コンピュータ支援医薬品設計による新薬研究開発
2012年 7月27日
劉 艾林(Liu Ailin):中国医学科学院 薬物研究所研究員、
博士課程指導教員
1968年2月生まれ。2005~09年、マカオ大学中華医薬研究院(生物医薬博士)。95年から薬物研究所に勤務。コンピュータ支援医薬品設計、薬 品のバーチャルスクリーニング、薬学情報学、抗 インフルエンザウイルス薬及び抗アルツハイマー病薬の発見及び機序の研究に従事。
共著者:杜冠華、高麗
分子生物学及びX線結晶学の発展に伴って、疾病と関係する多数の生体高分子の三次元構造が分かってきた。また、コンピュータによるデータマイニング、機械学習技術の進歩によって、コ ンピュータ支援医薬品設計(Computer-Aided Drug Design, CADD)が誕生し、新薬開発のさまざまな段階に活用されている。
CADDは医薬品研究開発の成功率を高め、開発コストを減らし、開発周期の短縮が可能となるため、創薬の核心技術の一つとなっている。CADDは、理論や思考をイメージ化し、医薬品設計をより直感的で、迅 速かつ効果的にする。
創薬標的の発見及び確証は、新薬研究開発の第一歩であり、創薬プロセスのボトルネックの一つでもある。CADDの応用によって、標的発見のスピードや正確性を高めることで、新 薬の研究開発を促進することができる。バイオインフォマティクス(生物情報科学)は、ゲノミクス(ゲノム科学)、プロテオミクス(プロテオーム解析)等のデータをコンピュータで収集、保存、分析、処理し、標 的の分類を実行する。
構造に基づく医薬品設計(Structure-Based Drug Design,SBDD)とは、創薬標的の構造に基づき、受容体と小分子の間の相互作用を研究することで、活 性ポケットと相補関係にある新分子を設計し、又は新型の先導化合物を探す技術である。SBDD法には分子ドッキング、新規医薬品設計等が含まれる。
国内外でのSBDD技術の応用は、顕著な実績を挙げており、多くの薬品が実用化され、あるいは臨床研究段階に入っている。成功した典型例を表1に列記する。
薬品名 | 疾病 | 標的 |
カプトプリル | 高血圧 | アンジオテンシン変換酵素 |
ドルゾラミド | 緑内障 | 炭酸脱水酵素 |
サキナビル | エイズ | HIVプロテアーゼ |
ザナミビル | インフルエンザ | ノイラミニダーゼ |
グリベック | 慢性骨髄性白血病 | チロシンキナーゼ |
アリスキレン | 高血圧 | レニン |
ニロチニブ | 慢性骨髄性白血病 | チロシンキナーゼ |
ビクトレリス(ボセプレビル) | C型肝炎 | HCVプロテアーゼ |
ノラトレキセド | 肝臓がん | チミジル酸合成酵素 |
TMI-005 | リウマチ様関節炎 | TNF-α |
LY-517717 | 静脈血栓塞栓 | Xa因子 |
NVP-AUY922 | 腫瘍 | 熱ショックタンパク質90 |
新薬の研究開発におけるCADDの応用は喜ばしい成果を挙げており、将来性が期待できる。しかし、CADDは新しい技術であるため多くの限界があり、改善が待たれる。また、C ADDは新薬開発の支援方法の一つに過ぎず、万能ではなく、計算結果は実験データの代替とはならず、医薬品設計は最終的に実験で検証する必要があり、実験結果に基づいてCADDを改善する必要がある。