第119号
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宇宙船の地球帰還時における空気力学特性の概要(その3)

2016年 8月25日

方方:中国宇宙技術研究院 有人宇宙飛行本部 研究員、修士

主な研究テーマ:宇宙機空気動力学、システム工学設計

周璐:中国宇宙技術研究院 銭学森宇宙技術実験室 技師、修士

主な研究テーマ:宇宙機再突入軌道設計

李志輝:中国宇宙空気力学研究・発展センター 超高速空気力学研究所研究員、博士、博士生教官

主な研究テーマ:多様な流動様式の空気力学シミュレーション及び応用研究

その2よりつづき)

4 再突入過程に影響する空力作用

4.1 帰還減速

4.1.1 抵抗係数の影響

 宇宙船が宇宙から帰還する軌道における地球表面の稠密空気は、空気が無い月面などに着陸する場合とは異なっている。地球への帰還の際は大気を利用し減速を実現させるため動力作用を必要としないが、空気が無い天体に着陸する際はエンジンの反推力作用により減速を実現する必要がある[1-4、10-11、17-19]

 初期弾道条件に等しい揚力コントロール式で弾道に再突入すると、最大抵抗係数が0.9と2.0となり、宇宙船は2種類の比較的大きな抵抗特性を有することになる。その典型的な速度―高度の関係性を図13に示す。帰還減速に対する抵抗係数の影響規律は空力作用が大きくない高度80㎞以上の高空では、異なる抵抗指数の減速性が一致する。高度が20~80㎞の減速飛行段階では、抵抗の小さい宇宙船は高度50㎞以上での減速性が優れている。高度が20~50㎞の飛行段階においては、2種類の異なる抵抗特性を持つ宇宙船は、高度の速度と一致する減速性と抵抗が大きい宇宙船の減速性を有する。こうした点を考えると、半弾道式により宇宙船が帰還する際の抵抗係数の開きは大きいが、弾道に沿った減速特性は基本的に一致しているといえる。

図13

図13 宇宙船が再突入時に生じる異なる抵抗係数と減速特性

Fig.13 Decelerating performance of spacecraft re-entry for different drag coefficient

4.1.2 弾道の影響

 最大揚力無コントロール帰還、揚力コントロール帰還、回転再突入という3種類の典型的な帰還弾道が存在する。その速度―高度との関係性、及び高度―航程曲線との関係性を図14に示す。宇宙船が異なる弾道で帰還する際の減速特性を以下に記す。

1)高空飛行段階における空力作用は弱いため、再突入コントロール方式が異なっても下降減速特性は一致する。中低空の飛行段階では再突入方式が異なると下降減速特性も変化する。

2)最大揚力無コントロール(/=0.23)と揚力コントロール(/=0.15)という2種類の帰還弾道の減速特性では、唯一中空飛行段階(約45~70㎞)のみ異なる。再突入高度が70㎞になると航程が長くゆるやかになるため、最大揚力弾道は同高度の揚力コントロール弾道よりも減速する。その後、高度の低下が加速するため揚力コントロール弾道の航程は短くなり、周囲の空気密度は大きくなる。同高度における速度が加速すると減速作用も強まり高度45㎞付近で一致する。そして、2種類の弾道加速速度は以降、一致する。

3)回転再突入弾道(/=0.38)は、高度70㎞付近から開始する。他の弾道速値より同高度における弾道速度は速くなるが、空力加熱消耗による運動エネルギーも多いため、最終的には低空音速飛行段階に、着陸前に必要な減速を完了させることができる。

図14
図14

図14 異なる弾道で再突入する際の宇宙船に対する減速特性の影響

Fig.14 Effects of different trajectories on decelerating performance of spacecraft re-entry

