第105号
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中国のビッグデータ発展の現状と趨勢(その2)

2015年 6月30日

程 学旗:中国科学院計算技術研究所

楊 婧:中国科学院ネットワークデータ科学・技術重点実験室

靳 小竜:中国科学院ネットワークデータ科学・技術重点実験室

二、中国のビッグデータ発展の動向

 ビッグデータ時代の到来を迎えるべく、中国政府は積極的にビッグデータの発展を促進する戦略計画を制定している。産業界も、これに応じて戦略の調整と手配を行っている。

2.1 中国政府のビッグデータ発展促進に向けた戦略的計画

 国務院は2012年8月、情報消費の促進による内需拡大に関する文書を制定、企業による情報インフラのアップグレードを加速し、IT製品の供給能力を高め、業界連盟を形成し、業界標準を制定し、ビッグデータ産業チェーンを確立することにより、イノベーション・チェーンと産業チェーンを効果的に結びつけた。また、ビッグデータ研究プラットフォームを設立し、イノベーション資源を統合し、特別計画を実施し、キーテクノロジーの研究で飛躍を遂げた[8]。広東省は他に先駆けてビッグデータ戦略を始動させ、現地政府のモデルチェンジを推進した。北京は現在、政府によるビッグデータの一般公開について積極的に模索している。上海もビッグデータ研究開発の三年アクションプランを始動した。

 中国工業・情報化部は、ビッグデータ産業の発展を奨励・推進するため、次の3つの措置を制定した。まず、すでに可決された「情報消費の促進による内需拡大に関する意見」、「ソフトウェアと情報技術サービス業の『第12次五カ年計画』」などの政策・計画の中で、ビッグデータ発展の方針を打ち出した。次に、全国情報技術標準化技術委員会を組織し、ビッグデータ標準化の需要分析を行い、標準体系の枠組み研究および関連の標準研究を実施。国際標準化機構にビッグデータ研究案を提出した。さらに、プロジェクト資金などを利用して、キーテクノロジー製品の研究開発と産業化を支援した。

 2014年5月15日、上海市は各級の政府部門によるデータの対外開放を推進し、社会によるデータの加工と運用を奨励した。上海市経済情報化委員会が発表した「2014年度上海市政府データ資源の社会開放業務計画」に基づき、現在までに、190項目のデータ内容が2014年の重点開放分野として確定された。これらのデータは28の市級部門を網羅し、公共安全、公共サービス、交通サービス、教育・科学技術、産業発展、金融サービス、エネルギー・環境、健康・衛生、文化・娯楽など11分野に関係する。うち、市場監督管理類のデータと交通データ資源の開放が重点とされ、市民と密接に関連するこれらの情報の検索が、将来的に完全に開放される。これは、企業が上海でビッグデータを活用して「金鉱を開発」できる時代の到来を意味する。交通運輸や飲食など、上海の民生に関連する産業への企業の投資が、もはや抽象的な概念ではなくなった。

 福建省政府は、数字福建(長楽)産業パーク、中国国際情報技術(福建)産業パークの建設を加速し、省のビッグデータ産業重点パークおよび「デジタル福建」建設の重要拠点とするため、パークの発展計画の完備、リーディングカンパニーの誘致・育成、資源の集約・開発、ビッグデータ革新プラットフォームの建設、人材の誘致・育成強化、パークの用地保障、パーク内の電力确保、パーク内のインターネットサポート強化、税制優遇政策の実施、安全保障能力の向上という10方面から支援を行った。リーディングカンパニーの誘致・育成の面では、福建省は市場開放、資源開発、技術調達、サービスアウトソーシングなどを通じて、大企業・大業界・大プラットフォームの誘致に取り組み、国家部(省)・委員会、中央企業、電気通信キャリア、金融機関、大手IT企業、インターネット企業などを誘致し、次世代の情報技術設計・研究開発・生産拠点を建設、業界的なビッグデータ・クラウドプラットフォームを発展させた。また、ビッグデータ産業チェーンの各分野のリーディングカンパニーを誘致し、分野ごとに細分化された全国をリードするビッグデータサービスプロバイダーを育成した。

