Xバンドナビゲーションレーダーを用いた海洋表層流速計測方法(その2)
2016年11月25日 王立、呉雄斌、馬克涛、沈志奔(武漢大学電子信息学院)
(その1よりつづき)
2 実験と分析
2012年下半期、武漢大学海態実験室は、福建南東部の沿岸で2カ月にわたるXバンドナビゲーションレーダーと高周波地表波レーダーの比較分析を行った。Xバンドナビゲーションレーダーは、武漢大学電子信息学院が開発した機動式Xバンド海流計測レーダー「HopeX」を使った。「HopeX」の実験地点の分布は図3に示すとおりである。海流計測レーダー「HopeX」の実験地点は、福建竜海地表波レーダー観測所の北側300mとした。二つのレーダーから3kmの観測範囲は基本的に重なり、HopeXの観測能力の検証に理想的な条件が与えられた。今回の実験は、海洋重力波分散関係と相応する幾何学関係式を通じて、最小二乗法とも結合し、新たなXバンドナビゲーションレーダーによる海流インバースの方法を提出し、付近の高周波地表波レーダーの海流データとの比較を行うものだった。
図3 HopeX実験地点の分布図
Fig.3 Testing Site of HopeX X-Band Wave Monitoring Radar
高周波地表波レーダーは、観測海域の海流結果の導出が可能である。さらに竜海高周波地表波レーダーの地点は、本稿の実験地点と基本的に同じ場所である。このため竜海地表波レーダーの海流結果を利用して、海流の比較分析を行うことができる。Xバンドレーダーを利用して反射された「海面反射」を受信し、分散関係式を通じて実測イメージスペクトラムを結びつけ、イメージスペクトルの加重によって表層流をフィッティングする。この方法の筋道は、実測イメージスペクトルと理論スペクトルの周波数の平方偏差を最小にし、スペクトルエネルギーの大きなできるだけ多くの点を分散関係曲線上に落とし込むことにある。高周波地表波レーダーに対しては、エコー信号のフーリエ変換後のブラッグスペクトルのブラッグピークを利用して流速を導き出し、二つのレーダー観測所のデータを合成し、正確な海流方向を得る。本稿は、高周波地表波レーダーの実験期間中の径方向流のデータと海流方向を取得し、新たな方法を用いて高周波地表波レーダーの径方向流をベクトル合成し、定点のデータの取得を実現し、海流データを得る必要のある場所(Xバンドレーダーの観測する地域)でベクトル流速を導出する。
表1は、2012年10月26日から2012年10月28日までの、新たなアルゴリズムと従来のインバースアルゴリズムによって得られた流場と、高周波地表波レーダーデータとの比較結果である。高周波地表波レーダーの0番目の距離元の波浪エコーは、レーダー観測点付近の海域情報を代表し、1番目の距離元の波浪エコーは、レーダー観測点から5kmの海域の情報を代表する。Xバンドレーダーの観測距離は最大で5kmであることから、本稿は、高周波地表波レーダーの第0番目と第1番目の距離元の波浪エコーだけを考慮して比較検証を行った。指摘しておくべきなのは、高周波地表波レーダーの0番目の距離元と1番目の距離元で得られる波浪データはあまり安定していなかったということだ。この地域で獲得される波浪場の情報と風場の情報は不確定性が大きいが、流場データと比較すると、正確性と安定性はいずれも波浪場の情報と風場の情報をはるかに上回った。本稿はXバンドレーダー観測地域(観測点から3km前後の海域)付近の大量の高周波地表波レーダーの0番目の距離元と1番目の距離元のデータを利用して、最終的な結果のベクトル合成を行っている。このようにして二つのレーダーの海流結果を3kmの観測地域で重合させ(最小二乗法を利用)、比較に利用する同地域における高周波地表波レーダーの流場データの有効性と正確性を確保できる。
観測日 | 流速誤差 / (cm·s-1) |
流速相関係数 | 海流方向誤差/(°) | 流速相関係数 | サンプル数 /個 |
||||
新アルゴリズム | 従来アルゴリズム | 新アルゴリズム | 従来アルゴリズム | 新アルゴリズム | 従来アルゴリズム | 新アルゴリズム | 従来アルゴリズム | ||
2012-10-26 | 9.1 | 15.1 | 0.77 | 0.59 | 33.2 | 45.4 | 0.75 | 0.55 | 54 |
2012-10-27 | 11.1 | 13.6 | 0.73 | 0.60 | 29.1 | 38.6 | 0.78 | 0.67 | 77 |
