「藍色糧倉」建設関連研究総論(その2)
2015年11月12日
秦 宏:中国海洋大学管理学院副教授
山東煙台出身、博士。主要研究分野は海洋経済と農業経済
(その1よりつづき)
3 「藍色農業」「藍色海洋食物計画」「藍色糧倉」の関連研究
海洋の潜在力を発掘し、海洋国土を開発し、食物生産体系を海洋と陸地の双方で構築し、食糧安全の圧力を緩和する研究は、中国以外ではあまり見られない。中国国内の研究者の研究は主に、「藍色農業」「藍色海洋食物計画」「藍色糧倉」などの分野で進められている。
3.1 「藍色農業」に関する研究
包建中院士[44-45]は、先進技術を利用して海洋と海洋生物資源を開発し、「藍色農業」を発展させ、陸地農業に次ぐ第二の農業を形成することを率先して打ち出し、海洋は21世紀の人類の第二の食糧庫となると主張した。その後、多くの研究者が多くの角度から、海洋生物資源の開発利用と「藍色農業」の発展の重要性とその広大な将来性を論述している。戴小楓ら[46]は、海洋生物は人類の重要なタンパク質食物であり、豊富な各種の栄養物質を含み、生物の利用度が高いと指摘し、「藍色農業」の発展は「タンパク質飢饉」を解決する重要で現実的な手段であると主張する。鄒益峰[47]は、広大な開発規模の将来性や大きな経済効果など「藍色農業」の発展の優れた点を指摘し、海洋生物の食品や保健品、医薬品、化学工業などの面から「藍色農業」を発展させるべきだとした。研究者らはその後、「藍色農業」発展の主要なルートや重点、問題、対策措置などからさらに研究を進めている。曾呈奎院士[48]は、水産品の生産にあたっては農牧化に向けた道を歩み、人為的な干渉や人力での制御を通じて、海洋で一連の耕作活動を行い、中国の「藍色農業」を発展させるべきだと指摘する。張福綏院士[49]は、生態養殖と工学養殖は中国の「藍色農業」発展の主要な方向性であり、基礎研究から着手し、ハイテクの応用に配慮し、生態養殖の道を歩み、「藍色農業」の健全な発展を促すべきだとした。相建海ら[50]は、バイオセキュリティ戦略を実施し、「藍色農業」の安全で健全な持続発展を確保することを主張した。バイオセキュリティは、食品安全や動植物の命、健康の面でのリスクの分析・管理、環境リスクに関する政策・管理の枠組みなどを含む一体化戦略方針であり、食物の安全問題を解決し、健康的な養殖環境を保証することを強調するものである。バイオセキュリティ戦略を実施し、海水養殖の過程のバイオセキュリティの標準と規範を制定し、海水養殖業において執行を貫徹し、バイオセキュリティの国家級の情報交流・検査測定ネットワークを構築し、統一と協調管理を強化するなどをしなければならないとした。徐敬明ら[51]は、中国の「藍色農業」の持続可能発展が直面する問題を指摘し、▽「藍色国土」を全体として開発利用する戦略意識が欠けている、▽環境が悪化し、生態系がバランスを失い、生物多様性が破壊されている、▽養殖品種が単一で、優良品種を欠いている――などの問題を挙げた。そして直面している問題の解決に向けた対策として、▽汚水環境への対処を強化し、汚染源から水環境の再汚染と拡散を防止する、▽淡水・海洋資源の開発利用と資源保護の両方を重視する方針を堅持する、▽良種政策を実施し、優良品種の発展を加速する、▽現代生物・工学技術を運用し、潮上帯と陸地における工学化養殖を実施する、▽海洋生物中からの薬物・栄養補助剤・天然活性物質の採取などの面での研究と応用を重視する――などを挙げた。
3.2 「藍色海洋食物計画」と「藍色糧倉」に関する研究
唐啓昇院士[52-53]は、海洋は中国がまだ十分に開発利用していない最大の国土であり、動物性タンパク質の巨大な生産の潜在力を備えており、中国の未来の食物安全の重要な保障であり、国家による「藍色海洋食物」計画を実施すべきであると考え、「三大戦略」の実施(養護戦略、拡大戦略、ハイテク戦略)、両大体系(現代海洋漁業発展体系、藍色海洋食物科学技術サポート体系)の建設を通じて、具体的に推進・実施すべきだと主張した。陳新洲ら[54]は、海水養殖の単位面積当たりの収益は農地の10倍に達するとし、「藍色資源」を合理的に開発利用すべきだと指摘し、同時に、海洋食品は栄養が豊富であり、国民の体力の向上にも有利であり、中国の食糧安全の重要な保障ともなるとした。
