極超音速飛行機再突入フォールトトレラント誘導技術概論(その2)
2016年 7月29日
銭佳淞:南京航空航天大学自動化学院
主な研究テーマ:再突入フォールトトレラント誘導・制御
斉瑞雲:南京航空航天大学自動化学院 教授
主な研究テーマ:フォールトトレラント誘導・軌道最適化、故障診断・フォールトトレラント制御
姜斌:南京航空航天大学自動化学院
(その1よりつづき)
4 再突入フォールトトレラント誘導方法
4. 1 誘導・制御集成再構築方法
適応誘導・制御統合方法は、深刻なアクチュエータ故障や空気力学的不確定性、突風の干渉などの影響をターゲットとし、内外のループを結合し、フォールトトレラント方法を設計し、補償を行うものである。文献[20-21]は、「X-33」飛行機に向けて開発されたフォールトトレラント方法を紹介したものである。文献[15]における方法は、ボーイング「X-40A」系統に向けて開発設計されたもので、飛行試験もパスしている。この2種類の方法の構造体系は似ており、姿勢ループと誘導ループとの間の関係を考慮し、最終的に最適な軌道再構築を設計したものである。このシステムの構造フレームワークについては、文献[21]の図1に見ることができる。
このフォールトトレラント誘導・制御システムは、主に4つの部分からなる。
(1)故障の識別:文献[20]は、改良逐次最小二乗法(MSLS)を採用して変数を識別し、識別した変数のゲインを姿勢ループから誘導ループに引き込み、適応アルゴリズムの設計を行ったものである。文献[15]は、舵面の制御配分の入力出力量の分析を通じて、機体軸が飽和状態にないかを判断し、飽和項目を参考モデルの帯域幅の設計に取り込み、帯域幅を誘導則の調整可能変数の設計に導入したものである。
(2)インナーループの制御再構築:制御再構築のミッションは、インナーループシステムが姿勢の安定を保持したまま故障している状況で動力性能を回復し、誘導指令をトレース・リファレンスすることである。
(3)アウターループの誘導再構築:アウターループの誘導再構築のミッションは、軌道指令をトレース・リファレンスすることである。文献[15]は、Back steppingアルゴリズムを採用して誘導則を設計し、インナーループの参考モデルの帯域幅の変化に基づき、比例フィードバックゲインを調節し、ゲインを適応誘導則の設計に導入したものである。
(4)オンライン軌道再構築:軌道ミッションは、故障下で新たな最適軌道を再び獲得することである。最適経路準備法(The Optimum-Path-To-Go、OPTG)[15,21]の作動の段取りは、オフライン軌道ベース生成、オフライン軌道ベースのモデリング・エンコーディング、オンライン軌道再構築である。軌道再構築の中心となるのは、軌道ベースからの最適軌道選択の過程である。
4. 2 空気力学変数の推算に基づく最適軌道再構築方法
極超音速飛行機にとっては、故障の影響による空気力学変数の変化は、飛行誘導ミッションの順調な完成に大きく影響する。故障後の空気力学変数の変化の研究は、フォールトトレラント誘導制御に対して非常に大きな意義を持つ。文献[22]は、故障状況下における空気力学モデルを提出し、制御舵面の故障の影響によって生まれた空気力学変数の変化を標準空気力学モデルに組み入れ、故障情報の推定を実現した。具体的な空気力学モデルは以下のとおりである[22]。
式中のCLδ*(Ma,α,δ*)と CDδ* (Ma,α,δ*)はそれぞれ、制御舵面によって生まれた故障情報を含む揚力系数と抗力系数である。線形計画と制御配分方法を採用し、舵面モーメントの安定状態下での舵面モーメント系数を導き出す。この部分で予測された故障情報は、直接擬似スペクトル法に基づく最適軌道再構築アルゴリズムに用いられる。
4.3 オンラインロバスト軌道生成方法
文献[23]は、舵面のスタック故障の下でのオンラインロバスト軌道の生成方法を紹介したものである。まず標準状況下においては、MP方法を採用して、オフライン軌道データベースを計算する。飛行機に故障が発生したら、近隣最適制御アルゴリズム(NOC)を採用し、近隣の運行可能な軌道をリアルタイムで生成し、故障から復帰させる。故障の偏差が十分に小さい時には近隣軌道存在定理(NFTET)を適応する。故障の偏差が大きくなったら、NFTETはもう適用せず、NFTETを軌道ロバスト性定理(TRT)に拡張する。TRTの原理に基づき、もともとの誘導則の土台の上に1項目のロバスト項目を加えることによりNFTETフォールトトレランスの不足部分を補う。このうち加えられるロバスト項目は、入力偏差項目の設計適応律にかかわるものである。入力偏差の大小の変化に応じて変数を調節する。最終的なシミュレーションによって、大きな故障を受けたシステムがロバスト項目の追加によってより高いロバスト性を示すことが明らかとなっている。
4.4 モデル予測静的プログラミングに基づくロバスト再突入誘導方法
モデル予測静的プログラミング技術(MPSP)は近年、多くの研究成果を上げている[24-25]。文献[25]は、MPSP技術を飛行機再突入誘導のロバスト性研究に応用したもので、モデルにおいて状態の誤差や変数の不確定などの故障状況が出現するケースを主に考慮し、再突入誘導過程において選定される制御変量を迎角と横傾斜角とするもので、再構築軌道の誘導過程は、迎角と横傾斜角の計算の過程となる。再突入過程における迎角指令は直接の計算によて得られるが、横傾斜角指令の取得過程は、まず進路角の指令を取得し、得られた進路角指令を動的逆回路において用いて横傾斜角指令を取得するものである。ロバスト再突入誘導ストラテジーのフレームワークは文献[25]の図1に見ることができる。
ロバスト再突入誘導ストラテジーは、予測と修正の2つの部分からなる。まず制御変量の上下限の制約に基づいて選定した中間値を初期予測値U0とし、離散状態方程式と出力方程式に基づいて次の状態量と出力量を反復予測し、出力量偏差値が0に収斂するかを判断する。MPSPアルゴリズムを採用し、偏差量を制御量の誤差へと伝達し、新たな制御変量を更新する。MPSPアルゴリズムによって反復されるのは進路角であることから、進路角の値を動的逆方程式に代入し、最終的な制御量横傾斜角を求める必要がある。
4.5 インナー・アウターループによるフォールトトレラント制御方法
