京津冀(北京・天津・河北)における大気煙霧排出状況の研究(その4)
2016年 4月21日
姜克雋:中国国家発展改革委員会エネルギー研究所 研究員
専門領域はエネルギー環境システムモデル研究、中国総合環境政策評価モデル(IPAC)の開発主担当。研究領域はエネルギーおよび気候変動政策に関連するシナリオモデルが中心。既存研究のもと、国 際政策決定プロセスや国際モデル研究にも関与。
( その3よりつづき)
5.エネルギーと大気汚染物排出状況
5.1エネルギー状況
三省・市の社会経済状況の設定、およびIPACモデルの技術進歩指標に基づき、三省・市のエネルギー需要状況を得ることができる。下の表12と20を参照していただきたい。
京津冀大気汚染の深刻化は、同地域の強力な抑制政策の実施を余儀なくされた。エネルギーと煙霧汚染排出の変化のみならず、より重要なことは区域発展の全体的枠組みをより鮮明にしたことだ。この3地域の未来の社会経済発展は全体的に経済構造の最適化がなされ、より一体化が進むことにより、同地域のエネルギー需要にも大きな変化が生じる。全体的に見て、同地域のエネルギー需要の増加速度は顕著に緩やかになり(外部への送電は当量計算)、京津冀一次エネルギーの需要の成長速度は2012年から2020年にそれぞれ3.48%,3.62%と0.46%、2020から2030年にそれぞれ0.87%、2.06%と0.77%となる(図4参照)。ここから、河北の経済構造調整のエネルギー需要に対する影響が非常に顕著であることが分かる。それは京津冀の大気煙霧抑制政策に拠るところであり、同時に全国における経済情勢の発展の結果であり、全国範囲で見ると京津冀一体化がハイレベル経済モデルへと歩みを進めているのである。こうした変化は、同地域のエネルギー需要を2030年に基本的にピークへと移行させ、その後は増加することなく2030年から低下を始める。
図4 京津冀一次エネルギー需要量
もう一つ顕著な変化が同地域における一次エネルギー需要構造のクリーン化である(図5参照)。石炭の一次エネルギー消費に占める割合は2012年の73.2%から2020年の44.3%に下がっており、2030年は33%となる。天然ガスの割合は2012年の4.4%から2020年の10.1%に増え、2030年に15.4%となる。再生可能エネルギーは2012年の1.1%から2020年の3.5%に増え、2030年に4%に増える。
図5 種類別一次エネルギー需要量
5.2 大気汚染物質排出状況
IPACモデル研究に基づき、今後のエネルギー状況および排出抑制技術の応用を提示し、その他の排出源の抑制を加える。一次排出の状況は以下の表の通りである(表6-1から8-2参照)。
PM2.5,トン | ||||||||
建築 現場 |
道路 | 炊事 | 電力 | その他の エネルギー 活動 |
農村炊事 の薪燃焼 |
エネルギー と工業の 合計 |
藁の燃焼 | |
2012 | 2583 | 37440 | 1052 | 9530 | 30686 | 1114 | 41329 | 15000 |
2013 | 2609 | 38189 | 1045 | 9244 | 31913 | 1092 | 42249 | 13500 |
2015 | 2196 | 40061 | 974 | 0 | 22002 | 1047 | 23049 | 9000 |
2017 | 1792 | 41663 | 858 | 0 | 15872 | 820 | 16692 | 7200 |
2020 | 1792 | 45830 | 771 | 0 | 4155 | 6168 | 10322 | 5760 |
2025 | 1648 | 48579 | 678 | 0 | 2069 | 4348 | 6417 | 4608 |
2030 | 1451 | 51008 | 593 | 0 | 837 | 681 | 1518 | 3686 |
SO2 | Nox | 農地 NH3 |
化学工業 NMVOC |
ガソリン スタンド NMHC |
燃料油 HC |
||||
電力 | その他の エネルギー 活動 |
合計 | 石炭+ 燃料ガス |
燃料 | |||||
2012 | 26378 | 95868 | 122245 | 145944 | 93481 | 28100 | 216000 | 18830 | 42491 |
