第121号
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エネルギー革命:化石エネルギーから新エネルギーへ(その4)

2016年10月28日

鄒 才能:中国石油勘探開発研究院、中国石油勘探開発研究院廊坊分院

教授級高級工程師、博士指導教官、李四光地質科学賞受賞者。『天然気工業』第7期編集委員会委員、『Natural Gas Industry B』編集委員会委員。現在、中 国石油勘探開発研究院副院長と中国石油勘探開発研究院廊坊分院院長を兼任。非在来型石油・ガス地質学、在来型の岩相地層石油・ガス埋蔵や大型石油・ガス地区などの地質理論技術研究と調査・生 産の実践などに主に取り組む。

張 国生:中国石油勘探開発研究院廊坊分院

趙 群:中国石油勘探開発研究院

熊 波:中国石油勘探開発研究院廊坊分院

その3よりつづき)

4.3 石炭の発展は「転換期」へ

4.3.1 石炭利用はクリーン化発展へ

 世界の一次エネルギー消費構造における石炭の比率は今後も縮小し、石炭利用はクリーン化に向かうものと考えられる。2014年、世界の石炭生産量は81.65×108tで[2]、前年から0.7%減少した。世界の石炭消費量の増加率は0.4%で、過去10年の平均水準である2.9%を下回った。世界の一次エネルギー消費における石炭の割合は30.0%に引き下がっている。石炭産出の世界3大地域の北米と欧州、ユーラシア大陸における石炭の生産量と消費量はいずれも下降傾向を示している[12]

 石炭は、最も安価な化石エネルギーであり、世界のエネルギー構造において引き続き重要な役割を発揮していくものと見られる。生態環境保護に対する人類のニーズが高まる中、石炭利用は高効率・クリーンの方向へと転換している(図3)。発電は、世界の石炭利用の主要な方向となっており、世界の半数以上の石炭資源は発電に用いられている。石炭の高効率・クリーン発電は、石炭資源利用の主要な方向と言える。大容量・ハイパラメーターの石炭燃焼発電、大型循環流動床発電、石炭ガス化複合発電などの技術を通じて、石炭発電ユニットの熱効率は50%前後の向上が可能となっている。

図3

図3 エネルギー消費量の発展傾向・予測図

4.3.2 石炭の高効率・クリーン利用は中国の環境問題解決のカギとなる

 石炭を主体とした中国の一次エネルギー消費構造は短期的には根本的な変化を起こすことはないと考えられる。国情に立脚し、石炭の小規模な直接燃焼を減少させ、石炭の高効率・クリーン利用を強化することは、中国のエネルギー・環境問題解決のカギとなる。工業化の歩みの推進と国民の生活水準が日増しに向上していくのに伴い、電力需要量は急速に増加している。エネルギーの資源構造と分布の制約を受け、石炭は、中国の電力産業における主要エネルギーとなっている。2013年、全国の発電・暖房用の石炭消費量は20.6×108tに達し、石炭消費総量の55.7%を占めた。石炭を主体とする一次エネルギー消費構造は今後長期にわたって根本的には改変されず、電力は、石炭資源の消費の主体となり、石炭の高効率・クリーン発電は、石炭の低炭素化利用の実現のためのカギとなる。石炭の低炭素・クリーン利用を実現するには、土地と発電所の特性に合わせ、現行ユニットのアップグレード改造を行い、稼働期間の長さや発電ユニットの老朽化、設計や製造技術の後進性などによるエネルギー消費の高さや基準値を超える汚染物排出などの問題を解決する必要がある。

 エンドユーザーによる石炭の直接使用は、エネルギーの利用効率が低く、環境汚染の問題も深刻である。石炭燃焼によって産出される二酸化硫黄と窒素酸化物、微小粒子状物質の排出量はそれぞれ全国総量の80%、60%、70%に達する。石炭1kgあたりの二酸化硫黄と煤塵の排出量を見ると、直接燃焼による排出量は発電による排出量のそれぞれ4倍、8倍に達する。このうち家庭での石炭の直接燃焼は汚染が最も深刻である。2013年を例に取ると、中国の家庭での石炭の直接燃焼消費量は約9×108tで、石炭消費総量の24%を占めるが、産出される二酸化硫黄は20×108tの発電利用にほぼ相当し、微小粒子状物質の排出量は発電利用の3倍近くに達する。低効率な石炭の直接燃焼を減少させる対策としては、(1)国内の小型鉄鋼・セメント産業などの時代遅れの生産設備の淘汰を加速し、産業のアップグレードを実現する、(2)中国の都市化推進の歩みを加速させ、都市・農村における集中化された暖房供給やガス供給を実現し、小型の再生可能エネルギーネットワークを積極的に発展させ、中国の広大な都市・農村のグリーン発展を実現する――などが挙げられる。

