石油ガスパイプライン管内ロボットの技術の現状と発展の動向(その2)
2016年 8月26日
劉 清友:西華大学流体・動力機械教育部重点実験室教授
博士指導教官、長江学者特別招聘教授。主な研究テーマは石油機械、機電一体化、石油ガス井・パイプ・コラム力学など。
(その1よりつづき)
2 管内ロボットの技術的難題
管内ロボットの出現は、パイプライン作業の自動化を実現した。だがロボットの運動制御と測位の問題は依然として、管内ロボット分野で解決の待たれる技術的難題となっている。
2.1 管内ロボットの運動制御問題
管内ロボットの作業過程における運行速度や安定性、カーブ通過能力、障害越え能力などの運動性能は、作業効果の良し悪しに直接関係する。ロボットの運動性能は、パイプライン内の障害やロボットのアクチュエーターの出力誤差、ロボット自身の荷重の変化などの影響を受ける。このため管内ロボットの運動制御問題は、管内ロボット分野の研究の重点と難点の一つとなっている。前節で述べた通り、エネルギー供給方式の違いに応じて、管内ロボットは、自己駆動式と流体駆動式の2種類に分けられる。ケーブルや電池を伴う管内ロボットはすべて自己駆動式に属する。この種のロボットの制御はしばしば、アクチュエーターのモーターまたは電磁弁などの制御・連結を通じて実現される。流体駆動式ロボット(ピグ)の制御は、ロボットの前後の圧力差の制御という方式を通じて実現される。
大学の朱慧卿[29]が研究した、インターネット遠隔操作に基づく管内ロボットは、ニューラルネットワークと改良型スミス予測器を結合した制御システムを採用し、ロボットの運行の安定性と動態性能を高めた。筆者の研究チームと香港大学が共同開発したスパイラル駆動式管内ロボット[23]は、駆動輪のねじれ角の調整という方式を通じてその運動速度を調節し、さらにニューラルネットワークアルゴリズムを利用して機械的誤差を除去し、ロボットの速度制御の精度と牽引力を大きく高めた。知能制御技術の発展に伴い、国内外における自己駆動式管内ロボットの運動制御水準は高まっている。知能制御アルゴリズムを通じたロボットの機械的誤差の継続的な最適化は、ロボットの運行の安定を実現し、比較的高い牽引力と障害越え能力、カーブ通過能力を可能とする。
2.1.1 自己駆動式管内ロボットの運動制御
自己駆動式管内ロボットは、従来型の知能台車制御方式に似ており、上位コンピューターによる演算処理や経路計画、下位コンピューターとモーターや電磁弁などとの通信を通じて、アクチュエーターの動作を実現する方式である。文献[26]で開発された車輪式管内ロボットは、ロボットのコントローラーにファジー制御と複合式学習アルゴリズム、PID調節を採用し、ロボットのアナログ・シミュレーションを行い、ロボットのリアルタイムでの速度調整機能を検証したものである。文献[27]で開発されたキャタピラ式自己適応管内ロボットは、フィードバック制御を通じてロボットに必要な張り付き力の予想値を調節するもので、400~700mmの任意の内径のパイプラインで使用することができる。プロトタイプでは、T字パイプやL字パイプの通過における良好な性能が検証されている。上海交通大学の王永雄[28]が研究したキャタピラ式管内ロボットは、分層ファジー制御に基づく経路追跡制御アルゴリズムと、模倣学習におけるマージン最大化計画の方法を、制御システムに採用し、コントローラーの演算量を有効に引き下げ、ロボットの自主ナビゲーションのロバスト性と自主障害回避能力を高めたものである。中国石油大学の朱慧卿[29]が研究した、インターネット遠隔操作に基づく管内ロボットは、ニューラルネットワークと改良型スミス予測器を結合した制御システムを採用し、ロボットの運行の安定性と動態性能を高めた。筆者の研究チームと香港大学が共同開発したスパイラル駆動式管内ロボット[23]は、駆動輪のねじれ角の調整という方式を通じてその運動速度を調節し、さらにニューラルネットワークアルゴリズムを利用して機械的誤差を除去し、ロボットの速度制御の精度と牽引力を大きく高めた。知能制御技術の発展に伴い、国内外における自己駆動式管内ロボットの運動制御水準は高まっている。知能制御アルゴリズムを通じたロボットの機械的誤差の継続的な最適化は、ロボットの運行の安定を実現し、比較的高い牽引力と障害越え能力、カーブ通過能力を可能とする。
2.1.2 流体駆動式管内ロボットの運動制御
