第56号:中国の小中等教育事例
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イノベーション型の卓越した人材を養成する揺り籠―福州第一中学のイノベーション教育

2011年 5月13日

張 礼朝

張 礼朝(Zhang Lichao):福建省福州第一中学 副校長

1962年10月生まれ。1986年8月、福建師範大学卒業。福州一中赴任。1998年2月、高校高級教師、2006年9月、福建省特級教師。これまでに徳育処主任、弁公室主任、校長補佐等。2002年12月より副校長、教育業務を担当。

 福建省さらには全国において、福州第一中学の名は広く知れわたっている。福建省教育庁が唯一直属管理を行う中高連携校、旧国家教育委員会が認定した中国の名門校として、福州第一中学は、建学の歴史が長く、学校運営の成果が著しく、生徒の資質が全面的で、優れた卒業生を輩出していることにより、国内外に名声を博しており、福建省の近現代教育史上、重要な地位を占め、長年にわたり一貫して福建省の基礎教育の模範となってきた。

一、濃厚な文化的風格:近くにいる者は心から敬服し、遠く離れた者はますます懐かしむ

 百年の長い歴史をもつ名門校である福州一中の前身は、清の嘉慶二十二年(西暦1817年)創立の鳳池書院と、同治九年(西暦1870年)創立の正誼書院である。1902年、福州三牧坊両側にあった「鳳池」、「正誼」両書院の合併改築が行われ、「全閩大学堂」と改称され、福建省で最も早期の公立学校となり、1951年には「福州第一中学」とその名が改められた。百年の歴史の歩みの中で、福州一中は豊かな文化的内容、濃厚な文化的風格をはぐくんできたが、この濃厚な文化的風格こそが、福州一中の発展のために永く衰えることのない精神的滋養を提供し、福州一中の「近くにいる者は心から敬服し、遠く離れた者はますます懐かしむ」という教育界における「名刺」を作り上げた。

 「どうかこの気持ちをわかってほしい。悲しみに泣いても、世の人々のことを大切に思い、喜んであなたの一生と私の一生の幸せを犠牲にし、世の人々のために永遠の幸福をはからなければならないのだ」(訳注:『妻への訣別書』からの引用)――卒業生、林覚民の人々に深い感動を与える「世の人々のために永遠の幸福をはかる」という言葉は、福州一中の学校運営の趣旨となっており、皇帝の勅令「基礎をしっかりと築き、根本を打ち立て、徳を高めて大成させ、能力を練磨し上達させる」は福州一中の校訓であり、「心がけを正しくし、教養と行いを共に修め、目下の時勢に広く通じ、実用を重んじる」は福州一中の人材育成の目標となっている。古き昔の典雅さを継承するにあたり、本校は福州一中のマーク(3Mのデザイン)の単一な歴史的故実の内容を豊かなものにし、これに「Moral(道徳)、Modesty(謙虚)、Multiplicity(多様性)」という3Mの新たな意味を付与して、福州一中の人材養成理念が学生の質と個性の総合的発展に重点を置いていることを強調しており、福州一中の人材養成目的の8つの大きな柱、すなわち、国家への責務、独立した人格、学びの習得、健康な体と楽しい心、奉仕の意識、国際的視野、実践能力、自力自治を打ち立て、一中の特色豊かな「学校記念日」を設定し、一中生の心に一中の歴史におけるこれらの重要な人物、事柄が銘記されるようにしてきた。福州一中は豊かな歴史的・文化的蓄積の中から絶えず養分を汲み取るとともに、あくまでも時代と共に歩み、独特の福州一中文化を絶えず適性化しており、またこのような独特の学校文化は無形のものでありながら、常に、いたるところで、福州一中の校歌、校章の中に凝集され、福州一中の学校運営目標、学校運営理念の中に体現され、福州一中の教育プロセスの中に外化されて、大きな影響力を持ってきた。

 百年にわたる一中の歩みはまさに、「桃李もの言わざれと、下自ずから蹊を成す」というものであった。1938年、本校は全国の最も優秀な高校の一つに選ばれ、当時の教育部より褒章命令の伝達を受けた。1940年から1944年まで、全国一斉試験に4年連続で参加し、その成績は各大学より全国の高校中トップと公認された。1957年から1959年まで、3年連続で全国大学入試紅旗賞を受賞した。1960年、「全国文教系統先進単位」の栄えある称号を受け、1979年には、学校運営の成果が特に優れていることによって、国務院より褒章命令の通達を受けた。さらに、1986年に「全国教育系統先進集団」の称号、2007年9月に再び中華人民共和国人事部・教育部より「全国教育系統先進集団」の称号を授与され、2009年8月には、福建省委員会・省政府より「福建省2006~2008年度文明学校模範」の称号、2009年11月には国家体育総局の授与する「2009年全国大衆体育先進単位」の称号、2010年8月には、中国科学協会より「科学教育イノベーション・ベストテン学校」の称号をそれぞれ授けられた。

