第109号
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中国産業クラスターの形成及び変遷(その3)

2015年10月30日
年 猛(中国科学技術発展戦略研究院 産業科学技術発展戦略研究所研究員、経済学博士)責任編集

その2よりつづき)

1.4 産業クラスターの空間分布

 全体的には、立地条件の良さ、経済基盤と資源に恵まれている等の理由から、東部沿海地区に真っ先に産業クラスターが形成された。その後、中国の地域経済発展戦略の推進と内地経済の振興で、中西部地区の産業クラスターも発展を見せ、沿海から内地にかけ広い地域で、産業クラスターが発展を続ける様相を見せた。

1.4.1 地域別分布状況

(1)珠江デルタ地区

 中国で経済改革が早く始まった珠江デルタ地帯では、まず深圳市等で改革開放政策が試行され、その立地の良さや様々な優遇政策のもと、急速に成功することとなった。また、産業クラスターの発展も他の地区より早かった。ここは香港、マカオ、台湾に近いという地理的優位を利用し、大量の外国企業からの直接投資を吸収し、現地の安価な労働力を頼りに、外国向けの加工業を大きく発展させた。

 現在、この地区の典型的産業クラスターとしては主に東莞市のコンピューター及び関連産業クラスター、恵州市のIT産業クラスター、仏山市順徳の家電産業クラスター、石湾鎮の陶磁器産業クラスター、汕頭市澄海の玩具産業クラスター、潮陽のニット産業クラスター、中山市古鎮の照明産業クラスター等がある。

(2)浙東南地区

 浙江省は改革開放初期に民間経済発展がめざましかった地区で、中国産業クラスターの発展が最も盛んな省でもある。「一郷一品、一県一業」という集積の成長方式が浙江省の経済の一大特色となっており、浙江経済の急速な発展の主流な方式のひとつとなっている[1]

 これらの地区の個々の企業は大きくはなく、家族経営企業も少なくない。だが大量の小企業が集中しているので、この地区で形成された業態の規模は非常に大きい。改革開放の初期、浙江省の大部分の地区は、珠江デルタ地帯のような多くの政策的優遇は受けなかったが、温州市を代表とする浙南地区では、家族経営を中心とした零細商品の生産を主とする、独自の経済発展の道を歩んだ。専門の市場を足掛かりに、販売者を中核にした「温州方式」である。専業化のタイプとしては、紹興市の繊維産業、海寧市の皮革産業、嵊州市のネクタイ産業、永康市の金属産業、楽清市の低電圧電器産業、諸暨市の靴下産業等がある。

(3)長江三角州地区

 珠江デルタ地帯の産業クラスターの発展が主に「委託加工貿易」等の加工貿易によるものであるなら、長江デルタ地帯の産業クラスターの発展は地区産業団地をメインに形成された。蘇州市、寧波市及びその周辺地区は上海市に近かったので、郷鎮企業の発展が早く、経済基盤が比較的良いという長所があった。当地では20世紀90年代前後に、いくつかの規模の異なる産業団地が建設され、多くの競争力がある産業クラスターが形成された。主には蘇州市のハイテク産業クラスター、寧波市のファッション産業クラスター等がある。

(4)環渤海湾地区

 東南沿海以外に、山東省、河北省、北京市等にもいくつかの産業クラスターができた。例えば北京の中関村ハイテク産業クラスターもこの時期にできた。これら特色ある産業の中には、安国市の中医薬(漢方薬)産業クラスター等、伝統的な優位性を発揮し、これまでの伝統製品を踏み台に発展したものもある。都市工業のために働く中で影響を受け、都市に引き入れられ発展したものもある。技術、人材、資金を投入し、少しずつ始めて、それから徐々に拡大したものもある。専業家内工業から専業村に発展し、ついには、清河県のカシミヤ産業クラスターのように、同じ地域内で同類製品を生産するという特色のある産業クラスターを形成した。中にはその土地の豊富な資源を頼りに、寿光市の果物・野菜産業クラスターのように、市場での影響力を拡大しながら形成されたものもある。

