中国におけるチクングニア熱の流行状况
2012年 3月16日
劉 起勇(Liu Qiyong):中国疾病予防コントロールセンター・感染症予防コントロール所研究員、博士課程指導教員
1963年4月生まれ。2005年、グリフィス大学MPH取得。2001.5--2002.3、WHO西太平洋事務局Director of Programme Management。2007.5--2008.4、WHO西太平洋事務局感染症対策課医務職員。現在は感染症予防・コントロール国家重点実験室媒介生物・バルトネラ症PI、オーストラリア・グリフィス大学・環境とヒトの健康センター客員教授、山東大学気候変動・健康研究センター主任、国家重大科学研究計画事業首席科学者。論文約200本を発表。主編著作6冊。主な研究分野は、媒介生物及び関連疾病のモニタリング・予防・制御戦略及び技術、ヒトの健康に対する気候変動の影響及び適応メカニズム(特に虫媒感染症)、バルトネラ症感染のリスク評価及び対応。2009年に中華予防医学科学技術2等賞、省レベルの成果賞2件及び個人栄誉称号多数。現在は、中華予防医学科媒介生物学及びコントロール分科会主任委員、雑誌「中国媒介生物学及びコントロール」編集長、媒介生物の持続可能なコントロールに関する国際フォーラム事務局長、国のストックホルム条約履行に関する協力グループ専門家委員会委員、中国昆虫学会常務理事兼医学・昆虫委員会副主任委員等を担当。国際機関の職歴は、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5)「ヒトの健康」筆頭著者(Leading Author)、アジア太平洋環境・健康フォーラムの気候変動、オゾン層の消耗、生態システムの変化における作業グループ構成員、イノベーティブ・ベクター・コントロール・コンソーシアム(IVCC)理事。
共著者:張 彦
チクングニア熱(chikungunya fever,CHIK)は、ヤブカに刺されることを主な感染経路とするウイルス性疾患であり、主な臨床症状は発熱、関節痛、斑点状丘疹、出血で、アフリカ及び東南アジアに多くみられる。
中国のチクングニア熱感染は、これまで散発的な輸入症例を主としていたが、2010年10月に広東省東莞市で中国初のチクングニア熱のコミュニティにおける集団感染が発生し、我々に警鐘を鳴らした。CHIKVのウイルス学的特性と中国における流行の歴史を理解することは、CHIKのモニタリング及び予防・治療の強化、そして中国におけるさらなる蔓延・流行の防止に資する。
1 病因学的特徴
CHIKの病原体であるチクングニアウイルス(Chikungunya virus,CHIKV)は、プラス鎖RNAウイルスでトガウイルス科アルファウイルス属に分類され、pH 7~8の弱アルカリ性環境下で安定的に生存し、酸性環境下で急速に不活化する。熱・乾燥への抵抗性を持たず、>58℃の環境下で不活化する。l%次亜塩素酸ナトリウム、70%エタノール等の常用消毒剤及び紫外線照射によりウイルスを不活化でき、培養基で37℃の恒温を維持したとしても24hしか生存せず、宿主体外での生存状況は未だ明らかでない。
CHIKはマヤロ(Mayaro)、ゲタ(Gatah)、オニョンニョン(O'nyong-nyong)、セムリキ森林ウイルス(Semlik forest disease)とアルファウイルス属の同じ抗原複合体遺伝子群に属し、これらウイルス間には血清学的試験において交差反応が存在する。アルファウイルス属は主に蚊等の吸血昆虫を媒介として世界的に分布しており、いくつかの群に分類できる。このうち、ベネズエラウマ脳炎(Venezuelan equine encephalitis, VEE)/東部ウマ脳炎(eastern equine encephalitis, EEE)群はウマ脳炎(equine encephalitis)を頻繁に引き起こす一方、セムリキ森林ウイルス(Semliki forest, SF)またはシンドビスウイルス(Sindbis virus, SIN)群は顕著な関節症状及び発疹を頻繁に引き起こす。この属のウイルスは節足動物の体内に長期にわたり存在し得るが細胞死は引き起こさず、ウイルスは低い水準で複製され、慢性的なウイルス保有状態を作り出す。脊椎動物の体内では細胞溶解を引き起こし、感染初期に体内で大量に複製され、往々にしてウイルス保有量が高くなり急性感染を引き起こす。しかし、経過は短く、脊椎動物の体内で当該ウイルスに対する特異的免疫が漸増するとウイルスは一掃される。
