第97号
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ロボット技術の進展

2014年10月29日  徐 揚生、閻 鏡予(香港中文大学、中国科学院深セン先進技術研究院)

はじめに

 ロボット技術は、自動化技術とコンピュータ技術を主体とし、各種の近代情報技術を有機的に融合した総合技術である。半世紀余りの発展において、ロボット技術はまず、工業生産分野で広範に応用され、生産クオリティを大幅に引き上げ、労動力の解放に成功した。その後、ロボット技術は国防・航空・宇宙・航海などの関連分野に拡張され、高精鋭の軍用ロボットや特殊ロボットを生み出した。近年、ロボット技術の不断の発展に伴い、ロボットの人工知能化はさらに進み、家庭用ロボットが一般家庭の生活にも登場しつつある。

1 中国国内のロボット技術の進展

 中国のロボット分野はスタートが遅く、その発展は多くの曲折を経てきた。だが政府・研究機構・産業界の三方の絶え間ない努力によって、中国のロボット技術は近年、巨大な進歩を遂げている。

1.1 工業ロボットの進展

 工業ロボットは、一国の製造水準と科学技術水準をはかる重要な指標である。中国はすでに、アーク溶接やスポット溶接、塗装、運搬、組み立て、特殊ロボット(水中、壁面走行、管内走行、遠隔操作などのロボット)の分野において、完全な設計製造技術を把握し、制御と駆動のキー技術の開発をクリアしている。例えば、ハルビン工業大学は2008年9月、国内初の165kg級のスポット溶接ロボットを開発し、奇瑞汽車の溶接現場での応用に成功し、総体技術指標は国外の同類ロボットの水準に達した。また新松機器人(ロボット)公司の開発したRH6アーク溶接ロボットも、溶接クオリティで国外の同類製品の水準に達した。同社が設計製造したLGV(レーザー誘導式無人搬送車)も世界一流の水準に達している[1]

 基礎部品製造の面では、中国は、波動歯車減速機や高効率モーターの製造分野で突破を実現し、交直流サーボモータとその駆動系統、タコジェネレータ、光電エンコーダ、液圧(気圧)部品、ボールねじ軸、リニアローリングガイドレール、波動歯車減速機、RV減速器、十字クロスローラベアリング、薄肉ベアリングなどの開発に成功しており、高い実力を誇る専門メーカーを出現させている[2]

1.2 サービスロボットの進展

 高齢化の加速に伴い、中国でもサービスロボットはますます広い関心を集めつつある。サービスロボット産業は今後、家電とパソコンに引き続き、世界の経済発展の重要な成長分野となると見られる[3]。中国のサービスロボット関連の研究は、20 年余りのたゆまぬ努力を経て、すでに世界の先頭集団に入っている。

 監視ロボットの分野では、中国科学院深セン先進技術研究院が家庭用監視ロボットを開発した。このロボットは、家の中を隅々まで自在に移動し、水漏れや失火、ガス漏れなどがないかを監視し、異常を発見したらすぐに主人の携帯電話に通報メールを自動発信することができる。また侵入者があった場合にも、その写真をすぐに送信する仕組みとなっている。

 高齢者サービスロボットの分野では、中国科学院深セン先進技術研究院が執事ロボットを開発した。このロボットは、ユーザーのスマートホンから送られた指令を受け取り、特定の目標物を取ってくることができ、高齢者に便利な生活を提供するものとなっている。また中国科学院自動化研究所は、視覚と口頭指令によるナビゲーション機能を備え、人と言語によるインタラクションができるロボット車椅子を開発した。この車椅子は、言語を通じて車椅子を制御し自由に移動することができるだけではなく、簡単な人とマシンとの対話機能も実現されており、行動の不自由な高齢者や障害者に便利を提供するものとなる。

 人型ロボットの分野では、2011年11月、浙江大学が開発した人型ロボット「悟」と「空」が、人間との卓球の打ち合いを実現し、100回以上の玉のやりとりに成功した。

1.3 水中ロボットの進展

 現在、国際海洋分野での競争はますます苛烈となっている。水中と水面における運搬と作業のプラットホームとして、海洋ロボットはすでに、各国が海洋競争力を向上させるのに不可欠な技術手段、戦略ニーズとなっている[4]

 中国の海洋ロボットの発展は、スタートは遅かったものの、政府と研究員のたゆまぬ努力を経て、誇るべき成果を実現してきた。例えば、中国科学院瀋陽自動化研究所は国際協力を通じ、水深6000m級の自律水中ロボットの開発に成功し、中国の水中ロボットの研究と開発を世界の先端水準に引き上げた[5]。2006年、中国は、世界最大の有人潜水船「海極一号」の開発に成功した。同船の作業水深は7000mに達し、世界の99.8%の海底に到達することができる。作業可能深度は、世界の同類製品5基よりも500m深い。2011年8月、中国が独自で設計・組み立てを行った有人潜水艇「蛟竜号」が深海5000mへの潜水を実現した。中国はこれで、3500m以上の有人潜水能力を持つ世界で5番目の国となった。資源調査と科学研究への応用と深海実験に堅固な土台を築く成果となった[6]