4.4 新エネルギーの発展は徐々に「黄金期」へ

4.4.1 「新エネルギー革命」到来の速度は予想を上回る可能性がある

 新エネルギーの発展は、低炭素発展実現のカギとなる。新エネルギーの開発利用の歩みの加速はすでに、世界のエネルギー成長の新たな原動力となっている。IEAの統計によると、2014年の世界の原子力エネルギーや水力発電、再生可能エネルギーなどの新エネルギーが一次エネルギー消費構造に占める割合は14.33%にのぼる。技術の進歩に伴い、新エネルギーの開発利用コストは絶えず低下し、化石エネルギーと比べても、すでに高い競争力を備えている。ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)のデータによると、2015年第2四半期の世界の陸上風力発電のコストは0.083ドル/kWh、太陽光発電のコストは0.122ドル/kWh、石炭発電のコストは0.066~0.105ドル/kWhとなっている。再生可能エネルギー(水力発電を含む)はすでに、世界の新エネルギー発展の主力となり、発展はますます加速している。再生可能エネルギーの発電量は2013年、5,130TWhに達し、天然ガスを超えて世界の電力の第二の源泉となり、総電力に占める割合は22%となった。2014年には、世界の発電能力の成長の58%を占め、世界の電力発電容量に占める割合は27.7%、発電量に占める割合は22.8%に達し、新エネルギーの発展は徐々に「黄金期」へと入り始めた(図3)。

 新エネルギーの科学技術の攻略強化はすでに世界の共通認識となり、「新エネルギー革命」は、予想を上回る速度で到来する可能性がある。とりわけ新エネルギーの発電コストの低下とエネルギー貯蔵電池技術のブレークスルーは今後、「新エネルギー時代」の接近を強力に後押ししていくものと見られる。『Science』誌は創刊125周年(2005年)を記念し、今後解決が求められる125のテーマを選び出した。石油の代替や核融合などのエネルギー問題も重要なテーマとして選ばれた。マッキンゼー・アンド・カンパニーは2015年、2025年までに世界経済を変える「12の破壊的な技術」を選出したが、再生可能エネルギーとエネルギー貯蔵技術はそれぞれ、重要な影響をもたらす技術としてこのリストに名を連ねた。2015年12月12日に開かれた「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議」(COP21)で採択された「パリ協定」は、産業革命前からの世界の平均気温の上昇を2度以内に抑え、21世紀下半期には温室ガスのゼロ排出を実現する目標を掲げた。この目標の実現のため、新エネルギーの発展に対する要求はさらに高いものとなった。人工知能に基づくネットワークビッグデータ体系は、エネルギー構造の最適配置において重要な役割を果たすものと期待されている。分散型送電網構造の発展や、インターネットとエネルギーネットワークによる知能エネルギーネットワーク体系の建設促進を通じて、再生可能エネルギー発電の既存送電網への接続の問題を根本から解決し、再生可能エネルギーの開発利用の効率を高め、化石エネルギーへの依存から人類を最終的に脱却させることが求められている。

 ナノ技術の発展は、材料に対する人類の認識をまったく新しい地平へと導いた。ナノメタマテリアルの応用は今後、新エネルギー技術のさらなる発展を推進していくものと見られる。優れた性能を持つグラフェンは、人類のエネルギー発展史において、石油に次ぐ第二の「ブラックゴールド」となるものと考えられている。初期的な予測によると、ナノ材料技術の進歩によって太陽エネルギーの発電コストは2030年までにさらに40%引き下がり、太陽エネルギーは安価なエネルギーとなる。ナノ技術の発展はさらに、エネルギー貯蔵電池技術のブレークスルーも加速している。米テスラモーターズの電動車に用いられているリチウムイオン電池はすでに、400kmの航続能力の提供を可能としている。中国のBYD社も、新エネルギー車の航続能力400kmの大台の突破を実現している。ドイツはCOP21パリ会議で、2050年までにガソリン車とディーゼル車を全面的に禁止するという発展目標を打ち出した。グラフェンなどのメタマテリアルに基づく電池技術の研究も近年大きく進展しており、大規模な量産の可能な、充電が速く、航続能力が高く、耐久性の高い電池技術でブレークスルーが実現されれば、新エネルギー時代の到来は近いと言える。

4.4.2 中国は「新エネルギー時代」到来に十分な準備をする必要がある

 再生可能エネルギーや水力発電などの新エネルギー資源の開発を強化することは、エネルギーの低炭素発展実現のカギとなる。「国連気候変動枠組条約」において、中国政府は、2016年から2020年までの二酸化炭素の排出量を年間100×108t以下に抑え、一次エネルギー消費に占める非化石エネルギーの割合を2030年までに20%に拡大させ、二酸化炭素の排出量をピークアウトさせることを承諾している。中国の一次エネルギー消費に占める非化石エネルギーの割合は2014年時点で10.9%に過ぎず、2030年までにこれを20%に拡大するという目標は大きな試練となると同時に、良好な発展の余地を持ったものと考えられる。