2 疫学的特徴
2.1 流行の概況
1953年にタンザニア(Tanzania)の患者1例の血中から研究者の手によりCHIKVが分離されたのを皮切りに、アフリカ、インド、東南アジア、ヨーロッパ南部でCHIKV流行の痕跡が次々に見出された。CHIKVの流行は主に冬季の気温が>18℃以上の地域に分布する。1960年代以降、CHIKVの流行地域は東に拡大を続け東南アジアまで至り、かつ、深刻さを増し続けた。具体的には、1962-1964年のタイでの流行、1963-1965年及び1973年のインドでの発生・流行がある。このうち、1965年のインド・チェンナイでのCHIKV流行は、発症率0.15に達した。
研究データ及び感染情報に基づけば、CHIKはまさに中国南部の一部地域に迫りつつある。1987年、雲南省シーサンパンナ地区で中国初のCHIK症例が見出され、患者の血液からCHIKVが分離された。1986-2001年には、雲南省及び海南省のコウモリ、蚊の体内からCHIKVが次々に分離され、1983-2007年には発熱患者、健康なヒト及び動物(コウモリ等)の血清からCHIK抗体が相次いで検出された。2008年以降、広東省及び浙江省では散発的なCHIK輸入症例が見出され始めた。2010年10月には広東省東莞市で初のCHIK集団感染が発生した。中国のCHIK及びCHIKVの流行の歴史については、表1を参照されたい。
場所 | 流行時期(年/月) | 参考文献 | 概 况 |
雲南省河口県 | 1981 | 耿際泉ら | 同地に長く居住する農民1人の血清からCHIKV中和抗体を検出。 |
河北省 | 1983 | 陳伯権、劉琴芝 | 赤血球凝集抑制試験によりヒト及びブタの血清からCHIKV抗体をそれぞれ1株ずつ検出。 |
雲南省 シーサンパンナ地区 |
1986-1988 | 張海林ら | ヒトスジシマカ及びコガタイエカの体内からCHIKV3株、デマレルーセットオオコウモリの脳組織からCHIKV2株を分離。 |
雲南省臨滄市 | 1986-1990 | 周淑新、劉莉 | CHIK抗体陽性率が43.78%に。 |
雲南省 シーサンパンナ地区 |
1986-1990 | 周淑新、劉莉 | CHIK抗体陽性率が10.60%に。 |
雲南省 シーサンパンナ地区 |
1987 | Powersら | 中国で初めて急性期発熱患者の血清からCHIKV1株を検出。 |
西安市 | 1987-1989 | 楊海 | 「ウイルス性脳炎」及び疑似症例197例の血清中のCHIK陽性率は1.02%。 |
雲南省 シーサンパンナ地区 |
1990-2007 | 黄文麗ら | 発熱患者の血清中のCHIKV ELISA IgG抗体陽性率は3.33%(4/120)。 |
海南省 | 1991 | 陳文州ら | 健康なヒト、動物(ブタ及びヤギ)の血清からCHIKV赤血球凝集抑制抗体、サルの血清からCHIKV中和抗体4株を検出。現地のヒト及び動物におけるCHIKV感染の存在を示唆。 |
海南省儋県 | 1992 | 董必軍ら | 海南省儋県のコウモリ及びネッタイイエカの体内からそれぞれウイルス1株を分離。血清学的鑑定の結果、CHIKVと判定。 |
雲南省景洪州 | 1993、2001 | 張海林ら | 1993年、研究の結果、CHIKVは主にネッタイシマカ及びヒトスジシマカにより伝播、かつ、経卵伝播され得ることが判明した。また、2001年に雲南省景洪州の野生ヒトスジシマカの体内からCHIKVが分離されたことは、中国におけるCHIKの自然感染地域の存在を証明する。 |
広東省広州市 | 2008/03 | 林苗ら | スリランカからの中国籍労働者2人にCHIKの診断。中国国内初の輸入症例確定診断。 |
広東省広州市 | 2008/10 | 林苗ら | 墓参のため帰郷したマレーシア国籍の2人にCHIKの確定診断。 |
広東省広州市 | 2008/12 | 林苗ら | 帰省客1人にCHIKの確定診断。 |
広東省茂名市 | 2008/10 | 何展ら | マレーシアから墓参のため帰郷した華僑2人に同市初のCHIK輸入症例。 |
浙江省杭州市 | 2008/12 | 黄仁傑ら | マレーシアからの観光客1人にCHIK確定診断。 |
広東省東莞市 | 2010/10 | 東莞市万江新村社区で初のCHIK集団感染。 |
