中国遺伝子組み換えワタの研究開発・応用の20年(その4)
2016年12月28日
郭三堆、 王遠、 孫国清、 孟志剛、 張 鋭、 周燾:
中国農業科学院生物技術研究所/国家農作物遺伝子資源・遺伝改良重大科学プロジェクト
金石橋: 全国農業技術普及サービスセンター
( その3よりつづき)
4 遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタの品種育生と普及
4.1 害虫抵抗性ワタ品種の審査状況
中国で審査を通過した最初の遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタ品種は、米国デルタ・アンド・パイン・ランド社の「新綿33B」だった。この品種は、1997年に河北省の審査を通過し、「冀審綿97001号」と の審査コードが付けられた。1997年から2006年までにデルタ・アンド・パイン・ランド社はモンサント社と、河北省・河南省・山東省・安徽省・湖北省・湖 南省で7つの遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタ品種での審査を通過し、2003年までに、品種の数でも作付面積でも害虫抵抗性ワタのトップの地位を得た。中国は1998年、「GK12」「晋綿26」「GKZ1」( 国抗雑一号)など最初の国産耐虫性遺伝子シングル遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタ品種の審査を開始した。1999年には、害虫抵抗性ワタ品種「中綿所38」が初めて国家認可を受け、中 国の遺伝子組み換えワタ品種の育生と生産普及に向けた一歩が踏み出された [83] 。2013年までに、中国では、134個の遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタ品種が国家認定された。黄河流域では96個、長江流域では36個、西北内陸綿栽培地域では2個が認定された。生 産需要が大きい中生品種が中心で、生育期が110d以内の早生品種は7個、彩色ワタ品種は1個だった [84] 。現在、中国の害虫抵抗性ワタはすでに、すべてのワタ栽培地区をカバーし、異なる栽培期間の品種によって合理的に構成され、従来ワタとハイブリッドワタの両立した品種体系を形成している。
4.2 害虫抵抗性ワタ品種の発展の趨勢と存在する問題
4.2.1 ハイブリッド品種の比率が拡大
1999年から2013年までに国家認定された134種のうち88種はハイブリッド品種だった。2006年以前にはハイブリッド品種は23種で、2 007年から2013年までに65種のハイブリッド品種が認定された。このうち長江流域の36品種のうち従来品種は1種だけで、ハイブリッド品種は35種あった。このデータによると、黄 河流域のワタ栽培地区では従来種とハイブリッド種の両方の栽培が進められ、長江流域のワタ栽培地区ではハイブリッド種が中心となっている [85] 。
4.2.2 品種の多数乱立現象
1996年から2012年までに遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタ品種の数は年々増加し、2012年までに、内陸ワタ栽培地区で作付面積が0.33万ヘクタールを超えたワタ品種系統は合計245種に達した。こ のうち黄河流域の品種は166種、長江流域の品種は79種だった [86] 。これには国家または省によって審査認可された品種もあるが、審査を受けていない系統もあった。品種の多様性は、多様な中国の気候類型における耕作制度の必要性を満たす一方で、同質化した品種が多く、ブ レークスルーと言える品種が少ないという問題も存在した。このためいくつかの害虫抵抗性ワタ品種は認可されたものの普及されずに数年して淘汰されるという現象が生まれ、品種の移り変わりが過度に頻繁で、人 力や物力の浪費をもたらしている。
4.2.3 品種の生産量と形質は絶えず向上しているが、繊維品質形質の改良は十分でない
害虫抵抗性ワタ品種の発展に伴い、ワタの単位面積当たりの生産量は絶えず向上し、中国のワタの作付面積は増加していない状況であるにもかかわず、生産量は大幅に高まった [87] 。だが繊維の品質にかかわる形質の改良は明らかでなく、とりわけワタ繊維の長さと強度は、今後のワタの機械収穫作業と紡織産業技術の更新の要求水準を満たせなくなっている。害 虫抵抗性ワタ育種機関には今後、育種方向の調整が待たれる [88] 。