 百年にわたる一中の歴史においては、高名の師が集い、英才が輩出された。長きにわたり、福州一中の歴代の校長はその時々の最も先進的な学校経営理念を堅持してきたが、有名な校長としては、旧清王朝の皇帝溥儀の師・陳宝琛、国連アジア太平洋ユネスコ協会より当代教育家に選ばれた陳君実、福建省科学技術管理専門家、部級労働模範、国務院政府特別補助金受賞専門家に選ばれた朱鼎豊、「新世紀百千万人材プロジェクト」国家レベル人選、国務院政府特別補助金受賞専門家にして省優秀専門家に選ばれた現校長・李迅などがいる。福州一中の卒業生の中には、民族解放のために命をささげた仁愛の心を持つ正義の士、林覚民、陳盛馨ら、政治・経済・軍事等分野の傑出した人物、林紓、陳衍、朱謙之、梁遇春らがおり、また傑出した学者、専門家として、卒業生に13名の院士がおり、11名が両院(訳注:中国科学院中国工程院)院士に相次いで選出されているほか、中央研究院の院士2名がおり、卒業生の多くがIEEE会員に選ばれている。本校には高名の師が集い、多数の学者型、専門家型の教員がすでに教師人材の中核的な力を構成している。

 百年にわたる一中の歩みは、目覚ましい成果を上げ、高い評判を独占してきた。近年、福州一中の大学入試成績は顕著であり、2006年から現在に至るまで、その文科・理科総合平均点は毎年省内トップの座を占め、さらなる高みに到達している。福州一中が科学技術イノベーション教育及び学校コンテストの中で収めてきた抜群の成績は、我が省の基礎教育が咲き開かせた見事な花というべきである。2004年、生徒の劉嘯峰は第55回ISEFで2等賞を受賞し、翌年、アメリカマサチューセッツ工科大学は20817号小惑星を「劉嘯峰」と命名した。2007年、陶冶は第58回ISEF総合大賞3等賞、ノンネイティブの化学第1位、化学グループ第5位を獲得した。2008年、唯一の福建省代表として第20回国際情報学オリンピックに参加した余林韵は、コンテストにおいて素晴らしい成績を示して銀メダルを受賞、2009年、林雨婷は第60回ISEFで3等賞を受賞した。2010年、呉其瑾は第61回ISEFの学科大賞2等賞、アメリカ統計協会栄誉賞を受賞し、蘇鈞は第51回国際数学オリンピックで金メダルを獲得し、福建省で3人目の国際数学オリンピック金メダル受賞者となり、また董辰興は第4回国際天文学・天体物理学オリンピックで金メダルを受賞した。教育部の認定している5教科のオリンピック及び科学技術イノベーションコンテストにおいて、福州一中の省級1等賞受賞者数は福建省でトップとなっている。

二、先進的教育理念:基礎教育を先導

 「水路の水がこのように清いのはなぜか。それは流水の来る源があるからである」。福州一中の基礎教育分野における成果には目を見張るものがあり、近年、大学入試の実績は常に省内トップの座を占めている。だが、受験対策は決して本校の唯一の目的ではない。進学というプレッシャーを前に、福州一中の教育は決して受験対策教育に迎合してきたわけではなく、反対に、イノベーション型人材を養成し、生徒の個性の発達を奨励することが、福州一中の長期にわたり守ってきた重要な学校運営理念となっている。まさにこのような先見性のある先進的な学校運営理念、正確な学校発展の位置づけが、福州一中の全人教育の模索とイノベーション人材養成のために、正しい方向を提供してきた。近年、新たなカリキュラム改革の推進にともない、福州一中はこれを契機として、教育改革を積極的に推進し、イノベーション教育を大胆に実施してきた。福州一中は全人教育への模索の中で、省内の先頭を歩んでいる。

