界65の国と地域の中で上海が読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーでいずれも第1位であった」と発表した。この情報は直ちに世界中で注目を集め、多くの世界的有名メディアがこの情報を紙面の重要な位置[1]で報道した。

 上海PISA事務局、SHPISA研究センターによると、上海のPISA 2009での結果について、主に2つの点が注目される。

1、上海の生徒はPISA 2009の読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの平均点が参加した65の国と地域の中でいずれも第1位

(1)読解力

 OECDの平均点は493点であるが、上海は556点であり、65の国と地域の中で第1位。以下は韓国(539点)、フィンランド(536点)、中国香港(533点)であり、韓国、フィンランド、中国香港の成績は統計上明らかな差はない。

 生徒の読解力は7つのレベルに分けられる。最高レベル(レベル6と5)の比率は国または地域の将来的な高い競争力を示し、最低レベル(レベル2以下)の比率は、生徒は将来の仕事や生活で比較的大きな困難に遭遇することを示すため、さらに補足教育が必要である。最高レベルのうちレベル6では、上海は2.4%を占めてシンガポール(2.6%)に続き、レベル5では17.0%を占めて明らかに優勢であり、レベル5と6の合計では19.4%を占め、参加した65の国と地域の中で最高である。上海はレベル2以下の生徒が4.1%のみで、参加した国と地域の中で最低である。

 読解力の分析で分かったことは、(1)生徒はアクセスと検索、まとめと解釈、反省と評価という3つの認識分野での成績が良く、上海のカリキュラム内容のバランスが良いことを示している(2)文章の読解力について生徒は小説、散文等の連続した文章を得意としていたが、図、表、リスト等の非連続文書での成績が比較的低かった。

 読解力での男女の成績差は世界的に普遍的な問題であり、上海の男子生徒の読解力の平均点は女子生徒よりも40点低く、OECDでも男子生徒の平均点は女子生徒よりも39点低かった。39点の差は1学年の差に相当する。

(2)数学的リテラシー

 上海の生徒の数学的リテラシーの平均点は600点で、65の国と地域の中で第1位であり、第2位のシンガポールは562点である。

 上海の生徒で数学的リテラシーがレベル6に達した生徒は26.6%を占め、4分の1を超える生徒が総括、推理、モデル構築等の高度な数学的思考法を把握していることを示している。レベル5と6の合計は50.4%に達し、第2位のシンガポールよりも14.8ポイント高く、OECDの平均レベルよりも37.7ポイント高い。レベル1以下の生徒は4.9%のみで、調査に参加した国と地域の中で最も低い。

 上海の男子生徒と女子生徒では数学での成績に明らかな差はない。

(3)科学的リテラシー

 上海の生徒の科学的リテラシーの平均点は575点で、参加した65の国と地域の中で第1位であり、第2位のフィンランドは554点である。

 科学的リテラシーがレベル6に達した生徒は3.9%でシンガポール(4.6%)に次ぎ、レベル5は20.4%を占め、参加した65の国と地域の中で最高である。レベル5と6の合計も最高の24.3%に達し、シンガポールよりも4.4ポイント高く、OECDの平均レベルよりも15.8ポイント高い。レベル1以下は3.2%のみで、最も低い。

 上海の男子生徒と女子生徒では科学での成績に明らかな差はない。

2、上海の生徒の読解力の成績分布では差が小さく、家庭状況の違いに関わらず公平に教育を受けている

 上海の生徒の読解力の成績分布では差が小さく、平均点が高い主な原因は低い方の点数も高いからである。上海の高得点の生徒(95パーセンタイル)の平均点は第2位のニュージーランドと第3位のシンガポールと比べて1点と3点の差であるが、低得点(5パーセンタイル)の平均点はニュージーランドよりも73点高く、シンガポールよりも60点高いため、全体の平均点はニュージーランドとシンガポールよりもそれぞれ35点と30点高い。

 上海の中学生での読解力の成績差は主に生徒個人の能力と家庭状況の差によるもの(72%)であり、学校が原因の差は28%のみである。これは上海の中学校のバランス度がOECD参加国と地域の全体状況よりも明らかに良いことを示している。

 親の教育水準、職業、財産、家庭教育の資源、家庭文化の資源等の総合を家庭経済社会文化地位(ESCS)指数とするが、これを生徒の読解力の成績と結びつけて分析した結果、上海は「成績はOECDの平均値よりも高いが、家庭経済社会状況が成績に与える影響はOECDの平均値よりも低い」グループに属していた。これは上海の学校の教育の質が高い上にバランスが良く、全体的な教育の公平性はPISA参加の大部分の国と地域よりも優れていることを示している。

