第123号
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中国遺伝子組み換えワタの研究開発・応用の20年(その1)

2016年12月22日

郭三堆、 王遠、 孫国清、 孟志剛、 張 鋭、 周燾:
中国農業科学院生物技術研究所/国家農作物遺伝子資源・遺伝改良重大科学プロジェクト

金石橋: 全国農業技術普及サービスセンター

概要:

 遺伝子組み換え技術とは、DNA組み換えの原理を利用し、優良な目的遺伝子を標的生物のゲノム中に統合し、標的生物に目的の形質を発現させる技術である。この技術は、生物の有性交配という限界を克服し、種間の遺伝子交流の範囲を無限に拡大し、原核生物から真核生物、単細胞生物から多細胞生物、さらには下等生物から高等生物への交流も可能となり、その逆も可能となる。このためこの技術は発明以来、農業や林業、医学などの分野に幅広く応用され、その研究にはまったく新しい時代が訪れている。遺伝子組み換え植物は、アグロバクテリウムなどを媒介とし、動物や植物、微生物などのほかの生物を起源とする、さらには人工合成された外来遺伝子をゲノム中に導入し、その安定した遺伝を実現し、ターゲットとなる形質を与え、耐病・耐虫・抗ストレス・高生産・良質などの特徴を持つ植物を作り出すものである。1972年に最初の組み換えDNA分子が構築されたのを契機とし、また1983年に初の遺伝子組み換えタバコが作られたのを起点として、植物遺伝子組み換え技術は30年近くにわたって急速な発展を続け、すでに200種余りの植物が遺伝子組み換え株を獲得し、40種余りの数千例の遺伝子組み換え株が農地実験に入っている。国際アグリバイオ事業団(ISAAA)の統計によると、世界の遺伝子組み換え植物の作付面積は1996年の260万hm2から2014年の1.815億hm2へと急速に拡大し、累計作付面積は中国の国土総面積を80%上回る規模に達している。遺伝子組み換え植物の研究開発と応用が世界で急速に発展しているのと同時に、中国も相次いで、7種の遺伝子組み換え植物の生産と応用を認可している。このうち害虫抵抗性ワタは、大規模に応用されている唯一の遺伝子組み換え農作物である。1994年に中国が国産シングル遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタ(GK)の開発に成功してから、また1995年に米国のBollgard綿が中国に導入されてから現在までに、害虫抵抗性ワタの中国での普及・応用はすでに20年近くが経過して来た。本稿では、この20年余りにわたっての中国人科学者による、害虫抵抗性・耐乾性・耐塩/アルカリ性・除草剤耐性・病害耐性・繊維品質改良などの形質面で得られた遺伝子組み換えワタ研究の進展を紹介する。またアグロバクテリウムを媒介とした導入や遺伝子銃射出、花粉管を経路とした導入、茎頂・シュート頂形質転換、アグロバクテリウム液浸漬、ナノベクター花粉導入などさまざまな形質転換技術において行われている模索についても紹介する。さらに中国の遺伝子組み換え植物の安全性評価状况を紹介し、害虫抵抗性ワタ品種の審査決定や発展動向、産業化状况などのいくつかの面から、遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタの中国における応用を紹介し、最後に、未来の遺伝子組み換えワタの研究方向を展望する。

キーワード:害虫抵抗性ワタ;遺伝子組み換え;安全評価;品種;産業化

序言

 1994年に中国がシングル遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタ(GK)の開発に成功してから、また1995年に米国のBollgard綿が中国に導入されてから、害虫抵抗性ワタの中国での普及・応用は20年近くを経て来た。この期間、中国は、7種の遺伝子組み換え植物の生産・応用を相次いで認可したが、中国の遺伝子組み換え農作物の産業化応用では、害虫抵抗性ワタが依然として抜きん出ている[1]

 本稿は、この20年余りにわたっての中国人科学者による、害虫抵抗性・耐乾性・耐塩性・除草剤耐性・病害耐性・繊維品質改良などの遺伝子組み換えワタ研究の面で得られた進展、さらにアグロバクテリウムを媒介とした導入や花粉管を経路とした導入、茎頂形質転換などさまざまな形質転換技術で行われている模索について紹介するものである。同時に、国産害虫抵抗性ワタを例として、中国の遺伝子組み換え生物の安全性評価体系を紹介し、害虫抵抗性ワタの中国での産業化のプロセスを概述し、遺伝子組み換えワタの研究の方向についてさらなる展望をはかる。

