中国産業クラスターの形成及び変遷(その2)
2015年10月28日
年 猛(中国科学技術発展戦略研究院 産業科学技術発展戦略研究所研究員、経済学博士)責任編集
(その1よりつづき)
1.3 中国産業クラスターの進化と分類
1.3.1 産業クラスターの進化
(1)自然条件に促進された段階(20世紀80年代初期-90年代初期)
中国の中小企業の空間的集積は20世紀80年代、浙江省で中小企業集積が盛んになったことに端を発する。1982年、義烏市が全国に先駆けて小商品(日用雑貨)市場を開き、先行の利で効果を生んだ。義烏小商品生産基地は、長江デルタと珠江デルタ地帯に多数ある「一村一品」、「一鎮一業」専業化生産の典型で、中国産業クラスターの発展の原型である。
この段階で産業クラスターが振興したのは、主に改革開放後に生産力が解放されたためであり、主な推進力は自然条件である。自然条件は主に2種類ある。1つは自然の資源条件、もう1つは現地で悠久の歴史を持つ伝統的手工業、商業伝統、地域文化等を含む社会的な資源条件で、社会資源がなした役割はより大きい。自然条件に促され、改革開放初期、東南沿海地区の郷鎮、村において、財産権が団体に属する多くの郷鎮企業が起業された。大多数は中小企業で、ありとあらゆる製品があるが、主に日用雑貨、金属品、小物、生活家電、木製家具、皮革・プラスチック製品、農業副産品の加工品、衣類・帽子・靴下等で、だいたいが1つの村、或いは1つの鎮で、同類の製品を生産する企業を形成する。企業集積現象はここから生まれた。
(2)市場ニーズに促進された段階(20世紀90年代初期-90年代中後期)
20世紀90年代初期、中国の市場経済改革が進むにつれ、国家は全面的に商品流通の限度額を緩和し、また企業の従業員の給与を何度も引き上げた。これらの措置が国内の民衆の消費ニーズを大きく刺激し、全国規模の大市場が形成された。同時に、輸出も大幅に増えた。国内・国際市場ニーズの増加は初期形成段階だった産業クラスターに動力を与え、産業クラスターも初期形成段階から数量、規模ともに拡充段階に入った。
この段階の産業クラスターの主な特徴は、集積の数量と規模が著しく上がり、市場に選ばれた力のある産業クラスターが台頭し、その製品の全国市場の中でのシェアが大きくアップしたということ。その結果、集積内の一部の基幹企業がみるみる大きくなり、一部の産業クラスターは成熟段階に入り始めた。地域分布的には、東南沿海のいくつかの主要な地区から東部地区全体に放射状に広がり、ここから環渤海経済圏~長江デルタ~珠江デルタの産業クラスターベルトが形作られた。その中でも広東、江蘇、浙江、山東等の地が目立ち、また中西部地区にも資源依頼型の産業クラスターが出現した。
(3)外国企業の投資に推された段階(20世紀90年代中後期-21世紀初期)
20世紀90年代中期、外国企業による直接投資の規模が大幅に増え、多国籍企業が組立工場を東部沿海地区に移転させるケースが増加した。これにより、幾つもの関連メーカーの投資が一層引き出され、多国籍企業のカスタマー·チェーンが形成されることになり、これが現地の各種産業の発展を促し、産業クラスターを形成していった。この時期の外国企業による直接投資は主に広東、江蘇、浙江を中核とする東部地区に集中し、投資した産業は主に製造業で、電気機械工業、化学原料及び製品業、紡績アパレル業、玩具等が含まれる。21世紀になると、外国企業による直接投資はまたも急成長期に入り、かつ単品目の投資規模がますます大きくなった。この時期の外国企業の投資は主に江蘇、上海、浙江等の地に集中し、産業は主に電子及び通信設備製造業に集中している。
この段階の産業クラスターの発展で目立った特徴としては、外国企業の投資に動かされ、多くは輸出志向型集積で、世界的産業チェーンの一部分となった。主導的な産業は電子及び通信設備製造業に集中し、エリアは主に長江デルタ、珠江デルタ、環渤海経済圏に分布する。前の2つの段階での経験と蓄積、及び多国籍企業の大規模な投資に後推しされた効果で、この段階では集積の発展速度が速く、多くの地区の集積がゼロから発展して成熟するまで、わずか3、4年の期間であった。
(4)産業移転とグレードアップの段階(21世紀初期-)