表1:上海の生徒の読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーでの成績
読解力 数学的リテラシー 科学的リテラシー
国または地域 平均値 標準誤差 国または地域 平均値 標準誤差 国または地域 平均値 標準誤差
中国上海 556 (2.4) 中国上海 600 (2.8) 中国上海 575 (2.3)
韓国 539 (3.5) シンガポール 562 (1.4) フィンランド 554 (2.3)
フィンランド 536 (2.3) 中国香港 555 (2.7) 中国香港 549 (2.8)
中国香港 533 (2.1) 韓国 546 (4.0) シンガポール 542 (1.4)
シンガポール 526 (1.1) 中華台北 543 (3.4) 日本 539 (3.4)
カナダ 524 (1.5) フィンランド 541 (2.2) 韓国 538 (3.4)
ニュージーランド 521 (2.4) リヒテンシュタイン 536 (4.1) ニュージーランド 532 (2.6)
日本 520 (3.5) スイス 534 (3.3) カナダ 529 (1.6)
オーストラリア 515 (2.3) 日本 529 (3.3) エストニア 528 (2.7)
オランダ 508 (5.1) カナダ 527 (1.6) オーストラリア 527 (2.5)
資料出所:http://www.cnsaes.org/homepage/Upfile/20101210/2010121059556413.pdf.2010-12-18.

二、上海がPISA2009で得た結果を支えたもの

 上海がPISA2009で得た結果について、国内外の専門家、学者、メディア及び国内の教育行政当局はそれぞれ異なる角度から分析しており、その中には肯定的なものもあれば懐疑的なものもあり、また過度の誇張や驚きもある。[2]例えば西側メディアは中国の生徒が得た好成績は63年前のソ連が最初の人工衛星を打ち上げたのと同じくらい大きな出来事だとしている[3]当院一般教育研究所副所長、PISA中国上海プロジェクトグループ事務局長である陸璟氏は、「上海のPISA2009での結果は国内外に大きな反響をもたらした。国外メディアで共通する反応は驚きであり、その驚きは次の4つの観点に分けられる。1つは称賛、2つ目は反省、3つ目は懐疑、4つ目は好成績の代価である」。[3]上海は中国大陸部にある31の省、自治区、直轄市の一つであるのみで、その教育水準は中国大陸部の教育の発展状況を反映しているものの、中国全体の教育の発展水準を代表してはいない。もっと重要なのは、上海がPISA2009でこのような結果を得たのはその必然性であり、上海教育100年の積み重ねを示し、特に改革開放から30年余り教育を重視し、改革を継続した成果なのである。言い換えれば、上海の基礎教育が真っ先に発展し、バランス良く発展し、科学的に発展していることが、上海がPISA2009で得た結果の主な原因と支えなのである。

1、先駆けて発展

(1)上海教育事業の発展は全国トップクラス

 上海は従来から教育を重視し、教育を尊び、そのうえ将来を見越した計画を行い、戦略的かつ合理的な都市設計の視点から教育の現代化発展を進めてきた。長年の模索と実践の中で、上海は各レベルの教育の普及に注力し、その普及率を高め、各レベル、各種の教育でそれぞれの特色と内容を形成するよう努力している。現在、上海は全国に先駆けて15年の基礎教育の普及を実現し、高等教育を大衆化から普及化に転換しており、教育全体の普及率は先進国の平均水準に達し、国内でトップに位置する。

 上海の就学前教育の普及率は全国トップであり、すでに先進国の平均水準を超え、基礎教育と共同歩調をとり、バランスの取れた発展の基礎を築いている。2009年末、上海には幼稚園が1111あり、2005年よりも66増え、また園児数は35.38万人で、2005年よりも6.68万人増加した。2006年以降、上海の就学前3年の入園率は95%以上を維持し、0~3歳の児童の親または保護者が早期教育の指導を受けた割合は90%に達した。