果敢に革新し、個性を重視する―生徒のイノベーション精神と個性の発達を重視する教育理念

 生徒にイノベーション能力を具えさせるには、まずイノベーション精神を持たせなければならない。福州一中は一貫して、よく頭を働かせ、果敢に革新し、敢えて疑うという生徒の科学的精神の養成を重視し、生徒が書物の「教条的」桎梏を乗り越え、研鑽の対象を何冊かの教科書から身辺の一つひとつの事物へと広げ、大胆に疑い、果敢に問いを発し、自分が大きな意味があると感じるあらゆる事や物をたゆまず追求、模索するよう奨励してきた。実践が証明しているように、これはイノベーション精神を育てる有効な手立てである。第61回ISEFにおいて、『真菌バイオコントロールのミカンハダニに対する生物的防除についての研究』によって教科大賞個人部門2等賞、特別賞―アメリカ統計協会栄誉賞を受賞した呉其瑾の場合、研究テーマの最初のインスピレーションは生活の中のほんの小さな一コマから来ており、家で母を手伝って花の水やりをしていたとき、ミカンの葉の上にミカンハダニを発見したのが発端だった。強い知識欲を抱いて、彼女はミカンハダニの研究を開始し、成功へと向かったのである。

 羅素曾はかつて「不揃いで多様であることは世の中の幸福の根源である」と言った。現代の学校教育は往々にして生徒を同一のモデル、同一の規格にしたがって育成するが、同一性を強調し、効率を重視することは、生徒の創造性、個性がしばしば軽視され、圧殺すらされてしまうことを意味している。一方、生徒の個性の発達を尊重し、正しい指導と支援を行うことは、福州一中のイノベーション人材を育てるという人材育成理念の一つである。福州一中では、生徒はアメリカ在住の卒業生・周公達氏の寄贈した英語図書館にある『館記』について疑問を呈し、「未能稍尽棉薄(訳注:未だ微力を尽くすことができない、の意)」という文の中の「棉薄」は「綿薄」と書くべきではないかと論争したり、林覚民の「奈何効新亭対泣耶?(訳注:新亭に集まって亡国の嘆きに涙し合っていても仕方がない、の意)」の中の「新亭」という単語について、熱心に討論したりすることができる。さらに、土壌の施肥過程で引き起こされる環境と食品の汚染に心を動かしたことで、環境科学への強い興味をかき立てられ、『エコ肥料―新しい肥料連鎖肥料』を研究テーマとして、見事にISEF大賞を獲得したり、また、大学入試の前でも普段通り様々な課外活動に参加し、楽しく勉強しながら有名大学に合格したりすることもできるのである。

実践から真の知識が生まれる―生徒の実践能力の養成を重視する教育理念

 温家宝総理は教育改革の問題に言及した際、「教育改革は学・思・知・行という四つの面の結合に戻ることが必要であり、すなわち、学と思は連係させなければならず、知と行は統一しなければならない」と語った。生徒の実践能力の養成を重視し、生徒の社会的責任感を養うことは、福州一中が守っている一つの重要な教育理念である。本校は、生徒の科学技術イノベーション意識と手を動かす能力を育てるには、生徒をハイテク企業に送り込み、技師長が存分に語って聞かせる21世紀ハイテク産業の発展について学ばせ、じっくりと耳を傾けさせること、生徒を辺境の遠い山岳地帯に行かせ、農村の生活状況を感覚的に理解させること、見聞の中で彼らの思考を刺激することが必要であると考えている。福州一中は現在、省内で唯一、生徒をよその土地へ赴かせて社会実践を行っている学校であり、本校には専任の総合実践活動課程の教師がおり、生徒のために社会実践プランを綿密に作成するとともに、長期的な安定した社会実践基地を確立している。理科の生徒は省内の有名企業に出かけて行って「科学技術は第一の生産力である」ことを体験し、文科の生徒は遠く龍岩に赴き、愛国主義教育基地を見学し、農作業に参加する。保護者の支持を得るために、学校から保護者に手紙を送り、その中で「生徒が学習のエネルギーを書物による学習と書面での作業にのみ注いでいたのでは、生徒自身、多方面にわたる教育利益を受けることができなくなり、人徳、情操、才知、能力などの各方面で良好な発達を遂げることが難しく、個性・特長をより良く伸ばすことが難しくなります。このような教育理念による指導の下でこそ、『万巻の書を読み、千里の路を行く』ことが可能となり、『知行合一』も口先だけのものでなくなるのです」と述べている。