4.2 軌跡コントロール

 宇宙船の半弾道式による帰還では揚力コントロールを通して弾道平面上に投影を行い、実際の弾道航程と高度コントロールを帰還弾道の基準にしている。高音速飛行段階を選択した時の宇宙船揚抗比は0.38、0.23、0.15の3種類であり、弾道に沿った揚力コントロール規律及び過負荷の変化を図15に示す。図15から分かるように、宇宙船が異なる揚抗比で弾道に沿うときの過負荷規律は一致し、最大過負荷及び過負荷変化に大きな違いはない。しかし、図15(a)から分かるように、揚抗比の特性が異なると宇宙船の揚力コントロールのロール角曲線の差も大きくなる。揚抗比が大きい(/=0.38)宇宙船では一回半のコントロール周期のみ必要となるが、揚抗比が小さい残りの2つは2回周期のコントロールが必要になるため、揚抗比が大きい(/=0.38)宇宙船の制御性は強いといえる。揚抗比が最小(/=0.15)の宇宙船は、特に高度40Km以降、更に大きなロール角のコントロールが必要となり、再突入弾道のコントロールが実現すると対応する最大過負荷も更に大きくなるため、揚抗比が小さい(/=0.15)宇宙船の制御性は弱いといえる。

図15
図15

図15 宇宙船再突入時の揚抗比がコントロールと過負荷に与える影響

Fig.15 Effects of lift/drag ratio on lift controlling and overloading for spacecraft re-entry

4.3 トリム特性

 宇宙船の質量の中心が軸線から外れることによりトリム飛行が実現する。そして、質量の中心位置が宇宙船の迎え角のトリムを決定し、迎え角トリムが再突入飛行過程の揚抗比[4、11-12、14]を決定する。図16(a)のように宇宙船の軸方向が質量の中心位置となり、3つの質量中心位置と水平との差が20㎜になると弾道変化に伴い迎え角のトリムが確定する。図から分かるように、迎え角のトリムは質量の中心が水平からずれると増大し、質量の中心が水平から5㎜増大(または減少)すると、迎え角のトリムは1°近く増大(または減少)する。図16(b)のように宇宙船の質量の中心が水平となり、軸方向と質量の中心の差が50㎜になると、3つの質量中心位置が弾道変化に伴い迎え角のトリムに対応する。図から分かるように、質量中心位置が後ろになればなるほどトリム迎え角は大きくなる。軸方向の位置が先端に向かって50㎜移動すると、迎え角のトリムは1.2°減少する。質量中心位置が後方へ50㎜移動すると、迎え角のトリムは約1.5°増大する。

 上記を次のように整理することができる。質量中心の位置が水平からずれると、揚力コントロールに対する影響は質量中心位置に与える影響よりも明らかに大きくなり、質量の中心が水平から数ミリずれるという小さな変化でも宇宙船の空力特性のトリムに対し大きな影響が生じることになる。

図16
図16

図16 宇宙船が再突入時の質量中心位置が迎え角のトリムに与える影響

Fig.16 Effect of center of mass on trim angle of attack for spacecraft re-entry

4.4 空力加熱特性

 再突入時の空力加熱に影響を与える重要な要素としては再突入軌道が挙げられ、緩やかな最大揚力無コントロール弾道、揚力コントロール弾道、回転再突入弾道の3種類が存在する。弾道変化に伴う宇宙船の典型的な位置における熱流密度を図17に示す。図17から分かる再突入時の空力加熱特性は以下の通りである。回転再突入では下降速度が速いため、同高度における速度も速くなり、熱流密度は最大、総加熱量は最小となる。揚力コントロール弾道では最大揚力無コントロール弾道よりも下降が速い。そのため、高度70㎞の飛行段階で加熱がもっとも激しくなり、その間の熱量密度は最大であり、最大熱量密度も大きくなる。最大揚力無コントロール弾道は弾道が緩やかなため、再突入飛行時間が長く、空力加熱時間も長い。高度の下降に伴うある時刻から開始する熱流密度は揚力弾道より大きくなるため、最大揚力無コントロール弾道の総加熱量は最大となる。