4.3 遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタの産業化
4.3.1 害虫抵抗性ワタの普及面積
遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタは1997年、広い面積での栽培が開始された。当時は米国の品種が中心で、国内の害虫抵抗性ワタ市場シェアの95%以上を占めた。国産害虫抵抗性ワタのシェアは5%に 満たなかった。中国が自主開発した遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタの成熟につれ、国産害虫抵抗性ワタの品種数と作付面積は年々高まり、2001年には、遺 伝子組み換え害虫抵抗性ワタの面積が非遺伝子組み換えワタの面積を初めて上回った。その後、国産害虫抵抗性ワタの数量と普及面積は急速に成長した。2002年、国 内の害虫抵抗性ワタ市場に占める国産害虫抵抗性ワタのシェアは43.3%に達し、2003年には、国産害虫抵抗性ワタの面積が米国の害虫抵抗性ワタの面積を超え、国内の害虫抵抗性ワタ市場でのシェアは53.9%に 拡大した。2007年には国産害虫抵抗性ワタの面積は96.1%を占めるようになった。1998年から2013年までの国産害虫抵抗性ワタの累計普及面積は3000万ヘクタールを超え、米 国の害虫抵抗性ワタの独占を打ち破り、中国のワタ産業と関連産業、民族利益の保護に成功した [89] 。
4.3.2 害虫抵抗性ワタの産業化が中国のワタ種子産業に深い影響を与えている
害虫抵抗性ワタの種子の中国市場での小売価格は37.2元/kgで、非害虫抵抗性ワタの種子が8.2元/kgと低価格であった局面を転換し、ワタの種子の質を高め、ワ タ種子の生産と販売の方式の改良を可能とした。ワタ種子の利潤の増加は、ワタ種子に専門で従事するまたはワタ種子を主要業務とする育種・繁殖・普及の一体化した企業を生んだ。害虫抵抗性ワタの品種育生の主体も、研 究機構や大学・専門学院から、育種・繁殖・普及の一体化した種業企業や民営研究所へと転換した。これによって害虫抵抗性ワタ品種の育生はより市場のニーズに沿ったものとなり、品種の育生と普及の歩みを速め、中 国のワタ種子産業を良好な循環の道へと進めた [90] 。国産害虫抵抗性ワタの開発技術の成熟に伴い、中国の害虫抵抗性ワタの優良な害虫抵抗性と際立った総合形質は、世界のワタ生産各国の関心を呼んでいる。中国は、インドとオーストラリア、パ キスタンとそれぞれ、害虫抵抗性ワタの協力プロジェクトを締結し、プロジェクトは現在、進行中である。国産害虫抵抗性ワタはすでに国境を超え、世界にはばたき、国際競争に参加している [91] 。
5 中国の遺伝子組み換えワタ研究の展望
上述のように、遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタの品種のタイプが日増しに豊富となり、安全な応用の許可された地域が広がるにつれ、遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタの産業化は近年、急速な発展を遂げ、良 好な経済的・社会的利益を生み出した。だが研究においては、早期の解决の待たれる問題が依然として存在しており、中国の遺伝子組み換えワタの将来の研究方向となっている。
5.1 多くの耐虫性遺伝子を運用したワタの総合的な耐虫能力の向上
害虫抵抗性ワタの応用が始まってから現在までに20年近くの時間が経過した。シングル・ダブル遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタの長期の栽培においては、オオタバコガの発生が効果的に防止されたが、農 薬の使用量が大きく減少したため、主要害虫ではなかったいくつかの昆虫、例えばカスミカメムシやアブラムシなどの危害は日増しに際立ち、ワタの主要な害虫となりつつある。同 時に害虫抵抗性ワタそのものの生長発育後期の害虫抵抗性低下や、抵抗性オオタバコガの発生などの総合的な問題がある。そのため新型の有效な耐虫性遺伝子資源の探求を強化し、2 つまたはそれ以上の遺伝子を組み替えた新型の害虫抵抗性ワタを研究開発し、遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタの総合的な害虫抵抗能力を高める必要がある。
