第57号:バイオエネルギー技術
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セルラーゼとリグノセルロースの生分解変換に関する研究の進展

2011年 6月20日

方詡

方詡(Fang Xu):山東大学生命科学学院 微生物技術国家重点実験室 国家糖工学技術研究センター教授、博士課程指導教員

1974年3月生まれ。2006年3月、京都大学にて農学博士号取得。2006年5月~2009年4月、日本国立産業技術総合研究所(AIST)バイオマス研究センター(BTRC)にて研究員着任。2009年5月より現在まで、山東大学微生物技術国家重点実験室、国家糖工学技術研究センターにて教授兼博士課程指導教員を担当。中国微生物学会、日本農芸化学会、日本生物工学会正会員。「985プロジェクト」資源バイオテクノロジー科技イノベーションプラットフォーム学術中堅、教育部「新世紀優秀人材」、山東省の海外イノベーション起業人材導入「万人計画」第一段階、「泰山学者海外特別招聘専門家」等の栄誉を授与。現在、主にバイオマスエネルギー技術、微生物育種等分野の研究に従事。すでに学術論文30篇余りを発表、一部の専門著作編集業務に参加。

共著者:曲 音波

 21世紀に入って以来、人類はエネルギー、資源、環境等の方面でますます深刻化する課題に直面している。中国の問題は特に際立っている。一方で、中国の石油の対外依存度はすでに50%を超え、大部分の石油消費が輸入に頼らなければならず、国家のエネルギーの安全と経済の安全は保証を得られないでいる。同時にまた、鉱石燃料の大量使用は環境を甚だしく汚染しており、中国が石油に代わる再生可能資源を探すことは、すでに差し迫った急務となっている。バイオマス資源は大量に再生ができ、その利用過程で生じるCO2も植物に吸収され、炭素閉鎖循環を形成し、環境に影響を及ぼすことがない。そのため、化学工業はすでに石油資源からバイオマス資源への歴史的、革命的な変化を遂げ始めている。

 しかしながら、今日のバイオ燃料と大口バイオ化学品は主に、デンプン、糖、油脂から生産されているため、「食糧を人と争い、土地を食糧と争う」という問題が存在し、ことごとく論議をかもしている。中国が食糧の安全を保障することは一貫して国家の主要な任務であり、非食糧原料、特に植物バイオマス主体(細胞壁)のリグノセルロース部分によるバイオ製品生産を発展させることがどうしても必要である。リグノセルロースの3種類の主要成分の単体は各種の糖と芳香族化合物で、いずれも液体燃料や化工製品の生産に用いることが期待できる。したがって、バイオ化工産業の原料もまた、食糧・食用油原料からセルロース原料へという歴史的・革命的転換の実現に直面している。

 アメリカ政府はセルロース系エタノールの発展を強力に支援し、しかもその関連技術はすでに大きな進展を示している。低い酵素使用量(15FPA IU/g グルカン)という前提の下で、セルロース及びヘミセルロースの糖収率はいずれも>90%に達することができ、エタノール製品の単位当たり酵素使用コストはすでに0.2米ドル/ガロンまで下がっている。

 我が国の作物わらは決して有効利用されてはおらず、収穫シーズンにはしばしばその場で焼却され、深刻な環境汚染を引き起こし、一つの大きな社会的公害となっており、新たな高効率利用の道を見つけることが早急に求められている。そして、この問題を解決する最も将来性のある案の一つが、わらを分解して発酵性糖に変換し、さらに発酵によって、人類が差し迫って必要としている液体燃料及び化工製品を生産するというものである。

 わら等のリグノセルロースからエタノール等の加工製品を抽出するには、まず酸または酵素加水分解法を用いて、リグノセルロースを発酵性糖に変換しなければならない。酸加水分解法の糖収率は往々にして60%を下回り、しかも酸加水分解過程では大量の発行阻害物質が産生し、加えて設備投資がかなり高く、環境負担が過大である等の問題もあるため、大規模な産業化を行うことは難しい。酸による加水分解プロセスと比べて、酵素による加水分解には、反応条件が穏やか、環境に優しい、産物が専一である、糖収率が高い(変換率>90%)、設備投資が低い等のメリットがあり、そのため世界各国の重点的研究開発の焦点の一つとなっている。酵素加水分解法はまず、有効な物理化学的前処理によって、セルロース、ヘミセルロース、リグニン等、高分子の相互結合によって形成されている天然の障壁を打ち破らなければならず、その上で、セルラーゼを利用して前処理後のリグノセルロースを分解し発酵性糖にする。国内にはすでに多くのセルロース生物変換試験装置が相次いで建設されているが、技術蓄積が不十分で、生産コストが高すぎる(エタノールt 当たり生産コストが7000元以上)ため、本当の意味での工業化を実現することができない。リグノセルロース分解コストの高すぎの原因を招いている主な技術上のボトルネックは、加水分解過程のセルラーゼ使用量がかなり多いことであり、酵素分解効率の改善を待たなければならない。

