第108号
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2015年中国留学帰国者の就業起業調査報告(その2)

2015年 9月15日  中国総合研究交流センター編集部

その1よりつづき)

三、留学帰国者の起業状況の分析

(一)留学帰国者が起業の都市を選ぶ際に考慮する要素は多元化し、起業分野はハイテクと近代サービス業に集中している

 留学帰国者が起業する都市は分散化の傾向にあり、北京や上海などの一線都市にはもはや集中しなくなり、東部沿海の二三線都市や中西部地区へと徐々に拡大している。留学帰国者が起業する都市を選択する際に考慮する要素は、その都市に良好な人脈があるか、産業の土台はしっかりしているか、市場の見込みはどうか、都市環境は良いかなどに集中している。インフラや教育水準、優遇政策などはこれに続いた。不動産価格や運営コストなどは、起業家が起業の都市を選ぶ際にそれほど影響していないことがわかった。

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図17 留学帰国者の起業都市の選択に影響する要素

(上から順に「その都市に良好な人脈がある」「都市環境が良い」「産業の土台がしっかりしている」
「市場に見込みがある」「インフラが整っている」「教育水準が高く人材が多い」「開業・融資・税収・
訓練などで優遇政策がある」「その他」「不動産価格・運営コストが低い」)

 留学帰国者の起業分野は主に、「新バイオエンジニアリング/新医薬」「次世代情報技術」「貿易/卸売/小売業」「ハイエンド設備製造」「その他のサービス業」「省エネ・環境保護」「文化クリエイティブ産業」などの分野に集中し、比率はそれぞれ18.6%、13.6%、13.6%、10.2%、8.5%、8.5%、5.1%だった。

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図18 留学帰国者の起業の産業分布

(上から順に「新バイオエンジニアリング/新医薬」「次世代情報技術」「貿易/卸売/小売業」「ハイエンド設備製造」
「その他」「省エネ・環境保護」「文化クリエイティブ産業」「その他のサービス業」「新材料」「新エネルギー車」「新エネルギー」
「洗浄産業」「その他の製造業」「非営利団体/NGO」「不動産/建築業」「電子情報」「メディア/エンターテイメント/スポーツ」)

(二)留学帰国者は帰国起業にあたって起業環境や今後の発展を重視し、豊かな起業資源を持っている

 留学帰国者が帰国して起業するのは主に、「国内の起業環境が良好である」「国内の発展の潜在力が大きい」ことを重視するためで、これは、中国がイノベーション・起業を提唱し、イノベーション・起業の支援政策を実行していることと大きく関わっている。このほか「家族と一緒に過ごしやすい」ことも、留学帰国者が帰国して起業する重要な要因となっている。一方、「特許技術を持っており、関連分野の国内市場が好調である」とか、居住地などの「その他」の要素が帰国起業に与える影響はさほど大きくない。

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図19 留学帰国者の帰国起業に影響を与える要素

(上から「その他」「特許技術を持っており、関連分野の国内市場が好調である」「親戚や友人など社会ネットワークの
支持を得やすい」「国内の起業環境が良好である」「家族と一緒に過ごしやすい」「国内の発展の潜在力が大きい」)

 留学帰国者は起業にあたって、豊かな起業資源を手に入れることに成功している。「顧客資源」「技術資源」「政府資源」「情報資源」が充実しており、中でも「顧客資源」については75%の起業家が国内で良好な顧客資源を手に入れることができたとしている。一方、「資金資源」と「人材資源」を手に入れたという回答者は3分の1にとどまった。

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図20 留学帰国者の手に入れた起業資源

(上から時計回りに「顧客」「技術」「資金」「人材」「情報」「政府」)

 留学帰国者の起業の資金は、「起業家自らの貯金」という比率が66.7%と最も高く、その次は「友人や親戚から借りた資金」で、「銀行融資」「国内ベンチャー投資」「国内企業の株式参加」などの金融ルートによって資金を得た人の比率は低かった。注意すべきなのは、留学帰国者の起業の資金源のうち、「国外ベンチャー投資」や「国外企業の株式参加」はほぼないということである。

(三)半数の新設企業が5年以内に黒字化

 調査サンプルのうち、3年以内に黒字化したという企業は37%、3年から5年で黒字化した企業は14%だった。5年から10年で黒字化したという企業は5%と少なかった。また44%の新設企業はまだ黒字化を果たしていなかった。新設企業が黒字にこぎつけるまでの期間には、様々な要素が働き、比較的大きな差異があった。