2.2 中国ビッグデータの産業界の戦略的調整と取り組み

 中国移動(チャイナ・モバイル)は「スマートパイプ」の構築、「オープンプラットフォーム」の確立、「特色業務」の実施、「友好的なインターフェース」の提供という、ビッグデータ時代の新たなモバイルインターネット戦略を打ち出した。これは、モバイルインターネット時代の全面的な幕開けにおける、中国移動の新たな戦略的位置づけを体現している。中国移動は2014年に蘇州研究開発センターを設立し、3000-4000人からなる研究開発チームと運営チームを結成する計画だ。これは、クラウドコンピューティングとビッグデータ製品の体系をより一層完備し、世界一流のクラウドコンピューティングとビッグデータサービス能力をできるだけ早く形成することを目的とする。中国移動は大雲(ビッグ・クラウド)産業連盟を結成し、技術プロバイダー、インテグレータ、大学、政府機関など、50以上の機関と、コアモジュール、ライセンス技術サービス、アプリの開発技術といった異なるレベルの産業で協力を展開している。

 百度、アリババ、騰訊(テンセント)、360などのインターネット企業は、それぞれが持つデータ面の強みを活かし、すでにビッグデータを企業の重要戦略に位置づけている。ビッグデータは現在、理論から実践段階へ、専門分野から全国民による利用の段階へと向かっている。

 百度のビッグデータの取り組みで印象深いものとしては、公益プロジェクト・百度遷徙が挙げられ、民生・ニュースなどの分野で活用されている。最新の動向としては、広告配信ネットワークサービス「百度網盟」がビッグデータに基づくCTR(クリックスルー率)データを利用し、サイトの平均収入を70%引き上げた。

 アリババは、すでに100PBのデータ処理が可能になったと発表、その処理量は驚くべき速度で増加しているという。同社の馬雲会長は最新の内部メールで、アリババの戦略として「クラウド+ビッグデータ」を挙げ、アリババがデータ時代に突入するとしている。2014年10月14日、アリババ・グループはワイヤレス開放戦略を発表、「百川計画」をスタートさせ、アリババのワイヤレス資源を全面的に共有し、モバイル開発者に技術、データ、ビジネスなど全面的なインフラサービスを提供した。百川計画はアリババのワイヤレス開発の重要プラットフォームであり、技術、データ、電子商取引能力という面から、モバイル開発者に基礎サービスを提供する。うち、クラウド技術面ではアーキテクチャの構築、データストレージ、セキュリティなどのサービスを提供し、専門スタッフが一対一でアプリの開発、メンテナンス、技術サポートを担当する。ビッグデータ面では、モバイルアプリ統計分析プラットフォームと提携し、開発者の精確なデータマイニング分析および、カスタマイズ化されたプッシュ配信システムの完備を支援する。

 2014年10月10日、360は初のデジタル世界大会を開催し、ビッグデータを活用した効果的なマーケティングを支援する3つの製品(「実效平台」、「聚效平台」、「来店通」)を発表。360は、これら3つの製品について、数十億のユーザー情報データをまとめ、広告主に無償で共有するものだと紹介した。

 ショッピングサイト大手の京東商城もワイヤレス分野で深いレベルの模索を進めている。まず、モバイルデバイスを十分に活用した、ユーザーフレンドリーな機能。例えばマルチモード・インタラクティブ機能では、京東のアプリを使うことで、ユーザーはモバイル端末のカメラで撮影・スキャンするだけで商品を購入できる。このほか、京東はより精確なサービスを提供するため、積極的にビッグデータ技術を駆使してユーザーのニーズを発掘している。膨大なデータ通信量が発生する微信(WeChat)で、京東微信ショッピングのクラウドファンディング活動を行い、1カ月で参加者は延べ40万人に達した。

2.3 中国、ビッグデータ産業パークの発展を推進

 前述の通り、ビッグデータはすでに全ての業界とビジネス分野に浸透しており、徐々に重要な生産要素になりつつある。2020年には、中国のデータ産業市場が2兆元以上の規模になるとする予測もある。しかし、いかなる技術概念もどこかに「根を張る」必要がある。先進的技術は産業と結びつき、経済の発展を推進してこそ、真の意味での生産力になることができる。産業を根付かせてこそ、真の意味で経済発展を推進でき、中国のビッグデータ産業がバブルを脱却し、健全な発展の道に入ることができる。