流体駆動式管内ロボットは主に、長距離で大口径のパイプラインの清浄や検査などの作業に用いられる。この種のロボットの動力は、パイプライン中の流体によるもので、ロボットの速度はパイプライン内の流体の速度と関係する。だが流体の速度は通常、ロボットが精確な作業を実現できる速度を上回っている。また流体の速度の変動に伴い、ロボットの運行速度も変動する。この種のロボットを作業に必要な速度に安定させることは難しい。各国は長年にわたって、流体駆動式管内ロボットの速度制御の問題を探求し続けてきた。
第一の方法は、ロボットの上下流の加圧所の圧力の長征という方式を通じてロボットの運行速度を調節するものである。この方式は操作が比較的簡単で、ロボットの構造設計に対する要求も高くない。だがロボットの運行時、ロボットの必要な速度の違いに基づき、パイプライン内の流体の流量を推算し、ロボットの運行速度が要求を満たすまでパイプライン内の流体の圧力を長時間かけて調節しなければならない。管内ロボットの検査作業を行う際には通常、その運行速度は比較的遅くなる。だがこのような速度制御方式では、パイプラインの流体の速度とロボットの運行速度がほぼ一致するため、パイプライン内の流体の運行速度を検査時に低下させなければならない。このためパイプラインの運営者には巨大な経済的損失が生まれる。こうしたさまざまなマイナス要因から、この種の速度制御方式は徐々に代替されつつある[30-32]。
第二の方法は、流動式ロボット内部への固定バイパス孔の開設による速度制御方式を採用するものである。この方式の原理は、自身のバイパス孔による排水を通じてロボットの前後の圧力差を引き下げ、速度低下の目的を達するものである。この種の方式を利用して設計した管内ロボットは、パイプライン内の流体の流速が大きすぎるという問題を解決することができ、構造的にも比較的容易に実現できる。だがバイパス孔の大小が固定され、製造後は改変できないため、流量の異なる流体パイプラインに対して、ロボットのバイパス孔をそれぞれ設計しなければならず、汎用性が低い。またバイパス孔は流体の速度の一部を低下させるだけなので、ロボットの速度には一定の変動が発生し、流体の速度の変動という問題は解決できない[30]。
近年はこのほか、管内ロボットの閉ループリアルタイム速度制御システムの理論構想も出現している。この種のシステムは、センサを利用してロボットのリアルタイムの速度を測定し、CPUにフィードバックし、プロセッサーによる統一計算と計画の後、ロボットバイパス弁の開閉程度を調節する指令を発し、前後の圧力差を改変し、ロボットの速度のリアルタイムの制御を実現するものである[33]。ここで用いられるバイパス弁は、流量を変えられない上述のバイパスとは異なり、パイプライン内の流体の速度に基づいて動的に呼応し、ロボットの速度を必要な値に安定させることができる。だがこの種の速度制御方式は現時点ではまだ試験段階にあり、ロボットの前後の圧力差とバイパス弁の開閉度との関係を導き出す理論はまだ形成されていない[34-37]。
2.2 管内ロボットの測位問題
管内ロボットによるパイプライン作業実施にあたっては、その所在位置を確定し、ロボットの管内での稼働状況をモニタリングする必要がある。とりわけパイプラインの検査においては、パイプラインの欠陥の位置を確定することが重要となる。よく用いられる測位方式としては、測距車輪による測位、GPS衛星による測位、CCD視覚測位がある[38]。
多くのロボットは、測距車輪による測位の方式を採用している。その本質は、測距車輪の回転数の記録を通じて現在地を得るものである。パイプライン内で運輸される物質の種類から、パイプラインの壁にはパラフィン堆積の形成などの状況が発生し、測位車輪がこうした壁を運行している際に空回りする可能性がある。またパイプライン内の欠陥によってロボットが跳ね上がることも考えられる。空回りや跳ね上がり、その他の外的な影響によって、測位車輪によって記録された位置データには誤差が出現し得る。とりわけ長距離のパイプライン検査においては、測距車輪の誤差が蓄積し、誤差が許容範囲を超える可能性が高い。パイプラインの欠陥の精確な位置を得る必要のあるパイプライン検査作業では、測距車輪の測位精度は要求に到達しない。このため国内外の研究チームは、測距車輪の誤差の多くの修正方法を提出している。ROSEN社の電磁感応マーカーは、管内ロボットのコイルと固定位置のマーカーの永久磁石との間の電磁感応によるシグナルの産出を利用し、位置の修正を実現したものである[39]。天津大学の宋志東らが打ち出した測距車輪の最適信号選定アルゴリズム[40]は、制御アルゴリズムを利用して測距車輪の最適パルス信号を選定し、ロボットの測位精度を高めた。
