第111号
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中国における産学連携に関する課題と促進方策(その2)

2015年12月17日 孫福全(中国科学技術発展戦略研究院院務委員)

その1よりつづき)

3、産学研連携の組織形式の問題

 産業技術の大型の革新には、現在、次のいくつかの新たな特徴が見られる。第一に、系統性と複雑性の増大。産業化への応用に向けた重大な産業技術の革新は一般的に、複数の分野をまたぎ、多くの学科や産業にかかわるもので、研究開発の周期が長く、各者が緊密に連携していなければならず、革新に参加する各部門が継続的で安定した協力関係を形成している必要がある。例えば重要な新薬の創製は、複数の学科理論にかかわるもので、工法の革新においても医薬・化工・計器・電気・機械など多くの産業技術の統合的革新が必要となる。

 第二に、資金投入とリスクの高さ。重大産業の技術革新は投資額が大きい。中国の企業の多くは蓄積が不足し、革新能力が低く単独では力不足のため、複数の企業が共同で資金を投入し革新のリスクを分担し、効果的な協力の組織体制を構築する必要がある。

 中国の産学研連携の組織形式はまだ、産業技術の重大革新の必要性に対応できていない。第一に、プロジェクトを媒介として協力関係を結ぶ場合が多く、多くの企業に共通する技術革新のニーズをめぐって構築された持続的な協力関係が少ない。多くの協力は、企業が大学や研究機構に対して1対1でプロジェクトを委託し、大学や研究機構が一時的なプロジェクトチームを組織するという形式で行われている。

 第二に、協力の組織形式にまとまりがない。意向に基づいた協力が多く、責任・権限・利益の境界がはっきりせず、協力関係が法的拘束力を欠き、契約文書の執行力が低く、継続的な協力関係を保障する組織体制を欠いている。

 第三に、協力目標が短期的である。調査研究によると、産学研の結合は多くが、3年もしくはそれより短い「短、平、快」(短期、平価、即効)の技術問題をターゲットとしたもので、産業技術の重大革新をめぐる協力が足りず、中長期の協力革新目標を欠いている。多くの産学研連携は、学術交流と情報疎通に限定され、踏み込んだ実質的な協力が不足し、産業技術革新の鍵となる問題をめぐっての持続的で安定した戦略協力関係の確立はさらに不足している。

 第四に、革新を統合する協力が少ない。産学研連携の多くが、企業の一元的な技術問題を解決するためのもので、完成品や総合技術の開発、さらには技術経路の革新に必要な多元的で複雑な技術革新に向けた協力は少なく、産業の長期的発展の鍵となる基盤技術の革新に必要な研究領域・分野・業界をまたいだ産学研連携はさらに不足している。このために基礎的な基盤技術の問題解決は長期的におろそかになってしまい、産業構造のアップグレードを制約する弱点となっている。

 重大な産業技術革新のニーズに対応するためには、中国は、各種形式の産学研連携の発展と同時に、戦略レベルの産学研連携を推進する必要がある。第一に、国家産業技術革新連盟の配置と機能を改善し、国家産業技術革新連盟と国家の重大ニーズとの有効な接合を強化し、国家の科学技術計画の実施方式を革新し、いくつかの重点分野を選んで、産業技術革新の必要性を指導方向とし、国家の核心的な競争力の形成を目標とし、企業を主体として、「産業技術革新チェーン」の建設試行を展開し、産業技術革新チェーンの形成を促進し、産業の核心的な競争力を高める必要がある。技術連盟が直面した知的財産権や収益分配などの問題は政策・法規を通じて解決し、財政資金によって産学研技術連盟の発展を導き、税制優遇を利用して産学研技術連盟のコストを下げ、様々な形式の産学研技術連盟の形成を奨励する。

 第二に、地域の支柱産業と主導産業の発展をめぐって、地域的な産学研戦略連盟の構築を加速する。産学研の各主体による実験室や工学センターなどの共同設立を推進し、産業の鍵となる基盤技術やエンジニアリング研究を展開する。さらに新型の研究開発組織の建設を積極的に推進し、様々な形式の産学研連携の革新媒体を導入・共同設立し、産業と地域の技術革新のニーズを満たす。