2.2 流行の特徴
2.2.1 時間的分布
CHIKの発生及び流行には顕著な季節的特徴があり、夏秋季に多発し、流行期は感染を媒介するヤブカの成長・繁殖期と一致する。アフリカ及びアジアの双方とも、CHIKの流行期は主に温暖湿潤な雨季である。この季節の気候と自然条件はヤブカの繁殖に有利なだけでなく、ヤブカ体内におけるCHIKVの成長・増殖にも有利である。しかし、一部の熱帯地域ではヤブカが通年生息することから、CHIKも季節を問わず流行する。例としては、近年のレユニオン島におけるCHIKの流行がある。
CHIKの発生または流行の出現・消失は周期的変化を呈し、一般的な発生頻度は7~8年で、20年に達することもある。例えば、CHIKはかつてインドネシアでは長期間見られなかったが、1999年に突然発生した。
2.2.2 地域的分布
自然界に感染源のある疾患として、CHIKの分布は感染を媒介するヤブカの分布と密接に関係し、アフリカ及び東南アジアの熱帯及び亜熱帯地域に主に集中する。アフリカでは、CHIKは地方的な流行を見せ、主にサハラ砂漠以南の地域に分布した。1952年以降、タンザニア、ザイール、ジンバブエ、ナイジェリア、セネガル、南アフリカ共和国、アンゴラ、ウガンダ等でCHIK症例が報告された。アジアでは、CHIKは東南アジア、インド及び西太平洋地域で流行した。1958年には、まずタイでCHIKが発生し、その後、インド、マレーシア、インドネシア、スリランカ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジア等の国でもCHIKが相次いで発生・流行した。1950年代末から60年代初めには早くも、CHIKは東南アジアで地方的な流行地域を形成しており、今なお流行は終息していない。
中国では、CHIKは広東、雲南、海南省等の南部地域で主に流行する。1987年、雲南省シーサンパンナ地区で、急性期発熱患者1人の血清からCHIKVが分離された。その後、2008年以降、広東省広州市及び浙江省杭州市で散発的なCHIK輸入症例が相次いで報告された。2010年10月現在、中国では東莞市でCHIKの集団感染が1例発生したのみである。このほか、これまでの調査結果によれば、雲南省の辺境地帯及び海南省等の局地でCHIKVの伝播または流行が発生している可能性がある。
2.2.3 ヒトにおける分布
関連の調査によれば、CHIKは各年齢層で発生する可能性があり、性別、職業や種族間にも明確な差はない。しかし、新規感染地域と歴史的感染地域の分布には差異がある。新規感染地域または輸入型CHIK流行地域においては、各年齢層の症例分布に明らかな差はないが、アフリカ及び東南アジアの歴史的感染地域またはCHIKの地域的流行地域においては、患者は主に子供である。
2.3 流行の三大基本要素
2.3.1 感染源及び保有宿主
CHIKの地域的流行地区においては、CHIKVはミドリザル、マントヒヒ、チンパンジー、牛、馬、ブタ、ウサギ等のさまざまな動物の体内に存在する可能性があり、患者及び感染した動物宿主のいずれもがCHIKの感染源となり得る。
2.3.1.1 患者及び不顕性感染者
都市型感染地域の中では、CHIKVの主な感染源は患者及び不顕性感染者であり、CHIKVは人-蚊-人の経路で主に伝播する。
CHIK患者は、発症後2~5d以内で、強い感染性を持つ力価の高いウイルス性血症を発症し得る。患者が蚊に刺されると蚊を感染させ、感染した蚊からさらに他のヒトに伝播する。アフリカ及びアジアでは、かつて患者の血液から大量のCHIKVが分離されたことがある。地域性CHIKの流行期においては、不顕性感染者も感染地域の重要な感染源である。非典型症例及び亜臨床感染者の臨床症状は顕著でなく、感染がわかりづらいため、効果的かつ適時の治療及び隔離が難しい。さらに、不顕性感染症例は典型症例より多いため、典型的なCHIK患者に比べ、重要な疫学的意義がある。
2.3.1.2 動物宿主
ジャングル型感染地域においては、CHIKの主な感染源はCHIKVに感染したサル、オランウータン、マントヒヒ等の野生霊長類であり、感染経路は動物-蚊-動物である。