 生産におけるセルラーゼの使用量を減らし、酵素加水分解の効率を高め、工業生産におけるセルラーゼのコストを下げるために、世界各国の科学者はセルラーゼ及びリグノセルロースの生分解変換をめぐって、広範な研究を展開している。本文章は、以下のいくつかの方面の研究の進展及び解決すべき問題を重点的に紹介するものである。

1. セルラーゼ系の組成とその協同作用

 セルラーゼは複雑な酵素系という一つの大きなカテゴリの総称である。セルロース分解酵素はその触媒機能によって大きく3種類――エキソ-β-1,4-グルカナーゼ(exo-β-1,4-glucanases,EC3.2.1.91)〔セロビオヒドロラーゼ(Cellobiohydrolases)ともいい、CBHと略称〕と、エンド-β-1,4-グルカナーゼ(endo-β-1,4-glucanases,EC3.2.1.4)〔EGと略称〕と、β-グルコシダーゼ(β-1,4-glucosidases,EC3.2.1.21)――に分けることができる。長期にわたる研究によれば、結晶セルロースの徹底的分解には少なくともこの3組のセルラーゼの協同作用が必要であることが明らかである。CBH(セロビオヒドロラーゼ)はセルロース結晶部位を加水分解することができ、セルロース鎖の(CBHⅠの場合)還元端あるいは(CBHⅡの場合)非還元端から持続的加水分解を開始し、セロビオースを放出する。エンドグルカナーゼ(EG)は主にセルロースの非結晶部位に作用し、セルロース鎖中のグリコシド結合をランダムに加水分解し、セルロース長鎖を切断し、大量のさまざまな重合度のセルロース短鎖に変換し、セルロース分子の重合度を低下させ、セロビオヒドロラーゼ(CBH)の作用に供することのできるセルロース鎖の末端数を増加させる。β-グルコシダーゼは主にセロビオースと可溶性セロオリゴサッカライドを加水分解し、最終的にセルロースを利用可能なグルコースに変換する。天然セルロース材料の組成と構造はさまざまであるため、その分解に必要なセルラーゼのそれぞれの成分同士及び、セルラーゼとその他の分解酵素の活性の最適比率もそれぞれ異なっており、統一した基準を出すことは難しい。

 実際、工業用のセルラーゼ製剤には多くのヘミセルラーゼも含まれており、それにはキシラナーゼ、キシロシダーゼ、マンナナーゼ、マンノシダーゼ、アラビノフラノシダーゼ、フェルラ酸エステラーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ等がある。セルラーゼ製剤は数十種類のたんぱく質を分離純化することができ、大半はセルロースの分解と関連がある。単一の酵素系成分では天然リグノセルロース基質の最終分解を単独で達成し、天然リグノセルロース基質をグルコース等の単糖に分解するということはできず、数種類のセルラーズ系成分の共同作用の下でのみ初めて達成することができる。この理論基盤を踏まえ、多くの実験による検証を経て、研究者らは、セルラーゼ酵素系成分の再構築を通じて分解酵素系を最適化し、セルロース基質に対する分解効率を高め、酵素使用量を低減させるという戦略を提示した。セルラーゼ酵素系成分の再構築とは、何種類かの由来の異なる、それぞれのタイプのセルラーゼ系の特徴に対する十分な理解の上に立って、各種成分を異なる比率で混和し、酵素分解の条件を調整することにより、基質に対し最高の分解効果を上げるという目的を達成することを指す。多数の研究によれば、トリコデルマリーゼイの産生するセルラーゼ酵素系中のβ-グルコシダーゼは活性が低すぎるため、そのエンドグルカナーゼ(EG)、セロビオヒドロラーゼ(CBH)の活性を阻害し、セルロースの変換率と加水分解速度を下げてしまうことが証明されている。実験から明らかなように、トリコデルマリーゼイ由来のセルラーゼに適量のβ-グルコシダーゼを添加すると、セルラーゼのセルロース分解効率と速度を大きく高め、グルコースの変換率を高めることができる。