2011年以前にも「藍色糧倉」というワードはニュース報道にも散見されたが、海洋漁業に対する比喩的な呼び名でしかなかった。2012年、研究者らが「藍色糧倉」に対する初期的な研究を開始した。盧昆ら[55]は、「藍色糧倉」の概念を明確に論じ、「藍色糧倉」は比較的強い生態脆弱性と立体的な作業特性を持っており、その有効ストックは総量の不安定と品質面での腐りやすさという特徴を示しているとし、将来の「藍色糧倉」建設は海水養殖業により依存したものとなると論じた。韓立民ら[56]は、日本や米国、韓国、ノルウェーなどの世界の主要沿岸国の「藍色糧倉」建設の経験を紹介した。李嘉暁ら[57]は、「藍色糧倉」の建設の土台や直面している問題、発展の潜在力を分析した。秦宏ら[58]は、「藍色糧倉」の推進戦略として、(1)空間開拓戦略、(2)海域利用効率向上戦略、(3)バリューチェーン拡張戦略、(4)内包型発展戦略、(5)科学技術サポート強化戦略――の5つを打ち出し、基本的な養殖水域と沿岸地域の保障、財政支援と投融資体制の整備、海洋漁業の研究開発の強化、海産品市場の建設強化、海産品安全水準の向上、周辺地域との協力強化の面から、保障措置を提出した。遊桂雲ら[59]は、山東半島の「藍色糧倉」建設における優位性と現状を分析し、日本の海洋牧場発展の経験の参考を土台として、山東半島における「藍色糧倉」建設の政策措置を打ち出した。韓立民ら[60]は、「藍色糧倉」の空間資源開発利用の現状の分析を土台に、「藍色糧倉」の空間開拓戦略として、▽定額捕獲制度の堅持、▽遠洋漁業の支援、▽従来型の養殖モデルの最適化、▽深水ケージ養殖の普及、▽海洋牧場の振興、▽近代的工場型養殖の発展――などをを挙げ、計画的な海利用や資金援助、産業政策、科学技術によるサポート、国際協力などの角度から相応する保障措置を提出した。
4 国内外の研究の現状と未来の研究の展望
国内外の関連研究を振り返ると、その歩みは次の2本の軸に沿って発展してきたことがわかる。
第一に、海洋漁業資源の保護と開発利用の関連研究である。この部分の研究成果は非常に豊富で、主に、海洋漁業資源の過度な開発と生態環境の破壊という厳しい現実を前提に、海洋漁業資源をいかに回復し、生態環境を改善するか、海洋資源の潜在力をいかに持続的に発掘し、漁業関連産業の発展を促進し、漁業生産を増加させるかを考えるものだった。この部分の内容は「藍色糧倉」の建設が避けては通れない問題であり、「藍色糧倉」建設の研究に土台を築くものとなった。だが現在の研究の視点は、漁業について漁業を論じるものであり、多くが特定の具体的な方面または問題に関する研究であり、国家の食糧安全と関連付けた研究や、空間・資源・生態環境などの要素と関連産業体系の協調的発展の問題を陸海の統一的な計画を土台として考えた研究はなかった。
第二に、水産品の食糧安全に対する役割や「藍色農業」などに関する研究である。この部分の研究成果は、人類の食物体系への海洋の重要役割に対する研究者らの認識を体現したもので、海洋の食物生産の潜在力をいかにさらに発掘し、海洋食品の供給体系を構築するかの考察がなされた。総体的に言って、これらの研究は、「藍色糧倉」の基本的な理論問題を初期的に論じ、「藍色糧倉」の今後のさらなる研究に堅固な土台を築くものとなった。だが現在の研究は、食糧安全に対する海洋食品の役割と貢献について実際の推算や理論的な論述を行うものではなく、資源・空間・生態環境の制約に基づいた中国の将来の海産品生産の潜在力の評価を欠き、建設経路や発展モデル、産業体系、空間配置など「藍色糧倉」建設の総体的な設計を欠いている。
「藍色糧倉」建設の研究は、多分野・多学科にかかわる総合的で系統的なプロジェクトである。「藍色糧倉」は、独特な自然属性・経済属性・空間属性・資源属性・生態属性を備えている。今後の研究においては、次の方面からの深化と拡大が求められる。第一に、「藍色糧倉」の概念体系と基本的な特徴、機能の位置付けを科学的に画定し、「藍色糧倉」建設の基本経路と発展モデルを検討し、「藍色糧倉」建設の基本的な理論の枠組みを構築する。第二に、食糧安全に対する海洋食品の貢献度を定量的に測定、科学的に評価し、資源・空間・生態の制約を土台として、中国の将来の海洋食品生産能力を合理的に推算する。第三に、「藍色糧倉」建設のサポート体系に対する系統的な研究を行い、「藍色糧倉」建設をサポートする資源環境体系や科学技術体系、産業体系、政策体系などを研究する。第四に、陸海の統一提携書くという原則を守り、「藍色糧倉」建設の空間的な最適配置と重大プロジェクトの建設を設計する。第五に、「藍色糧倉」の総合発展水準の評価やモニタリング、警告システムを研究する。
(終わり)
※本稿は中国科学院海洋研究所より許可を得て翻訳・転載したものである。
【原文】http://www.marinejournal.cn/hykx/ch/reader/create_pdf.aspx?file_no=20150119
参考文献
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