表2: 2007年世界の都市と国の基礎教育での入学状況単位:%
国別 幼稚園入園率 小学校純入学率 中学校入学率 高校入学率
国際大都市
ニューヨーク市1 88.3 92.2 87.1
東京都2 98.6 100 99
ロンドン 66y 100 y 78 y
パリ中心地区 100 100 69.73
香港 89.1 z 99 z 82.8 z
上海4 98 99.9 99.9 97.0
先進国5
オーストラリア 104z 97 114 217
カナダ 70z - 97z 104z
フランス 113 99 111 117
ドイツ 107 98 100 100
日本 86 100 101 101
韓国 106 98z 101 95
英国 73 97 98 97
米国 62 92 100 89
世界平均 41 87 78 54
経済移行国平均 63 91 91 89
先進国平均 80 96 102 99
注:「y」は2004年データ、「z」は2006年データ、上海は2009年データ。資料出所: 1.http://www.nyc.gov/html/omb/downloads/pdf/sumss1_09.pdf
2.http://www.toukei.metro.tokyo.jp/tnenkan/2006/tn06qa180100.xls
3.全国データ。Ministère de l'Education Nationale. Les grands chiffres - Le second degré. http://www.education.gouv.fr/cid5724/le-second-degre.html
4.『上海統計年鑑、2006、2010』上海統計出版社。
5.UNESCO: Education for all global monitoring report 2010, Table9A,p372-379.

 上海の義務教育は全国で先駆けて「9年教育の普及」を実現し、戦略的レベルアップを行い、教育発展の重心は普及率から質重視に向かい、上海が得たPISA2009の結果に重要な基礎を提供した。早くは20世紀80年代中期に、上海は地方立法と重要な措置の実施を通じて都市の義務教育発展の意志を示し、目標達成の速度を明らかに加速し、都市の義務教育において全国に先駆けて全面的普及を実現し、重要な制度的保障を提供した。1993年、国家教育委は、上海が全国よりも7年早く9年義務教育を実現したことを確認した。これを基礎として、1994年には上海市教育業務会議が全国に先駆けて「高い基準と質の義務教育の普及(略称:2高の普9)」という新戦略、新思考を提起した。上海は全国でも義務教育普及率が最も高い地区の一つであるばかりか、その義務教育普及率は先進国の平均水準にまで達している。

 高校段階での教育は高普及率を基礎とし、上海では各種のルートを通じて優秀な高校資源の拡大に努力し、上海がPISA2009の結果を得るのに直接的推進作用を果たしている。高校教育は義務教育と高等教育の接点にあって、都市における教育現代化の実現に非常に重要な作用を持っている。早くは2000年に上海の高校教育の入学率は97%に達し、全国に先駆けて高校教育が大きく普及した。上海は移民都市として市外出身の長期居住人口が800余万人に達する。市外出身の長期居住人口の増加は上海市の高校教育の普及に新たなプレッシャーをもたらしているものの、将来を見越した措置とその実施により、上海の高校教育での入学率はこれまで95%以上という高水準を保ち、さらには一部の国際的大都市の高校入学率をも上回っている[4]

(2)経費的保障水準は全国トップレベル

 上海の都市経済は迅速な発展を保ち、特に浦東地区の開発・開放を契機として上海は発展チャンスをしっかりとつかみ、迅速な発展を維持し、全体的実力は中程度の先進国に匹敵し、教育への経費投入に重要な保障と基礎を提供している。2009年、上海市の域内総生産(GDP)は14900.9億元に達し、可比価格(価格の変動要因を除いた価格のことで、計算にはふたつの方式があり、ある製品の過去のある年の単価を現在の総量にかけるやり方と、価格指数を決めて調整する方法が採られる)で計算すると前年比で8.2%増加し、2000年より2倍も増加している。一人当たりのGDPは78989万元で1万米ドルを超え、中程度の先進経済体に匹敵し、2000年より1.6倍も増加し、年平均で11%の伸びである。これは教育優先の発展戦略と経費投入保障の実施に確かな基礎を提供している。経済の迅速な発展に伴い、上海の教育への投資も徐々に強化されている。特に21世紀に入ると、社会全体での教育への経費投入が大幅に増加し、地方教育経費投入は9年累計で3200億元を超えた。2009年、上海の地方教育経費総額は493.7億元に達し、2000年の3.1倍であり、年平均伸び率は13.2%に達した。財政性教育経費は増加し続け、2000年以降、上海の地方財政性経費投入は2000年の121.8億元から2009年の382.5億元へと2.1倍を増加し、年平均伸び率は13.6%に達した。