 2010年、中国科学院が開発した港湾水質監視用の"ロボットイルカ"が第12回ハイテク交易会で発表された。イルカの形をしたこのロボットは、イルカの波運動を模倣した移動法を取り、安全にすばやく水質監視を行うことができる。

1.4 宇宙ロボットの進展

 宇宙ロボットは、宇宙科学研究の重要な補助ツールであり、宇宙科学の研究に対して積極的な推進作用を持っている。宇宙科学はすでに、急速な発展階段に入っており、各大国はいずれも宇宙探査や宇宙開発などの面で広大な発展計画を制定している。今後の宇宙活動においては、宇宙における加工・生産・組み立て・科学実験・メンテナンスなど大量の作業がなされるようになると考えられる。こうした大量の作業は、宇宙飛行士だけによっては完遂することはできず、宇宙ロボットなどの自動化人工知能設備を十分に利用する必要のあるものである[7]

 宇宙ステーション「天宮1号」と宇宙船「神舟8号」の打ち上げ成功とドッキングの成功は、中国が順当に宇宙大国へと登りつめたことを示す成果となった。中国は近年、宇宙ロボット分野でも急速に進歩を遂げており、このことは中国の宇宙事業の発展をさらに推進するものとなる。例えば、月面車開発の分野ではここ数年で、多岐にわたる成果が実現された。2008年1月、北京工業大学は、月面車のワーキングサンプルを他の機構に先駆けて開発した。これに続き、中国航天科技集団公司が筆頭となって開発した中国初の月面車エンジニアリングサンプルが同年4月にプロジェクト検収を通過した。同年6月には、ハルビン工業大学の月面車サンプルが、月面地形シミュレーション環境での試験を通過し、月探査プロジェクトの月面車が必要とする基本機能を備えたことが証明された。

1.5 教育ロボットの進展

 工業生産と科学探査に対するロボットの促進作用と巨大な影響はすでに周知となっているが、教育に対するその独自の作用と価値への注目も日増しに高まっている。米国や欧洲、日本、韓国などの先進国はこれを非常に重視しており、中国も近年、教育ロボットの発展に注目し始めている。工業ロボットとは異なり、教育ロボットは教育を第一の目的とし、ロボットの教育的価値を重視し、教育理念を指導とし、教学補助を目的とするものだ[8]

 現在、教育ロボットは主に、ロボット競技大会の形式で役割を発揮している。競技大会を通して、学生の能動的能力やコンピュータ応用能力、革新的思考能力を重点的に育成し、学生の科技革新能力を効果的に引き出し、総合素質の育成を進めることができる。

 中国の高校生や大学生は近年、世界的な多くのロボット競技大会で輝かしい戦績を収めてきた。2011年4月に行われた「第17回消防ホームロボットコンテスト(Fire Fighting Home Robot Contest)」では、中国の代表団が8種目で優勝、6種目で準優勝し、金メダルの数は世界一で、史上最高記録を収めた。同年7月、中国科学技術大学代表チームは、「第15回ロボカップ(RoboCup)」において、2Dシミュレーションサッカーで優勝、サービスロボット分野で準優勝を獲得した。こうした成績は、中国の若者がロボット技術分野で世界級の潜在力を持っていることを示している。

2 未来の展望

2.1 突破が待たれる基礎研究

 一般家庭へのロボットの全面的普及は、人類が近い将来に確実に実現することのできる夢である。だがその日をできるだけ近付けるには、ロボットのセンサ・判断・動作という3つの面での研究を同時に進め、多くの基礎科学の研究を強化する必要がある。

 第一に、イメージの理解。視覚は、人類が情報を獲得する最も重要なソースである。ロボットのイメージ理解に対する要求は、人類の生活環境におけるロボットの自然な作業を確保するための重要な条件である。

 第二に、人とマシンとのインタラクション。ロボットは、"人"と称することも可能なマシンであり、人とのインタラクション能力を必ず備えていなければならない。人と人との間の交流は主に言語によってなされるため、この実現には、音声識別・音声合成・自然言語理解などの多くの分野の研究がかかわってくる。

 第三に、人工知能の記述。知能とは一体何か、人の脳における知能の保存方式と表現方式とはなにか、いかに知能を記述するかなどの問題は、哲学の問題であり、生理学の問題でもあり、認知学の問題でもあり、同時にロボット学の問題でもある。ロボットをさらに聡明にし、人類と比肩しさらに人類を超越した知恵を持たせるためには、知能の本質に対する研究を深めなければならない。

 第四に、計画と制御。ロボットが作業を自律的に完遂するためには、自身の行為に対して計画と制御を行う必要がある。計画は、動作の計画や任務の分配、作業の管理、最適化などにかかわる。制御は、姿勢の制御や運動の制御、エネルギーの制御などにかかわる。

 第五に、ネットワークの普及。単独のロボットは、分散された作業ノードである。もしもロボットを一つのネットワークに連結すれば、大きな情報量と強力な機能を持ち、複雑な任務が可能な、大型ネットワークプラットホームを形成することができる。ロボットネットワークは、情報や資源のネットワークのほか、任務のネットワークや行為・動作のネットワーク、判断管理のネットワークなど高次のネットワーク環境が含まれる。