 他方で、天然リグノセルロース中に存在するヘミセルロースも、セルロースの分解効率に対し重要な影響を及ぼす。あるデータによれば、セルラーゼの加水分解過程において、高濃度のキシロオリゴサッカライドはセルラーゼ活性を阻害してしまう。一方、酵素系中のキシラナーゼとキシロシダーゼの比率を増やすと、このような阻害を減らし、セルロースの変換率を高めることができる。陳洪章らは、フェルラ酸エステラーゼの添加によって、蒸気爆発処理後の稲わらのヘミセルロースとリグニンの間のエステル結合の一部を打ち破ることができ、稲わらの中のセルロースとヘミセルロースの加水分解速度が高められたことを報告した。これらの結果は、天然リグノセルロースの分解過程においては、ヘミセルラーゼとセルラーゼの間に協同効果が発生し、セルロースとヘミセルロースの変換が促進されるということを示している。

 近年、ノボザイムズ社の研究者らは、トリコデルマリーゼイ由来のセルラーゼに少量のGH61ファミリーのグリコシダーゼを添加すると、トウモロコシわらの加水分解効率を高める上で有効であることを発見した。さらなる実験によって証明されたところによれば、全酵素量の5%に満たないGH61タンパク質を加えると、加水分解作用に必要なセルラーゼ使用量を元々の1/2に減らすことができる。より長い酵素分解時間、より高い加水分解程度、より多い固体セルロース量という状況の下では、GH61タンパク質の添加は、必要なセルラーゼタンパク質用量が減少するという現象をいっそう明らかなものにする。

 セルラーゼ及び一部のその他のタンパク質の協同作用も、国内外の学術研究の関心の的となっている。そのメカニズムは今なお十分に明確ではないが、すでに得られている成果は、2種類のメカニズムの存在する可能性があることを示している。その1つは、一部のタンパク質の添加がセルロースに対するセルラーゼの「可及性」を増すこと、すなわちセルラーゼと基質の反応の確率を増すことである。もう1つは、一部のタンパク質がセルラーゼの安定性を高め、セルラーゼの失活を減らすことである。セルラーゼとその他のタンパク質の協同作用のメカニズムについての研究は、セルラーゼの用量を減らし、リグノセルロースの酵素分解効率を高め、セルラーゼの機能を改良するための重要な理論的根拠を提供することができるので、より突っ込んだ、緻密な研究を行うことが必要である。

2. セルラーゼの糖化力の評価

 セルラーゼ活性にはさまざまな表示方法がある。酵素製剤企業はよく、高重合度のセルロース誘導体――カルボキシメチルセルロース(CMC)を基質として、セルラーゼ中のエンドグルカナーゼ(EG)活性を測定している。だが、セルロースの分解過程において、セルラーゼ中のエンドグルカナーゼ活性は、セルロースの分解効率を真に反映できるというわけではない。そのため、現在、国際的に最も普通に用いられている方法は、Whatman濾紙No.1を基質として、多成分セルラーゼの協同作用が反映できる濾紙酵素活性を測定するというものである(Filter paper assay, FPA)。この方法のメリットは、(1)基質が一般に使われていて入手しやすい。(2)基質が適度なセルラーゼ分解感受性を具えている。(3)手順が相対的に簡単で、余った基質を取り除く必要がない、ということである。だが、濾紙自体の構造が決して単一ではなく、加水分解しにくい結晶部位と加水分解しやすい非結晶部位に分かれているため、その加水分解過程曲線は決して線形ではない。国際純粋・応用化学連合会(International Union of Pure and Applied Chemistry, IUPAC)によって確立され、発表された方法は、1時間に50mgの濾紙サンプルから2mgのグルコースを析出する(濾紙の約4%が加水分解される)ことにより、セルロースの無定形部位にも結晶部位にも一定程度の加水分解が発生し、それによってより正確に酵素の組成と含有量が反映されるよう保証することを要求している。この要求を満たすためには、加水分解の前に必ずセルラーゼ濃度の調整を繰り返し、当該の加水分解比率にちょうど到達させることが必要であり、したがって測定の手順と難度が増している。