1 異なるタイプの遺伝子組み換えワタの研究の進展

 ワタに対する遺伝子工学技術を利用した遺伝改良は、ワタの分子設計育種の主要な手段であり、従来の育種方法では解决できなかった問題を有効に補い、多くの種類の新型ワタ育種材料を迅速に育成している。ワタの遺伝改良は主に、ストレス耐性や除草剤耐性、繊維品質、早期老化などの農業における重要な形質改良にかかわる。このうちウイルス耐性遺伝子プロジェクトで育成された害虫抵抗性遺伝子組み換えワタと除草剤耐性遺伝子組み換えワタは、幅広く生産・応用され、経済面と環境面での巨大な利益をもたらしている。同時に、食糧の増産と耕地面積の持続的な縮小との矛盾を解決し、食糧作物の栽培できない乾燥地や塩性アルカリ土壌でワタを栽培・生産できるようにするため、耐乾性や耐塩・アルカリ性、病害耐性、早期老化耐性などの重要の形質を備えた良質で高生産の新型遺伝子組み換えワタ材料を育成することは、現在のワタ遺伝改良研究の焦点となっている。このほか、南方の多雨高湿地区での栽培に適した耐湿性遺伝子組み換えワタなどの特殊用途の新材料の育成も一定の進展を実現している。

1.1 耐虫性遺伝子組み換えワタ

 中国の耐虫遺伝子の研究開発は、1990年代初期に始まった。遺伝形質転換の方法を通じてワタに害虫抵抗性機能を持たせる遺伝子には主に次の3つが含まれる。バチルス・ムシラギノサスを由来とする殺虫タンパク質遺伝子(Bt)、植物中から分離した昆虫プロテアーゼ阻害剤遺伝子(PI)、植物レクチン遺伝子(1ectin)である。現在、大規模に生産・応用されている国産遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタは主に、シングル遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタとダブル遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタに分けられる。その遺伝形質転換の耐虫遺伝子はBt殺虫遺伝子GFM Cry1Aとササゲトリプシン阻害剤遺伝子Cptiである。

 1992年、郭三堆ら[2]は、分子設計技術を利用して高殺虫活性のBt殺虫遺伝子GFM Cry1Aを人工合成し、1994年にはこの遺伝子をワタに導入した。これを土台として、育種機関と協力し、国産シングル遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタ品種として「GK1」「GK12」「GK19」「GKZ1」「晋綿26」の生育に成功し、大面積での普及応用を実現した。中国はこれで米国に次ぎ、遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタの開発に成功した世界で2番目の国となった。この後、害虫抵抗性ワタの殺虫効率を高め、殺虫タンパクに対するオオタバコガなどの害虫の耐性の生成を遅らせるため、郭三堆ら[3]は、2つの異なる殺虫メカニズムの耐虫性遺伝子GFM Cry1ACptiを同時にワタに導入し、ダブル遺伝子組み換えワタの新たな遺伝資源を作り出した。さらに国内の多くの育種機構と協力し、「sGK321」(1998年)や「中綿所41」(2001年)、「中綿所45」(2003年)などのダブル遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタ新品種の選別・育成に成功した。農地における害虫抵抗性試験の結果によると、2・3・4代のダブル遺伝子組換害虫抵抗性ワタ100株中のオオタバコガ幼虫の平均数はそれぞれ、通常の綿農地より81.4%、87.1%、87.0%減少し、シングル遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタより11.1%、33.3%、57.1%減少した[4]。ダブル遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタの研究開発の成功は、害虫耐性においてシングル害虫抵抗性ワタを超えることを可能としただけでなく、さらに重要なことに、害虫抵抗性ワタの遺伝資源を充実させ、害虫抵抗性ワタの新品種の育成と普及応用を加速した[3]

