エネルギー微生物油脂技術の進展
2011年 6月10日
趙宗保(Zhao Zongbao):中国科学院大連化学物理研究所 研究員
中国科学院大連化学物理研究所研究員、博士課程指導教員。1968年9月生まれ。1998年、中国科学院上海有機化学研究所にて理学博士号取得。専門は有機合成。1998年~2003年、アメリカUniversity of Minnesota、University of Texas at Austinで、相次いでポスドク研究に従事。研究分野は生物有機化学及び微生物代謝工学。2004年、中国科学院「百人計画」の称号を獲得、さらに第13次「国外傑出人材導入」の選抜支持獲得。中国再生可能エネルギー学会バイオマスエネルギー専門委員会理事、中国化学会化学生物学専門委員会委員、アメリカ化学会、中国化学会、中国生物工学会会員。現在、主にエネルギーバイオテクノロジー、分子微生物学、ケミカルバイオロジーの研究に従事。代表的研究内容は、バイオマスBDF、イオン液体におけるバイオマスの化学的変換、産油酵母系生物学の研究、コエンザイムの化学的改造とコエンザイム工学。すでに学術論文100篇余りを発表、特許30件余りを出願。
石油資源への過度な依存は、国のエネルギーと経済の安全を脅かすだけでなく、深刻な生態環境問題をもたらしてきた。再生可能エネルギーの技術を発展させ、化石資源の消費を減らすことは、広く関心を集めている。バイオディーゼルは性能の優れた、化石ディーゼルに直接代わることのできるバイオ燃料製品であり、その主な化学成分は長鎖脂肪酸(メチル)エステルである。現在、バイオディーゼル生産は動植物油脂、たとえば、大豆油、菜種油、パーム油などを原料としている。だが、植物油脂は長年にわたり、主に食用及び油脂化工産業のために用いられてきた。統計によれば、世界の植物油年産量は約1.4億トンしかなく、その資源総量は大規模なバイオ燃料生産には明らかに適さない。したがって、新しいタイプの油脂生産技術を発展させることにより、バイオディーゼル産業の持続可能な発展を促すことが早急に求められている。
代謝プロセスを通じて炭水化物などの有機物を油脂に変換することは、細胞に必須な生物学的プロセスの一つである。少数の微生物は細胞内で細胞乾燥重量の20%を超える油脂を合成し、貯蔵することができ、この表現型を持つ微生物は産油微生物と呼ばれる。酵母及び真菌類真核産油微生物の蓄積する油脂は、通常の植物油により近い脂肪酸組成を有し、バイオディーゼル生産に特に適している。搾油用植物の栽培と比べて、微生物を利用した油脂生産には、周期が短い、連続生産が可能、自然界の豊富な炭水化物資源を一定の規模で利用できる、といった際立った特徴がある。微生物を通じて油脂及び関連の脂肪酸代謝誘導体を生産することは、バイオディーゼル産業の持続可能な発展とバイオマス資源の利用にとり、重要な意義を有している。
2003年以来、中国科学院大連化学物理研究所の趙宗保教授とそのチームは、エネルギー微生物油脂というテーマをめぐり、系統的かつ突っ込んだ研究を展開してきた。本文章は趙教授の研究を中心に、当該分野の収めてきた進展を簡単に紹介するものである。
1. エネルギー微生物油脂技術の原料と菌株
グルコースは一般に、微生物が成長するのに最も適した炭素源であり、グルコースを炭素源として産油微生物を培養する研究は非常に多く、菌体の油脂含有量は60%以上に達することができる。だが、グルコース及びデンプン質原料を利用してエネルギー油脂生産を大規模に行えば、「食糧を人と争い、土地を食糧と争う」という局面を招くことは避けられず、一連の社会・経済問題を生み出すことになる。したがって、エネルギー微生物油脂技術については、農林廃棄物や非食糧糖質原料の加水分解液及び、工業廃棄物中の有機質といったその他の大口原材料に注目する必要がある。伝統的発酵産業の成分の比較的はっきりした原料と比べて、上記の原料は炭水化物を含有しているほか、さらに大量の非糖成分を含有しており、それらは微生物の成長、代謝、産物生成に対する影響が非常に複雑である。そのため、菌株の基質利用基準が広く、総合的抵抗力が高く、産物変換率が高いことが要求される。
1.1 リグノセルロース原料を利用した油脂生産
