第111号
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中国側から見た産学研連携の日中比較(その2)

2015年12月 9日 孫福全(中国科学技術発展戦略研究院院務委員)

その1よりつづき)

四、大学の研究成果の宣伝と普及

 日本は、大学の研究成果の宣伝と普及を非常に重視している。このことは、企業が大学の研究成果を知り、大学と協力を展開するのに重要な役割を果たしている。宣伝と普及の形式には主に次の3つがある。

 第一に、産学官連携サミットが挙げられる。これは2001年に設立された、産学官の連携を話し合うハイレベルのプラットフォームで、産業界や大学、研究機構、地方自治体のトップが一堂に会し、産学官の連携の強化と推進をめぐって議論を深め、意見を交換し、こうした意見を具体的な政策の制定に反映することを目的としたものである。

 第二に、産学官連携推進会議。これは2002年に設立された、もう一つの産学官連携のプラットフォームで、全国の産学官連携を担当する第一線のリーダーや実務者などを中心に、具体的な課題をめぐって対話や協議、情報交流、成果の展示を行い、産学官連携の優れた事例を宣伝・表彰するものである。

 第三に、大学見本市。大学と公共研究機構が各自の最先端技術の知的財産権を産業界に宣伝する全国的な大型イベントで、「イノベーション・ジャパン」と名付けられている。

 一方、中国の産学研連携の促進会としては2007年から、「産学研連携サミットフォーラム」が開かれている。産学研連携に関連するテーマをめぐって、議論や交流が深められ、産学研連携のモデル基地が認定されるほか、産学研連携促進・モデル賞の選出も行われる。一部の省市は毎年、産学研のマッチングをはかる活動を開催しており、一部の大学や研究機構も自らの研究成果を能動的に企業にプロモーションしている。

 だが総体的に言って、中国の産学研連携の宣伝と普及はまだ十分でなく、全国規模の産学研連携のマッチングや商談のための活動がない、全国規模の大学研究成果の展示会がない、産学研連携の宣伝や普及の強度が足りないなどの問題がある。このため中国はこの面でさらに力を入れ、産学研連携に良好な環境を作り出す必要がある。

五、人材の育成と交流

 日本の大学は法人化改革の後、大学・企業間における人材育成での交流を強化した。大学は、企業の優秀な人材を大学教授や准教授として採用することが可能となった。専門分野で豊富な学識や経験があれば、教育や研究の能力を持った者として認められ、教育研究の業績があったかどうかにかかわらず採用の対象となる。

 日本の大学は、外部から招聘された教員の比率が高く、全体の3分の1程度に達する。このことは、大学が企業や産業の技術ニーズを十分に理解することを可能とする。同時に、関連研究企業での実習や産学官共同研究プロジェクトへの学生の参加を奨励しているが、これは教員と企業の技術者との相互交流の強化を奨励する措置ともなっている。

 一部の企業は毎年、在職中の技術者を大学での研修に派遣しており、一部の大学は、高級専門教育を目的とした大学院や研究科を特別に設置し、企業人員に一定枠を割り当てて受け入れている。企業はまた、大学の関連する専門家や教授を招き、社内の技術員に向けて各種の講習会や訓練会、講座を開いたり、企業の研発部門の顧問や諮問委員会の委員として採用したりして、企業の技術者の育成や企業の技術ニーズの解決を進めている。

 中国も産学研連携において、企業と大学との人材育成交流の強化を重視し、人材協力を産学研連携の成功の鍵として捉えている。とりわけ2008年の金融危機以降は、成長の安定化や構造の調整、雇用の促進などを目的として、科技部などの部門が科学技術人員による企業サービス行動を実施し、産業振興や企業とりわけ中小企業の実際のニーズに基づき、「政府が指導し、協力双方が選択し、現状に立脚し、長期的視点を持つ」という原則にのっとり、様々な方式で企業にサービスを提供し、「科学技術成果の転化の加速」「企業の技術開発の支援」「企業の技術革新の管理水準の改善」「企業による経営・管理問題の解決の支援」「産学研連携の効果的なモデルと長期的な仕組みの構築」「企業の技術・管理人材の育成」の6つの業務を重点として展開した。

 広東などの地方では、企業の「科学技術特派員」計画が実施され、全国の大学と研究所から優秀な研究員が選抜され、社内の技術的な難題を解決するため企業に派遣され、目覚しい成果を収めた。中国の大学で外部から招聘された教員はほかの大学や研究所からの人員が中心で、人数も少なく、企業から招聘された教員はさらに少ない。このため外部からの教員の招聘にあたっての条件を適切に調整し、技術力やエンジニアリング能力を重視し、学歴や職階、研究歴などにはこだわらないような措置が必要と考えられる。

六、サイエンスパーク

 1960年頃、「教育・研究・生産連合体」の設立ブームが世界的に沸き起こった。日本政府もこの時期、サイエンスパークの建設事業を実施し始めた。日本にはこれまでに100カ所以上のサイエンスパークが設けられている。このうち京都リサーチパークとかながわサイエンスパークは、入居企業が100社を超える大規模なパークとなっている。