 またGFM Cry1ACptiのダブルでの遺伝子組み換えを行った害虫抵抗性ワタの大面積での普及・応用は、効率的で適用範囲の広い害虫抵抗性ワタの開発に理論的な土台を築き、新たな耐虫遺伝子の開発と応用を推進し、とりわけオオタバコガやアブラムシなどのワタの主要な害虫の防止の面でのブレークスルーを実現した。王偉ら[5]は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスを媒介とした遺伝形質転換方法を利用して、エンドウ外来レクチン遺伝子P-LecとダイズKunitz型トリプシン阻害剤遺伝子SKTIを含むダブル遺伝子組み換えワタを獲得し、アブラムシに対する効率的な害虫抵抗性を実現した。劉志ら[6]は、Cry1Aとスノードロップレクチン遺伝子GNAをワタに導入し、Cry1AGNAのダブル遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタ花のホモ接合株TBGを獲得し、苗代期から着蕾期、開花期、コットンボール形成期におけるオオタバコガの幼虫に対する主要な茎・葉の高い殺虫活性を実現した。同時にTBG株は、さまざまな生育時期において、ワタアブラムシの手段に対しても、際立った阻害效果を示しており、苗代期と着蕾期のアブラムシ抵抗率はそれぞれ50.31%と46.61%に達した。呉家和ら[7]は、人工設計によって合成したCry1AcBt29K、クワイプロテアーゼ阻害剤遺伝子API-Bをワタに導入し、害虫抵抗性が高く、農業形質も優良な遺伝子組み換え綿系統を9つ育生し、オオタバコガに対する抵抗性はいずれも90%以上に達した。肖松華ら[8]は、野生ナズナレクチン遺伝子(WSA)を通常の陸地綿品種に導入した。9つの高品質なWSA組み換えワタ株に対するアブラムシに対する抵抗性を調べた結果、遺伝子組み換えワタ株がワタアブラムシに対して高い抵抗性を示すことがわかった。張林水ら[9]は、Cry1Ac3Cptiの融合遺伝子とGNAで綿花を形質転換し、同時に3つの耐虫遺伝子を持つ遺伝子組み換えワタ新材料を獲得した。同材料は、オオタバコガに対して高い抵抗性を示す。雒瑶瑜ら[10]は、Cry1AcCry2Abをワタに導入し、ダブル遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタ育種材料2009002を獲得した。この遺伝子組み換えワタは、オオタバコガに抵抗性を持つほか、タマヤナガや刺入吸収型害虫、咀嚼型害虫、葉食い型害虫に対して一定の抵抗性を持つ。

 複数の遺伝子によって形質転換された害虫抵抗性ワタ花の研究開発は、中国の今後の耐虫遺伝子の研究開発と応用研究の新たな考え方を開拓するものとなっている。複数遺伝子の植物発現ベクターの構築を通じて異なる殺虫メカニズムの耐虫遺伝子を転換し、または遺伝子ピラミッディング技術を通じて複数の耐虫遺伝子を一つの遺伝子組み換えワタ材料内にピラミッディングして、多くの遺伝子による遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタを生育・獲得することができる。遺伝子組み換えされたワタに多種類のメカニズムの害虫抵抗性を獲得させることができるだけでなく、遺伝子相補の方式を利用して、遺伝子組み換えワタの害虫抵抗能力を強化し、害虫の耐性の生成を遅らせることができ、さらにワタが抵抗能力を持つ害虫の幅を広げ、効率的に主要害虫を殺すことのできる対象の広い害虫抵抗性を獲得させることができる[11]

1.2 耐乾性・耐塩/アルカリ性遺伝子組み換えワタ

 中国の水資源は不足しており、土壤の塩類化と頻繁な極端な天気は作物の生産に深刻な影響を与えている。このほか耕地が有限であるという前提条件の下、ワタ農地の拡大との矛盾は日増しに際立っている。ストレス耐性遺伝子の研究を通じて、ワタのストレス抵抗能力を高めることは、土地の利用率を有効に高め、利用可能な土地資源を拡大するものとなる。中国は近年、耐乾性・耐塩/アルカリ性遺伝子の研究の面で重要な進展を実現している。

1.2.1 耐乾性遺伝子組み換えワタ

 水資源が日増しに不足し、世界の温室効果がますます進んでいることは、ワタの生産に巨大な試練をもたらしている。このため耐乾性遺伝子の関連研究は、ワタの生産量の向上と塩・アルカリ性土壌と乾燥地の開発利用の強化に重要な意義を持っている[12]。呂素蓮[13]は、大腸菌由来の編碼コリンデヒドロゲナーゼ(CDH)遺伝子をコードするbetAをワタに導入し、この遺伝子が遺伝子組み換えワタの耐乾性と耐塩性を大きく高めることができることを発見し、ワタの苗代期と着蕾期の浸透(乾燥)・塩ストレス耐性試験を通じてThellungiella salsuginea由来のTsVPが遺伝子組み換えワタの耐浸透(乾燥)と耐塩の能力を高めることがえきることを発見した。この業績は、耐乾性・耐塩性ワタの新品種の生育に優れた材料を生み出し、中国のワタ生産と大面積の塩・アルカリ性土壌の開発利用に貢献した。さらにワタの耐乾性や耐塩性の分子メカニズムのさらなる理解に重要な資料を提供し、新たな道を切り開いた。