リグノセルロース原料は主に、セルロース、ヘミセルロース、リグニンの3つの部分によって構成されている。物理/化学的処理により、リグノセルロースは単糖を含有する原料(加水分解液)に変換し、微生物培養に用いることができる。リグノセルロース加水分解液には、2つの際立った特徴―加水分解副産物を含有している、ヘキソースとペントースが共存している―がある。リグノセルロースの加水分解副産物には、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール、酢酸、フェノール類物質などがあり、これらは微生物の成長と代謝に影響を及ぼす。したがって、抵抗力の優れた産油菌株をスクリーニングすることが必要である。華東理工大学の鮑傑らが産油酵母に対する各種副産物の影響について考察したところ、酢酸、蟻酸、フルフラール、バニリンの毒性が比較的強いことがわかった。国家973計画(訳注:国家重点基礎研究発展計画)と中国科学院知識イノベーション事業の重要な方向性を持つプロジェクトの支援の下、趙教授の研究室は油脂発酵に対する加水分解副産物の影響について考察し、多種の加水分解副産物が併存している場合でも、Rhodosporidium toruloidesの細胞内における油脂蓄積は65%に達し得ることを発見したが、これは当該菌株の抵抗力が強いことを示している。華南理工大学の宗敏華らは、脱毒処理を経たワラの加水分解液を利用してTrichosporon fermentansを培養し、菌体の油脂含有量は40%に達した。将来は、突然変異誘発や進化工学的戦略を通じて、菌株の加水分解副産物に耐える能力をいっそう高め、リグノセルロース加水分解液をより有効に利用して油脂を生産することができる。
リグノセルロースの加水分解液には通常、グルコース、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトースが含まれている。加水分解液のヘキソースとペントースが共存するという原料特性は、生化学的変換に対して課題を突き付けている。それは、微生物は往々にしてグルコースを優先的に利用したあとで、キシロースを利用するからであり、微生物の中には、キシロースや加水分解液中に出現する上記の他の数種の単糖を利用することが難しいものさえあるからである。微生物に単糖基質に対する明らかな偏好性または専一性が存在している場合、加水分解液を原料として生物学的変換を行うと、発酵周期が長い、基質利用率が低い、産物収率が低い、廃水処理コストが高い等の問題が起きることになる。中国科学院「百人計画」及び国家863計画(訳注:国家ハイテク研究発展計画)プロジェクトの支援の下、趙教授の研究室は11株の産油酵母をスクリーニングし、それらがグルコース、キシロースを含む多種の単糖を利用できることを発見した。培養基組成及び発酵条件の最適化により、グルコースとキシロースを炭素源としたLipomyces starkeyiの培養においては、糖利用率、菌体の油脂含有量がそれぞれ99%、52%に達した。多種の炭素源が併存しているとき、グルコースは微生物がその他の炭素源を利用するのを阻害するが、これはグルコース効果と呼ばれる。グルコース効果は基質の利用に延滞期を出現させ、発酵周期を長くし、プロセスの経済性を悪くする。したがって、ペントースとヘキソースの菌株を同時に利用できることを発見したことは、リグノセルロース原料の生物学的変換にとって極めて重要である。趙教授の研究室はスクリーニングの結果、T.cutaneumはグルコースとキシロースを同時に変換することができ、基質の利用にも産物蓄積にも延滞期が出現せず、しかも混合糖の発酵時間は同糖濃度の単糖の発酵時間と大差がなく、菌体の油脂含有量は59%に達するということを発見した。
1.2 キチン系バイオマス及びキクイモ等高糖性植物を利用した油脂生産
キチンは中国語で甲殻素ともいい、主に節足動物(エビ、カニなど)や軟体動物の中に存在している。自然界における含有量がセルロースに次いで多い一種の多糖であり、また地球上で埋蔵量が最も豊富な含窒素有機化合物でもある。キチンの加水分解によって得られるN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)とグルコサミンは、生物学的変換による燃料及びバイオベース化学品調製の重要な潜在的原料である可能性が高い。趙教授の研究室はスクリーニングを通じて、Cryptococcus albidus, C. curvatus, T. fermentans, T.cutaneumを含む多くの産油酵母は、GlcNAcを油脂に変換し、細胞内に蓄積することができ、菌体の油脂含有量は40%以上に達するということを発見した。発酵条件の最適化により、C.curvatus菌体の油脂含有量と油脂収率はそれぞれ54%、16%に達した。
