石油ガスパイプライン管内ロボットの技術の現状と発展の動向(その1)
2016年 8月24日
劉 清友:西華大学流体・動力機械教育部重点実験室教授
博士指導教官、長江学者特別招聘教授。主な研究テーマは石油機械、機電一体化、石油ガス井・パイプ・コラム力学など。
概要
中国のパイプライン建設の加速やパイプライン本数の増加に伴い、パイプラインの検査やメンテナンス、安全運用は近年、研究の焦点となっている。本稿では、▽一般的な7タイプの管内ロボットそれぞれの長所・短所と応用環境に対する比較分析を通じて、中国内外の管内ロボット技術の研究の現状を系統的に紹介し、現在の石油ガスパイプライン管内ロボットにおいて早期の解決が迫られる運動制御と位置制御という2つの大きな技術的難題を分析し、▽未来の石油ガスパイプライン管内ロボットの研究の重点は、柔軟で信頼性の高い機械構造の構築やリアルタイムで安定した制御系統の構築、新たなエネルギー供給技術の提起などの面に集中すべきであると指摘した。本稿における総括と分析は、石油ガスパイプライン管内ロボットの研究に一定の参考となるものである。
[キーワード] 石油ガスパイプライン、管内ロボット、検査・メンテナンス、技術の現状、発展の動向
石油ガスパイプラインによる輸送は、世界の5大輸送方式の一つであり、国民経済において重要な地位を占めている[1]。だが石油ガスパイプラインによって輸送される物質は引火や爆発のリスクが高く、石油ガスパイプラインが故障すると、重大な安全事故を引き起こしやすく、現地の人々の生命や財産の安全に深刻な危機をもたらすだけでなく、現地の生態環境などにも大きな災害が発生じる危険がある。石油ガスパイプラインの運輸の安全を確保し、石油ガスパイプラインに対して科学的な検査と合理的なメンテナンスを行うことは、世界各国が注目する点であり、難題でもある。
石油ガスパイプラインの故障は主に、材料の欠陥や腐蝕、外部の干渉などを原因とし、通常、パイプライン断裂とパイプライン変形、パイプライン表面損傷の3つの形で起こる。事故の発生率を引き下げるためには、パイプラインの全面検査を定期的に行い、パイプラインが故障する前にパイプラインの欠陥をすばやく発見し、安全リスクを取り除くことがとりわけ重要となる。だが技術と検査の方法の限界から、石油ガスパイプラインの検査とメンテナンスは難度が高い。石油ガスパイプラインの安全確保のためにはこれまで通常、人間による掘削と点検という方式で、石油ガスパイプラインの定期的または事前廃棄のための検査が行われていた。だがこうした方法では、大量の経済的損失が生み出されるばかりでなく[2]、検査漏れの率が高く、効率も良くなかった。
科学技術の発展に伴い、研究者らは、石油ガスパイプラインの点検修理やメンテナンスに特化した特殊ロボット――管内ロボットの開発へと目を転じ、無破壊検査技術と知能化技術を結合して石油ガスパイプラインに対するオンライン自動無破壊検査・メンテナンスを実現しようとするようになった。現在の石油ガスパイプライン管内ロボットはまだ、理想的と言えない面もいくつかあるが、石油ガスパイプライン管内ロボットの出現は一定程度、石油ガスパイプラインの検査の精度や正確性、効率を高め、パイプラインのメンテナンスなどで重要な役割を発揮することとなった。このため世界各国は、大量の人力と物資を投じ、石油ガスパイプライン管内ロボットの研究を展開し、豊かな成果を得ている。本稿の狙いは、石油ガスパイプライン管内ロボット技術の発展の現状と動向を系統的に整理し、石油ガスパイプライン管内ロボットの目下の発展現状を明確にし、石油ガスパイプライン管内ロボット技術研究の重点と難点、発展の動向を分析することにある。
1 各種の石油ガスパイプライン管内ロボット
石油ガスパイプライン管内ロボットは、メカトロニクスや検査技術、インテリジェント移動機器技術などの先進技術が一体化した総合体である。石油パイプラインにおいて実現される検査やスプレー塗装、溶接、清浄などの機能の違い、または作動環境や運動方式の違いに応じて、異なる類型分類方式が存在する。例えば運動方式という視点からは、能動運動方式と受動運動方式に分けられる。機械構造形式の違いなどの特性からは、バイオニクス式、車型式、支持輪式、キャタピラ式、スパイラル駆動式に分けられる。本稿では、運動方式と結合させながら、機械構造の違いを主に考慮し、管内ロボット[3]を7つの大きな類型に分けた。図1参照。
図1 石油ガスパイプライン管内ロボットの各類型
1.1 流体駆動式管内ロボット
