中国の資源環境の収容制約―地域の差異と類型化(その1)
2016年 3月 3日
概要
研究結果からは、次のことがわかった。(1)中国の90%近くの国土は、資源環境の強制約状態にある。そのうち半分近くは二重の要素の強い制約状態にあり、賀蘭山・竜門山ライン以東の人口産業密集区に集中している。(2)中国東部・中部の人口密集地区と青蔵高原は、土地資源不足の強い制約状態にある。華北・西北・東北・四川盆地・南方都市地区は、水資源不足の強い制約状態にある。華北平原、長江デルタ、江蘇省北部、四川・重慶・貴州・広西の各省区、東北平原、黄土高原地区北部などは、環境ストレスの強制約状態に達している。生態の強い制約区域は天山・大別山ラインの西南部に集中し、同ライン東北部の黄土高原やアルシャー盟、東北周辺、浙江北部沿岸にもまとまって分布している。(3)資源環境収容制約の複数の要素が交差した類型は様々である。多要素の制約類型は空間的に比較的集中して分布し、青蔵高原の土地・生態制約類型を除くと、その他の交差制約類型は、賀蘭山・竜門山ライン以東地区に集中している。(4)中国の資源環境収容制約には、分布が広く、類型が複雑・多様で、人口・産業密集区に重なっているなどの特徴がある。
国家は「十三五」(第13次5カ年計画、2016-2020)期間中、この特徴を踏まえて、国情基礎データの収集や整理、資源環境収容力の観測や警告、収容力評価の基礎理論方法、国土空間規制の制度整備などの面でさらなる取り組みに努める必要がある。
[キーワード]:収容力、資源環境制約、地域差異、類型、中国
改革開放以来、中国は、経済急成長や大規模な工業化・都市化といった輝かしい成果を上げる一方で、資源環境の面での深刻な代価を払ってきた[1-3]。それが著しく現れているのが、国土開発と建設の無秩序な展開や混乱であり、単位経済産出当たりの資源消耗量は過大で、経済社会の発展は、資源・環境・生態との間の矛盾を増している[4,5]。
早くには2004年7月、孫鴻烈や鄭度、陸大道、樊傑ら学者が「全国機能区域画定とその発展支持条件」[6,7]についての諮問報告を中央に提出した。中央に高く重視された同報告は、「国民経済・社会発展第11次5カ年計画綱要」[8]にも取り入れられた。第12次5カ年計画(「十二五」)においてはこれが一段と進められ、人口が密集し、開発強度が高く、資源環境負荷が高い一部の都市化地区の開発を調整し、資源環境収容力が高く、人口が集まり、経済条件が比較的良い都市化地区を重点的に開発するとの具体的な要求が掲げられた[9]。
2012年11月、胡錦濤総書記は第18回党大会報告で、資源制約が高まり、環境汚染が深刻で、生態系の悪化が進む中国の状況に対して、「人口と資源環境の均衡と経済社会と生態の利益の統一を原則として、開発の強度を制御し、空間構造を調整し、集約化・効率化された生産空間、住みやすく適度な生活空間、美しい環境の生態空間を整え、自然により多くの修復の余地を残し、農業により多くの良好な田畑を残し、子孫・後代に青い空、緑の大地、美しい水のすばらしい故郷を残さなければならない」と語った[10]。
2013年11月12日、党の第18期中央委員会第3回全体会議で打ち出された「改革の全面深化における若干の重大問題に関する中共中央の決定」は、「資源環境収容力のモニタリング・警報メカニズムを構築し、水・土壌資源と環境容量、海洋資源の収容力超過区域に対しては、開発を制限する措置を実行する」[11]ことを新たな時期の中央の改革深化の重要な任務の一つとして位置付けた。資源環境収容力評価事業に対する国家の重視とその急迫性に基づき、本稿は、水・土壌・環境・生態などの資源環境のカギとなる要素をターゲットとし、核心的な指標を選び出し、相応する評価方法を構築し、県級行政区を単位として、中国の資源環境収容制約の地域差とその類型の特徴を評価・分析したものである。これをもって、国家による資源環境収容力評価の推進と資源環境収容力のモニタリング・警報メカニズムの構築、国土開発保護政策の制定、空間規制制度の整備の根拠となる参考資料とすることを願うものである。
1 評価方法とデータ