キクイモは一種の耐痩土、耐寒、耐干ばつの多年生植物で、沿海砂浜地、塩・アルカリ土地で栽培することができる。キクイモの主要成分はフラクトオリゴ糖で、加水分解して単糖になりやすい。中国科学院知識イノベーション事業の重要な方向性を持つプロジェクトによる支援の下、趙教授の研究室はキクイモを原料とし、酸処理によってキクイモエキスを得、R.toruloidesの培養に用いたところ、全糖利用率は95%にも達し、菌体の油脂含有量は40%に達した。15L発酵タンクにおいて、反復補給方式によりキクイモ加水分解液を補充したところ、油脂含有量は57%に上昇した。中国海洋大学の池振明らは、イヌリナーゼ遺伝子をYarrowia lipolyticaに導入し、イヌリンとキクイモ抽出物を利用して微生物油脂を生産し、菌体の油脂含有量がそれぞれ48%、50%に達した。キクイモを原料として油脂を生産すれば、原料供給源の問題が部分的に解決できるだけでなく、同時に砂浜、塩・アルカリ土地の放置問題を解決する上でも有効である。
2. 油脂発酵コントロール戦略の新たな進展
今日、産油微生物の遺伝的背景に対する認識は非常に限られているため、油脂の蓄積代謝の分子ターゲット的コントロールを行うことは今なお困難である。そのため、産油微生物の発酵コントロールについては、主に生物化学工学的方法に依存し、すなわち培養基の栄養可用性と環境条件をコントロールすることによって、油脂の生合成を促そうとしており、これは発酵工学において最も一般的に用いられている戦略でもある。
2.1 培養基の栄養制限による油脂蓄積のコントロール
現在、産油微生物は窒素制限の条件下で油脂を過量に蓄積すると考えられている。したがって、油脂発酵において最もよく用いられるコントロール戦略は、培養基の窒素供給を変えること、すなわち培養基のC/N比を変えることである。中国科学院「百人計画」プロジェクトの支援の下、趙教授の研究室ではR.toruloidesの油脂含有量に対するC/N比の影響について研究し、油脂含有量はC/N比の増大にともなって高くなり、最適化により、C/N比が420になったとき、油脂含有量は76%に達するということを明らかにした。ギリシャの研究者Papanikolaouらは、多種の栄養元素を制限した培養基におけるMortierella isabellina油脂の蓄積について考察し、C/N比が83から133に増加したとき、油脂含有量は50%から56%に増えるということを発見した。
趙教授の研究室はR.toruloidesの発酵条件を最適化した際、KH2PO4の濃度を下げると菌体の油脂含有量を著しく高めることができることを発見した。当該酵母の産油に対するさまざまなC/P比の影響を考察した結果、リン制限もまた油脂蓄積コントロールの有効な戦略であることが明らかになった。培養基の最初のC/N比を22とし、最初のC/P比を72から9552に引き上げたところ、油脂含有量は21%から62%に上がった。このほか、イオウ制限についての初歩的模索でも類似の結論が得られた。培養基の最初のC/N比を28とし、最初のC/S比を150から46750に引き上げたところ、油脂含有量は20%から58%に高まった。リンとイオウは核酸、タンパク質、コエンザイムの合成に必須の元素であり、この2種類の元素が不足すると細胞増殖が抑制されることになるが、ただし脂肪酸と油脂の合成代謝は依然として比較的活発であり、そのため細胞内の油脂蓄積がもたらされる。
非窒素制限コントロール戦略は、窒素含有量の豊富な天然原料や廃棄物等を利用した油脂生産にとり、重要な意味を持っている。先に言及したキクイモエキス、キチン加水分解産物などは、全窒素含有量が比較的高く、産油微生物の培養に直接用いると、往々にして菌体の油脂含有量が低下する。適切な技術を用いてリン源を除去し、原料のC/P比を高くすると、基質をより効果的に油脂に変換することができる。
2.2 小分子による油脂蓄積のコントロール