4、知的財産権と利益保障体制の問題

 知的財産権の保護と利益保障体制は、産学研の緊密な協力を保障する鍵となる。知的財産権と利益体制の核心は共同投入と成果共有、リスク分担であると同時に、法的拘束力のある契約とその履行監督管理の仕組みによって各方面の権利を守る必要もある。中国では現在、産学研連携によって生み出された知的財産権に対する保護が不十分で、産学研連携の利益保障の仕組みも不整備である。主な問題としては次のいくつかが挙げられる。

 第一に、産学研連携で形成された知的財産権の帰属がはっきりしていない。政策の条文においては、知的財産権は請負団体に帰属するとの明確な規定がある。だが請負団体が持つのは名義上の所有権にすぎず、その処分権や収益権に対する規定が欠けている。請負団体は知的財産権の価値に基づいて関連部門への報告を行い、認可を受けて初めて知財権に対する処理が可能となる。複数の請負団体や団体内部、知的財産権の完成者が、知財権とその収益をいかに分け合うかについての明確な規定はない。

 第二に、共同投入・成果共有・リスク分担の体制が実行できていない。投入の主体は多くが企業で、その他の団体は投入が足りない。企業が投入を約束した資金や関連設備などの資源、大学や研究機構が投入を約束した人材チームや関連研究資源も、安定した実施を確保できておらず、多くの協力は約束された投入が実行されないために継続が困難となっている。知的財産権や成果転化の収益などの協力成果の共有にも、操作性の高い明確な規定が欠けており、協力革新目標の実現に影響したり、収益分配の不公平による法的な紛争が起こったりといった事態を生んでいる。さらに技術や市場、管理などのリスクに対する事前の見通しが不十分であるために、リスク分担に関する約定が合意に盛り込まれておらず、協力の過程で重大な障害にぶつかった場合、力を合わせて困難を克服するのが難しい状況となっている。

 第三に、責任・権限・利益が協力合意の時点ではっきり規定されておらず、法的拘束力を欠いている。産学研の各主体の自らの役割の位置付けにはほかの主体とのズレがあり、責任・権限・利益の関係がはっきりしておらず、関連する約定も曖昧で、空白があったり、ハンドリングが難しくなっていたりする。調査研究によると、多くの産学研連携合意においては、資金の投入や管理、知的財産権の分配、違約責任などの重要な利益問題に関する約定がはっきりとしておらず、紛争が起こっても協議によって解決するための根拠がない。不完全な合意は法的拘束力を欠いており、執行の効果に影響する。実践においては、責任・権限・利益関係に対する事前の規定が契約文書ではっきりとしていないため、契約を厳格に履行することができず、協力者間の信頼関係の醸成が難しく、高度なレベルでの持続的な協力ができない。これは、産学研連携が前述のように「短、平、快」のシンプルなものにとどまっている原因の一つと考えられる。

 第四に、合意履行の監督管理に欠陥がある。社会信用体系の構築が不十分で、約定の履行に対する人々の意識が低い上、法制度の整備が遅れ、監督管理も適切に実行されておらず、約束を破った場合のコストが低く、権益維持のコストが高い。こうした状況を背景として、協力の各主体が締結した合意を重視しなかったり、合意を適切に履行しなかったりといった事態が生まれている。

 知的財産権と利益保障体制の問題を解決するには、次のいくつかの措置が必要となる。第一に、知的財産権の帰属をさらに明確化し、知的財産権によるすべての権益を請負団体が得るようにし、複数の請負団体や団体内部、知的財産権の完成者が知的財産権とその収益をいかに分け合うかについて、原則的な規定を設ける。

 第二に、知的財産権の保護を強化し、知的財産権を侵害する行為を厳しく取り締まり、権利侵害のコストを高める。知的財産権裁判所の設立を加速し、知的財産権保護の能力を高める。

 第三に、契約意識を高め、産学研連携の合意における各主体の責任・権限・利益関係を明確化し、合意に隙間ができることを極力防止する。

 第四に、市場メカニズムを土台としながらも、産学研の各主体間の政府による利益協調を強化し、各協力主体に合意の順守と履行を促し、協力コストを引き下げる。

その3へつづく)