アフリカミドリザル、マントヒヒ、アカオザル、チンパンジー、テナガザル、アカゲザル等の霊長類動物の体内からCHIKVが分離されており、また、健康な霊長類動物もCHIKVに実験感染するとウイルス性血症を発症し、血清中のCHIKV力価は蚊を感染させるに充分となる。血清学的抗体検査の結果も、霊長類動物にはCHIKVの自然感染が存在することを示している。ヒトは、ジャングル型感染地域にたまたま入ったときに初めて、動物-蚊-人の感染経路に組み込まれ、かつCHIKVに感染するおそれがある。
CHIKVの動物宿主は、さらにコウモリ、家畜、コモンツパイ等がいる。アフリカ及びヨーロッパでは、かつてコウモリの体内からCHIKVが何度も検出された。タイではさまざまな哺乳動物(家畜を含む)の血清からCHIK抗体が検出されている。中国の張海林らはCHlKVの人工接種または感染したメスの蚊に刺される方法でヒヨコを感染させた結果、蚊に刺されたヒヨコの体内でもウイルス性血症を発症し、かつ、血清から赤血球凝集抗体及び中和抗体が検出された。また、健康なメスの蚊は、ウイルス性血症を発症したヒヨコを刺したのちも感染することがわかった。張海林らはさらにCHIKVに感染したコモンツパイを使ったところ、発症2~6d以内にウイルス性血症を発症することが分かった。
2.3.2 感染経路
CHIKの主な感染経路は媒介虫〔ネッタイシマカ(Aedes aegypti)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)、シマカの一種(Aedes africanus)、ヌマカの一種(Mansonia africanus)等〕に刺されることである。実験室研究によれば、CHIKはエアロゾルでも伝播し得るが、現時点ではヒトからヒトへの感染は報告されていない。メスの蚊が感染したヒトや動物を刺すと、その中腸細胞でCHIKVは増殖し、中腸壁を突き破り、血リンパを介して唾液腺内に至り、8~12dの成長・発育・繁殖を経て再びCHIKVを伝播する。CHIKVは蚊の体内における生存期間が長く、終生、感染性を持ち得る。
2.3.2.1 ネッタイシマカ
この蚊は、CHIK都市型感染地域の主な感染媒介であり、中国では海南島沿海地域や広東省湛江地区、広西チワン族自治区欽州市及び北海地区、ならびに台湾南部等の北緯22°以南の地域に主に分布する。近年、雲南省瑞麗市等の辺境の熱帯地域でもネッタイシマカの分布が見られている。この蚊は屋内種の蚊に分類され、昼間にヒトを刺し、室内または住居周辺の容器に溜まった水等で主に繁殖し、ヒトとの関係が密接である。ネッタイシマカはCHIK伝播能力の最も強い蚊の一種であり、CHIK流行時におけるウイルス保有率は高い。
2.3.2.2 ヒトスジシマカ
この蚊はアジアに起源し、アジア、アメリカ大陸、太平洋の島々の熱帯、亜熱帯地域に広く分布する。中国での分布範囲も広く、多くの省が生息適地となっている。生息に最も適した地域は北緯30°以南、すなわち海南、台湾、広東、福建、雲南省等であり、北西方向では四川省東南部と陝西、山西、河北、遼寧等の省の南部及び甘粛省、チベット自治区の局地まで分布し得る。ヒトスジシマカは野生種の蚊に分類され、ヒトと家畜の血液を好み、野生及びヒトの生活地域のいずれでも活発に活動する。この蚊の卵は生存能力が強く、乾燥環境下でも生存できる。ヒトスジシマカは、媒介としては第2位と長らく認識されてきたが、実験室及び自然環境下のいずれにおいても、ウイルス媒介能力を示している。
2.3.2.3 コガタイエカ(Culex tritaeniorhynchus)
この蚊は主に熱帯、亜熱帯地域に分布し、ヒトと家畜の血液を好み、屋内優勢種に分類される。
このほか、タンザニアのハマダラカ、ネッタイイエカ(Culex pipiens fatigans)、ウガンダのシマカの一種(Aedes africanus)の体内からもCHIKVが分離されたことがある。
2.3.3 ヒトの感受性
ヒトはCHIKVに拡散環境をもたらす保有宿主であり、ヒトがCHIKVに感染すると、発症初期にウイルス性血症を生じる。CHIKVに感染したことのないヒトはこのウイルスに対して普遍的に感受性を持つが、CHIKVに感染してもすべての人が臨床症状を呈するとは限らず、大部分の感染者は不顕性感染者となる。CHIKV感染後は、発症の有無にかかわらず、一定の免疫能力を獲得できる。
2.4 流行因子
CHIKの流行は、蚊のウイルス保有状況及びウイルス伝播能力のみならず、自然の生態環境やヒトの免疫能力、社会の経済・衛生状況等の多くの要素と関係する。
2.4.1 生物学的因子