活躍の場が広ければ能力が十分に発揮できる―教育の国際化を重視する教育理念

 長年にわたり、福州一中は一貫して生徒の視野と度量を広げることに力を入れ、生徒を「送り出す」ことによって生徒の視野を広げることを主張してきた。視野が広くなって初めて、理想は壮大に語られ、度量は大きくなることができる。本校は、生徒が国際的な交流活動に参加することを奨励し、毎年夏休みに、教師が生徒を引率・組織してドイツ、イギリス、オーストラリア、シンガポール等の国々に出かけ、文化交流活動に参加している。本校はまた生徒のために、イギリスの国際学生サミット、ジュネーブの世界気候サミット、ロンドン国際青年科学フォーラムといった国際会議への参加機会を積極的に勝ち取っており、生徒を組織して、各種の国際競技、例えば、イギリス大使館文化教育部門主催の「サッカーマネージャー――サッカーマネージメントチームチャレンジカップ」、カナダ・ウエスタンオンタリオ大学大学院の組織するビジネス・シミュレーション・コンテストなどに参加している。これらのプラットフォームを通じて、生徒は他国の思想、芸術、歴史、教育、文化、科学技術水準などを生き生きと感じ取ることができ、このことが生徒の成長、世界観の育成に大いに役立っている。

三、特色のあるイノベーション教育モデル:型にとらわれずに人材を育てる

仕事を立派に仕上げるためには、まず道具の切れ味をよくしておくことが必要

 完備したハードウェア施設は、イノベーション人材を養成するための物的保障である。福州一中の全面的に発達したイノベーション型人材を養成するという教育目標に応えるために、本校は絶えず校内のハードウェア施設建設を強化している。

 福州一中は福建省の小中高で初の100%英語図書館―桐若英語図書館を設立した。この図書館は12000冊余りの原書英語図書を収蔵し、また英語原書の『The Times』、『Washington Post』を予約購入し、生徒の英語への興味を刺激し、その国際的視野を広げてきた。学校図書館はさらに、清華大学が主宰する『中国基礎教育ナレッジベース』という定期刊行物データベースを購入し、情報量を大きく増やしてきた。統計によれば、本校図書館の毎月の来館率は300%以上に達し、すでに教師・生徒が教室外で最新の科学技術知識を得るための重要な源泉となっている。

 生徒の科学実験実施のニーズに応えるために、本校は全く新しい、大学の実験室にも比肩し得る実験室を建設し、その中には毒ガス実験室も含まれている。生徒の天文地理学に対する興味を刺激するために、本校は巨費を投じて天文台、プラネタリウムを設置し、生徒の課外の生活を豊かにするために、卓球専用練習室も配備している。

 本校は現在すでに全国の高校の中では最高のハードウェア施設を有しているものの、依然としてイノベーション人材養成のニーズを完全には満たすことができないでいる。そこで、本校では文化学術都市にあるという地理的優位性を十分に発揮し、福州大学機電実践センターの専門教師が生徒の一般技術課程を指導し、本校の一般技術課程の教育の質を高めている。一般技術課程では、一人ひとりの生徒が自分の実験プラットフォームを持ち、独立して操作を行い、溶接作業、組立作業に挑み、NC工作機械、ワイヤカットを使用し、強電実験などを行い、自分たちで設計したプランと製作した部品を教室での成果検査に用いている。

個性的なカリキュラムマップ

 学校ベースカリキュラムの開発は新たなカリキュラム改革の一つの重要な方向であり、独自の学校文化を創造し、生徒のイノベーション意識を刺激し、生徒のイノベーション能力を育てる重要な手立てである。

 福州一中は学科の境界を打破し、様々な学科の講義準備グループ同士を組織して検討を行わせ、一連の特色に富んだ学校ベースカリキュラムを開発し、カリキュラムの科学技術化、生活化を強化し、福州一中の学校ベースカリキュラム体系を構築している。中でも特色があるのは、『中国文化読書案内』、『全地球文明史』、『財政金融知識』などの課程で、新カリキュラムにおける社会類カリキュラムの不足という問題が解決された。『模擬国連』カリキュラムは、より広い国際的視野と、リーダー的才能を示すためのプラットフォームを生徒に提供している。

