第70号:中国の医薬品
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サルビアノリン酸Aの研究

2012年 7月30日

杜 冠華

杜 冠華(Du Guanhua):中国医学科学院、北京協和医学院薬物研究院副院長、研究員

 1956年12月生まれ。博士、研究員、博士課程指導教員、中国医学科学院、北京協和医学院薬物研究院副院長、薬物スクリーニングセンター主任。中国薬理学会理事長、アジア太平洋地域薬理学家聯合会執行委員会委員、国家科学技術重大事業「重大新薬創薬」専門家グループ専門家等を兼任。78~82年、山東医科大学薬学院薬学専攻(学士)。86~89年、同済医科大学薬理学専攻(医学修士)。92~95年、北京協和医学院薬理学専攻(博士)。95~98年、ベルギーのリエージュ大学でポスドク研究。現在、主に薬物の発見、高密度薬物スクリーニング、神経薬理学、心臓・脳血管系薬理学を研究。

共著者:張莉、張維庫、趙瑩、楊秀頴、方蓮花、王守宝、時麗麗、於暁彦、王夙博、楊海光、孫加琳、田碩 


 サルビアノリン酸A(Salvianolic acid A,SAA)は、シソ科植物の丹参(タンジン)の乾燥根及び根茎中に含まれる化合物である。SAAには顕著な抗酸化、心筋虚血の保護、抗血栓、神経の保護、抗肝線維化並びに糖尿病及び合併症の予防・治療等の薬理活性がある。

 初期のSAA研究は主に心血管系疾患に関係し、主に丹参の臨床応用上の特徴や治療効果を基礎に行われた。研究の結果、SAAは心血管系疾患に良好な予防・治療效果があることが証明され、丹参の臨床作用における物質的基盤を解明する根拠となった。

 研究により、SAAは脳の虚血-再灌流損傷、学習記憶障害、神経変性疾患のいずれにも良好な予防・治療作用があることが証明され、SAAの更なる臨床応用に科学的基盤を築いた。

 本研究室では、ラットのガラクトース糖白内障モデルに局部的にSAAを応用した結果、白内障形成に一定の抑制作用があり、白内障形成プロセスを減速させる上に、SAA群の動物細胞結晶内では過酸化水素及びMDA含有量が減り、タンパク中スルフヒドリル基及び総スルフヒドリル基が増加することが分かった。SAAはアルドース還元酵素に一定の抑制作用があり、糖白内障の予防・治療に一定の意義を持つことが分かった。また、本研究室の研究の結果、SAAは低用量でも糖尿病における末梢神経系の病変、腎線維化、肝線維化に良好な予防・治療效果を示した。

 SAAには広範な薬理活性があり、心臓・脳血管系疾患、肝線維化、糖尿病及び合併症、腫瘍等の疾患に良好な予防・治療效果を表し、心筋虚血の保護作用はサルビアノリン酸Bより優れる。

 上記疾患のいずれでも酸化ストレスが重要な役割を果たすため、多くの作用機序の分析では、SAAのこれら薬理作用は強い抗酸化活性と不可分の関係にあると認識された。SAAは多くのフェノール性水酸基を持つため、活性酸素の除去により脂質の過酸化を軽減し、疾病への酸化ストレスの影響を改善できる。

 SAAの化学研究はこの数年大きな進展を遂げており、特に現行技術では生薬中の含有量がわずか0.01%~0.03%のSAAの抽出率をすでに0.5%以上まで引き上げ、純度も90%以上に達している。SAAの薬理作用研究や薬物動態学研究のスタートはやや遅かったものの、生体内におけるSAAの基本的な薬物動態特徴はすでに明確になりつつあり、上記研究により、SAAのピーク到達時間は比較的早く、半減期は短く、主な代謝経路はメチル基化及びグルクロニダーゼ化であることが分かる。

 SAAの強い薬理活性に鑑み、SAAを使用した心臓・脳血管系疾病、糖尿病及び合併症等の予防・治療新薬の開発はすでに研究の関心事となっているが、可能となる作用機序については更なる研究が待たれる。

 本研究室の既存の実験結果によれば、SAAは心血管疾患、糖尿病及び合併症の予防・治療の面で抗酸化活性と完全に関係があるわけではなく、ミトコンドリア機能の調節及び炎性因子生成の抑制等の活性により、SAAはさまざまな経路から作用を及ぼす可能性があることが示されている。SAAの現行製造技術は抽出率が顕著に高まっているとは言え、多くはやや複雑で産業化が困難であり、生産コストが高いため、抽出率及び純度要求を保証した上で生産プロセスを如何に簡略化するかが今後の化学研究の関心事となろう。この他、SAAの薬物動態学的特徴はまだ完全に解明されていないため、適切な剤型の選択もSAAの吸収等に影響を及ぼすだろう。SAAの化学、薬理、薬物動態等の研究が全面的に進められるにつれ、SAAが心臓・脳血管系疾患、糖尿病及び合併症等で確実な薬効を有し、安全で信頼性の高い新薬が開発されることを確信する。