文献[26]は、アクチュエータ故障または深刻な構造的故障が起こった状況において、アウターループの誘導ループとインナーループの姿勢ループからフォールトトレラント制御を行う方法を紹介したものである。期待の状態と実際の状態との偏差を計算に加えることによって、誘導指令と姿勢指令、舵面・加速器偏向指令を取得するものである。一般の両ループ統合による誘導・制御が迎角と横傾斜角、横滑り角を誘導制御変量としているのとは異なり、この方法においては軸加速度が誘導指令とされる。そのプロセスは3ステップに分かれる。
(1)まずアウターループにおいて、与えられた航路ポイントや期待高度、期待速度に基づき、軸加速度を計算し、速度誘導・垂直誘導・水平誘導からそれぞれ、3つの方向における加速度指令を取得する。このうちaxG指令を求める関係式は次の通りである。
式中のvmodは、故障によって引き起こされた修正項目である。具体的な関係式は文献[26]参照。
(2)計算によって得られた加速度指令をインナーループに送り、期待の状態と実際の状態との偏差及び各軸加速度カップリング指令に基づき、横揺れ角と偏揺れ角、縦揺れ角をそれぞれ計算する。
(3)最後に、横揺れ角と偏揺れ角、縦揺れ角の期待と実際との偏差に基づき、相応する制御則から、舵面の偏向量を計算し、比例積分制御律によって加速器稼働の程度を求めるものである。
5 結語
再突入フォールトトレラント誘導技術は、各種の故障に遭遇した飛行機のミッションの臨時変更という状況をターゲットとし、飛行機のオンラインのリプログラミングフォールトトレランス能力の向上に目をつけたもので、未来の飛行機の信頼性の高い発展に対し、重要な意義を持っている。近年、この分野ではいくつかの研究成果が取得されているが、次のいくつかのキー技術における問題では、今後さらなる研究が必要となる。
(1)故障の影響の系統的分析
極超音速飛行機性能に対する故障の影響についての現在の研究の多くは、定性的な叙述であるか、具体的な飛行機の飛行試験データについての分析の結果であり、系統的な研究方法は存在していない。飛行機の空気力学変数に対するさまざまな故障の定量的な影響をさらに研究する必要がある。
(2)故障診断とフォールトトレラント誘導の統合設計
現在、故障診断とフォールトトレラント制御技術の方面での研究は多いが、故障診断とフォールトトレラント誘導技術を結びつけて研究する学者は少ない。フォールトトレランス研究に対する故障診断の完全性と将来の実際の応用段階の考慮は今後、欠かせないものとなる。
(3)誘導システムのロバスト性と適応性の研究
現在、ロバスト制御方法と適応制御方法の再突入誘導における応用はまだ不成熟であり、新型極超音速飛行機研究の一つの方向を代表とするもので、さらなる研究が必要となる。
(4)誘導・制御一体化技術の研究
再構築アルゴリズムの設計には、誘導・制御の間のカップリング関係を示す必要がある。現在はNASAがこの技術を研究しており、同技術は今後、飛行機のフォールトトレランス能力の向上における研究方向の焦点となるものと見られる。
(おわり)
主要参考文献:
[15]Schierman J D,Ward D G,Hull J R,et al. Integrated adaptive guidance and control for re-entry vehicles with flight test results[J]. Journal of Guidance,Control,and Dynamics,2004,27(6) : 975-988.
[20]Schierman J D,Ward D G,Monaco J F. A reconfigurable guidance approach for reusable launch vehicles[R].AIAA-2001-4429,2001.
[21]Schierman J D,Hull J R,Ward D G. Adaptive guidance with trajectory reshaping for reusable launch vehicles [R]. AIAA-2002-4458,2002.
[22]Oppenheimer M W,Doman D B,Bolender M A. A method for estimating control failure effects for aerodynamic vehicle trajectory retargeting[R]. AIAA-2004-5169,2004.
[23]Jiang Z. On-line approach/landing trajectory generation with input deviation bound uncertainty for reusable launch vehicles[C]/ /2007 46th IEEE Conference on Decision and Control. IEEE,2007: 4912-4917.
[24]Padhi R,Kothari M. Model predictive static programming: a computationally efficient technique for suboptimal control design[J]. International Journal of Innovative Computing Information and Control,2009,5(2) : 399-411.
[25]Halbe O,Raja R G,Padhi R. Robust reentry guidance of a reusable launch vehicle using model predictive static programming[J]. Journal of Guidance,Control,and Dynamics,2014,37(1) : 134-148.
[26]Chowdhary G,Johnson E N,Chandramohan R,et al. Guidance and control of airplanes under actuator failures and severe structural damage[J]. Journal of Guidance,Control,and Dynamics,2013,36(4) : 1093-1104.
※本稿は銭佳淞,斉瑞雲,姜斌「高超声速飛行器再入容錯制導技術綜述」(『飛行力学』第33卷第5期、2015年10月,pp.390-394)を『飛行力学』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。
記事提供:同方知網(北京)技術有限公司