さまざまな栄養の制限要素が油脂蓄積を促進できるだけでなく、小分子もまた産油微生物のコントロールに用いることができる。日本の研究者KimuraらはL.starkeyiの産油能力に対するさまざまな香料成分の影響について考察し、アネトール、テルピネオール、アセトフェノン等が産油微生物を成長させたり、油脂蓄積を10%~46%高めたりすることができることを発見した。趙教授の研究室は、L.starkeyiの産油能力に対する真菌クオラムセンシング分子トリプトフォールの影響について研究した。接種を行い36時間培養した後、培養基に100 mmol/Lのトリプトフォールを添加したところ、バイオマス、油脂量、油脂収率係数がそれぞれ、7.4%、13.9%、14.2%増加し、そのうえ発酵時間も13.3%短縮した。これからわかるように、発酵過程で小分子化合物を使用することにより、油脂生産効率を高めることができ、さらには産物中の脂肪酸の相対含有量を調節することさえできる。小分子による油脂蓄積のコントロールは簡単容易なだけでなく、産油微生物の油脂代謝コントロールの分子基盤を研究する上でも重要な価値を有している。
2.3 さまざまな発酵モデルを応用した油脂発酵コントロール
趙教授の研究室は、油脂発酵の強さを高める方法について研究した。間欠補給方式によりR.toruloidesを培養するにあたり、144時間に材料補給を5回繰り返したところ、油脂生産強度は0.36 g/(L・h)であった。連続的に流加する補給方式を採用し、グルコース濃度を5 g/Lに抑えたところ、同じ時間内の油脂生産強度が0.57 g/(L・h)に上昇した。反復-材料補給-バッチ式培養の方式を用い、358時間培養したところ、平均油脂生産強度は0.55g/(L・h)であった。また、発酵時間を短縮し、原料消費を減らすため、彼らはさらに細胞増殖と油脂蓄積の分離した二段階培養モデルを提示し、微生物油脂の調製に用いた。増殖段階で得られたR.toruloides細胞を直接再懸濁してグルコース水溶液中に接種し、通気培養したところ、菌体内に速いスピードで油脂が蓄積し、最終的油脂含有量が55%を超えることを発見した。二段階培養モデルは窒素源及びその他の補助原材料を節約し、油脂発酵生産における廃液排出を削減することができる。しかも、油脂蓄積段階にほとんど細胞増殖がないため、炭素源がすべて油脂生産に用いられ、産物収率が高い。
3. 産油真菌の油脂蓄積メカニズムに関する研究の進展
産油微生物、特に産油酵母の油脂過量蓄積メカニズムについては、今のところまだ主として生化学のレベルにとどまっている。一般に、産油酵母ミトコンドリア中のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH)は、AMPのアロステリック調節を受けるとされている。細胞内の窒素源が欠乏すると、AMPはデアミナーゼの作用の下でイノシン酸とアンモニアに変換され、ミトコンドリア内のクエン酸蓄積を引き起こし、さらに細胞形質内へと輸送される。クエン酸はATP-クエン酸リアーゼ(ACL)によって、アセチルCoAとオキサロ酢酸に変換される。アセチルCoAは脂肪酸合成酵素(FAS)の作用の下で脂肪酸アシルCoAと油脂の合成を達成し、一方、オキサロ酢酸はリンゴ酸デヒドロゲナーゼによってリンゴ酸に還元され、さらにリンゴ酸酵素(ME)による酸化的脱炭酸を経てピルビン酸を得、さらにNADPHを放出する。研究から明らかなように、産油微生物の油脂蓄積はMEの代謝コントロールと関連があり、MEが抑制されると、油脂の蓄積は低下する。これは、代謝ネットワークの中にはNADPHを生成できる多くの反応があるものの、脂肪酸合成の炭素鎖延伸に必要なNADPHは、ほぼ全面的にMEの触媒反応から来ているためである。
大連化学物理研究所の資金援助の下で、趙教授の研究室は最近、産油酵母L.starkeyiのIDHをコードする遺伝子のクローニングを行い、蛍光定量PCR技術により、転写レベルにおいてIDH活性と細胞内油脂蓄積の関係を検証した。産油酵母R.toruloidesのIDHをコードする遺伝子を分離、同定し、S.cerevisiaeの遺伝子置き換え実験を通じてわかったことは、R.toruloidesのIDH活性の異種発現は培養環境C/N比のコントロールを受け、かつ細胞内の油脂含有量とも密接に関連しているということである。このほか、L.starkeyi由来の1個のME遺伝子を分離し、さらにこれに対応する組み換えタンパク質の生化学的性質について研究した。