身近なことに関心を持ち、社会に関心を持つ―研究的学習のプラットフォームを組み立て、生徒を社会に送り込む

 省教育庁が2000年9月に、福建省の各重点高校に研究的学習カリキュラムを開設することに関する会議を開いて以来、本校はこの事業を非常に重視し、常にそれを教育改革を深め、全人教育を推進する一つの大事としてとらえ、かなり全面的に、またかなり突っ込んで取り組んできた。本校はすぐさま研究的学習カリキュラムの3段階管理機構を設立し、学校段階には、校長が自ら先頭に立って采配を揮い、教育を分担する副校長が副チームリーダーを務め、教務処主任、各学年リーダー及び各学科教育研究グループリーダーが参加する、人員の十分な、陣営の大きな、指導力の強い、学校の研究的学習カリキュラム指導チームを設置した。各学年には、学年リーダーが先頭に立って采配を揮い、研究的学習カリキュラムの理論と実践について深く研究している教師を副チームリーダーとする、各学科の講義準備グループリーダーが参加する、学年の研究的学習カリキュラム指導チームを作った。各学級には、クラス担任を総括指導者とし、招請した授業担当教師、生徒代表、保護者が参加する、学級の研究的学習カリキュラム検討チームを作った。上から下まで、段階ごとにチェックを行い、毎週金曜日午後2時限の「研究的学習」科目を保証している。生徒は行政的なクラスの境界を打破し、自分のテーマに基づいて教師を選択することができる。一人ひとりの生徒が自分のテーマを提出することができ、毎週、教師と生徒がリアルタイムの交流を行うことが可能であり、期末にはテーマ報告を提出し、さらに、優秀な成果は編集し冊子としてまとめている。

 2005年3月、福州一中生の王汀瀅、王帥、何勁が当時の省委員会・盧展工書記に宛てて書いた一通の手紙は、非常に大きな社会的反響を呼んだ。王汀瀅ら3人は1年余りにわたって閩江河口湿地の生態研究を展開し、研究の過程で、閩江河口湿地の生態環境の破壊が深刻であることに気づき、そこで物は試しと考えて、盧展工書記と政府関係部門に状況を伝えたのだった。だがまったく意外なことに、盧展工書記はすぐさま返事をよこし、『福建日報』など多数のメディアが第一面に彼らの手紙と盧展工書記の返事を掲載し、中央テレビ『ニュースネットワーク』コラム、福建テレビといった多くのメディアがテーマグループメンバーを取材に訪れた。彼らの研究は、閩江河口湿地の生態保護に対する大きな社会的関心を呼び起こし、彼らもまた学校と社会から認められたのだった。

 卓沢陽らは寿寧古廊橋の研究を展開し、テーマの完成後、自分たちの感想を感慨深げに語った。「最初、我々はちょっとした好奇心を抱いて、このようなテーマを決め、研究を展開したにすぎなかった。当時の我々は、テーマ研究がこんなに苦しいものだとは全く思っていなかった。実地視察は忘れられない思い出だ。毎日、野山を歩き回ったことは、我々の体力・精神面での『試練』であり、その上に立っての観察と記録こそは、本当の意味での学識と能力に対する『試練』だった。いま、まもなく完成する論文を目にして、この上ない喜びでいっぱいだ。結局、我々はこのために多くを費やしてきた。『試練』もまた得難い収穫だった」。古廊橋の研究はさらに、中国文化の歴史と伝統の長さを彼らに認識させ、テーマ研究は廊橋のもつ文化の奥深い内容を理解させてくれた。一つひとつの廊橋のこのように古風・素朴、精密・完璧でありながら、「誰の目にも触れることなく」山野、渓流の間にそびえたつ一筋ひとすじの「虹」のような姿は、全中国、ひいては全世界の人々に知らせ、理解してもらわなければならない。これは彼らの引き受けるべき責任だった。まさに同じテーマグループの鄧霄明が言及している通り、「我々高校生3人の力だけでは到底およばなかった。先生のきめ細かな指導に感謝している。先生たちは我々のような『ひよっこ』のために沢山の貴重な指導を行い、さらに身をもって人としての道を示してくださった。寿寧県文化館館長が苦労して道案内をしてくださり、多くの専門的な意見と独自の見解を提供してくださったことに感謝している。運転手さんが黙々と尽くしてくださったおかげで、このような遠い視察の行程を進んでこられたことに感謝している。たくさんの純朴な村民の方々の教えともてなしに感謝している。我々は彼らのふるまってくれたお茶と親切を忘れない。家族の理解と支援に感謝している。我々が自信を失ったとき、たくさんの励ましと支援を与えてくれた。これらのすべてに対し、我々は心から『ありがとうございました』と言わなければならない」。テーマ研究は生徒たちを社会に送り込み、人との付き合い方を学ばせ、恩を知ることを学ばせてきたが、これはテーマ研究が彼らを新しい領域へと導き、彼らに社会と人生に対する新たな深い理解をもたらしてきたということである。