ネッタイシマカ及びヒトスジシマカは大部分のCHIK流行地域における主な感染媒介であり、CHIKVに高い感受性を示す。CHIKVの地域分布の特徴はネッタイシマカ、ヒトスジシマカの生息地域の分布と密切な関係があり、流行期もヤブカの活動期と密接に関係する。ヒトの免疫力が低い地域では、ヤブカのブレトー指数(Breteau Index; BI)が高まる(BI≥5)とCHIK流行が発生しやすい。
張海林(1992-1994)らはかつて、CHIKVに感染した中国のネッタイシマカ及びヒトスジシマカを用いて実験室研究を行ったところ、2種類ともCHIKVに高い感受性を示し、感染したメスの蚊が健康なハツカネズミを刺すとウイルスを伝播し、感染したメスの蚊にはさらに、卵を介してCHIKVを伝播する能力があることがわかった。研究の結果、中国ではこれら2種類のヤブカにCHIK流行要因があることがわかった。
感染源(例えばCHIKV保有者またはCHIK患者)がヤブカの分布地域に入ると、ヒト-蚊-ヒトの循環を経て当該感染症が発生・流行する可能性がある。CHINKはデング熱と同様、環境中のレゼルボアを必要としない。ヒトスジシマカによる虫媒性ウイルスの伝播能力はネッタイシマカに及ばないと一般に考えられているが、変異後のウイルスはヒトスジシマカに適応し、伝播を加速する可能性がある。
2.4.2 自然因子
研究の結果、降雨量等の気候因子はCHIKの発症率に非常に重要な影響を及ぼす。熱帯地域では雨季にCHIKの発症率が明らかに増加し、雨季後数ヶ月で発症率が低下する。CHIK発症率の低下は、ヤブカの吸血活動の減少やメスの蚊の寿命短縮・数の減少と関係する可能性がある。乾季においては、CHIKの流行は人口密度の高い地域で生じる可能性が最も高い。それは、このような地域では感受性の高い個体を提供し続けることができるだけでなく、住宅の周囲に蚊の生息・繁殖に適した場所が大量に存在するためである。
2.4.3 社会的因子
生活習慣、生態環境、人口流動及び衛生条件等の社会的因子もCHIKの影響因子である。沿海地域または水不足地域においては、各家庭に貯水容器及び溜め水の習慣があり、ヤブカに有利な繁殖場所を提供していることから、CHIKが発生または流行しやすい。インフラ建設の盛んな都市においては、建設現場の水溜りもヤブカの重要な繁殖場所となり得る。人口流動もCHIKVの伝播・拡大を一定程度加速する。例えば、児童生徒が学校で感染したヤブカに刺された後、CHIKVを家の中に持ち込み、または同じ都市の他の地区に伝播させる可能性がある。観光客や労働者の流動によっても、CHIKVは流行地域から非流行地域に伝播する可能性がある。2005年以降のインド洋の島々、アフリカ及びインドにおけるCHIKの発生及び流行は、人口流動による遠距離伝播と関係する。
3 展望
グローバル化の加速、特に航空業界や海上貿易等の交通業界の繁栄に伴い、CHIKVの伝播を阻止する地理的な障壁はすでに打ち破られ、ヤブカは短期間で長距離移動が可能になった。ヤブカが新しい環境に持ち込まれ、かつ、局地的環境に適応して生存し続けられれば、ヤブカ本来の分布範囲は拡大することになる。さらに、地球温暖化によって、もともとはヤブカの成長・繁殖に適さなかった地域も、気温上昇が原因でヤブカの生存適地となる可能性がある。CHIKVの主な媒介としては、中国ではヒトスジシマカがかつての長江以南から、今では黄河以北まで広がっている。
一方、ヤブカの自然分布地域においては、ヤブカの密度が一定の水準まで上昇し、かつ、気温や降雨量等の自然条件に恵まれた場合に、ひとたびCHIKVが感染源またはウイルスを保有した蚊によって導入されると、CHIKが局地的に発生・流行する可能性が非常に高い。また、中国ではCHIK感染の発生が非常に少なく、CHIKVに対する住民の免疫力が全体的に低いことから、当該疾病が発生・流行する可能性はさらに高い。さらには観光や対外貿易の急速な発展による輸入症例の増加は、CHIKの発生・流行リスクをさらに高めている。2010年10月にCHIKが広東省東莞市で集団発生したことにより、我々は中国で深刻さを増すCHIK感染のリスクを直視せざるを得なくなった。CHIKの発生・流行は中国の深刻な公衆衛生問題となり、莫大な経済損失をもたらす恐れがあるため、我々は警戒を高め、CHIKの防除に関する海外の経験と教訓を積極的に吸収し、対応能力を高め、防除措置を適切に行う必要がある。