 各レベルの児童・生徒の平均経費は年々増加し、2000年以降、上海では基礎教育の児童・生徒の予算内事業費は10年連続で大陸部31の省(直轄市、自治区)の中で第1位である。2009年、上海の一般の小学校、中学校、高校の児童・生徒一人当たりの予算内事業費はそれぞれ2000年の5.4倍、6.5倍、4.1倍で、年平均伸び率はそれぞれ20.5%、23.2%、17.1%であり、いずれも全国平均の3倍以上である。児童・生徒一人当たりの予算内公用経費も高い伸びを保っている。2009年、上海の一般の小学校、中学校、高校の児童・生徒一人当たりの予算内公用経費は2000年と比べてそれぞれ6.7倍、5.0倍、2.7倍を増加し、年平均伸び率はそれぞれ25.5%、21.9%、15.5%に達し、全国平均に比べてそれぞれ4.6倍、3.9倍、4.9倍であり、他地域の児童・生徒一人当たりの予算内公用経費を大きく上回っている。十分な教育経費は基礎教育の質を高め、バランスの良い発展を実現するのに重要な支えと保障を提供している。

表3:2002~2007年の上海基礎教育における一人当たりの予算内公用経費と他の省・市との比較単位:元
地区 2002年 2005年 2007年
小学校
全  国 60 167 425
北京市 674 1227 2926
上海市 927 1866 2845
天津市 156 412 592
重慶市 40 223 496
浙江省 128 295 603
江蘇省 43 95 507
广東省 137 234 449
中学校
全  国 104 233 614
北京市 1084 1804 4927
上海市 1134 2114 3426
天津市 419 469 788
重慶市 71 336 697
浙江省 230 460 920
广東省 209 374 733
江蘇省 87 114 643
高校
全  国 232 364 510
北京市 1882 2406 3680
上海市 1491 2286 2960
天津市 1003 1383 1396
广東省 515 769 879
浙江省 489 642 995
重慶市 128 406 581
江蘇省 179 208 337
資料出所:『2002~2007年中国教育経費発展報告』人民教育出版社.2009.8

2、バランス良い発展

 上海のPISA2009の結果では得点が第1位であるだけでなく、その背後にある原因として上海の教育発展のバランスとつり合い、及び学校間のバランスの良さが挙げられる。上海の生徒の読解力の得点分布では差が小さく、平均点が高いことの主な原因は、まず高得点グループと低得点グループの差が小さいことである。その次に上海の教育では公平さを重視していることが挙げられる。上海では家庭状況に関わらず生徒が同様に高い質の教育が受けられ、生徒の成績と家庭状況との関係が大きくなく、「成績が経済協力開発機構(OECD)平均値より高く、家庭経済社会背景が成績に与える影響がOECD平均値よりも低い」グループに属している。これは上海の学校教育はその質が高く、バランスが良よく、全体的な教育の公平性がPISAに参加した大部分の国と地域よりも優れていることを示している。

(1)区域間の教育格差の縮小

 上海には18の区と県があり、中心市街地区、近郊地区、遠郊地区に分けられ、歴史や行政、区域経済社会発展等の要素の影響を受け、各区域の基礎教育の発展水準は客観的に見て一定の格差が見受けられる。区域間の教育格差を逐次縮小し、多くの国民の、質の良い教育を受けるという新しいニーズと公平に公共サービスを受けるという訴えに応えるため、上海市では区域の基礎教育のバランスと共同歩調の取れた発展に力を入れており、新時代における上海教育発展の一大特徴及び注目ポイントとなっている。

 郊外の教育資源の障壁と制約を突破するため、上海市では「委託管理」メカニズムをスタートし、良質資源の区域を越えた流動を推進している。2005年より、浦東新区では正式な試験的委託管理が行われ、2007年には、全市20箇所の近郊地区の農村で義務教育が薄弱な学校が、市区のブランド小中学校或いは教育機関に管理を委託した。農村学校の公営的性質や、財産権の隷属関係、政府の配当金、料金の標準はそのままだが、管理責任のみが市街地区の学校や教育機関が派遣した優良教員団体に移り、併せて運営自主権も与えられた。市街地区の優良教員団体は、近郊地区の学校に移った後、全体から学校管理、教育学研究、教室規範等に全面的に深く関与し、受託学校の教育観念と教育方法の改善を行い、教育品質を高め、上海の基礎教育均衡発展の形成を大きく推進した。

