第123号
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レーザー積層造形技術に関する研究の現状および発展の傾向(その1)

2016年12月 1日

楊 強

楊 強:西安交通大学機械製造システム工学国家重点実験室博士生

主な研究分野は先進製造技術および3Dプリンタ。

魯 中良:西安交通大学機械製造システム工学国家重点実験室、先進航空エンジン協同イノベーションセンター

黄 福享:西安交通大学機械製造システム工学国家重点実験室

李 滌塵:西安交通大学機械製造システム工学国家重点実験室

概要:

 積層造形技術とは、複雑な構造物の三次元データモデルを素早くかつダイレクトに転写して実体のある部品を作ることのできる、急速に発展しつつあるデジタル製造技術である。レーザー積層造形技術は、積層造形技術の中でも最も代表的なものであり、積層造形技術の分野において重要な役割を担っている。本稿は主に、二種類の典型的なレーザー積層造形技術、すなわち選択的レーザー溶融法(Selective Laser Melting, SLM)技術及びレーザー金属直接造形(Laser Metal Direct Forming, LMDF)技術の原理と特徴を紹介し、その発展及び研究の現状を整理することで、レーザー積層造形技術の発展の方向性を示す。

キーワード:レーザー積層造形技術、選択的レーザー溶融法、レーザー金属直接造形、複雑な部品

 付加製造(Additive Manufacturing,AM)技術は、積層オブジェクト製造の原理により、材料の層を積み重ねて製造する方法を用い、デジタル化モデルをダイレクトに転写して実体のある部品を作る新しい製造技術である。米国試験材料協会(ASTM)F42 国際委員会は、付加製造を「付加製造とは、三次元モデルのデータに基づいて、材料を連ねて物体を作成するプロセスであり、除去製造とは対極にあり、通常は積層プロセスである」と定義している。[1]。付加製造技術は、デジタル化技術、製造技術、レーザー技術及び新素材技術など複数の分野の技術を組み合わせたもので、CADデジタルモデルを直接形にし、素早くかつ精密に三次元の実体を持つ部品に作り上げることができ、真の意味での「自由製造」を可能にするものである。従来の製造技術と比べ、付加製造技術はよりフレキシブルで、金型が不要で、製造サイクルが短く、部品構造や素材による制約を受けないといった、一連の長所があり、宇宙航空、自動車、エレクトロニクス、医療、軍需などの分野で幅広く応用されている[2-5]。付加製造技術はすでに製造業の中でも研究が盛んな分野であり、中国を含め多くの国がこれについて大量かつ踏み込んだ研究を展開している。さらに欧米では、これら技術を製造業の発展の新たな方向性を象徴する分野と位置づける専門家もおり、「第三次産業革命」を代表する技術になることが有望視されている[6-8]

 レーザー積層造形(Laser Additive Manufacturing,LAM)技術は、レーザーをエネルギー源とする付加製造技術である。レーザーにはエネルギー密度が高いという特徴があり、これを利用し、加工難度の高い金属製造、例えば宇宙・航空分野で利用されるチタン合金、耐熱合金などの加工を実現できる。このほか、レーザー積層造形技術には、部品の構造による制約を受けないという長所があり、構造が複雑で、加工が難しい薄肉部品の加工製造に用いることができる。現在、レーザー積層造形技術に応用される材料としては、チタン合金、耐熱合金、鉄合金、アルミ合金、高融点合金、アモルファス合金、セラミック及び傾斜材料などが挙げられ[9]、宇宙・航空分野で用いる高機能の複雑なパーツや、バイオ製造分野で用いる多孔性の複雑な構造物などにおいては大きな優位性を有する[10]

 レーザー積層造形技術をその造形原理によって分類した場合、最も代表的なものが粉末床に粉末を重ねていく手法を技術的特徴とする選択的レーザー溶融法(Selective Laser Melting, SLM)や、粉末の同時供給を技術的特徴とするレーザー金属直接造形(Laser Metal Direct Forming,LMDF)技術がある。本稿は、これら2種の典型的なレーザー積層造形技術の原理と特点を踏まえ、これら2種の技術を中心に発展及び研究の現状をまとめた上で、現時点におけるレーザー積層造形技術の発展の方向性を探る。

選択的レーザー溶融法の研究にかかる現状

1. SLM技術の原理と特徴

 選択的レーザー溶融法(Selective Laser Melting, SLM)の技術は、高エネルギーのレーザービームを利用し、予定の走査経路に沿って、予め敷いてある金属粉末を走査させて完全溶融させた上で、冷却して凝固させることで造形する技術である。その技術の原理は図1に示す通りである。

