医療用ロボットの未来―医療用ロボット産業の発展と未来戦略フォーラム(その1)
2016年 8月23日 劉 志遠(『科技導報』編集部)
2015年11月24日、中国生物医学工程学会の運営により、2015世界ロボット会議第8分科会「医療用ロボット産業の発展と未来戦略フォーラム」が開催された。このフォーラムの目的は、医療用ロボット技術の発展傾向を検討して中国の医療用ロボットの発展戦略を策定すること、医療用ロボットの臨床応用を検討して医療・工業・企業のコラボレーションによる医療用ロボットのイノベーション体制を構築すること、医療用ロボットの製品化問題を検討して中国の医療用ロボット産業チェーンの構築を促進すること、ならびに医療用ロボットの基準化問題について検討して医療用ロボット関連政策・関連法の策定に貢献することである。中国生物医学工程学会の樊瑜波理事長とイタリア・聖アンナ大学院大学バイオ・ロボティクス研究所(BioRobotics Institute)のPaolo Dario所長が議長を務め、中国内外の医療用ロボット専門家20名が招待講演を行い、パネルディスカッションに参加した。そして、政界・産業界・教育界・研究界・実業界(医療・介護・障害者支援)やハイテク工業パーク関係者、機関投資家等の300人余りが会議に参加した。世界的な高齢化社会の到来および健康や快適な生活に対する追求が高まるにつれ、医療用ロボット産業は爆発的な発展を迎えることが予想される。医療用外科ロボット、スマート義肢、リハビリテーション支援ロボット、医療サービスロボット等のさまざまな医療用ロボットのサブ領域も急速に発展している。
図1 手術ロボット
外科医療用ロボットのイノベーション
Paolo Dario氏(聖アンナ大学院大学バイオ・ロボティクス研究所(BioRobotics Institute)所長)
現在、世界の300施設を超える病院で手術支援ロボット「ダヴィンチ」が実用化されており、その精確で低侵襲な手術効果は外科医および患者から広く人気を集めている。イタリア・聖アンナ大学院大学バイオ・ロボティクス研究所は受身的な治療から積極的な予防へと目を向け始めており、今後3年以内に2つのカプセル型ロボットを発表したいと考えている。このカプセル型ロボットを糖尿病患者に使用できれば、インスリン注射の苦痛から解放できるだろう。
そして、さらに大胆な予想をするなら、今後、手術支援ロボットはその操作方法において重大な変化があるだろう。かつては、ロボットが手術の手助けをすることなど想像さえつかなかったが、すでに現実のものとなった。そう遠くない未来に、ロボットが医師の代わりに患者を直接手術できるようになるかもしれない。
Dong-Soo Kwon氏(韓国科学技術院(KAIST)教授)
韓国は1999年から外科医療用ロボットの研究を開始しており、現在はシングルポート型手術支援ロボットの開発を重点的に行っている。KAISTが開発した6自由度型モジュール医療用ロボットでは手術支援ロボット「ダヴィンチ」の欠点が改善され、「ダヴィンチ」を上回るフレキシビリティや操作性、低コスト性等の長所があり、すでに胆嚢切除術の生体実験(イヌ)が実施され、商業化に着手している。
技術の進歩に伴い、未来の手術支援ロボットはフレキシビリティが高まり、シングルポート型の低侵襲性/非侵襲性手術が可能になるだろう。「ダヴィンチ」を利用した現行の手術支援機器は融通性に欠ける点があるため、フレキシビリティにおいてブレイクスルーが実現できれば、適用範囲はさらに拡大されるだろう。
羅志偉氏(神戸大学教授)
現在、各国の先端医療における保険料は高すぎる。外科医療用ロボットの将来的なブレイクスルーは低侵襲手術ではなく、超高精度・超微量検査診療技術、すなわち、呼気からの病態検査となるだろう。
高長青氏(中国解放軍総医院主任医師)
手術支援ロボットを利用すれば、効率的で精確かつ高度に再現可能等の効果が得られる上に、手術時の切開部が小さく、出血が少なく、入院期間を大幅に短縮でき、患者の回復が早い等の長所があるが、手術プロセスにおけるフィードバックがなく、費用が高く、手術時間が長い等の欠点もある。技術の進歩に伴い、これらの欠点は徐々に改善されるだろう。手術支援ロボットを利用した低侵襲手術により、21世紀の外科は低侵襲あるいは非侵襲の外科となり、外科は「切開時代」から「修復時代」へと移行するだろう。