(2)都市と農村間の教育格差の縮小

 上海の遠郊地区には依然として大きな郷や鎮があり、その基礎教育全体の水準は都市との間の格差がまだ大きい。都市と農村の教育格差を縮小するため、上海市では市レベルで統一力を強化し、科学的な移転支払(中国の場合、各レベルの政府の間の財政バランスを保つため、一定の形とルートで財政資金を移転する活動を指す)を実施し、都市と農村の基礎教育の格差をはっきりと縮小した。2006年--2010年の間で、上海市では市財政局が財政困難な区と県への移転支払を強化し、重点的にその義務教育の発展を援助し、5年間合計で専用資金20億元を引き出した。上海市は更に児童・生徒一人当たりの公費の支給水準に対する動向調整メカニズムを構築し、義務教育段階の児童・生徒一人当たりの公費の支給水準を絶えず引き上げている。2008年より、小中学の児童・生徒一人当たりの支給水準は1400元と1600元に引き上げられ、その額は全国でも高水準である。

 2010年初めより、上海市は義務教育学校においてインセンティブ給与制度を模索しており、全市で教師の給与水準を統一し、都市と農村間及び異なる区と県の間でも教師の収入を基本的に均衡にした。目下、多くの近郊地区が既に関連政策の制定に着手しており、インセンティブ給与のレバレッジ効果が広まり、多くの優秀な人材を引き付けている。例えば奉賢区では、副校長や指導主任等の中間幹部の上限数を設定し、給与を更に多くの中堅教師達に振り分けるようにした。インセンティブ給与制度のガイドの下、全市の義務教育段階で更に多くの優秀な教師が自発的に郊外地区の教育関連部署を選ぶようになれば、上海の郊外地区及び農村の教育品質の向上に有利になり、都市と農村における基礎教育発展の格差を縮小するであろう。

(3)学校間の教育格差の縮小

 学校間の過大な格差のために益々ひどくなる「学校選択熱」を効果的に治めるため、上海市では近年、公立学校が所定地域内での学生入学募集、民間学校の試験による学生選抜禁止を堅持しており、更に移転支払や経費投入の増加により、義務教育の保障水準を引き上げ、義務教育学校間の運営条件のバランスを図り、適齢青少年に、基本的に均等な教育を受ける条件と機会を提供すべく努力している。同時に義務教育段階の民間学校の学生に対し、経費の補助、教科書代やノート代を免除することで、学校間の格差を縮小し、学校間の教育の公平に努めている。

 上海市教育委員会は更に、高校生募集政策のレバレッジ効果とガイド効果を利用することで、多くの「学校選び」をコントロールすることに特に力を入れ、学校間の教育のバランスを図っている。2007年より、上海市では実験性モデル高校において、「定員振り分け」政策の実施を開始した。即ち、区と県の教育局が区域内の実験性モデル高校及び現代化寄宿制高校の部分募集定員を、その区と県における各中学校の当年の在籍卒業生人数の比例に基づき、平均的にこれらの中学校に振り分けるというものである。2010年、定員の振り分け比率は15%に引き上げられた。この他、30%の「推薦生」定員も平均的に各中学校に振り分けられた。一般レベルの中学の生徒が優秀な高校に入る機会が更に均等になり、このことが進学予定者の合理的な進学を増やし、中学生の「学校選択熱」は効果的に制止された。

 この他にも、上海市では政府が教育サービスを購入するなどして、学校間の教育バランスの道を模索している。例えば、良質資源を十分に活性化させるため、政府が委託管理を購入することで、科学的管理と良質な教育を、部分的に薄弱な学校に直接投入し、外部から内部まで学校の運営水準を向上させている。公共教育サービスの範囲・内容、サービス形式を拡大するため、上海市はまた、社会サービス組織や仲介機構のサービスを購入することで、義務教育段階の民間学校にサービスを提供し、教師が教育研究に参加したり、共同で教師育成を行うよう活動し、また学校の科学研究サービスを購入することで民間教育の発展推進も試みている。

(4)人民間の教育格差の縮小

 上海全体の基礎教育、特に義務教育の段階の異なる人民間の教育格差縮小と、社会の公平正義と広大な人民大衆の最も根本的な利益保護を体現するため、上海市は政府の教育公共サービス水準を絶えず向上させ、積極的に家庭経済が困難な学生の援助政策体系を構築すると同時に、積極的に経済的援助の範囲拡大と方法を模索し、学生が家庭経済が困難であるがゆえに、進学の断念や中途退学をすることのないよう、都市部教育公共サービスの水準向上により、各特殊グループの教育や訓練を受ける基本的な要求を満たすよう努力している。