図17

図17 宇宙船が異なる弾道に再突入した時の空力加熱特性

Fig.17 Aerothermodynamics performance of spacecraft re-entry for different trajectorie

4.5 気象による影響

4.5.1 高空大気密度

 一般的には、標準の大気模型を採用し弾道計算と飛行特性の分析を行う。実際の高空大気密度は季節により大きく変化し、高度10㎞以上では、6月の密度が最大となり、12月が最小となる。例として、ある地区の6月、12月の平均密度と限界密度を標準大気と比べた差異をΔρとして図18に示す。図からわかるように、高度70㎞以上では一年における平均密度の差異が40%に達し、限界密度では80%に達する。

図18

図18 6月と12月の限界密度と平均大気密度の差異

Fig.18 Difference of ultimate and average atmosphere density in June and December

 宇宙船の外形が確定すると、空力係数も確定する。実際の再突入飛行過程において、宇宙船が受ける空力作用と飛行動圧は正比例し、大気密度の季節性変化が動圧の季節性差異を生じさせる[7]。気象条件の季節性変化が帰還航程におけるコントロール特性に与える影響と、6月、12月の限界大気と平均大気が再突入コントロールに与える影響を図19に示す。

図19図19

図19 宇宙船が異なる弾道に再突入する際のロール角、過負荷、6月と12月における標準大気との差異

Fig.19 Difference of rolling angle and overload in June,December and standard condition for different Trajectories of spacecraft re―entry

 図19(a)から分かるように、夏である6月は高空大気密度が標準大気より高いため、再突入初期に宇宙船が受ける大気減速の作用は比較的強い。これにより、航程減少やコントロールシステムの減少が引き起こされ、ロール角によって揚力が増加し航程方向の重みとなるため、実際の航程を調整して標準弾道としなければならない。ロール角が減少すると、航程のずれを修正しても揚力が弾道平面に与える重みが増大するため下降速度が減速し、飛行高度と標準弾道の差が大きくなる。このため、コントロールシステムがロール角を増大させ、弾道平面の重みとなる揚力を減少させ、下降速度が加速し飛行軌跡が標準弾道に接近する。12月は高空大気密度が標準大気より小さくなるため、その変化は前述の反対の状況となる。

 気象条件の季節性変化が引き起こす揚力コントロールによりロール角の変化と公称値は異なり、対応する実際の飛行過負荷と公称値にも差異が生じる。図19(b)にその点を示す。

4.5.4 低空風

 宇宙船と大気の間での空力作用が発生し、空力とモーメントが宇宙船に相対する空気運動の速度を決定する。そして、飛行速度は一般的に宇宙船が相対する地面に固定された座標系の速度で表示される。空気が静止状態になると、空気に相対する地面速度は0になり、宇宙船の相対する空気速度は他の地面に固体されている座標系の飛行速度と等しくなる。

 低空飛行段階での宇宙船の飛行速度は毎秒百メートル減速し、低空風速は最大毎秒数十メートルに達するため、宇宙船が相対する空気の速度と風速を計算する必要がある。空力が宇宙船に対して作用する速度は地面に固定した座標系の飛行速度と風速速度の合計速度になる。典型的な風の条件下において、宇宙船が実際に受ける風作用と考慮に入れていない風の影響による飛行迎え角とスリップ角の曲線を図20に示す。

 検証結果:低空飛行段階において、考慮に入れていない風が宇宙船の飛行姿勢に及ぼす影響が顕著かどうかを検証した。主な風の作用は上に吹き上げる垂直風であるため宇宙船の頭を持ち上げるモーメントを生み出す。実際の飛行迎え角とスリップ角は考慮にいれていない風の影響による迎え角とスリップ角よりも小さく、低空風は飛行迎え角を最大約6~7°減少させ、スリップ角を最大約3~4°減少させる。