 曹燕燕ら[14]は、rolBの機能に対する研究を通じて、この遺伝子が、遺伝子組み換えワタの茎の太さを明らかに高めるだけでなく、発根能力も明らかに強めることができ、シュート/ルート比は対照を大きく上回り、根系がより強大で、耐乾性が高いことが示された。王娟[15]は、ZmPIS組み換えワタ株の苗代期・着蕾期・開花期の乾燥ストレス研究によって、遺伝子組み換えワタの一部の株が高い浸透調節能力を備えていることを示した。耐乾性能力は明らかに高まり、遺伝子組み換えワタ株は比較的高い浸透調節能力を持った。また王娟[15]は、異種交配を通じて、大腸菌由来のコリンデヒドロゲナーゼ(CDH)遺伝子をコーディングするbetAとThellungiella salsuginea由来のTsVPを一つにピラミッディングした。その結果、遺伝子組み換えピラミッディング株は、単一遺伝子組み換え株よりも高い耐乾性を持っていることが示された。呉偉[16]は、先行研究を土台として、ZmPLC1betAをピラミッディングした遺伝子組み換えピラミッディングワタの耐乾性研究を行った。その結果、野生型の対照株と単一遺伝子組み換えの対照株系と比較すると、遺伝子組み換えピラミッディング株が高い耐乾性を示した。また野生型対照株と単一遺伝子組み換えの対照株系と比較すると、遺伝子組み換えピラミッディング株は、実綿と繰綿の生産量がより高かった。これは遺伝子ピラミッディング手段を通じた植物のストレス耐性向上が実現可能であることを示している。楊雲尭[17]は、MvP5CSMvNHX1をワタに組み込み、研究を通じて、遺伝子組み換え株がワタの耐乾性能力を高めることができることを示した。蔡永智[18]は、遺伝子組み換えワタにおいて、カイラン由来のCBF1と大腸菌由来のKatGの機能研究を行い、乾燥ストレスの下で、CBF1KatGの組み換えワタが、光合成やクロロフィル蛍光パラメータや生理生化学特性、農業形質の面でいずれも、優れた生長と生理の特性を示すことを発見した。この2つの遺伝子でストレス耐性能力を高めることによって、遺伝子組み換えワタの生産量を高めることができることを意味している。銭進ら[19]は、MvNHX1を導入した10種のT5ワタ株の乾燥ストレス後の生理指標と農業形質の分析を通じて、乾燥ストレス下における遺伝子組み換え株の光合成作用はより高く、根系はより発達し、水吸收の能力はより強いことを発見した。農業形質の面では、遺伝子組み換え株の有效ボール数や有效果枝数、ボール1個当たりの重量、繰綿、実綿、繰綿歩留などの指標は対照を明らかに上回った。これらの株は後続の遺伝育種材料とすることができる[20]