 上海市は弱者グループの教育基本需要に大きく関心を持ち、その需要を満たすべく努力している。農民工同居子女等の平等な義務教育を大きく推進するため、上海市は『上海市農民工同居子女義務教育活動の更なる推進に関する諸意見』を発布した。一方で、公立学校の農民工子女の受け入れ人数を拡大した。農民工同居子女の公立学校入学条件を低くし、条件に合う農民工子女に対し、公立学校入学費借り入れを免除した。2010年の秋までに、全市で義務教育を無料で受けている農民工同居子女の数は42万人を超え、2007年に比べてその数は倍になり、義務教育を無料で受ける人の比率は2007年末の57.1%から100%に上昇した。他方では、農民工子女に対する学校経費の援助も強化された。2005年より、市の財政部は毎年専門経費として3000万元を捻出し、農民工子女学校の運営条件を改善した。2009年には、86箇所の農民工子女小学校に対し4300万元を支給し、運営施設の改善や民間管理の納入を行うと同時に、市の財政部署が運営コストの手当ての児童・生徒一人当たりの標準を毎年1500元に引き上げ、その他の部分は区と県が補足し、11.14万人余りの非上海市戸籍家族子女に、政府委託の民間小学校で無料の義務教育を受けさせ、その数は前年比で6万人余りも増加し、全体人数の26.19%を占めた。公立学校に入学又は政府委託の民間学校で無料の義務教育を受けている学生は全部で39.43万人に上り、上海市の義務教育段階における非上海市戸籍家族子女総数の92.7%を占め、前年比で18%増加し、農民工同居子女の義務教育を受ける権利の保障に効果を出した。

3、科学的発展

(1)計画発展の先行と総合教育改革の推進

 都市教育の異なる発展段階において、上海市は情勢や課題、ニーズに基づき、異なる発展目標の確立を先行し、異なる戦略構想と発展の標識、発展の内容を打ち出した。例えば、20世紀80年代には、上海市が打ち出した都市教育の「一歩先へ、一層高く」という発展戦略や、90年代初めに提起した、「一流の都市、一流の教育」という構想があり、世紀の変わり目には、「学習型都市の構築」という戦略を提起し、都市教育科学的発展の歴史の軌跡となっている。21世紀に入って、上海市は国際大都市建設のサービスと、「4つの率先」の実現、国際的「4つのセンター」造り及び先進製造業と現代サービス業発展を速めることに基礎を置いており、さらに優先発展教育を明確にし、教育の現代化が都市全体の現代化発展を促すという戦略構想を率先して実現することで、今後の都市教育のための青写真を描いた。

 教育の総合改革、特に教育体制システムの全体的な改革とイノベーションにより、上海市の教育発展戦略目標が明確になった。それは、上海市の教育が率先した発展、バランスと共同歩調の取れた発展、科学的発展を実現するという重要なメカニズム及び動力である。早くも2004年に、上海市は既に率先して『教育総合改革の全面実施と上海市教育現代化の率先した基本実現に関する諸意見』を発布しており、2010年までに率先して教育現代化を基本実現するという努力目標と課題を提起し、各レベルの教育発展の基本的要求に触れると同時に、都市教育システムの構築、教育思想理念、運営体制、運営条件及び教育と学校の配置構造等に対し具体的計画を提起しており、新世紀の上海都市教育発展のために方向を確立していた。2010年、上海市はまた、教育部と、国家教育総合改革試験区域戦略協力協議に調印し、「優先発展、人材育成、改革イノベーション、平等促進、品質向上」の業務方針に基づき、基本教育公共サービス均等化の率先した実現と、教育発展モデルの率先した変更、人材育成イノベーションの率先した強化、教育開放程度の率先した拡大をし、2020年までに教育の現代化を率先して実現し、全国の教育改革と発展のため道を模索し、経験を提供する。尚、双方が共に打ち立てた内容には、教育公共管理の新体制・新メカニズムの模索、教育公共管理水準の向上、人材育成モデルと入学入試制度改革の模索、全面的素質教育の実施等が含まれている。