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図21 留学帰国者の新設企業の黒字化までの期間

 留学帰国者が起業で遭遇する主な問題としては、「融資が難しい」「経営コストが高い」「政府の関連政策が整っていない」「人材を導入・保持しにくい」などが挙げられた。

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図22 留学帰国者が起業過程で遭遇する主な困難

(上から時計回りに「融資が難しい」「人材を導入・保持しにくい」「経営コストが高い」「起業サービスが整っていない」
「技術成果の産業化が難しい」「国内市場をよく知らない」「政府の関連政策が整っていない」「その他」)

 49.1%の留学帰国者の起業家は失敗した経験を持つ。留学帰国者によると、帰国して起業する際の弱みは主に、「国内の縁故社会に適応できず、発展のチャンスが手に入れにくい」「国内の市場環境をよく知らず、戦略制定が不適切である」「政府との付き合いが苦手で、行政審査認可がうまくいかない」などに集中している。

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図23 留学帰国者の起業にあたっての弱み

(上から順に「政府との付き合いが苦手で、行政審査認可がうまくいかない」「国内の縁故社会に適応できず、
発展のチャンスが手に入れにくい」「国内の市場環境をよく知らず、戦略制定が不適切である」「人材政策の実施が滞り、
優遇が実現されていない」「不公平競争による侵害を受けている」「技術が進みすぎていて国内に市場がない」
「出入境が不便で国際業務の発展に影響が出ている」「技術が十分に進んでおらず、競争の強みがない」
「正確な起業の位置付けができていない」)

 調査を受けた留学帰国者の起業家は、自らの起業にあたっての強みは主に、海外とのインタラクションにあると考えている。これには「海外市場に販売ルートを作りやすい」「海外のベンチャー投資を受けやすい」「海外の研究開発協力パートナーを得やすい」「海外企業と密切に連携できる」などが含まれる。

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図24 留学帰国者の起業にあたっての強み

(上から順に「海外市場に販売ルートを作りやすい」「海外にブランドを作りやすい」「海外企業と密切に連携できる」
「海外の研究開発協力パートナーを得やすい」「海外のベンチャー投資を受けやすい」「海外から必要な技術を獲得できる」
「海外から研究人員を雇用しやすい」「海外市場の消費者の需要をよくわかっている」)

(四)留学帰国者の起業にあたっては市場開拓や政府財政支援へのニーズが高い

 起業段階において留学帰国者の起業家が最も必要としている支援としては、市場開拓や金融サービス、起業場所提供などが挙げられる。

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図25 留学帰国者の起業家が起業段階で最も必要としているサービス

(左から順に「起業指南」「管理コンサルティングサービス」「技術移転」「人材誘致」「起業場所提供」「金融サービス」「市場開拓」)

 留学帰国者の起業政策の必要性の面では、留学帰国者の起業家は政府に対し、科学研究資金の申請プロセスにおける制限が多すぎるという問題を解決し、科学研究資金による支援を強化し、政策を実施することを望んでいる。また政府が調達の際に留学帰国者の設立した企業のハイテク技術・製品を選ぶことを求める起業家もいた。約41.7%の人が国家の政策は良好で、実施過程においてはその徹底が求められると考えていた。

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図26 留学帰国者の起業にあたっての政策に対するニーズ

(上から順に「科学研究資金の申請プロセスにおける制限が多すぎる」「科学技術起業資金の支援強化」
「政策にディテールが足りず、実施が困難である」「国家の政策は良いが、実施の過程でさらなる貫徹が必要である」
「留学は経歴にすぎず、特殊な政策は必要ない」「政府調達にあたっては留学帰国者の設立した企業のハイテク技術・
製品を選ぶべきである」)

(五)3分の1の留学帰国者は自身の事業発展に満足している

 3分の1の留学帰国者の起業家は、自らの事業発展状況に満足している。41.7%はどちらとも言えず、事業発展状況にまだ判断が付かないとした。自らの事業に不満足だという留学帰国者は25%おり、そのうち8.3%は非常に不満足だとしている。

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図27 事業発展に対する満足度

(おわり)


出典:中国グローバル化研究センター(CCG)「2015中国留学帰国者就業起業調査報告」 http://www.ccg.org.cn/Event/View.aspx?Id=2576