5.2 自前の財産権を持った除草剤耐性ワタの育生
農村労働力の都市への移転と農業の持続可能発展の必要性から、全生育期にかけて除草剤を利用して雑草を防止・除去することが、機械化ワタ栽培の重要なニーズとなっている。異 なるワタ栽培地区における雑草群の類型と使用される除草剤の傾向を考慮し、とりわけ効率的で低毒性で低残留の除草剤類型をターゲットとして、利用価値のある新たな除草剤耐性遺伝子を積極的に選び、中 国が独自の知的財産権を持つ除草剤耐性ワタを研究開発する必要がある。
5.3 耐乾性・耐塩/アルカリ性遺伝子組み換えワタの育生
中国では人が多く土地が少ないことは、解决のできない難題となっている。ワタ原料の供給問題の解決にあたっては、中国にある2000万ヘクタール以上の乾燥・塩/アルカリ性土壌を利用し、こ れをワタ栽培地に変え、作付面積を拡大し、未加工綿の総量を増やすことが重要な手段となる。植物のストレス耐性の分子通路の解析と極限環境微生物(塩湖微生物などのストレス耐性機構など)の研究の進展に伴い、耐 乾性・耐塩/アルカリ性の遺伝子資源は現在、徐々に発掘され、遺伝子組み換えワタの育種に応用されるようになっている。
5.4 耐病性遺伝子組み換えワタの育生
萎凋病・黄萎病はこれまで長期にわたり、中国のワタ生産に影響を与える主要な病害となって来た。萎凋病・黄萎病の遺伝法則と抵抗性メカニズムがより一層明らかとなり、抵 抗性関連遺伝子QTLのポジショニングと遺伝子クローンの研究が進んだことで、遺伝子組み換え耐病性ワタの育種に抵抗性遺伝子資源が提供された。だが病原レースは複雑性が高いことから、野 生綿と綿属の近縁品種から萎凋病・黄萎病に高い抵抗性を持つ遺伝子をより幅広く捜索・発掘し、分子マーカー育種や遺伝子組み換え育種、従来の育種を結合し、総 合的な育種技術を利用して多種類の抵抗性遺伝子をピラミッディングし、病害抵抗性ワタの育種を加速し、高い耐病性を持った遺伝子組み換えワタの新品種を育てる必要がある。
5.5 高品質遺伝子組み換えワタの育生
国際市場の影響から、綿紡績工業は現在、ローエンド製品からミドル・ハイエンド製品への転換期にある。中国の綿紡績企業の国際競争力を高めるにはまず、高 品質綿原料の供給という問題を解決しなければならない。このため紡織企業のニーズを満たす高品質綿の生産は、中国のワタ生産発展の主な方向となる。ワタの機能ゲノミクス研究の発展に伴い、ワタ繊維の発生・発 育のメカニズムは次第に明らかになりつつある。ワタ繊維の品質に决定的な役割を果たすいくつかの遺伝子も現在、発掘が進み、遺伝子組み換え高品質ワタの育生に応用されるようになっている。
現代のワタ栽培方式は、ワタ品種に対しての要求がより多様であり、今後のワタ生産の需要を満たすには、遺伝子組み換え生物育種技術を運用し、ワタの害虫抵抗性や除草剤耐性、ストレス耐性、病害抵抗性、高 品質などの形質を改善し、ワタ生産に有利な形質を短期間でピラミッディングする必要がある。このため遺伝子組み換え植物生物育種技術を総合的に利用し、高収量で高品質、ス トレス耐性のある新品種の育生でブレークスルーを実現することは、中国の遺伝子組み換えワタの育種発展の根本となる。
総じて、中国遺伝子組み換えワタはここ20年余り、誇るべき実績を重ねてきた。とりわけ国産遺伝子組み換え害虫抵抗性ワタの研究開発と産業化の成功は、中国のワタと関連産業の発展を促進しただけでなく、米 国の独占を打ち破り、国際競争力を高めた。その普及・応用の速度、影響力の広さ、産出された経済的・社会的利益と環境面での利益の大きさは、中国の近代農業科学発展史上における奇跡と言える。
(おわり)
参考文献
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※本稿は郭三堆; 王遠; 孫国清; 金石橋; 周燾; 孟志剛; 張鋭「中国転基因棉花研発応用二十年」(『中国農業科学』第48巻第17期,2015年、pp.3372-3387)を『中国農業科学』編 集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司