中国における産学連携に関する課題と促進方策(その3)
2015年12月24日 孫福全(中国科学技術発展戦略研究院院務委員)
(その2よりつづき)
5、産学研連携の政策環境問題
産学研連携においては、市場や団体の一部に機能不全が見受けられ、政府による指導や組織、推進が必要となっている。主な問題としては次のいくつかが挙げられる。第一に、産学研の協力を導く政策にさらなる整備が求められている。4項目の技術サービス(技術開発、技術譲渡、技術コンサルティング、技術サービス)に対して税の減免が定められているのを除き、産学研連携には明確な促進政策が存在していない。研究成果の転化や技術の株式化を促す政策は十分に実行されているとは言えない。「計画綱要」及び関連政策においては、産学研連携を促進するという政策の方向性が示されているものの、具体的な操作規定のある実施細則の制定が待たれている。
第二に、産学研連携に対する政府の資源配置の誘導作用を強化する必要がある。産学研連携の支援に対しては科学技術計画管理法などで原則的な規定がなされているものの、十分に実施されているとは言えない。産学研の結合は多くの場合、プロジェクトを申請する時の一時的な集まりであり、実施においては緊密な連携は実現されておらず、「産学研結合」という看板を掲げただけにとどまる状況が深刻化している。大型の産学研連携プロジェクトにおいては、大量の組織・協調業務が必要となるが、専門的な経費ルートが設けられていない。
第三に、産学研連携には系統的で安定した金融支援が欠けている。多くの産学研連携プロジェクトは、リスクが高い上に、担保が欠けているといった特徴があり、金融機関のリスク防止の条件を満たすことができず、基礎研究からパイロットテスト、産業化に至る各段階にいずれも金融支援の不足という問題が存在している。銀行などの金融機関は近年、業務モデルを革新し、知的財産権の担保化による産学研連携プロジェクトの支援などの試みを進めているが、内部のリスク制御の制約は依然として強く、新たな業務モデルの拡大が待たれている。
科学技術と経済とのさらなる融合を促進するには、産学研連携を促進する以下のような政策の検討と制定を進める必要がある。第一に、大学と研究機関に対する評価・審査政策を調整・改善し、研究成果の転化と産学研連携を奨励する内部の評価・審査体系の構築を促す。企業に転換した研究機関の評価・審査体系を調整・改善し、産業技術の革新においてさらなる役割を発揮させる。
第二に、企業が産学研連携を通じて自らの研究開発サポート体系を構築し、企業の革新能力を高めることを奨励・推進する。そして第三に、産学研連携の特徴と必要性に基づき、企業の適切な財務管理と課税方法の制定を進め、産学研連携に特化した税制優遇政策を打ち出す。研究成果の転化に対する税制政策においては、優遇の範囲を拡大し、研究成果の転化収入への課税を免除するだけでなく、研究員に対する奨励として株主権の形で与えられた研究成果の株式譲渡についても免税の措置を取る。「産学研技術連盟」の設立は産学研結合の重要なモデルとなっているため、産学研技術連盟を支援する税制優遇政策の打ち出しを検討することも提案する。
第四に、産学研の結合を促進する既存の政策を適切に実行し、産学研結合における政府の協調作用を十分に発揮させる。これには、研究成果の転化促進政策の実行監督の強化や、産学研連携における研究成果の完成者や応用者の利益の保護、「計画綱要」関連政策とその実施細則における産学研結合促進のための各政策措置の実行などが含まれる。
第五に、資源配置による指導という政府の役割を発揮し、資源配置の方式を革新し、産学研結合に対する指導を強化する。財政資金の投入を強化し、様々な投入方式を運用して産学研の緊密な結合を積極的に誘導・推進する。政府は、条件にかなった産業技術革新戦略連盟に委託して、重大産業技術革新プロジェクトを実施する。銀行など金融機関の役割を発揮させ、産学研の結合を導くための民間基金の設立を積極的に模索する。
海外の経験から、産学研連携促進のための特定資金を国家レベルで設立することが、産学研連携の技術革新体系構築の促進に重要な役割を果たすことがわかっている。先進国の経験を参考として、まずは、現行の国家科技計画の枠組みで産学研による共同プロジェクトを奨励し、産学研によって共同申請されたプロジェクトを優先的に支援し、産学研が共同申請した場合だけに支援を与えるプロジェクトを明確化する必要がある。さらに、産学研連携のための特別資金を設けて、産学研連携を支援することも検討すべきである。
産学研連携に対して中小企業が幅広い需要を持ち、さらにスタートアップ段階の中小企業の融資が困難であることを考慮すれば、スタートアップ段階の中小企業と大学・研究機関の協力を産学研連携特別資金による支援の重点の一つとすべきと考えられる。特別資金は主に無償支援の形式として、中央財政が50%から60%の協力経費を負担し、残りの40%から50%を地方財政と企業が調達することとする。
国有大型企業は革新のための一定の資源と能力を持っているが、産学研連携の原動力を欠いていることが多い。このため特別資金では、国有大型企業と大学・研究機関とのさらにハイレベルな協力を、無償支援や利子補助などの形で奨励することが考えられる。
重大プロジェクトとは、重大な経済または科学技術の分野で国家が実施する国民経済と社会の発展にとって重要な牽引作用を持ったプロジェクトを指す。規模が大きく、参加主体が多く、重要性が際立ち、先端技術にかかわるなどの特徴を持つ。重大プロジェクトの実施は往々にして、関連分野の科学技術や経済の資源を動員してキーテクノロジーのブレークスルーを実現することを必要とする。産学研の緊密な結合は、重大プロジェクトの成功を確保する力となる。そのため重大プロジェクト実施の過程では、多層的で全方向的な産学研連携の実施をプロジェクトの保障条件とする必要がある。また重大プロジェクトの実施は、産学研連携の推進にとってもチャンスとなる。国家は、重大プロジェクトの実施を、産学研連携の推進と自主革新能力の向上の重要な手段として、意識的に位置づけなければならない。
(おわり)