 産業パークは産業クラスターの重要なキャリア・構成部分であり、その経済効果はますます多くの注目を集めている。産業パークは効果的に凝集力を生み出すことができ、資源の共有、外部からの負の影響の克服を通じて、関連産業の発展をけん引でき、効果的に産業クラスターの形成を推進できる。ビッグデータ産業パークはビッグデータ産業の集積エリア、あるいはビッグデータ技術の産業化プロジェクト・インキュベーションエリアであり、産業化に向かうビッグデータ企業が集まるエリアである。ビッグデータ産業パークはその規模、ブランド、資源などの価値を通じて、地域経済発展と企業資本の拡張に大きな役割を果たすことができる。その具体的な内容は以下の通り。

1)事業効率の向上:

 ビッグデータ産業パークの建設により、ビッグデータ企業の発展に必要な様々な資源が急速に集まる。相互補完型の企業、産業チェーンの上下流に位置する企業などを誘致し、企業のために良好な発展の場、企業が羽ばたくための重要なプラットフォームを提供できる。

2)地域ブランドの向上:

 ビッグデータ産業パークの建設は、大量のハイテク企業の入居をもたらす。これは、地域経済の急速な発展をけん引し、地域経済の建設に効果的な促進力をもたらす。このほか、ビッグデータなどの新興技術産業への国の重視が高まるに従い、ビッグデータ産業パークを建設した地域は国の発展計画をリードする地域となり、当該地域の知名度が高まる。これにより、さらに多くのハイテク企業の投資を誘致できる。

3)社会的価値の創造:

 ビッグデータ産業パークは建設規模が大きく、投資金額も膨大で、完成後の年間生産高、納税額などの面でも大きな貢献が見込まれる。また、現地の失業者の雇用問題を直接的に解決できる。このほか、宿泊施設、レストラン、ビジネスエリアなど、パーク内の生産・生活関連施設は、パーク内の職員のニーズを満たすだけでなく、地域全体とその他のサービス型企業に大きな経済利益をもたらす。ビッグデータ産業パークは、経済的効果を創造する一方で、大きな社会的効果も得られるのである。

 ビッグデータ産業パークの建設により、より効果的にビッグデータを統括・活用することができるようになり、科学技術が社会発展にもたらす大きな推進作用をより良く発揮させることができる。

 中国のビッグデータ産業はスタートが遅く、インターネット技術も遅れているため、中国のビッグデータ発展は、先進国とはまだ格差がある。一方で、中国は膨大な数のユーザーという強みも持つ。毎日膨大なデータが生まれると同時に、利益を受けるユーザー数も極めて多い。政策環境から見ると、中国はまだ完備された情報データ関連の法律法規を打ち出しておらず、プライバシー問題に関して、執行可能な明確な規制が確立されていない。政府のデータ開放の面においても一層の強化が望まれる。

2.4中国ビッグデータ業界協会が相次いで設立

 IT技術の迅速な発展に伴い、爆発的に増加するデータが各業界の直面する共通の問題となっている。ビッグデータがもたらす課題に効果的に対応し、ビッグデータがもたらすチャンスを十分に活用すべく、2012年5月、「インターネットデータ科学とプロジェクト ─ 新興の学際的学科?」をテーマとする第424回香山科学会議が北京香山飯店で開催された。会議では、中国コンピュータ学会の下にビッグデータ専門家委員会を設立することが建議され、2012年10月に正式に設立された。以来、業界のビッグデータへの注目が高まり、中国のビッグデータ業界協会が相次いで成立、中国通信協会、中国電子協会などもビッグデータ専門家委員会を設立し、各界の関係者が共同で中国ビッグデータ技術および産業の発展を推進している。

 中国コンピュータ学会ビッグデータ専門家委員会は2012年10月に設立、中国科学院計算所の李国傑院士が主任に就任した。その趣旨は、第一に、ビッグデータの核心となる科学・技術問題を研究し、ビッグデータの学科方向性の建設と発展を推進すること。第二に、ビッグデータの産学研向けの学術交流、技術協力、データ共有のプラットフォームを築くこと。第三に、関連の政府部門に対し、ビッグデータ研究と応用の戦略的意見・建議を提供すること。ビッグデータ専門家委員会の下には5つの業務グループが設けられ、それぞれ専門家委員会の会議(学術会議、技術会議)、革新と創業大会、発展戦略、ビッグデータ応用と産業化を担当する。