流体駆動式管内ロボットは「ピグ」とも呼ばれ、その駆動力は流体から直接得られ、動力部品を別に加える必要がない。このため圧力の十分に高い大口径のパイプラインの中で初めて有効に駆動される。原油パイプラインや天然ガスの採取・輸送パイプラインなどで使われる。米国のGE社[4]やBaker Hughes社[5]、TD Williamson社[6]、スイスのROSEN社[7]、機械削りやジェット、バブル、ジェルなどの清浄方式を利用した清浄型ピグを生産し、パイプラインの清浄作業を実現した。コーティングやプラギングなどを行うメンテナンス型ピグは、パイプラインのメンテナンス作業を行うピグである。超音波や磁束漏れ、可視化などの検査方式に基づく検査型ピグは、パイプラインの変形や局部の欠陥を検査する。だがパイプラインによる運輸には高圧運輸が用いられ、波動性が存在することから、ピグの運動は制御しにくく、その作業効果も影響を受けることとなる。
1.2 車輪式管内ロボット
車輪式管内ロボットは、台車に似た形状のもので、駆動には通常、ロボットの車輪をモーターによって直接駆動する方式がとられる。その動力は、ロボット上に装着されたケーブルまたは電池によって送られる。車輪式管内ロボットの速度制御は通常、マイクロコントローラを通じて実現され、速度センサによってロボットの運行速度が計測され、実際に必要な速度と比較し、ロボットの速度をリアルタイムで調整し、作業の必要を満たす。この種の管内ロボットは運動速度の調節が簡単で、運動の柔軟性が高く、短距離のパイプラインで幅広く応用されている。多くの商用管内ロボットにはこの構造が採用されている。
文献[8-9]において開発されたExplorerシリーズ天然ガスパイプラインビジュアル・無破壊オンライン検査車輪式管内ロボットは、ビジュアル検査や磁束漏れ検査、リモートフィールド渦流探傷検査を行うことができる。文献[10]で開発されたMAKRO車輪式パイプライン検査ロボットは、ロボット本体の柔軟な弯曲や障害越えを実現し、水平なパイプラインまたは勾配の比較的小さい傾斜パイプラインでの運行が可能である。文献[11]で開発されたガスパイプライン検査ロボットは、直接車輪式駆動の方式を使用し、平行リンク機構を通じてロボットの径変換を実現し、機体の後ろについてくるケーブルとパイプラインとの間の摩擦抵抗を克服して前進することを可能とした。文献[12]の3軸差動式管内ロボットは、直線車輪式駆動構造に属し、3軸差速機構を採用することにより、カーブの通過性を大きく高めるだけでなく、寄生出力を産生しないという利点を持つ。
だが車輪式管内ロボットのモーターへの電力供給にはケーブルまたは電池の搭載が必要であるため、その運動距離には大きな制限がかかる。さらに車輪と管壁との摩擦力にも限りがあるため、パイプライン内の流体の流量が大きい時には、ロボットの運動の実現は難しく、車輪式ロボットは、流量の大きいパイプライン内での使用には適していない。このほか車輪式管内ロボットは、垂直パイプライン内での使用もできない。
1.3 キャタピラ式管内ロボット
キャタピラ式管内ロボットは、車輪式管内ロボットから進化して形成されたものである。車輪式管内ロボットは、車輪と管壁との摩擦力が小さく、応用範囲に大きな制限がかかる。このため車輪をキャタピラに改良することで、ロボットの牽引力や障害越え能力を有効に高めることができる。だがロボットの構造が複雑となるため制御の難度が高まり、体積も一定程度増大し、柔軟性に影響が出る。
韓国漢陽大学のKwonら[13]が開発したキャタピラ式管内ロボットは、ラジアル方向に均一に置かれた3組のキャタピラによって走行の動力を提供するもので、ロボット上には、管内の情報を取得するCCD(charge coupled device)カメラが装着され、安定した勾配面の走行やエルボパイプやT字パイプの通過が可能だが、まだ実験室での研究段階にある。
1.4 支持式管内ロボット
支持式管内ロボットも、車輪式管内ロボットの変形の一種である。支持式管内ロボットの周方向に均等に配置された支持アームが管壁にしっかりと張り付き、ロボットに十分な牽引力を提供し、さらにはロボット自身の重量の問題も克服し、垂直パイプライン内での運動が実現できる。対称の支持アームによって、ロボットの中心軸とパイプラインの中心軸との一致が有効に確保されることから、運動の安定性においては、車輪式やキャタピラ式の管内ロボットをはるかに上回る。だが車輪式管内ロボットとキャタピラ式管内ロボットと比べると、支持式管内ロボットの構造はずっと複雑で、速度制御の難度も大きく高まる。これら3種のロボットは、必要に応じて、それぞれのケースで応用される。