20余年の発展を経て、東部地区の大部分の産業クラスターは、充分あるいは相対的な成熟期にあり、産業規模が大きく、産業結合能力が強く、波及力が強く、また市場シェアも高くなった。しかし、産業構造調整や地区における産業空間容量の限界等の要素に制限され、これら産業クラスターの発展に分化が始まった。紡績アパレル、靴、帽子等の産業を典型とする労働集約型、資源依存型の産業クラスターは徐々に中、西部地区に移転し、技術集約型、貿易依存型の産業クラスターは産業チェーンの最上級に向かい始めて、ますます多くの国内外企業が研究開発、設計分野に参入してきた。すでに国内市場でシェアの高い集積は、徐々に国際競争に参列し、同業界の国際的に知名度のある企業を集積に引き込んだ。上海、北京、蘇州、杭州等の中心都市では、金融、研究開発、文化・クリエイティブ等高付加価値の産業クラスターが出現し始めた。
この段階の産業クラスターの発展で最も目立った特徴は、移転と発展であり、東部地区でだんだん力を無くした集積が外部に移転しはじめ、中西部地区はこのような集積の移転を積極的に受け入れて育成した。集積内部でも、ますます技術革新能力やブランド構築等が強調され、集積の競争力がますます培われるとともに、レベルアップした。
1.3.2 産業クラスターの分類
地方の基盤、様々な要素等の違いから、異なる地区、異なる産業の産業クラスターの形成のしかたには大きな差があることから、これをもとに産業クラスターをいくつかの類型に分けることができる。国内の学者らの研究をもとに、形成メカニズムからたどると、主に以下の数種類の産業クラスターが存在する。
(1)伝統優位型:地方の資源と伝統産業に基づいて、主に市場の力のもと形成される
伝統をどのように考えるかの違いにより産業クラスターは、地方文化或いは企業家精神を基礎とするもの、伝統に優勢な産業を基礎とするもの、地方資源を基礎とするものの3種類に分けられる。産業クラスターが最も発達した地区である温州で、産業クラスターが急速に発展した最も重要な要因は、この地の伝統的呉越文化であり、また現代的な企業家精神であるとされている。実際、これらの要素は江蘇、浙江、その他の地区に産業クラスターが大量に出現した原因でもあり、中国産業クラスターの主な、そして最も大きな要素となっている。また伝統優位産業を基礎として発展してきた産業クラスターも多い。特に、福建省徳清市の磁器、江西省万載県、湖南省瀏陽市の花火製造業等、いくつかの歴史的な手工業集積地区がそうである。河南省漯河市の食品加工、江蘇省邳州市の木材加工業等、地方資源を基礎に発展してきた産業クラスターは、主にその地区が持つ各種の特色ある資源から利益を得ている。
(2)輸出加工型:市場あるいは交通等の場所の良さから、市場作用のもとに発展
中国の改革開放は沿海から内地へ向けて徐々に進んできた。沿海の一部地区では場所の良さを利用して、対外貿易の発展に力を注ぎ、外国企業の投資を吸収し、「委託加工貿易」を基礎に輸出志向型の産業クラスターを形成した。この中で典型的なのが、珠江デルタ地区のIT産業クラスターや蘇南地区、膠東半島の外資企業の大規模集積等であった。前者は中国で最大規模で、かつ高い輸出割合を誇るIT機器生産基地である。
(3)大企業ネットワーク型:大企業と関連して形成された産業クラスター
産業クラスターには大企業に付随する形で形成されたものもある。山東青島海爾集団(ハイアールグループ)、重慶嘉陵摩托集団、長春一汽製造等の企業ネットワーク、生産支持システム等である。他に、大中の国有企業が解散、分裂したことによって形成されたものもある。管理が緩く、効率が低下した国有企業を解体し、労働者に家内工業、私営企業の立ち上げを促したのである。それにより、「専門的で洗練された」企業グループが中核企業を支持するような産業クラスターが、最終的に形成された。
(4)アカデミック中核型:大学や研究機関の知的資本を頼りに、自発的に形成された産業クラスター
大学あるいは研究機関などの専門性が高い機関が集中している地区では、技術者の自発的起業により新技術の産業化が促進され、ついに産業クラスターを形成した。中国初のハイテク産業開発区である中関村で起きた現象は、最も典型的な例である。20世紀80年代初期、大学や研究機関から出た多くの教師や研究者が、中関村に大学と研究機関が集中しているメリットを頼りに起業し、これらを推進させ、ついに北京中関村ハイテク産業クラスターが生まれた。
(5)政府推進型:政府の直接の推進のもとで形成された産業クラスター
現在中国では、大学のサイエンスパーク、ハイテク産業開発区、経済技術開発区、工業団地等、政府の計画にそって建設する各種団地が多い。そのうちの一部には産業クラスターの原型が現れている。中国の各地方政府が立ち上げる各種団地の数は多いが、その一部は「団地化」を基盤として、すでに「集積化」の方向に発展し始めている。しかし全体的には、完全に政府主導で産業クラスターを作りあげることは難しく、成功例が少ないようである。
(その3へつづく)