 注目に値するのは、前に述べたように、セルラーゼ系中のβ-グルコシダーゼ活性はリグノセルロースの分解速度に対し大きな影響を及ぼすということであり、したがってセルラーゼ系中のβ-グルコシダーゼ活性を理解することは、非常に重要でもある。その酵素活性の測定方法は一般に、さまざまな発色または蛍光基団を有するβ-グルコシダーゼ誘導体(たとえば、pNPG)を基質とし、基質を1分間加水分解して還元糖または発色基団1μmolを産生するのに必要な酵素量を1個の活性単位(IU)とする。同時に、エンドグルカナーゼ(EG)とセロビオヒドロラーゼ(CBH)はともにセロビオースを加水分解することができないので、β-グルコシダーゼ活性はセロビオースの加水分解を通じても測定することができる。β-グルコシダーゼ酵素活性と濾紙酵素活性の比率は、セルロース分解の速度と程度に対する影響が非常に大きいため、この比率はセルラーゼ製剤の品質の重要な指標となっている。通常、この比率は1を上回っていなければならない。

 実際の応用において、人々は依然として濾紙酵素活性の測定及びCMC酵素活性によってセルラーゼ製剤の糖化能力を表すことに慣れているが、しかし、多くの実験が証明しているように、CMCまたは濾紙酵素の活性単位では、天然リグノセルロース系基質に対するセルラーゼの糖化能力を正確に反映するのはむずかしい。これはリグノセルロース系基質自体とセルロース分解酵素が、どちらも非常に複雑な体系であるのに対し、濾紙及びCMC酵素活性などの酵素活性単位が、ともにセルラーゼと単一の比較的純粋な基質の反応のデータに基づいて計算されているからである。もう一方で、それぞれの基質(それぞれの前処理方法と程度を含む)にはそれぞれ異なる分解酵素系の組成が必要である。さまざまな天然基質を採用して得られるセルラーゼの糖化能力の結果も、正確に比較し合うことは非常に難しい。そこで、アメリカエネルギー省は最近提出したセルラーゼ開発計画の中で、一つの明確なサンプル(指定の希酸処理法で処理を行ったトウモロコシわら)に的をしぼり、指定の方法にしたがってそれぞれのセルラーゼの糖化能力の比較を行わねばならないことを、すでにはっきりと指摘している。中国のセルラーゼ及びセルロースバイオリファイナリー産業の発展を促すために、国情に適した、指定の前処理を経た天然リグノセルロースを基質としたセルラーゼの一般的評価方法を制定すべきであることを提案する。

3. セルラーゼの構造と機能

 各種のテスト手段及び分子生物学の進歩にともない、研究者はセルラーゼの各酵素成分の構造と機能について、突っ込んだ探究ができるようになった。このうち、結晶セルロースの解重合または解鎖は、セルロースの酵素分解過程の律速反応のステップである可能性があり、したがってセロビオヒドロラーゼ(CBH)、特にCBHⅠは研究の焦点の一つである。

 長年にわたる研究の結果、セロビオヒドロラーゼは2つの独立した活性構造ドメインを具えていることがすでに知られている。それは触媒機能を有する1つの構造ドメイン(Catalytic domain, CD)と、セルロース結合機能を有する1つの構造ドメイン(Cellulose binding domain, CBD、またはCarbohydrate binding module, CBMという)で、両者の間は一つの高度にグリコシル化したリンカーペプチド(Linker)によってつながっている。多数の研究が証明しているように、CBHが結晶セルロースを効果的に分解し、セロビオースを産生することができるのは、まず最初にCBDを利用してCBHを結晶セルロースの表面に吸着させ、そのあとで、1本のデキストラン鎖(セルロース)が素早く正確にCD内の基質結合部位と触媒部位を持った「トンネル」に入り、セロビオースが正確にデキストラン鎖上から切断され、放出されてくるのと同時に、CBH分子がデキストラン鎖に沿って2個のグルコース単位を前方へスライドさせるからである。山東大学の王禄山らの研究がさらに明らかにしたところによれば、CBDはセルロースに対する加水分解活性は持っていないが、結晶セルロース構造をやわらかくする能力を具えている。2009年、東京大学准教授の五十嵐圭日子博士は、CBHが結晶セルロースを分解する動態過程を高速原子間力顕微鏡で初めて直接撮影するとともに、詳細な観察を行い、CBDを失ったCBHⅠ分子の持続的分解速度は完全なCBHⅠ分子と比較して、それほど大きく違っていないということを発見した。また、CBHⅠ分子のスライディングは、活性中心の酵素加水分解反応に付随して同時に行われるのであり、一方、CBDは吸着作用を利用して酵素分子の基質における濃度を大きくするのであることを証明した。多数の研究成果によって、我々はセルラーゼの作用メカニズムについてより深く理解するようになったが、しかしセルラーゼが基質上において持続的に運動し、分子鎖間の水素結合を切断する原動力源は依然として一つの謎である。そして、この謎の答えの解明は、我々が分子改造技術を利用して酵素の分子変換効率を高めるための、正しい理論的指導を提供してくれるであろう。したがって、CBHという数億年の進化を経て出来上がった高効率の「分子機械」の作用メカニズムは、我々がさらに突っ込んだ研究をしていくに値するものである。