図20
図20

図20 宇宙船再突入時の風が実際の飛行迎え角とスリップ角に与える影響

Fig.20 Variation of real angle of attack and angle of side slip along with flying altitude for spacecraft re-entry with and without wind effect

5 結論

 典型的な宇宙船の外形や再突入方式、回収着陸状態に基づき、宇宙船が宇宙軌道から地球に帰還する際の船体周囲の大気を取り巻く流体環境、空力特性、空力と熱などの反応が帰還特性に与える影響と変化について研究分析した。その結果を以下にまとめる。

1)宇宙船が再突入する際の飛行高度が80㎞以上ある高空飛行段階では空力による宇宙船の減速、飛行軌跡コントロールが弱くなる。空力加熱は顕著であり、表面温度の上昇と融蝕は激しくなる。

2)宇宙船が再突入する際の飛行高度が40~80㎞の中空飛行段階では空力による減速が顕著になる。特に高度が40~60㎞の飛行段階では速度が半分以上減速する。第1回揚力コントロール周期が完成すると空力の揚力コントロールに対する影響は大きくなり、当該飛行段階における空力加熱と融蝕はいちばん激しくなる。

3)宇宙船が再突入する際の飛行高度が10~40㎞の低空飛行段階では、最終的に1/3近くの空力減速と第2回揚力コントロール周期が完成するため、空力の揚力コントロールに対する影響力は大きくなる。当該飛行段階における空力加熱の作用は小さくなり、高度32㎞以上では宇宙船各部に対する融蝕は停止し、高度が20㎞以下になると宇宙船各部の空力加熱も停止する。

4)宇宙船が宇宙軌道から稠密空気の地球表面に帰還する際、大気の作用を利用し再突入減速を実現させる。下降弾道がなだらかであったり、急であったりと異なる軌跡特性により、減速性能も大きな影響を受ける。

5)宇宙船が半弾道コントロール方式で地球に帰還する時、揚抗比が大きい(CL/CD=0.38)宇宙船は帰還軌跡の制動力が強く、揚抗比が小さい(CL/CD=0.15)宇宙船は制動力が弱いといえる。軌跡をコントロールできる状況下では、空力抵抗係数が再突入減速性能に与える影響は小さい。

6)質量中心のずれにより迎え角のトリムを得て地球に帰還する宇宙船は、質量中心位置の水平からのずれの変化が揚力コントロールに与える影響が顕著であり、軸方向が変化する影響よりも大きい。水平からのずれが数ミリという小さな変化であっても、宇宙船の空力特性トリムに与える影響は大きく、質量中心が水平から5㎜増大(減少)すると、迎え角のトリムは1°近く増大(減少)する。

7)宇宙船が地球に帰還する過程において、再突入空力加熱に影響を与える重要な要素は宇宙船の再突入軌道であるといえる。最大揚力無コントロール帰還、揚力コントロール帰還、回転帰還という3種類の典型的な弾道を比較すると、回転再突入弾道の最大熱流密度が最も高く、総加熱量が最も小さい。最大揚力無コントロール弾道における最大熱流密度は最も低く、総加熱量が最も高いことが分かる。

8)高空飛行段階の大気密度は季節による変化が大きく、宇宙船が実際に地球に帰還する過程では、気象の影響を大きく受ける。つまり、揚力コントロールによるロール角の変化が引き起こされるため、設計段階との差が顕著となり、実際の飛行における過負荷と公称値も異なってくる。また、低空飛行段階では、地面風の影響を受け、実際の飛行迎え角とスリップ角は考慮にいれていない風の影響による迎え角とスリップ角よりも小さくなり、飛行迎え角を最大約6~7°減少させ、スリップ角最大約3~4°減少させる。

(おわり)

参考文献

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※本稿は方方、周璐、李志輝「航天器返回地球的気動特性綜述」(『航空学報』第36巻第1期、2015年、pp.24-38)を『航空学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同 方知網(北京)技術有限公司