 中国の再生可能エネルギーの開発は大きな潜在力を持っている。全国の風力発電量は2020年までに4,500×108kWhに達し、総発電量に占める割合は5.3%、2030年までに10%以上に高まる見通しだ。全国の太陽エネルギー発電の発電容量は2020年までに1×108kWを超え、2030年までには米国を超える可能性がある。全国の水力発電の発電容量は2020年までに3.6×108kW、2030年までに4.5×108~5.0×108kWに達するとされる。再生可能エネルギーの発電容量が急速に成長する一方、これを受け入れる能力のある送電網が不足していることは、発展を制約するボトルネックとなっている。送電網の構造の最適調整を通じて、エネルギー貯蔵とマルチエネルギー送電網の技術とも組み合わせることで、送電網における再生可能エネルギーの比率を高める必要がある。電力の貯蔵技術は、新エネルギーによる伝統的な化石エネルギーの革命的な代替を実現できるかを左右するカギとなる。

 中国の原子力発電は、安全確保を前提として、先進的で成熟した技術を採用し、未来を見据えて適度で秩序ある発展を進める必要がある。中国には現在、建設中の原子力発電ユニットが26基あり、原子力発電容量は2020年までに5,800×104 kWに達するとみられる。原子力発電の発展にあたっては、安全を常に最優先とし、立地やエネルギー需要、技術水準などのさまざまな要素を総合的に考慮し、国家のエネルギー総体戦略の枠組みの中で、健全で秩序ある発展を実現しなければならない。

5 結論と検討

 人類のエネルギー利用は、「薪から石炭へ」「石炭から石油・ガスへ」「石油・ガスから新エネルギーへ」という3回にわたる重大な転換を経てきた。社会・文明の進歩と科学技術水準の発展は、非在来型石油・ガス資源の有効な開発の原動力となり、新エネルギーの消費比率は徐々に拡大し、世界のエネルギーは現在、「石油」「天然ガス」「石炭」「新エネルギー」の4つが分立する時代に入りつつある。世界の化石エネルギー資源量は総体として十分にあり、キー技術のブレークスルーと生態環境保護の必要性の増大は、化石エネルギーから新エネルギーへの転換を促進している。初期的な判断によると、石油はすでに「安定期」に入り、生産量のピークは2040年前後となる。天然ガスは「旺盛期」に入り、生産量のピークは2060年前後となり、未来のエネルギーの持続可能発展において柱の役割を果たすと考えられる。石炭は、高炭素から低炭素への「転換期」に入り、直接利用の比率は今後、大幅に低下し、汚染物排出量は大幅に減少し、一次エネルギーに占める比率は2050年までに25%に低下する見通しだ。新エネルギーの開発利用は徐々に「黄金期」に入りつつあり、新エネルギーの科学技術の急速な発展は「新エネルギー時代」の到来を加速させ、「新エネルギー革命」は予想を上回る速度で到来する可能性がある。

 中国のエネルギーの生産と消費は固有の特性を持っており、エネルギーの発展にあたっては、実際の国情から出発する必要がある。石炭資源の高効率・クリーン利用を強化することは、中国のエネルギー・環境問題を解決するカギとなる。石油については、原油価格低迷の状況下で国内の生産量の2×108tという「ボトムライン」を確保し、国家のエネルギー安全を保障する必要がある。さらにタイトガスやシェールガスなどの非在来型資源の開発の歩みを加速し、天然ガスの生産量を2030年までに3,000×108m3以上とし、そのうち非在来型ガスの割合を60%前後とするという目標を実現しなければならない。新エネルギー資源の開発利用を強化し、一次エネルギー消費構造に占める非化石エネルギーの割合を2030年までに20%とするという目標を実現する必要がある。エネルギー貯蔵電池の科学技術の発展は大きな可能性を秘めており、大規模な量産の可能な、充電が速く、航続能力が高く、耐久性の高い電池技術でブレークスルーが実現されれば、新エネルギー時代の到来はいっそう早まると考えられ、これに向けた準備を戦略面から早期に行わなければならない。

 このほか科学技術の革新や政治的な局面、経済発展速度、石油・ガス価格の変動など、エネルギー革命の進展には多くの不確定要素が存在しており、石油・ガスや石炭などの消費のピークの予測は今後も変化する可能性があることを配慮する必要がある。

(おわり)

参考文献

[2]BP.BP statistical review of world energy 2015[EB/OL].(2015-06)[2015-ll-20].
http://www.bp.com/content/dam/bp/pdf/energy-economics/statistical-review-2015/bp-statistical-review-of-world-energy-2015-full-report.pdf

[12]IEA. World energy outlook 2015[EB/OL].(2015-04)[2015-11-20].
http://www.worldenergyoutlook.org/media/weowebsite/2015/WEO2015_ToC.pdf

※本稿は鄒才能、趙群、張国生、熊波、「能源革命:従化石能源到新能源」(『天然気工業』第36巻第1期、2016年1月,pp.1-10)を『天然気工業』編集部の許可を得て日本語訳・転 載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司