参照可能な文献から見ると、資源環境とその収容物は、総合的な視野を構成する資源環境収容力概念の二つの核心要素となる。資源環境要素は、自然地理さらに地学にかかわるすべての要素を含む。注目される主なものには、土地や水、環境、生態などがある。収容物要素は、人類の生産と生活にかかわるすべての経済社会要素で、人口やその土地にふさわしい産業、発展の規模などがある。本研究は、「利用可能土地資源潜在力」「利用可能水資源潜在力」「環境ストレス度」「生態制約度」の4つを核心指標とし、中国の未来の経済社会の発展に対する、土地と水、環境、生態というそれぞれの資源環境要素の制約の地域差を論じるものである。
1.1 指標と計算方法
1.1.1 利用可能土地資源潜在力
利用可能土地資源潜在力という指標の採用により、未来の人口集中や工業化・都市化発展に対する特定地区の土地資源収容力を評価する。利用可能土地資源潜在力は、建設適正予備用地の数と質、集中規模の3つの要素からなる。具体的には、一人当たりの利用可能土地資源潜在力または利用可能土地資源潜在力を通じて表される。利用可能土地資源潜在力指標は、以下の段階的計算方法を用いて導かれる[12]:
LP=LSP/P(1)
LSP=LSC-LEC-LPF(2)
LSC=LSE-LWT-LFG-LDG(3)
LEC=LUC+LRC+LIC+LTC+LDC+LWC(4)
LPF=LSCF×β(5)
上述の公式において各記号は次を指す。LP——一人当たりの利用可能土地資源潜在力。LSP——利用可能土地資源潜在力。P——常住人口。LSC——建設適正用地面積。LEC——既存建設用地面積。LPF——基本的農地面積。LSE——[地形傾斜]∩[海抜高度]、一定の傾斜と標高の範囲内の面積。LWT——[地形傾斜]∩[海抜高度]内の河川・湖水・ダムなど水域面積。LFG——[地形傾斜]∩[海抜高度]内の林地・草地面積。LDG——[地形傾斜]∩[海抜高度]内の砂漠面積。LUC——都市用地面積。LRC——農村住民用地面積。LIC——独立工鉱業用地面積。LTC——交通用地面積。LDC——特殊用地面積。LWC——水利施設建設用地面積。LSCF——[建設適正用地面積]内の耕地面積。βの値の範囲は[0.8,1]。
1.1.2 利用可能水資源潜在力
利用可能水資源潜在力指標を採用し、未来の社会経済の発展に対する特定地区の水資源のサポート能力を評価する。利用可能水資源潜在力は、水資源豊富度、利用可能数、利用潜在力の3つの要素からなる。具体的には、一人当たりの利用可能水資源潜在的数量によって表される。利用可能水資源潜在力は、以下の段階的計算方法を用いて導かれる。
WP=Wsp/P(6)
WSP=WLD-WHD+WOD(7)
WLD=WSD+WUD(8)
WSD=WMY-WRE-WUF(9)
WUD=WUS-WUE-WUU(10)
WHD=WAU+WIU+WLU+WEU(11)
WOD=WOP×γ(12)
上述の公式において各記号は次を意味する。WP——一人当たりの利用可能水資源潜在力。WSP——利用可能水資源潜在力。WLD——本地区で開発利用可能水資源量。WHD——すでに開発利用している水資源量。WOD——開発利用可能な入境(外来)水資源量。WSD——地表水利用可能量。WUD——地下水利用可能量。WMY——多年平均地表水資源量。WRE——河川の生態水要求量。WUF——制御不能な洪水量。WUS——地表水と重複しない地下水資源量。WUE——地下水系生態水要求量。WUU——利用不可能な地下水量。WAU——農業用水量。WIU——工業用水量。WLU——生活用水量。WEU——生態用水量。WOP——現在流れ込んでいる水資源量。流域毎のγの値の範囲は0—5%。
1.1.3 環境ストレス度
環境ストレス度指標を採用し、特定地区の環境汚染の程度を評価する。大気環境ストレス度と水環境ストレス度、総合環境ストレス度によって構成される。具体的には、大気・水環境に対する典型的な汚染物(二酸化硫黄、化学的酸素要求量)の汚染程度によって表される。環境ストレス度は、以下の段階的・統合式計算方法を用いて導かれる。
ES=MAX{EAS(SO2),EWS(COD)}(13)
EAS(SO2)=[EAPD(SO2)-EAPC(SO2)]/(EAPC(SO2))(14)
EWS(COD)=[EWPD(COD)-EWPC(COD)]/(EWPC(COD))(15)
EAPC(SO2)=A∙(Cki-C0)∙Si/√S(16)
EWPC(COD)=Qi∙(Ci-Ci0)+kCi0Qi(17)