2013 | 25586 | 94909 | 120495 | 141565 | 91611 | 28763 | 211680 | 18885 | 45041 |
2015 | 0 | 73093 | 73093 | 84172 | 84983 | 30370 | 237600 | 13836 | 48074 |
2017 | 0 | 55598 | 55598 | 56182 | 86533 | 32117 | 256608 | 6084 | 52701 |
2020 | 0 | 34468 | 34468 | 28508 | 84322 | 32515 | 281114 | 6994 | 60217 |
2025 | 0 | 26081 | 26081 | 16707 | 84303 | 33258 | 322302 | 8722 | 74082 |
2030 | 0 | 14253 | 14253 | 10051 | 88899 | 34020 | 352798 | 9203 | 77924 |
PM2.5,トン | ||||||||
建築 現場 |
道路 | 炊事 | 電力 | その他の エネルギー 活動 |
農村炊事の 薪燃焼 |
エネルギー と工業の 合計 |
藁の燃焼 | |
2012 | 1873 | 23544 | 702 | 39031 | 60523 | 23798 | 123353 | 272600 |
2013 | 1891 | 25192 | 707 | 37860 | 62944 | 23322 | 124127 | 245340 |
2015 | 1592 | 28253 | 673 | 36884 | 45220 | 22370 | 104475 | 163560 |
2017 | 1299 | 33903 | 577 | 38166 | 33441 | 19346 | 90954 | 130848 |
2020 | 1299 | 38989 | 497 | 34287 | 10838 | 15813 | 60938 | 104678 |
2025 | 1195 | 46787 | 428 | 32830 | 6922 | 11148 | 50900 | 83743 |
2030 | 1052 | 49594 | 367 | 28799 | 4992 | 6986 | 40778 | 66994 |
SO2 | Nox | 農地 NH3 |
化学工業NMVOC | ガソリン スタンド NMHC |
燃料油 HC |
||||
電力 | その他の エネルギー 活動 |
合計 | 石炭+ 燃料ガス |
燃料 | |||||
2012 | 108035 | 236854 | 344890 | 363990 | 96243 | 18460 | 310000 | 17741 | 43747 |
2013 | 104794 | 234486 | 339280 | 353070 | 94318 | 18700 | 303800 | 17793 | 46371 |
2015 | 90690 | 158556 | 249247 | 267953 | 87493 | 19364 | 341000 | 13059 | 49591 |
2017 | 67442 | 125402 | 192844 | 209760 | 89263 | 19743 | 368280 | 6010 | 56843 |
2020 | 42060 | 94554 | 136614 | 142114 | 90949 | 20051 | 401900 | 7317 | 68331 |
2025 | 40839 | 83831 | 124670 | 88031 | 95663 | 20605 | 456983 | 9370 | 86056 |
2030 | 37199 | 79108 | 116308 | 63939 | 103268 | 21176 | 492782 | 9859 | 91177 |
PM2.5,トン | ||||||||
建築 現場 |
道路 | 炊事 | 電力 | その他の エネルギー 活動 |
農村炊事 の薪燃焼 |
エネルギー と工業の 合計 |
藁の燃焼 | |
2012 | 7560 | 68947 | 3502 | 141918 | 447893 | 23798 | 613609 | 367000 |
2013 | 7636 | 73774 | 3499 | 137660 | 465809 | 23322 | 626791 | 330300 |