4. セルラーゼ生産技術

 セルラーゼはアミラーゼと同様、酵素製剤商品が売られているが、同じエタノール収量について、セルロース系エタノール生産の採用するセルラーゼのコストは、デンプン系エタノールにおけるアミラーゼのコストの50~200倍である。そのため、現在、酵素製剤会社からセルラーゼの商品酵素剤を購入して、リグノセルロース分解産糖に用いた場合、経済的に商業化の要求を達成することができない。近年、多くの科学者は、現場生産(On-site production)方式によってセルロース系エタノール生産におけるセルラーゼ・コストを下げる方法の採用を提起している。すなわち、エタノール工場内にセルラーゼ作業場を建設する方式を採用し、まず工場内で前処理を行ったリグノセルロースの一部を原料として、有酸素の酵素産生発酵を行い、酵素活性がピーク値に達したか、または各種の酵素成分が最適な組み合わせにあるときに、いかなる処理も行わず、酵素を含んだ粗発酵液をじかに新しいセルロース原料と混合し、加水分解産糖または同時糖化発酵の後続工程に入るのである。このプロセスのメリットは、産生した粗酵素液が分離、貯蔵、輸送を経る必要がないということにある。そのため菌糸除去、濃縮、調合(タンパク質保護剤、抗菌剤、安定剤等化学薬品の添加)、貯蔵、輸送などの不要な高い費用が省かれ、粗酵素液を直接、下流工程に用いることができる。

 セルラーゼ現場生産技術の核心は、優良なセルラーゼ工業生産菌株である。山東大学の曲音波らは早くも1979年に、腐乱したセルロースサンプルの中から一株のセルラーゼ高収率のペニシリウム・デカンベンスPenicillium decumbens株をスクリーニングしたが、これは我が国が自主知的財産権を持っているセルラーゼ工業菌株であり、国内で広く研究、応用されてすでに30年になる。これは天然リグノセルロースを分解する比較的完全な酵素系を分泌することができるだけでなく、トリコデルマリーゼイに比べて、多めのβ-グルコシダーゼを産生することができる。同時に、ペニシリウムの成長速度はトリコデルマよりも速い。近年、ペニシリウム・デカンベンスのセルラーゼ合成コントロールに関連した研究が、一連の進展を遂げている。そのゲノムシーケンシング作業もすでに完成し、ゲノム解析作業が整然と進行しているところである。研究の中で、ペニシリウム・デカンベンス・ゲノムに含まれているセルロース結合性モジュール(CBM1)の分解酵素の種類は、アスペルギルス、トリコデルマリーゼイよりも明らかに高いことが発見されたが、このことは当該菌酵素系の将来における大きな応用の可能性を示している。

 長期にわたる育種改良と発酵プロセスの最適化の結果、ペニシリウム・デカンベンス変異菌株の最も高い濾紙酵素活性は18.9FPU/mLに達し、最も高いセルラーゼ産生速度は160.0FPU/h・Lに達した。同時糖化発酵とフェドバッチ技術の使用により、我々はすでにセルロース系エタノールのペニシリウム・デカンベンス・セルラーゼ用量を6.4FPU/g・セルロース基質まで減らし、エタノール濃度、収率、セルロース変換率をそれぞれ57.6g/L、25.0%、76.8%にまで持っていくことに成功しており、セルロース系エタノール生産技術はすでに一定の経済競争力を具えている。

 現在、エネルギーと環境の圧力の下で、我が国はリグノセルロース分解産糖技術の産業化を早急に迫られている。我々は自主知的財産権を有する工業菌株(たとえば、ペニシリウム・デカンベンス)を中核とし、外国の成功と失敗の経験を参考にし、中国の国情を十分に考慮し、原料と人件費の低コストという優位性を発揮して、完全に自主知的財産権を持つ、我が国の国情に合ったリグノセルロース分解産糖技術を開発しなければならない。そうして初めて、我が国は将来の経済発展の中でイニシアチブをとり、我が国の工業を環境保全型工業へと転換させることができるのである。