(2)先進教育理念を以て学生の全面発展促進を導く

 人間本位の実行と、学生一人一人の生涯発展という教育理念のため、基礎教育段階の学生の全面発展推進に努め、上海市は学科の優位性の積極的利用を提起し、教育の感化作用と全方位における作用と機能を発揮させ、学生の開眼体験を重視し、学生の感情や態度、価値観の科学的発展に注目している。2010年以前に、上海市は幅広く小中学生の間で「栄辱を知り、礼儀を学ぼう」という一連の教育活動を行い、「上海市小中学生万博子供代表知識コンテスト」や、「エコ工芸品ミニ制作大会」、「私の2010―上海市小中学生万博主題作文コンテスト」等のテーマ活動を行った。2010年上海市は万博というこの歴史的なきっかけを利用し、小中学生に対して、道徳教育を主軸とする「小さな主人公」教育を前後10年伸ばした。小中学校における礼儀教育、教養教育、感謝心教育、生命教育、環境保全教育、国際教育、栄辱教育、科学教育、芸術教育等の多くの教育の中で大きな進歩があった。上海市の基礎教育段階の時間は長く、活動形式は多様になり、学生の人気を集め、教育効果は小中学校の道徳活動に顕著である。

 素質教育の全面実施のため、学生の個性を伸ばし、学生のイノベーション精神と実践能力の育成に重点を置き、上海市は第二期のカリキュラム改革を通して、機能型カリキュラムを根幹とした多次元のカリキュラム構成を構築した。メインの次元は機能型カリキュラムで、第二次元はカリキュラム形式、第三次元はカリキュラムの実施形態である。機能型カリキュラムには、基礎型カリキュラム、展開型カリキュラムと研究型カリキュラムがある。基礎型カリキュラムは基本的に必修科目を採用し、展開型カリキュラムは必修科目や活動科目は少なく、殆どが選択科目を採用し、研究型カリキュラムは基本的に活動科目を採用している。

(3)教育品質と教師資源チーム造りを重視する

 上海市の教育発展の新動向と段階的な新特徴、新要求に適応するため、上海市は教師や校長の業務能力と専門化発展保障制度設立を強化し、教育の品質を高める重要なルートとし、系統的な計画と実行を以て顕著な進展と効果を得る。上海市の小中学校教師の生涯学習の理念樹立を更に推し進めるため、道徳教育の能力、イノベーション精神、専門素養と研究能力を絶え間なく向上させる。上海市教育委員会は全市の教師教育資源の整合による全市の教師教育資源連盟のサービス設立と、サービス方式の購入採用とカリキュラム構築の展開を決定し、ソフト開発と運営態勢作りをし、各教師教育機構の積極性、主体性とイノベーション性を結集して、高品質・高効率な教師の育成を行い、農村教師選修市レベルカリキュラム育成プロジェクトに専門経費を投入した。新しい農村教師チームの設立を強化するため、特級教師の優良資源の影響力を強め、農村教師専門発展サービスの新ルートを模索し、同時に、上海の農村部基礎教育発展に適応できる素質の高い校長の育成や学科教師の育成チームを設立し、都市と農村の教師チームのバランスを実現し、上海市政府部門は2007年農村教師専門発展育成の新プロジェクトを実施した。2009年には更に専門経費270万元を投入し、当プロジェクトの実施を継続した。同時に専門資金として100万元近くを投入し、校長、言語、歴史、英語、心理学、幼稚園の6学科の専門委員会を立ち上げ、教師を募集し育成を行った。

 上海市は有名な校長や教師を育成する工程システムの普及と優秀な人材の蓄積を開始し、『上海市教育委員会による優秀な青年校長及び教師の選抜育成システムの普及実施に関する意見』(滬教委人[2009]21号)の文献精神に基づき、上海市教育委員会は2009年、優秀青年プロジェクトの選抜と育成業務のシステム普及を開始し、360名の校長と教師を初回予備候補者とした。上海市教育委員会は「優秀青年プロジェクト」を立ち上げ、各人に1.5万元の資金を、課題研究や基地訓練、研究生の学歴と修士学位の学習等の用途として支給した。

(4)科学的教育評価と監督指導を絶えず行う

 上海市は科学的な教育のモニタリング、評価、監督指導を重要視しており、都市教育発展のため、正確な指導と公共情報サービスの提供を行っている。1996年、上海市は全国で最も早く教育評価機構―上海市高等教育評価事務所を設立した。2000年には、政府の機構改革の要請に応じて、上海市教育評価院へと変更した。続いて、上海の各区・県が相次いで教育評価センターを設立した。2004年には、「上海市教育評価協会」が設立されたが、これは全国で初の職業性質のある教育評価社会仲介機構である。基礎教育品質のモニタリングを強めるため、2009年上海市は基礎教育品質モニタリングセンターを設立し、全市の基礎教育品質モニタリング計画と指導監督及び実施を請け負っている。