 2012年10月に設立した中国通信学会ビッグデータ専門家委員会は、中国通信学会が中心となって立ち上げた、中国初の、ビッグデータの応用と発展を専門的に研究する学術諮問機関である。その主な任務は、ビッグデータ発展の重点問題に関するシンポジウムの開催と建議の提出、ビッグデータ関連の理論・方法・実践課題の研究、企業のビッグデータ研究開発に向けたコンサルティングサービス提供、産業間の資源共有と協力促進などである。専門家委員会の主任委員は中国工程院士、中南大学学長の張堯学院士が担当し、政府部門、学術界、研究機関、企業の著名な専門家・学者が委員を担当する。

 2012年12月13日に設立した中関村ビッグデータ産業連盟は、中関村管理委員会が直接指導する産業連盟である。連盟の設立趣旨は、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、産業革新の波がもたらす戦略的チャンスをつかみ、製造業者、ユーザー、投資機関、学校、研究機関、政府部門の力を統合し、研究と交流、データ共有、共同開発、普及・応用、産業標準の制定と実施、人材育成、業務・投資協力、政策サポートの促進などを通じて、データ開発の共有を実現し、関連技術と産業の飛躍的な革新と、産業の飛躍的な発展を実現し、世界をリードするビッグデータ技術、製品、産業、市場の育成を推進することである。

 2013年3月22日に設立した中国国際経済貿易ビッグデータ研究院(中国ビッグデータ・スマート都市研究院)は、国家工業・情報化部中国電子商取引協会に属し、国家工商総局と国家発展改革委員会情報センターが共同で設立・管理する機関だ。主に、ビッグデータ応用とスマート都市建設の課題研究に取り組み、ビッグデータ専門技術人材を育成、科学技術産業ビッグデータ応用開発任務を担当し、スマート都市のソリューションを提供する。

 2014年1月16日に設立した「データセンター連盟」(Data Center Alliance)は、国家工業・情報化部通信発展司の指導の下、電気通信研究院が国内の電気通信キャリア3社および主なインターネット企業約10社、国内の主なハードウェアメーカーおよび、若干の研究機関・組織と共同で発起・設立したものである。現在、連盟の会員機関は71機関、うち、全権会員機関は30機関、高級会員機関は4機関、一般会員機関は37機関となる。連盟の主な業務は、データセンター、クラウドコンピューティング、ビッグデータの技術と業務研究を推進し、国内外のデータセンター業界の動向を把握し、政府と企業の発展戦略制定の根拠を提供すること。データセンターとクラウドコンピューティングの情報サービスプラットフォームを構築し、業界、市場などに公共情報サービスなどを提供することである。

 2014年4月に設立した中国電子学会ビッグデータ専門家委員会は、複数の学科の専門家112人からなる。このような交流プラットフォームおよびメカニズムは、業界に技術的サポートを提供し、国内のビッグデータ発展を力強く推進し、中国の情報産業とサービスに大きな原動力を提供することができる。

 2014年8月27日に設立した中国情報協会ビッグデータ分会は、中国共産党第18回全国代表大会の「新四化(新型工業化、都市化、情報化、農業近代化)」共同発展の精神を着実に実施するために中国情報協会が組織したものである。その趣旨は、国内の産学官研の各界と協力して世界のビッグデータ発展のチャンスと戦略的資源を把握し、中国ビッグデータ産業の発展を促進することである。

 2014年11月18日に設立した中国法律ビッグデータ連盟は、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、モバイルインターネットなど各分野の専門家資源と学術的な強みを統合し、法律ビッグデータの研究と応用に向けて最先端の理論的サポートを提供し、法律ビッグデータと法律クラウドが、国家ガバナンス、国土安全、インターネット・セキュリティおよび経済社会の発展といった分野において、より重要な役割を発揮できるようにする。連盟は中国法律ビッグデータ研究センターを設立、「中国法律ビッグデータ青書」を作成したほか、法律ビッグデータ学術シンポジウムを開催、法律ビッグデータ・ラウドサービスプラットフォームを構築し、法律ビッグデータとクラウド技術を分析・発掘し、法治国家・法治政府・法治社会の一体化建設における法律ビッグデータの応用を模索している。

その3へつづく)

参考文献:

[8]Wang YZ、 Jin XL、 Cheng XQ. Network big data: Present and future [J]. Chinese Journal of Computers、 2013、36(6):1125−1138.