2015 | 6426 | 82737 | 3311 | 129187 | 343193 | 22370 | 494750 | 220200 |
2017 | 5244 | 99284 | 2853 | 129146 | 264411 | 19346 | 412903 | 176160 |
2020 | 5244 | 114177 | 2484 | 110766 | 94185 | 15813 | 220765 | 140928 |
2025 | 4824 | 137012 | 2173 | 100252 | 64009 | 11148 | 175409 | 112742 |
2030 | 4245 | 145233 | 1907 | 84331 | 41201 | 6986 | 132518 | 90194 |
SO2 | Nox | 農地 NH3 |
化学工業 NMVOC |
ガソリン スタンド NMHC |
燃料油 HC |
||||
電力 | その他の エネルギー 活動 |
合計 | 石炭+ 燃料ガス |
燃料 | |||||
2012 | 392816 | 1961118 | 2353934 | 2044250 | 104677 | 481600 | 520000 | 17307 | 47580 |
2013 | 381031 | 1941507 | 2322538 | 1982922 | 102583 | 491978 | 509600 | 17358 | 50435 |
2015 | 317642 | 1316658 | 1634300 | 1520273 | 95161 | 517550 | 572000 | 12864 | 54151 |
2017 | 228206 | 1083114 | 1311320 | 1103739 | 97471 | 543586 | 617760 | 6007 | 62209 |
2020 | 135877 | 869849 | 1005727 | 682225 | 99534 | 550684 | 673121 | 7438 | 74925 |
2025 | 124709 | 789151 | 913859 | 419761 | 104895 | 563768 | 780673 | 9603 | 93753 |
2030 | 108927 | 677062 | 785990 | 312288 | 112503 | 577183 | 854308 | 10098 | 99065 |
5.3 排出削減政策効果の分析
我々の分析に基づくと、大気煙霧抑制の第一段階において、各地の抑制目標は容易に実現できる。政策措置実行の初期において、石炭消費の抑制や石炭から天然ガスへの転換、わらの燃焼、ガソリンスタンドの有機物揮発、炊事飲食による排出の抑制、工事現場の粉塵等、一部比較的容易かつコストの比較的低い措置はやや顕著な効果を得ることができる。各地の2017年までの大気の質改善目標に基づくと、それらの目標は基本的に容易に実現可能である。
第一段階も学習過程であり、政策と行動案の制定は互いに対比することができる。国もすでに大気煙霧抑制を至急解決すべき政策目標の一つとしており、各種の制度と政策はいずれも未曾有のレベルで、2017年までに大気の質はやや顕著な改善が見られる見込みである。
しかし、我々の長期目標は厳しい挑戦である。我々がこのような政策のレベルを実際に維持できるのであれば、2025年から2030年の間に、35ppmという濃度目標を全国で実現することが期待できる。そのためには、いち早く第一段階の汚染抑制行動案を実行に移し、各地の産業が新政策に備えられるようにしなければならない。
一次汚染物質排出の分析において存在する不確定性は、主に政策の定量的不確定性および未来のエネルギー発展情勢の不確定性に表れている。
政策定量化の不確定性は、主に一部の定量記述の政策と行動によるもので、具体的な排出削減効果を確定するのは困難である。我々は政策分析の経験と全国的な政策効果、および事例研究の効果から分析を行い、さらに政策実施中の実際に発生する効果をも考慮する。わらの燃焼や露天での調理による汚染などは、実際の政策執行において目標実現がやや困難な例である。