 SLM技術には、以下のような特徴がある。(1)造形に用いる原料は通常、一種類の金属粉末であり、主にステンレス、ニッケル基耐熱合金、チタン合金、コバルト- クロム合金、高強度アルミ合金及び貴金属などがある。(2)微小な集光スポットを用いた、レーザービームによる金属部品の造形を行い、造形部品の精度は比較的高く、研磨またはショットブラストといった簡単な処理で表面の精度要件を満たすことができる。(3)造形部品の力学的性能は良好で、通常は引っ張り強さが鋳造品より高く、鍛造品と同等のレベルである。(4)供給スピードが比較的遅いため、造形効率が低くなるほか、部品のサイズが粉末を敷く造形ボックスに制約されるため、大型の一体型部品の製造には適しない。

2. SLM技術の発展をめぐる現状

 SLM技術は実質上、選択的レーザー焼結(Selective Laser Sintering,SLS)技術を土台に開発されたレーザー積層造形技術である。SLS技術は当初、テキサス大学オースティン校(University of Texas at Austin)のDeckard教授[11]が提案したが、SLS造形には粉末の結合強度が低いという問題がある。この問題の解決方法として、ドイツのフラウンホーファー(Fraunhofer)研究機構レーザー技術研究所のMeiners[12]は1995年、金属粉末を溶融させたうえで凝固させる選択的レーザー溶融技術の構想を提案し、1999 年にドイツのFockle、Schwarzeの両氏と共にステンレス用のSLM 造形設備を開発した。その後、多くの国の研究者がSLM 技術について多くの研究を展開した。

 現在、SLM技術に関する研究はドイツ、米国、日本などの国に集中しており、主にSLM 設備製造、造形プロセスの2分野がその対象となっている。世界にはSLM設備を専門に製造するメーカーが多くある。例えば米国のPHENIX、3D SYSTEM、ドイツのEOS、CONCEPT、SLM SOULITION、日本の松浦機械製作所、ソディックなどが挙げられ、いずれも優れた性能のSLM設備を製造している。現在、ドイツのEOS社が製造するEOSM400型SLM 設備は、最大加工サイズが400mm×400mm×400mmに達する。中国におけるSLM設備の研究は主に高等教育機関に集中しており、華中科技大学西北工業大学華南理工大学などがSLM設備の製造開発について多くの研究活動を展開し、実用化にも成功している。中でも、華中科技大学の史玉升チームは、大型サイズ用の選択的レーザー焼結設備の研究や実用化によって、2011年国家技術発明二等賞を獲得した。ただし、中国国内では完成度の高い商用向け設備がなお存在せず、現時点において中国国内で使用されているSLM設備は海外製品が主体である。この分野が、SLM技術開発の一つの重点となるだろう。

図1

図1 選択的レーザー溶融法技術原理図

Fig.1 Schematic diagram of SLM

 SLM造形プロセスの分野でも、多くの研究機関が踏み込んだ研究を展開している。ベラルーシ科学アカデミーのTolcochko[13]は、選択的レーザー溶融時に金属粉末が球状化する具体的なプロセスを研究し、金属粉末の球状化によって形成される典型的な形状として、バタフライ形、カップ形、ボール形の3種類を挙げるとともに、それぞれが形成されるメカニズムを分析した。ドイツ・ルール大学のMeier[14]は、 ステンレス粉末の選択的レーザー溶融法による造形時の相対密度とプロセスパラメータとの関係を研究し、高いレーザー出力が高密度の金属部品の造形に役立つことや、低い走査速度が走査ラインの連続性確保や緻密化に役立つことを発見した。英国リーズ大学のBadrossamayら[15]はステンレスや工具用スチール合金粉末を用いるSLMの研究を行い、走査スピードやレーザー出力、走査間隔が造形品の品質にもたらす影響を分析した。華中科技大学のShiら[16]は、SLM造形過程における溶融池境界が造形品の性能に及ぼす影響について踏み込んだ研究を行った結果、溶融池境界が造形品の力学的性能、とりわけ延伸性や靱性の面で大きく影響することが分かった。華南理工大学の楊永強ら[17]は、SLMで造形した金属部品の表面粗さの影響因子について研究を行ったところ、造形品の表面の粗さは主にトラック幅、走査ピッチ、積層厚さの3要素が絡んで影響していることを発見し、電気化学処理によって表面精度を高める方法を提案している。