 これら何人かの生徒の社会に関心を寄せる気持ちは、まさに学校教育が「静かに万物を細部まで潤わせた」結果であり、まさに、生徒を指導して研究的学習を行わせる過程で、本校の教師が生徒の問題意識育成、自主的学習、探究的学習、共同学習の重要性を十分に認識し、実験、調査、情報の収集と処理、表現と交流などの活動を通じて、生徒に探究の過程で知識と能力を獲得させ、問題解決の方法をマスターさせ、心の体験をさせてきたこと、様々な活動を通じて、生存環境、社会や発展に対して関心を持つという生徒の責任感と能力を養成してきたことの結果でもある。

生徒が教師を「評定」する―多元的な教室評価モデルを構築

 福州一中は省内で最も早く、生徒たちに教科担当教師に対する教育評価を行わせた学校である。生徒は在校時間の75%以上を教室で過ごし、教室は授業と学習の最も主要な場であって、その環境の優劣は教師・生徒の心身の健康と教育効果に直接影響を及ぼす。教室での教育は必ず生徒を根本としなければならず、そうして初めて効果が高まり、生態は健全となる。生徒に教育の評価を行わせることは、教師に、教室においては生徒が主体であり、教師の教育を決定する根本的要素である、ということを理解させることである。

 新カリキュラムの実施以来、本校は積極的に教師を組織し、効果的な教室教育についての模索と研究を行ってきた。例えば、本校は毎年一回、「教室に焦点を合わせる」活動を開催して、有効な教室教育モデルについて模索し、カリキュラム体系、カリキュラム内容、授業方法の面から、創造性の養成に有利な雰囲気を作り出すことに努め、教室という場で生徒の多方面にわたる思考を刺激し、その知的活動を多様化し、豊かにすることに注意を払ってきた。コンテストに導かれる形で、多くの教師が伝統的な教室教育の不十分さを認識するようになり、新カリキュラムの理念の下での「よい授業」、「良質な授業」とはどういうものかということを改めて考えるようになった。努力の結果、自主的な、協力し合う、相互に作用し合う教室が徐々に形成され、福州一中の教室は生気に溢れ、智恵に満ちたものとなった。

四、素晴らしい発展の将来性:志をもった大魚と大鳥は、万里の空を舞い上がる

 「しっかりした土台があってこそ、天を突くばかりに聳え立つ塔の先端があるのだ」。長年にわたり、福州一中の生徒は、イノベーション人材を全面的に育てるという本校の理念教育の下、国際オリンピック、ISEF、国内各種教科コンテスト等に積極的に参加し、勝報が引きも切らず伝えられ、優れた成績を何度も収めてきた。学校もまた科学技術教育に関連した多くの栄誉を得、例えば2010年には、「福建省青少年科学技術教育基地学校」に選ばれ、福建省科学協会、省教育庁、省科学技術庁が共同授与する「福建省青少年科学技術教育先進団体」の称号を受け、さらに「福建省青少年科学技術教育突出貢献賞」を受賞した。だが福建省で最良の高校として、福州一中は実際のところ困った状況に直面している。進学という手枷足枷の中で、全人教育というダンスをしているのである。省内トップの大学入試成績を維持することが、保護者、教育行政部門、さらには社会全体の共通の期待であるのに対し、全人教育は教師と生徒が主体的に追求しているものである。長い間、本校は進学と全人教育のバランスをとることに努め、絶えずイノベーション教育について模索し、成果を上げてきた。事実が証明しているように、生徒のニーズに合致し、教育の法則に合致した本校の模索は、生徒のきわめて大きな潜在能力を引き出し、「大学入試」を超越したイノベーション型人材の教育モデルを創造してきた。

 本校のイノベーション人材養成の総括を行うと同時に、福州一中の学校指導者と教師たちは、基礎教育改革を実現し、生徒の個性の発達を促すことは、一つの重要かつ長期にわたる任務であることをはっきりと認識している。チャンスと挑戦は併存しており、本校はこれらの成果が学校の次の段階の教育事業の展開にとり、重大な現実的意義と深遠な歴史的意義を持っていることを十分に認識している。福州一中は「世の人々のために永遠の幸福をはかる」という遠大な理想を心に抱き、全力を傾けて「国内で一流の、国際的に有名な、国家レベルの実験的・模範的高校」を作り上げ、社会の需要に応えるより多くの精鋭な人材を養成し、教育部の提示した「中国の基礎教育を先導する」という目標を一日も早く実現するために、さらに前進していく所存である。