 日本のサイエンスパークは3種類に分けられる。第一に、研究開発を中心としたリサーチパークで、研究成果の移転や企業のインキュベーションなどの業務は行わない。第二に、研究開発に携わると同時に、成果の転化や企業のインキュベーションも行う革新センター。第三に、研究開発と成果転化・企業インキュベーション、産業化の機能を兼ね備えたサイエンスパークである。サイエンスパークの運営主体には、自治体や非営利組織、独立行政法人、民間企業などが含まれる。

 中国のサイエンスパークは1980年代から設立され始め、2013年末までに、国家ハイテク産業開発区は114カ所、国家級大学サイエンスパークは94カ所にのぼり、北京の中関村や上海の張江、武漢の東湖などの国家自主革新モデル区も設けられている。中国のハイテク産業開発区はほとんどが、研究開発と成果の転化、企業インキュベーション、産業化の機能を兼ね備えたサイエンスパークである。サイエンスパークはそれぞれ異なる特徴を持っている。中関村や張江、東湖などのサイエンスパークは、研究開発や成果の転化、企業インキュベーションの機能が高い。新たに設立されたサイエンスパークは往々にして産業化の機能が高い。

 国家大学サイエンスパークは、科学技術成果の転化やサイエンス企業のインキュベーションの促進を中心としており、産業化の機能は一般的に弱い。清華大学サイエンスパークは例外であり、一部の地方では清華サイエンスパークのモデルが踏襲され、商業化運営に成功している。

 中国ハイテク区の管理体制には主に、「政府委託管理(機構派遣)型」「政府直接管理型」「政府開発管理型」がある(コラム2参照)。現在、ほとんどのハイテク区の管理体制は、このうち「政府委託管理型」を取っている。この種のハイテク区の管理は3層に分けて行われている。第一層は現地政府の指導チームで、ハイテク区の所在市の主要な指導者が指導チームの代表を務め、市直轄の関連部門の責任者がメンバーとなり、ハイテク区の管理と発展を担当する。第二層はハイテク区の管理委員会で、市政府の一部の管理機能が集められている。第三層は経営サービス層で、開発・建設を請け負う会社や起業サービスセンター、各種の仲介サービス機構などが含まれ、入居企業の管理とサービスを行う。

コラム2 ハイテク区管理体制

1.政府委託管理(機構派遣)型:政府が派遣したハイテク区管理委員会が主要な政策決定と管理の権限を行使する。地方政府は、発展の方向や大きな政策決定、管理委員会の主要指導者の任命などで権限を行使するほか、支援と保障の役割を担う。

2.政府直接管理型:政府(または政府部門からなる指導チーム)が主要な政策決定と管理の権限を直接行使し、ハイテク区管理委員会は調整と具体的事務の管理を行う。

3.政府開発管理型:政府が開発会社を設立し、地域の開発と建設を行う。政府が一部の管理職権を開発会社に授ける。だがこうした授権モデルには限りがあり、開発会社は、ハイテク区の改革と発展において現れた新たな状況や新たな問題について調整や解決をはかることはできない。こうした体制を取るハイテク区は現在、転換が進められている。

 中国の国家大学サイエンスパークには主に次の3つのモデルがある。

 第一に、「一校一園」モデル。国家大学サイエンスパークが特定の大学に所属、もしくは特定の大学を拠点とする等のモデルである。委託された大学が指導力を発揮し、その他の関連機関と連携して管理機構を組織する。清華大学国家大学サイエンスパーク北京大学国家大学サイエンスパークなどはこれに当たる。このタイプのサイエンスパークは全体の70%前後を占める。

 第二に、「多校一園」モデル。複数の大学を拠点とし、政府が表に立ってある地域に形成された大学サイエンスパークを指す。武漢東湖ハイテク区国家大学サイエンスパーク(華中科技大学武漢大学華中農業大学など)、南京鼓楼高校国家大学サイエンスパーク(南京大学河海大学、中国医科大学など)がこれに当たる。

 第三に、大学・政府共同設立モデル。大学が所在するもしくは近隣の開発区政府と共同設立した大学サイエンスパークを指す。西安の西北工業大学サイエンスパークや上海の華東理工大学サイエンスパークなどがある。

(おわり)

主要参考文献:

  1. 陳勁主編『中国革新発展報告(2014)』社会科学文献出版社、2014年9月
  2. 王元、張先恩主編『科教結合と国家イノベーションシステムの建設』科学技術文献出版社、2013年11月
  3. 丁聡琴、李常洪『典型的国家・地域の産学研提携革新モデルの比較研究』科技管理、2007年5月
  4. 蘇竣、何晋秋ほか『産学連携―中国大学のナレッジ・イノベーションと科学技術産業研究』中国人民大学出版社、2009年12月
  5. 孫福全ほか『産学研連携イノベーション:理論、実践と政策』科学技術文献出版社、2013年1月