1.5 走行式管内ロボット
走行式管内ロボットは、動物の足と同様の構造を持ち、管内の爬行を実現することができる。だがロボットの走行を実現するためには、非常に複雑な機械構造と複数の駆動装置が必要となる。この種のロボットは多くの複雑な動作を遂行できるが、その製造難度と制御難度はいずれも非常に高い。このため高度に精密なパイプラインまたは特殊な要求のある作業でなければ、走行式管内ロボットは通常用いられない。
1.6 蠕動式管内ロボット
蠕動式管内ロボットの運動過程は図2に示す通りである。まず前端が管壁にしっかりと張り付き、後端が管壁から脱離する(b)。前後端の間を収縮させると、前端が固定されているため、後端が前方に移動する(c)。今度は後端が管壁に張り付き、前端が管壁から脱離する(d)。最後に前後端の間を伸長させると、後端が固定されているため、前端が前方に移動する(a)。同ロボットはこのように一回の運動を完了する。収縮と伸長の運動が絶え間なく繰り返されることで、ロボット本体の前進が実現される。多くの場合、前後端の収縮と伸長の駆動には空気圧の方式が採用される。このような駆動方式による牽引力には限りがあり、エネルギーのロスも大きい。このため蠕動式管内ロボットは一般的に、小口径で短距離のパイプラインでの使用に適している。
図2 蠕動式管内ロボットの運動過程
蠕動式ロボットは、管壁の磨損が大きいという車輪式ロボットの問題を有効に克服し、障害物越えの面でも車輪式ロボットに勝っている。そのため小口径で短距離の任務において幅広く応用されている。Smartract社[14]とOmega社[15]の生産する蠕動式管内ロボットは牽引力が大きく、性能が高く、石油ガス井における計測や修復などの作業で優れた能力を発揮している。文献[16]で開発された蠕動式微小管内ロボットは、0°から90°の勾配爬行能力を持ち、曲線半径の大きなパイプラインを通過できる。
1.7 スパイラル式管内ロボット
スパイラル式管内ロボットは、駆動輪軸とパイプライン軸との間に夾角を形成し、駆動輪がパイプラインの壁の特定のスパイラルラインに沿って走行するようにするもので、スパイラル運動の軸に沿った線の速度成分が管内ロボットの移動速度となる[17]。
スパイラル式管内ロボットは事実上、支持式管内ロボットから進化した形態である。スパイラル式管内ロボットは、支持式ロボットの封止力という特長を保持しながら、スパイラル運動の速度低減を通じて、軸方向の駆動力を大きく高め、駆動輪の傾斜角を改変することによって、駆動力の大きさとスピードの高さの調整を実現した。パイプライン内部の周方向の全口径をカバーしたスキャンへの使用に適している。
文献[18]で開発された受動スパイラル式管内ロボットは、CCDレンズを通じて情報の収集を実現するもので、システム全体ではケーブル制御の方式が取られた。文献[19-20]で共同研究された受動スパイラル式駆動管内ロボットは、軸方向と周方向の視覚検査機能が備わっており、ストレートパイプ内の走行に適している。筆者は、研究チームを率いて、香港大学と協力し、一連の管内ロボットを開発した[21-25]。2011年には、受動スパイラル式管内ロボットの実験プロトタイプを開発した。このプロトタイプは、小範囲での径変換の機能を備えているが、牽引力が小さく、負荷の大きい状況においては空回り現象が出現しやすかった。2012年には、受動スパイラル式管内ロボットを土台として改良を行い、キャタピラ式スパイラル管内ロボットを開発した。このロボットは、障害物を越える性能と走行の安定性がより高く、比較的大きな牽引力を備えたものとなった。2013年には、遺伝的アルゴリズムに基づく円錐型ばね連接蠕動式管内ロボットの走行制御研究を展開し、開発に成功したプロトタイプの実験測定を行った。このロボットは、135°と90°のエルボパイプを通過し、小範囲の口径変化にも対応できる。
以上のいくつかの典型的な構造の管内ロボットのほかにも、異なる類型の機械構造を結合したロボットがある。各種の構造のロボットはそれぞれ長所と短所を持ち、場合と作業の要求の違いに応じて、各自の能力を発揮する。
(その2へつづく)
参考文献
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※本稿は劉清友「倣油気管道機器人技術現状及発展趨勢」(『西華大学学報(自然科学版)』第35巻第1期、2016年1月,pp.1-6)を『西華大学学報(自然科学版)』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司