次に、未来のエネルギー需要の判断に対する不確定性である。我々研究チームは地方ないし全国のエネルギー需要を持続的に研究しているが、未来のエネルギー需要を正確に予測するのは学術的に依然困難である。直近の非常に重要な研究の結論は、全国の未来におけるエネルギー需要成長速度は顕著に鈍化し、わが国はすでに経済構造調整期に入り、それがもたらすエネルギー需要の成長も明らかに弱まり、さらにそれが長期的傾向となる。こうした全国の全体的判断は省・市の情勢を分析する際により複雑で、不確定要素も多くなる。しかしそれでも全国の情勢は、省・市のエネルギー需要分析のひとつの参考となる情報をもたらした。各地が大気煙霧行動案を確定した2013年と比べ、現在わが国のエネルギー成長情勢は2014年にすでに顕著になり、我々の判断も長期的傾向となる。こうした結論は、各地の大気煙霧抑制目標の実現に資するものである。一部省・市は石炭の消費比例目標を示しているが、これは一次エネルギー所期需要が依然急速に成長する状況下で出した判断である。一次エネルギー需要の成長が弱まり、石炭比例目標を実現するならば、石炭の消費総量と元々の所期は顕著に減少することを意味している。新たに大型の設備が投入されると、点源汚染の石炭消費は増大する可能性があり、その他の石炭製品と小型消費石炭設備の石炭消費抑制により高い要求を提示することになるが、これは政策調整の一種である。
6.研究の結論と政策提言
上述のモデルを通じた一次排出の分析から、石炭消費の削減は重要な政策的選択である。しかし、一部の省は前期に新たに石炭燃料施設を導入し使用しているため、石炭消費が次第に大きくなっている。大気煙霧の抑制は石炭消費にブレーキをかける役割を担うが、多くの新設の設備が現地の発展計画に組み込まれ、建設中であるため、石炭消費の減少はより長いスパンで顕著になってくる。我々の分析では、経済情勢の変化により、産業構造転換が急速に到来し、大気煙霧抑制措置が実施され、わが国の石炭消費はすでにピークを迎え、2020年までに減少する。そのため、多くの省・市の石炭消費はすでに減少を始めるが、建設中の石炭燃焼施設の使用が原因で一部省・市の石炭消費は引き続き増加する。
石炭製品と小型石炭燃焼設備は、各地でいずれも対策を採って抑制、集中化、あるいは石炭から天然ガスへの転換を行っている。しかし、石炭製品と小型石油燃焼設備を大幅に減少させる政策は実行がやや困難で、コストも高く、とりわけ政策と行動が進むにつれ、容易に解決できるものは解決し、その後はより厳しくなるため、政策措置により力を入れて取り組まなくてはならなくなる。
農村部の面源汚染排出は、現在基本的に有力な抑制措置が採られていない。この点は今後さらに政策と行動案に盛り込まなければならない。農村の発展や農村管理とも関連しており、これも難しい点である。近日中に農業部(省)は化学肥料使用を抑制する政策を発表する予定であり、将来の一定期間内において化学肥料の使用のピークに達した後に、減少していくよう力を尽くす。農村の面源汚染排出も重要な一部分を占めており、急ぎ対策を採り対応していかなくてはならない。江蘇省ではすでに対策を講じており、そのプロセスにおける政策の効果は他の省・市に参考となる。
農村部のわらの燃焼は依然局所的かつ特定の時間帯に出現する大気煙霧の重要な汚染源である。現在主に行政手段により抑制しているが、引き続き解決方法を探さなければならない。一部の省・市はすでに行動案においてわらの利用と処理を検討しており、我々もこうした措置の効果を観察する必要がある。石炭発電所で直接混ぜて燃やすのも選択肢かもしれない。
長期的に見て、エネルギー需要の成長は抑制され、エネルギー構造は顕著に最適化されていく。こうした転換のためには一日も早い政策の制定によって転換を促していかなければならない。
(おわり)
主要参考文献:
- 『大気汚染防治行動計画』
- 『京津冀及周辺地区落実大気汚染防治行動計画実施細則』
- 『河北省削減煤炭消費及圧減鋼鉄等産能任務分解案』
- 『天津市大気汚染防治条例』
- 2013年天津市環境情況公報
- 2013年北京市環境情況公報
- 2013年河北省環境情況公報
- 環保組織和緑色和平、『霧霾真相―京津冀地区PM2.5汚染解析及減排策略研究』2013年
- 『天津市煤炭消費総量削減和清潔能源替代実施案』
- 『津南区貫徹落実国家〈大気汚染防治行動計画実施状況考核弁法(試行)〉実施案』
- 王躍思、専家研討京津冀霧霾成因及対策、2014
- 孟亜東、孫洪磊、京津冀地区"煤改気"発展探討、国際石油経済、2014NO.11
- BTV新聞2015-4-9
- 中科院専家_京津冀何以成霧霾重災区
- 石元春、中国霧霾的産生機理及応対策略研究