(5)その他の地区

 中国の産業クラスターは、珠江デルタ地帯、浙東南地区など主に沿海地区に集中し、順調に伸びている。しかし、近年は中西部の一部の地区でも産業クラスター化の傾向がみられる。例えば、中部地区には湖北省武漢市の光電子産業クラスター、湖南省瀏陽市の花火産業クラスター、江西省贛州市のレア・アース集中区等があり、西部地区には陝西省戸県の段ボール箱産業クラスター、四川省夾江県の陶磁器産業クラスター、また重慶市のバイク産業も集積化している。さらに、東北地区では長春市の自動車産業、光電子情報産業等にもはっきりした集積化傾向がみられる。

1.4.2 省市の分布状況

 広東、浙江、江蘇、福建、山東等5つの省の産業クラスターは、全国でかなりの割合を占めた。例えば、中国紡績工業協会がこれまでに設立を許可した、紡績産業基地市(県)や紡績産業特色城(鎮)を含む、6つの紡績産業クラスター試験地区は、大部分が広東、浙江、江蘇、福建、山東等の沿海省に集中している。科学技術部が設立した国家火炬(たいまつ)計画特色産業基地も主に広東、浙江、江蘇、山東等の省に分布している。

 浙江省は中国産業クラスターが最も密集した地区である。典型的なものには、温州市の革靴・衣類、紹興(県)の染織、楽清市の低圧電器、蕭山区の化学繊維、海寧市の皮革、嵊州市のネクタイ、永康市の金属品、永嘉県のボタン、桐廬県のペン、諸暨市の靴下等がある。現在、このような「ブロック経済」は、浙江省だけでなく、全国の専門的な生産加工の輸出基地となっている。例えば、温州市区のライター生産量は世界の70%、嵊州市のネクタイ生産量は全国の80%、世界のネクタイ市場の30%を占める。また、永康市の計器生産量は全国の2/3である。蒼南県のアルミバッジの国内市場シェアは45%にもなる。海寧市許村、許巷の壁紙に関しては、全国市場シェアの35%以上であり、楽清市柳市の低圧電器の全国市場シェアは1/3を超える。[2]

 このほか、広東、福建、江蘇省等の産業クラスターも多く、専業の町を主な発展手段としている。典型的な専業の町としては、順徳区容桂の家電、中山市小攬の金属品、古鎮の照明、澄海区の玩具、西樵の紡績品、大瀝のアルミ、石湾の陶磁器、倫教の木工機械、楽従の家具、虎門の衣料品、東莞市石竜、石碣、清渓の電子工業等がある。中山市古鎮の照明の売り上げは全国の60%以上を占める。大瀝のアルミ生産量は全国の40%を占める。江門恩平のマイクは全国の売り上げの70%以上を占める。統計によると、現在福建省で典型的なものには、泉州晋江、莆田の靴、厦門、漳州のオーディオビジュアル製品、石獅の衣料、長楽の紡績、泉州のバッグ、漳州の家具、福安の電気製品、南安の水洗設備、徳化の工芸、陶磁器等がある。江蘇省で典型的なものには、昆山のPC製造、常熟のアパレル、邳州の板材加工、丹陽の眼鏡、杭集の歯ブラシ等がある。例えば、揚州市杭集鎮の歯ブラシは国内市場の80%、世界市場の22%のシェアを占め、世界最大の歯ブラシ生産基地である。また贛榆県古河套村で毎年生産される各種酒瓶の蓋は全国の市場シェアの60%以上を占める。

その4へつづく)


[1] 朱華晟、王玉華、彭慧.政府と企業の相互作用と産業クラスター空間構造の変遷———浙江省の例[J].中国軟科学,2005.

[2] 古城,浙江省産業クラスターベルトの特徴及び形成メカニズム[J],特区経済,2013