上述の公式において各記号は次を意味する。ES——環境ストレス度。EAS(SO2)——大気環境ストレス度(SO2)。EWS(COD)——水環境ストレス度(化学的酸素要求量)。EAPD(SO2)——大気汚染物排出量(SO2)。EAPC(SO2)——大気汚染物環境容量(SO2)。EWPD(COD)——水汚染物排出量(化学的酸素要求量)。EWPC(COD)——水汚染物環境容量(化学的酸素要求量)。A——地理区域総量制御系数。Cki——国家または地方の大気環境の質に関する基準に定められた、第i機能区の類別と一致する相応の年の一日の平均濃度。C0——バックグラウンド濃度。クリーン観測点のある区域では、同地点の観測データを汚染物のバックグラウンド濃度C0とする。その条件のない区域では、バックグラウンド濃度C0は0と仮定する。Si——第i機能区の面積。S——総量制御の総面積。本研究では、総量制御の総面積を評価ユニットの既成市街地の面積とする。Ci——第i機能区の目標濃度。重要な水源保持区においては、地表水一級標準を採用し15mg/Lとする。一般地区においては、地表水三級標準を採用し20mg/Lとする。Ci0——第i種汚染物のバックグラウンド濃度。観測条件のない区域では、この値は0と仮定する。Qi——第i機能区の利用可能な地表水資源量。k——汚染物総合分解系数。一般河川の水質の分解系数を参考値とし、CODの総合分解系数は0.20(1/d)とする。
1.1.4 生態制約度
生態制約度は、中国の地域スケールの生態系の脆弱性または構造機能の重要度を示す総合指標である。生態系の脆弱性は、砂漠化と土壌侵食、石漠化の3つの要素によって構成される。具体的には、砂漠化脆弱性と土壌侵食脆弱性、石漠化脆弱性の等級指標によって表される。生態の重要性は、水源保持の重要性と土壌保持の重要性、防風・防砂の重要性、生物多様性保護の重要性、特殊生態系の重要性の5つの要素によって構成される。具体的には、この5つの要素の重要度指標によって表される。生態制約度は、以下の統合式計算方法を用いて導かれる。
ECOC=MAX{ECOV,ECOI}(18)
ECOV=MAX{DV,SV,RV,SSV,......}(19)
ECOI=MAX{WCI,SCI,WBI,BMI,......}(20)
上述の公式において各記号は次を意味する。:ECOC——生態制約度。ECOV——生態系脆弱性。ECOI——生態重要性。DV——砂漠化脆弱性。SV——土壌侵食脆弱性。RV——石漠化脆弱性。SSV——土壌塩化脆弱性。WCI——水源保持重要性。SCI——土壌保持重要性。WBI——防風防砂重要性。BMI——生物多様性保護重要性。
(その2へつづく)
参考文献:
1 姚士謀, 陸大道, 王聡, 等. 中国城鎮化需要綜合性的科学思維——探索適応中国国情的城鎮化方式. 地理研究, 2011, 30(11) : 1947-1955.
2 劉殿生. 資源与環境綜合承載潜力分析. 環境科学研究, 1995,8 (5) : 7-12.
3 劉昌明, 王紅瑞.浅析水資源与人口、経済和社会環境的関系.自然資源学報, 2003, 18 (4) :635-644.
4 高国力. 如何認識我国主体功能区劃及其内涵特征. 中国発展観察, 2007, (3) : 23-25.
5 中華人民共和国国務院. (国発[2010]46号). 全国主体功能区規劃. 2010.
6 樊傑. 我国主体功能区劃的科学基礎. 地理学報, 2007, 62 (4) :339-350.
7 鄧偉. 重建規劃的前瞻性: 基于資源環境承載力的布局. 中国科学院院刊. 2009, 24 (1) :28-33.
8 中華人民共和国国務院.国民経済和社会発展第十一箇五年規劃綱要.[2015-11-21]. http://www.gov.cn/gongbao/content/2006/content_268766.htm.
9 中華人民共和国国務院. 国民経済和社会発展第十二箇五年規劃綱要.[2015-11-20]. http://www.gov.cn/2011lh/content_1825838.htm.
10 胡錦涛.堅定不移沿着中国特色社会主義道路前進為全面建成小康社会而奮斗——在中国共産党第十八次全国代表大会上的報告. 北京: 人民出版社, 2012.
11 中国共産党第十八届中央委員会. 中共中央関于全面深化改革若干重大問題的決定. [2015-11-24]. http://www.gov.cn/ldhd/2013-11/15/content_2528186.htm.
12 徐勇, 湯青, 樊傑, 等. 主体功能区劃可利用土地資源指標項及其算法. 地理研究, 2010, 29 (7) : 1223-1232.