2012-10-28 | 9.9 | 13.9 | 0.60 | 0.51 | 25.2 | 31.0 | 0.60 | 0.52 | 86 |
2012-10-29 | 12.1 | 12.9 | 0.64 | 0.62 | 39.8 | 43.5 | 0.79 | 0.66 | 51 |
すべての データ |
10.8 | 13.7 | 0.62 | 0.57 | 32.7 | 40.1 | 0.76 | 0.63 | 268 |
地表波レーダーの距離分解能は5kmだが、Xバンドレーダーがインバースに関与する距離は3km前後にすぎず、さらに分解力は10m前後に達する。図4は、一部の観測日(10月26日・28日)のHopeXの新アルゴリズムと伝統インバースアルゴリズムによって得られた海流と地表波レーダーの海流との比較を示したものである。図5は、HopeXの新アルゴリズムで得られた海流と高周波地表波レーダーの海流データの総合的な比較である。
図4 10月26日と28日のHopeXの新アルゴリズムと伝統インバースアルゴリズム
による海流と地表波レーダーによる海流との比較
Fig.4 Comparison of the Ocean Surface Current Measured by the HopeX with that Retrieved from Nearby HFGWR during the Period of October 26and October 28in 2012
図5 HopeXの新アルゴリズムによる海流と高周波地表波レーダーによる海流のデータの総合比較
図4と表1からは、本稿の新アルゴリズムが、流速と海流方向のインバースにおいて、3つの改善を実現したことがわかる。①新アルゴリズムの流速・海流方向と、高周波地表波レーダーの流速・海流方向が高い一致性を示した。伝統アルゴリズムと比較すると、本稿のアルゴリズムによって得られた流速・海流方向と参考値の相関係数は大きく向上している。②本稿のアルゴリズムで得られた流速・海流方向は伝統アルゴリズムよりも正確度が高い。伝統アルゴリズムと比較すると、本稿のアルゴリズムで得られた流速・海流方向と参考値の誤差は大きく改善された。③本稿のアルゴリズムで得られた流速・海流方向の特異値は大きく減少し、データはより合理的な傾向を示した。図5における総体的分析は、HopeXの新アルゴリズムによる流速と地表波レーダーによる流速の標凖誤差は(9.1~12.1cm/s)の範囲に分布していることを示している。本稿のアルゴリズムのすべてのデータの総合比較の標凖誤差は10.8cm/sだった。伝統アルゴリズムで得られたデータの標凖誤差は13.7cm/sだった。本稿のアルゴリズムのすべてのデータを総合的に比較した相関係数は0.62で、伝統アルゴリズムで得られたデータの相関係数は0.57だった。海流方向の標凖誤差は(29.1°~39.8°)の範囲に分布し、本稿のアルゴリズムの海流方向の標凖誤差は32.7°で、従来アルゴリズムは40.1°だった。本稿のアルゴリズムの海流方向の相関係数は0.76で、従来アルゴリズムは0.63だった。総体的に言って、本稿のアルゴリズムで得られた海流結果と伝統インバースアルゴリズムによって得られた海流結果を比較すると、精度と安定性がいずれも大きく向上していることがわかる。
3 結語
Xバンドナビゲーションレーダーは、便利、信頼性が高い、経済的、リアルタイム、高解像度などの特性を持ち海洋流速のモニタリングに利用することができる。本稿は、Xバンドナビゲーションレーダーをめぐって、海洋表層流を観測する的方法を提出し、この方法と幾何学的フィルタリングモデルを結合してエコーデータをフィルタリングすることで、インバースした流速結果をより正確なものとすることができる。高周波地表波レーダーの同地域の流速データの比較分析は、本稿の方法が実現可能で有效なものであることを示している。従来のXバンドナビゲーションレーダーの海流計測と比較すると、この方法は、観測する海域の最大流速の情報を事前に知っている必要がなく、相対流速が比較的高い場合の海域観測や舶載Xバンドナビゲーションレーダーによる海流測定技術の発展に有力な技術的支えを提供するものと言える。
(おわり)
※本稿は王立、呉雄斌、馬克涛、沈志奔「利用X波段導航雷達探測海洋表面流速的方法」(『武漢大学学報· 信息科学版』第40巻第1期2015年1月,pp.90-95)を『武漢大学学報· 信息科学版』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司