GPS衛星測位法の実現には、管内ロボットと外界とのリアルタイムの通信を保持する必要があるが、その測位精度は高い。中国大慶のある採油場では、この種の方式を利用して管内ロボットの測位を行い、実際に良好な応用効果を上げている[41]。だがリアルタイムの通信が必要であることから、パイプラインの環境に対する要求は比較的高く、埋蔵深度が深い場合や、環境の悪い状況での実現は難しい。さらにGPS衛星測位はシステムが複雑で、コストも比較的高い。
CCD視覚測位の基本原理は、視覚センサを利用したロボットの測位を実現することにある。よく見られる方法は、パイプライン間の溶接シームの識別を通じた方式である。視覚センサを利用して視覚信号を取得し、さらにノイズ除去などの処理を行い、溶接シームの位置を判定し、ロボットの位置を計測する[42]。この種の方式は、パイプラインの管内が油汚れで覆われているなどパイプラインの環境が悪い状況では、視覚的な特長を取得しにくく、コストも比較的高い。
これら3種の主要方式のほか、管内ロボットの測位問題をめぐっては、動力測定測位法やマルチセンサ測位法、電磁波測位法、超音波測位法などが使用されている。センサ技術や信号処理技術、図像処理技術などの絶え間ない発展に伴い、管内ロボットの測位の精度や正確性、リアルタイム性はいずれも一定程度発展しているが、悪劣な環境や埋蔵深度の深い状況におけるパイプライン内測位の精度と正確性は依然として向上が待たれている。
3 総括と展望
管内ロボットは、近代製造技術や電子情報技術、先端センサー技術、近代制御技術、通信技術などを一体化した知能機電装置である。現在、中国の石油ガスパイプライン管内ロボット技術は、国外の先進国の技術と比較すると、依然として遅れた段階にある。
科学技術が発展し、石油ガスパイプライン管内ロボットを重視する研究従事者の増加する中、石油ガスパイプライン管内ロボットの研究は今後、次のいくつかの面に集中するものと考えられる。
1)柔軟で信頼できる機械構造。将来の石油ガスパイプライン管内ロボットは、一台で多くの機能を実現できる構造形式を備えたものとなる。各機能がモジュール化され、清浄・検査・切断・スプレー塗装・溶接などの機能が一台のロボットに融合される。同時に、石油ガス井や、カーブなどの特殊な形式を持つ石油ガスパイプラインでの作業においては、ロボットは良好な通過性能を保持する必要がある。
2)リアルタイムで安定した制御システム。本稿で述べた通り、石油ガスパイプライン管内ロボットの運動制御問題は、この分野における研究の難点である。とりわけ長距離で大口径のパイプラインにおいては、ロボット制御システムの安定性とリアルタイム性を確保するのは非常に難しい。複雑で変化の多いパイプライン環境において信頼できる制御を実現するには、通信と測位の能力も同時に高める必要がある。
3)エネルギー供給。よく用いられるケーブルによるエネルギー供給方式は、長距離での作業の必要を満たすことができない。また電池を利用したエネルギー供給方式は現在の蓄電技術の制限を受け、運動距離を十分に長くするのは難しい。このため石油ガスパイプライン管内ロボットの新たなエネルギー供給技術・製品をいかに開発するかが、未来の研究の重点・難点となる。現在の技術から考えると、石油ガスパイプライン内の輸送物質の圧力差を利用してロボットのエネルギー供給を実現することが、良好な解決方法の一つと考えられるが、この方法にはまだ、公開された信頼性の高い理論モデルが形成されていない。流体駆動式管内ロボットの安定的で信頼性の高い制御を実現するには、理論モデルの構築と運動の動態分析が必要となる。
(おわり)
参考文献
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※本稿は劉清友「倣油気管道機器人技術現状及発展趨勢」(『西華大学学報(自然科学版)』第35巻第1期、2016年1月,pp.1-6)を『西華大学学報(自然科学版)』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司