未来の手術支援ロボットは単独の機械にとどまらず一連のシステムとなり、あるいは1つのプラットフォームとして他のインフォメーションとの融合を行うことができるだろう。外科医療用ナビゲーション・ロボット手術システムを利用すれば、外科医はリアルタイム3D画像を手術用ディスプレイに映し出し、あるいは人体組織を透明化して手術の際に体内構造の損傷を回避することができる。また、ビッグデータを用いた外科医療時代の到来によって、未来の手術はあらかじめプログラム化されるだろう。
田偉氏(北京積水潭医院院長/北京大学教授)
ロボット技術によって、われわれの手術レベルは大幅に向上した。ロボットの補助によって患者の創傷を減らせたのに加え、その精確さやリアルタイム3D透視技術によって手術の難度が低減され、かつては外科の名手でさえ手をつけられなかった高難度の手術も成功できるようになった。整形外科用ロボットは外科医の完全な代替ではなく、外科医の道具であり、外科手術の安全性と精確性を高め、患者に実際の利益をもたらしている。
王田苗氏(北京航空航天大学教授/北京智慧制造研究院執行院長)
アメリカでは医療・ヘルスケア産業がGDPの17%を占めるが、中国ではわずか6.5%であり、中国の医療・ヘルスケア産業には大きな発展の余地があることを物語っている。このうち、医薬品と医療機器の消費比率は海外では基本的に1:1であるところ、中国は1:0.2であり、医療機器の将来性がより大きいことが分かる。外科医療用ロボットは医療機器のハイエンド製品であるが、市場の将来性を低く見積もってはいけない。外科医療用ロボットの発展には以下のとおり5つの難点がある。第1に研究開発のハードルが高く、周期が長いこと、第2に工学分野と医学分野は伝統的に分離されているが、外科医療用ロボットの開発には双方の密接な協力が必要であること、第3に莫大な資本が必要とされるが、現時点では企業と金融機関のいずれからも投資が不足していること、第4に現在、中国の医薬品・医療機器市場の消費比率は非合理的であること、そして第5にハイエンド医療機器が大量に輸入されており、外科医療用ロボットも例外ではないことである。外科医療用ロボットのブランドの育成には、相当の努力が必要となるだろう。
外科医療用ロボット分野で創業・イノベーションを実現するには、第1に集中、第2に医療分野の専門家との協力、第3に製品のポジショニングを精確かつシンプルにすること、そして第4に実力のあるファンドまたは企業との協力が必要である。脱工業化社会において、人々が追求する永遠のテーマは幸福と健康である。外科医療用ロボットは必ずや未来の硬直的需要となるだろう。
また、ロボットは一つの概念に過ぎず、臨床面で真に実用化するには発病率や死亡率の面から外科医療用ロボットの方向性を探る必要があり、高血圧や筋ジストロフィー、整形外科、神経系等の疾患面から実用的な製品を開発することにこそ、外科医療用ロボットの将来的な方向性がある。
廖洪恩氏(清華大学生物医学工程系教授)
現在、実用化されている外科医療用ロボットの多くは医師の手技を再現して手術を実施するためのものである。今後の方向性としては、いかに精確性やフレキシビリティを高めるか、そしてロボットをいかに診断と融合させるかにあると考える。ロボットは、現時点では1つの有形物だが、治療は総合モデルである。また、ロボットの多くは外科に用いられるが、医療は外科だけではなく、投薬や内科等の他の分野にも及ぶ。大胆に予想するなら、未来の外科医療用ロボットは有形から無形へと発展し、関連技術もあわせて統合的な発展を遂げるだろう。
(その2へつづく)
※本稿は劉志遠「医用機器人的未来之路----医用機器人産業発展与未来戦略論壇紀実」(『科技導報』33卷23期、2015年12月,pp.43-45)を『科技導報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司