2.2 国民経済に対する主導作用

 人類史が示すように、ある技術が大きく推進される際には、一群の関連するハイテクノロジーが生み出される。例えば、第二次世界大戦後、米国がアポロ計画を進めていなければ、コンピュータ技術も誕生していなかっただろう。1960年代後期から発展が始まったロボット技術もまた、多くのハイテク産業に対して重要な推進作用を発揮している。

 第一に、設備製造業に対する主導作用。ロボット産業は、製造・組み立て・加工などの産業におけるグレードアップと産業転換を促している。国内の人件費が年々増加するに従い、産業の転換とグレードアップは焦眉の課題となっている。精度と信頼性の高い工業ロボットによって労働力を代替することによってのみ、製造業の高い付加価値と革新性を確保し、ハイテク問題のボトルネックを突破し、中国の製造業の水準を根本から引き上げることができる。

 第二に、家電産業に対する主導作用。ロボットは多くの電子部品によって構成されており、ロボットに対するユーザーの高い要求は、電子部品に対する高い要求ともなっている。ロボット市場の拡大は、電子部品市場の拡大を必然的に促すこととなる。同時に、ロボットの人工知能技術と電子製品の結合は、知恵を備えた一群の電子製品を形成し、電子製品の性能を大きく向上させ、電子製品の種類を増加させるものである。

 第三に、医療診断業に対する主導作用。健康に対する人々の注目が高まるにつれ、ホームモニタリングの市場はますます拡大している。ロボット技術は、医療機器の家電化・携帯化・小型化・知能化を導くだけでなく、医療診断の水準を効果的に高めることにもつながる。

 第四に、機器・計器業に対する主導作用。人間の五感に達しさらにこれを超える感度と解析度を実現するには、高品質で多様なセンサをロボットに使用する必要がある。

 第五に、航空宇宙事業に対する主導作用。航空宇宙産業において、ロボットはすでに、宇宙探査に欠くことのできない道具となっている。月や火星の探査では、ロボットはすでに人の役割を代替している。同時に、低軌道の宇宙においては、宇宙ロボットを用いて衛星をメンテナンスしたり、ロボット技術を次世代衛星の設計に直接応用して知能衛星を作ったりすることは、衛星の寿命を伸ばし、使用コストを下げ、自己防衛能力を高めるための必須の道となっている。

2.3 研究開発の動向

 第一に、基礎建設の強化。中国のロボット技術の大きな問題は、堅固な基礎が築かれていないことにある。ロボット技術の持続的な急速発展を実現するには、基礎を強化することが前提となる。

 第二に、サービス型ロボットの重点開発。人々の生活水準の向上に伴い、ロボットは少しずつ家庭に入り、人へのサービスを引き受けるようになり、生活方式の革新を進めつつある。中国のロボットの発展の重点も、工業ロボットからサービス型ロボットへと転換し、新たな発展のチャンスをつかまなければならない。

 第三に、革新の重視。中国のロボット技術の研究はこれまで、国外技術を後追いしたものが多く、自主革新が不足していた。キー技術の分野での制約は、中国のロボット技術の発展を制限する要因となってきた。このため我々は、革新をとりわけ重視し、中国のロボット技術の発展に力強い動力を与える必要がある。

 第四に、ロボットの産業化の実現。ロボット技術は最終的には応用に向けられたものであり、工業から家庭、教育、軍事の分野まで、ロボットが応用されない分野はない。科学研究機構は、企業との広範な協力を通じて、ロボットを実験室から出し、製品として実現し、人々の生産と生活へと応用していかなければならない。


※本稿は中国科学院編『2012高技術発展報告』(科学出版社,2012年),第二章 信息技術和信息化新進展 徐揚生,閻鏡予「機器人技術的新展開」を日本語訳・再編集したものである。


[1] 李瑞峰『中国工業ロボット産業化発展戦略思考』航空製造技術. 2010(9): 32-37.

[2] 趙臣、王剛「中国工業ロボット産業発展の現状の調査研究報告」『ロボット発展戦略研究報告』. 2009:178-207.

[3] 国家863計画智能ロボット専門家チーム『ロボット博覧』中国科学技術出版社. 2001年1月.pp:18

[4] 封錫盛、李一平、徐紅麗「次世代海洋ロボット:人類の深度世界記録10912m樹立50周年に寄せて」『機器人(ロボット)』. 2011(1):113-118.

[5] 封錫盛、劉永寛「自律水中ロボット研究開発の現状と趨勢」『高技術通訊』. 1999(9):55-59.

[6] 封錫盛「ケーブル遠隔操作水中ロボットから自律水中ロボットへ」『中国工程科学』. 2002(12):29-33.

[7] 呉立成、孫富春、孫増圻「宇宙ロボットモデリング・計画・制御研究の現状分析」『中国知能自動化会議論文集』中国青島. 2005: 1039-1043.

[8] 張剣平、王益「ロボット教育:現状、問題、推進戦略」『中国電化教育』. 2006(12):65-68.