産油微生物の組織立った学術的研究はまだ初期の段階にある。趙教授の研究室は油脂発酵過程の差次的プロテオミクス研究を展開した。窒素制限培養を利用してR.toruloidesとL.starkeyiの油脂蓄積を誘導し、二次元液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法によって、それぞれ異なる培養段階の細胞のプロテオームを解析し、比較と半定量的プロテオミクス解析を行った。R.toruloidesサンプルの中から114種類の差次的に発現したタンパク質を同定したが、うち46種のタンパク質は油脂合成プロセスにおいて、発現レベルに顕著な変化があった。L.starkeyiサンプルの中から289種の差次的に発現したタンパク質を同定したが、うち81種のタンパク質は油脂合成過程において、発現レベルに著しい変化が見られた。これらの結果は、油脂蓄積代謝に対する培養環境の窒素欠乏の影響を物語っているだけでなく、細胞内の油脂代謝メカニズムについての突っ込んだ検討及び産油微生物の改造のために、重要な情報を提供している。
4. エネルギー微生物油脂技術に存在する問題と展望
発酵法による油脂生産には、周期が短い、連続運転が可能、原料が豊富、生産の潜在能力が大きい等の際立ったメリットがある。だが、微生物油脂の一定規模の生産は、今なおいくつかの問題に直面している。その第一は、発酵原料の問題である。エネルギー油脂の発酵にはどうしても、リグノセルロース原料、工業有機廃棄物などを含む、その他の非食糧原料を使用しなければならない。全体として、リグノセルロース資源を処理して発酵可能な原料にする技術はまだ成熟していない。原料問題については、産油菌株の原料適合性と抵抗力について特に注意を向ける必要がある。将来の事業においては、複雑な原料条件の下での産油微生物の成長代謝法則を研究し、油脂発酵にマッチした原料処理方法を確立し、産油菌株の基質利用能力を改造しなければならない。さらにエネルギー油脂発酵は、新たな生物化学工学の問題にも直面している。油脂は微生物の細胞内産物であって、自然に細胞外に分泌させることはまだ不可能であり、分離抽出プロセスを経ることによって、初めて発酵マッシュ液から回収することが可能になる。高密度の油脂発酵を行う際には、酸素伝達など技術的な問題が非常に顕著となる。したがって、伝統的な突然変異誘発手段または現代の分子生物学的手段によって、油脂を含む脂肪酸代謝誘導体を分泌する菌株を創製することは、産物分離の簡便化、収率向上、エネルギー油脂の連続生産実現にとって重要な意味がある。バイオディーゼル調製技術からだけ見れば、産油微生物桿菌体を直接利用してバイオディーゼルのメチルエステル化調製を行うことは、油脂抽出のステップを省くことになり、バイオディーゼルの総生産コストを下げる可能性もある。
コストが高いことは、エネルギー微生物による油脂生産の制約要因の一つである。しかし、今のところまだ、エネルギー微生物油脂の随伴産物の価値が考慮されることは比較的少ない。バイオリファイナリー及びグリーンケミストリーの理念にしたがい、原料から油脂の発酵変換を経て得られる物質は、さらに「食べ尽くし搾り尽くす」という方式によって、多種の製品に変換しなければならない。また、合成生物学の理念を応用して、油脂を含む脂肪酸代謝誘導体を生産する菌株を構築し、産物の化学構造と組成を設計することも、技術の経済性を著しく改善する可能性がある。たとえば、日本のYasushi KamisakaらはS.cerevisiaeの転写因子SNF2をノックアウトして、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼをさらに過剰発現させ、突然変異株の油脂含有量を30%まで高めた。注意すべきことは、モデル材料は遺伝子操作が行いやすいが、しかしそれらは脂肪酸代謝誘導体を産生する能力が、既知の産油微生物菌株よりもはるかに低いということである。中国科学院知識イノベーション事業の重要な方向性を持つプロジェクトの支援の下で、趙教授の研究室は産油能力の際立っているR.toruloidesをモデルとして、すでに産油酵母の遺伝子操作方法の研究と、栄養要求性株の構築に着手している。産油微生物遺伝子工学及び、ターゲット性菌株改造についての研究を展開することは、将来の重要な研究方向の一つとなるであろう。
以上を要するに、現代のバイオテクノロジーと合成生物学の絶え間ない発展にともない、バイオリファイナリー及びグリーンケミストリーの理念の指導の下、エネルギー微生物油脂技術の経済性は引き続き改善されていき、最終的にバイオ燃料生産の確かな技術となるに違いない。