1.2.2 耐塩/アルカリ性遺伝子組み換えワタ

 ワタは、耐塩・耐乾性作物として知られる。優良な耐塩/アルカリ性遺伝子をクローンし、ワタに導入し、耐塩性ワタ品種を選別生育し、塩性環境に対するワタの適応能力を高め、埋め立て改造された湿地を利用し、遺伝子組み換え耐塩/アルカリ性ワタを栽培することは、土壤の塩類化の危害を軽減し、沿岸湿地などの塩類化土地資源を開発利用するための重要な手段の一つであり、ワタ栽培の土地不足などの矛盾を緩和する重要な策略となる。張慧軍ら[21]は、クローンヤマホウレンソウ(Atriplex hortensis)のAhCMOを泗綿3号ワタに導入した。塩ストレス試験の結果からは、AhCMO組み換えワタの耐塩性は、対照グループのワタ株を明らかに上回っていることがわかった。AhCMOが遺伝子組み換えワタの塩ストレスに対する耐性を高めることを意味している。大腸菌のbetAがコーディングするコリンデヒドロゲナーゼ(choline dehydrogenase,CDH)は、コリンモノオキシゲナーゼとベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼの機能を兼ね備えている。連麗君[22]は、betA組み換え魯綿研19の耐塩研究から、betAの発現が、遺伝子組み換えワタの葉中のグリシンベタイン(glycinebetaioe,GB)の累積量を高め、遺伝子組み換えワタの耐塩能力が明らかに高まったことを示した。樊文菊[23]は、ZmPLC1組み換えワタとZmPLC1/betAピラミッディングワタの耐塩性について初期的な研究を行い、水栽培と砂栽培、東営での塩・アルカリ性土壌栽培を通じて、ZmPLC1組み換えワタの耐塩性が野生型対照を上回り、betA/ZmPLC1ピラミッディング遺伝子組み換え株の実綿生産量が、ZmPLC1組み換えワタとbetA組み換えワタ、野生型対照を明らかに上回っていることを発見した。以上の業績からは、ZmPLC1の単一遺伝子組み換えは、ワタの耐塩性を一定程度高めることができ、betAZmPLC1のつの遺伝子をピラミッディングした後、ワタの耐塩性はさらに高まったことがわかる。このため遺伝子ピラミッディングの方法を通じて植物の耐塩性を高め、耐塩ワタの新品種の生育に新たな遺伝資源を提供することができ、さらに多くの耐塩遺伝子の相互作用とその調整メカニズムの研究に新たな試験材料を提供することができる。陳翠霞ら[24]は、花粉管経路技術を利用して、耐塩/アルカリ性のラフマ(Apocynum venetum)のDNAを「魯綿6号」に導入し、その後代からワタ耐塩変異体「山農011」を選出し、「山農011」とその雑種の後代に対して耐塩遺伝・遺伝子効果の分析を行った。その結果は、変異体の耐塩性は、核遺伝子によって制御され、その遺伝子効果は、相加効果を主とし、大きな加性相互効果があることを示した。この耐塩変異体は、良好な耐塩遺伝材料として利用できる。李雪林[25]は、過剰発現を通じてストレス環境に対する調整作用を起こす転写因子遺伝子SNAC1について、遺伝子組み換えワタ株に対して系統的なストレス耐性の分析と鑑定を行い、SNAC1が耐乾性と耐塩性を備えた転写因子遺伝子であることを検証した。中国農業科学院生物技術研究所の郭三堆課題グループは、自前の知的財産権を持つ耐塩/アルカリ性キー遺伝子GhABF2(特許コード:ZL200910158311.X)を中国ワタの主要栽培品種「蘇綿12号」に導入し、耐塩/アルカリ性遺伝子組み換えワタの新系統を8つ作り出し、中間試験の段階に入った。連続3年での山東と新疆の両地での耐塩/アルカリ性試験の鑑定を経て、総合的な農業形質が優良で、耐塩/アルカリ性能が際立った遺伝子組み換えワタの新たな系統4つを獲得した[26]。0.40%-0.45%の塩・アルカリ条件下では、受容体であるワタ品種「蘇綿12」の出芽率はわずか32%だったが、GhABF2組み換えワタ新系統の出芽率は65%に達し、1株当たりの綿コットンボールも元の品種より3-4個多くなり、両者はそれぞれ元の品種よりも33%以上の増産を可能とする。塩・アルカリ性土壌での生産への応用の大きな潜在力がうかがえる。同課題グループはさらに、アグロバクテリウムを媒介としたワタ胚軸遺伝形質転換方法を通じて、リゾチームhel(耐病性)、CP4-EPSPS(除草剤耐性)、Na+/H+逆転送タンパク質遺伝子(NhaD k3)をワタのモデルレセプターである「R15」に同時に導入し、連続3代の植物の自家交配を経て、グリホサートやワタ黄萎病への抵抗性や耐塩/アルカリ性からの選別を経て、ワタ黄萎病や除草剤グリホサートに対する抵抗性が高く、一定の耐塩/アルカリ性を持った遺伝子組み換えワタの新系統「T58-22」を得た。

その2へつづく)

参考文献

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※本稿は郭三堆; 王遠; 孫国清; 金石橋; 周燾; 孟志剛; 張鋭「中国転基因棉花研発応用二十年」(『中国農業科学』第48巻第17期,2015年、pp.3372-3387)を『中国農業科学』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司