 近年は多くの国がSLM技術の開発支援に力を入れている。米国では2012年、国防省が全米積層造形イノベーション機構(NAMII)を設立し、国防省、エネルギー省、商務省、国立科学財団(NSF)及び航空宇宙局(NASA)が共同で、選択的レーザー溶融法の造形にかかるテストプロジェクトの共同事業体に4500万米ドルの共同出資を行うことで合意した。この事業体には、企業40社、研究型大学9カ所、コミュニティ型大学5カ所、非営利組織11カ所が参加している[18]。またボーイング(Boeing)社、Lockheed Martin社、GEアビエーション社、サンディア(Sandia)国立研究所、ロスアラモス(Los Alamos)国立研究所など、米国の名だたる事業者が名を連ねている。このほか、イタリアのAVIO社、カナダ国立研究所、オーストラリア科学研究センターなどの大企業や国立研究機関、そして中国でも華中科技大学華南理工大学などの高等教育機関でSLM技術に関する多くの研究活動が行われている。

 米国のGE社は2012年にMorris Technologies社を買収し、Morris社のSLM設備やプロセス技術を用いて航空機用ジェットエンジン向けエンジンユニットを製造した。図2(a)、(b)に示した通り、GE社はレーザー積層造形技術を今後の航空エンジン開発推進の重要技術と明確に位置付けている。また、SLM技術は医学分野においても重要な応用事例があり、スペインのサラマンカ(Salamanca)大学は、オーストラリア科学協会が製作したArcam型SLM設備を用い、チタン合金製の胸骨・肋骨の作成に成功した。図2(c)に示す通り、これらは胸廓癌の患者の体内へ埋め込まれ、手術は成功している。西北工業大学華中科技大学華南理工大学は中国国内では比較的早くからSLM技術の研究に力を入れている研究機関であり、SLM技術の研究において多くの優れた成果を上げ、図2(d)~(f)に示す通りそれぞれSLM技術を応用して複雑な構造を持つ金属部品を多く作成している。

図2 SLM技術の応用事例 / Fig.2 Application of SLM

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(a)米国GE 選択的レーザー溶融技術による航空機用エンジンブレード

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(b)米国GE 選択的レーザー溶融技術による燃料ノズル

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(c)スペインのサラマンカ(Salamanca)大学の作製したチタン合金製人工胸骨・肋骨

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(d)西北工業大学の作製した複雑な構造の部品

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(e)華中科技大学の作製したハニカム多孔金属部品

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(f)華中科技大学の作製したステンレス製の複雑な空間多孔部品

その2へつづく)

参考文献

[1] 李滌塵、田小永、王永信ら「積層造形技術の発展」[J].『電気加工と金型』2012(A01):20-22.LI Dichen , TIAN Xiaoyong , WANG Yongxin, et al. Developments of additive manufacturing technology[J]. Electromachining & Mould, 2012(A01):20-22.

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[8] 李滌塵、蘇秦、盧秉恒「積層造形----イノベーションと起業の利器」[J]. 『航空製造技術』2015(10):40-43. LI Dichen, SU Qin, LU Bingheng. Additive manufacturing-- tool for innovation and entrepreneurship[J]. Aeronautical Manufacturing Technology, 2015(10):40-43.

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[10] 李滌塵、賀健康、田小永ら「積層造形: マクロ・ミクロ構造の一体的製造の実現」[J]. 『機械工程学報』2013,49(6):129-135.LI Dichen, HE Jiankang, TIAN Xiaoyong, et al. Additive manufacturing: integrated fabrication of macro /micro structures [J]. Journal of Mechanical Engineering, 2013, 49(6):129-135.

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[17] 劉睿诚、楊永強,、王迪「選択的レーザー溶融成型金属部品の表面粗さにかかる研究」[J].『レーザー技術』2013, 37(4):425-430.LIU Ruicheng, YANG Yongqiang, WANG Di. Research of upper surface roughness of metal parts fabricated by selective laser melting[J]. Laser Technology, 2013,37(4):425-430.

[18] 趙志国、柏林、李黎ら「選択的レーザー溶融法造形技術の発展の現状及び研究の進展」[J].『航空製造技術』 2014(19):46-49.ZHAO Zhiguo, BAI Lin, LI Li, et al. Status and progress of selective laser melting forming technology[J]. Aeronautical Manufacturing Technology, 2014(19):46-49.

※本稿は楊強、魯中良、黄福享、李滌塵「激光増材製造技術的研究現状及発展趨勢」(『航空製造技術』2016年第12期(507号)、pp.26-31)を『航空製造技術』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司