 上海教育評価の公共サービス範囲は日増しに広まっており、目下、幼稚園、小中学校、専門技術中学校、専門学校、本科、研究生等までをカバーし、その範囲は学校(専門)設置評価、運営(レベル)評価、道徳教育評価、重点学科の評価、カリキュラム(教材)の評価、教師職務審議等の領域にまで及んでいる。当面、上海では比較的完全な各区・県の政府教育業務自己評価公報制度ができており、市政府教育監督指導室の自己評価報告と公示プロジェクトの総括に基づき、相応の教育資源投入の増加を提起している。2009年4月には、『2008年上海市各区・県政府の法履行に依る教育責任の執行情況の報告』を「上海教育」と「上海教育監督指導」のネットサイトにおいて社会に向けて公示した[5]

三、上海PISA 2009テスト結果がもたらした啓発と展望

 PISA2009調査結果を通じて、上海市は教育の率先した発展、バランスの取れた発展、科学的発展の堅持がもたらした変化と成績及び成果を見た。同時に、調査の結果のから、上海の基礎教育学校、家長と学生も様々な啓発を得たようで、特に上海の市・区・県の教育行政部門及び関連の専門学者達は、更に多くの調査結果に基づき、上海の基礎教育発展及び学校の教育教学と学生の学習等の一部に対して、理性的な再考を行った。ある学者は、上海の学生は大量の情報資源を汲み取る能力がまだ不十分で、先生に提供される既成の教材に慣れてしまっている。また、図表や調査表、リストの読み取りなど、非連続文におけるパフォーマンスが低い、との認識を示し、この喚起は学校や家長に、今は既に図表読解の時代に突入しており、授業や生活の中で非連続性文書の読解を重視する必要があると注意を払わせた。男子生徒の読解成績は女子生徒よりも40点低く(全市平均は556点)、如何に男子生徒の読解力を改善するかが今後研究及び改善しなければならない教育課題である。上海の学生は自主学習能力が弱く、自己選択・判断、読解材料の重点・難点の反省が苦手である。上海の学生の校内外学習時間量は65カ国(地区)の中で第12位、学校の1週間の授業時間は20カ国の中で第5位である[2]。上海の学生が、条件と高得点獲得の代価としてより多くの時間と精力を投入していることは明らかであり、勉強のために時間を使いすぎることは、学生の課外活動時間に影響を与えるだけでなく、学生の体質や心理の健康にも影響する。事実上、上海ないし全国各地の教育界は、社会各界を含め、長きにわたって既にこの課題に高い関心を持っている。

 上海市から、教育の率先発展、バランスの取れた発展、科学的発展の現実的状況が始まり、上海市は全国において教育の率先発展の姿勢を保持し続け、「学生一人一人の生涯発展のために」という教育理念を持ち続け、「公平な推進、卓越の追及、イノベーション推進、サービス発展」という都市教育発展指導思想と業務方針を堅持し、率先して教育発展モデルの変更や、人材育成モデルイノベーションの実現、基本公共教育サービスの平等化の実現、教育の国際化の実現を行い、高品質で特色ある卓越した教育を以て、教育を受ける様々な人民の多様化するニーズと、都市経済社会発展の切実なニーズを満たすよう努力し、全国の教育現代化発展と国家の平和決起に新しく大きな貢献を果たしている。


[1] 上海成绩引发全球关注. http://paper.jyb.cn/zgjyb/html/2011-02/18/content_42364.htm 2011-2-18

[2]吴冰.PISA跟上海教育开了一次大玩笑. http://sq.k12.com.cn/discuz/thread-578916-1-1.html 2011-4-7

[3]陆璟,朱小虎.如何看待上海2009年PISA测评结果--中国上海中学生首次参加国际测评结果反响述评[J].上海教育科研,2011(1):17-19

[4] 中国教育和科研计算机网. http://www.edu.cn 2002-11-28

[5] 专报. http://shjydd.net/data/gongshitongbao/2010122185620_50.html 2011-3-4

[6] 罗阳佳.PISA带给我们什么. http://www.shedunews.com/web/TDisp_24982_2.html 2010-12-17