レーザー積層造形技術に関する研究の現状および発展の傾向(その2)
2016年12月 5日
楊 強:西安交通大学機械製造システム工学国家重点実験室博士生
主な研究分野は先進製造技術および3Dプリンタ。
魯 中良:西安交通大学機械製造システム工学国家重点実験室、先進航空エンジン協同イノベーションセンター
黄 福享:西安交通大学機械製造システム工学国家重点実験室
李 滌塵:西安交通大学機械製造システム工学国家重点実験室
( その1よりつづき)
2.LMDF技術の発展にかかる現状
LMDF技術は、ラピッドプロトタイピング技術を土台に、粉末の同時供給とレーザークラッディング技術を組み合わせて開発されたレーザー積層造形技術である。LMDF技術の起源は米国サンディア( Sandia)国立研究所のレーザー直接積層法(Laser Engineered Net Shaping,LENS) [20] に遡る。その後、複数の国際研究機関が相次いで参入し、それぞれ異なる名称がつけられた。例えば、米ロスアラモス(Los Alamos)国立研究所の命名した直接レーザー製造法(Direct Laser Fabrication, DLF) [21] 、スタンフォード大学の積層溶着造形法(Shape Deposition Manufacturing,SDM) [22] 、ミシガン大学の直接金属積層溶着法(Direct Metal Deposition, DMD) [23] 、ドイツのフラウンホーファー(Fraunhofer)研究機構レーザー技術研究所のレーザー金属積層溶着法(Laser Metal Deposition,LMD) [24] 、中国西北工業大学のレーザー固体造形法(Laser Solid Forming,LSF) [25] などがその例である。名称はそれぞれ異なるものの、技術の原理はほぼ一致しており、いずれも粉末の同時供給とレーザークラッディング技術を土台にしたものである。
現在、LMDF技術の研究は主として造形プロセス及び造形品の組織性能という2分野で展開されている。米国のサンディア(Sandia)国立研究所とロスアラモス(Los Alamos)国 立研究所はニッケル基耐熱合金、ステンレス、チタン合金など金属材料を対象に、レーザー金属直接造形に関する多くの研究を手掛けており、同技術では形状が複雑な金属部品の製造が可能であるほか、製 造品の力学性能も従来の鍛造技術で製造された部品とほぼ同等か、さらには上回るレベルにあると指摘している [26] 。スイス連邦工科大学ローザンヌ校のKurzら [27] は、レーザー高速造形プロセスのパラメータが造形プロセスの安定性、造形部品の精度制御、及び材料の微細組織・性能に与える影響について掘り下げた研究を行い、その技術を単結晶ブレードの修復に応用した。
清華大学の鍾敏霖、寧国慶ら [28] は、レーザー高速造形の同軸粉末供給システムの開発及びクラッディング(肉盛り)高さの測定や制御を対象に研究を進めた。西北工業大学の黄衛東ら [29] は一層の厚み、トラック幅、オーバーラップ値等の主要パラメータに対する精密な制御により、内部が緻密で表面品質の優れた造形品の作製に成功した。西安交通大学の張安峰、李滌塵ら [19] はレーザー金属直接造形によるDZ125L耐熱合金部品の製造過程における様々なプロセスパラメータ(レーザー出力、走査スピード、粉末供粉率、Z 軸上昇値など)がクラッディング層一層当たりの高さ、幅 、高さ・幅比、造形品質に与える影響の法則性を研究し、プロセスパラメータを最適化した。
図3 LMDFシステムの原理図
Fig.3 Schematic diagram of LMDF
近年になっても、引き続き多くの国がLMDF技術を重視し、その開発に力を入れている。2013年、欧州宇宙機関(ESA)は「 高度技術によって金属製品の高効率生産とムダ撲滅の実現を目標とする積層造形プロジェクト」(AMAZE)プランを打ち出した。このプランは2013年1月に正式にスタートし、仏エアバス(Airbus)社、欧 州航空防衛宇宙社(EADS)傘下のアストリウム(Astrium)社、英ロールスロイス(Rolls·Royce)社、英クランフィールド大学(Cranfield University)及 びバーミンガム大学(University of Birmingham)など28機関が参加し、レーザー金属積層造形に関する共同研究を手掛けており、その研究は積層造形を金属産業に応用することを主眼とし、大 型の欠陥のない積層造形金属部品の高速生産を行い、ムダ使いを撲滅することを目指している。同時に、米国のサンディア(Sandia)国立研究所、ロスアラモス(Los Alamos)国立研究所、GE社、航 空宇宙局(NASA)やドイツのフラウンホーファー(Fraunhofer)研究機構レーザー技術研究所、中国の北京航空航天大学、西安交通大学、西北工業大学などもLMDFについて踏み込んだ研究を行っている。
米国航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所は、新たなレーザー金属直接造形技術を開発した。これは、一つの部品の上に複数の金属または合金を混合してプリントするもので、これにより、航 空機とりわけ宇宙機の部品製造における積年の難題であった、同一部品内の位置によってそれぞれ異なる性能が要求されるという問題が解決された。図4(a)に示す通りである。英ロールスロイス( Rolls·Royce)社は、レーザー金属直接造形技術を用いて、TrentXWB-97(ロールスロイス社の開発したターボファンシステムエンジン)の チタンとアルミの合金で構成されるフロントアクスルハウジングを製造した。このフロントアクスルハウジングは48のブレードを持ち、直径1.5m、長さ0.5mである。図4(b)に示す通りである。北 京航空航天大学の王華明らのチームは、レーザー金属直接造形技術を用いて大型の航空機用チタン合金製主要耐力部品補強フレームを製造した。図4(c)に示す通りである。このプロジェクトは「国家技術発明一等賞」を 獲得している。西安交通大学は、国の「973プロジェクト」による補助金を利用して、レーザー金属直接造形技術を用いた中空タービンブレードの製造に関する研究を展開し、複 雑な構造の中空タービンブレードの作製に成功した。図4(d)に示す通りである。
図4 LMDF技術の応用事例 / Fig.4 Application of LMD
(a)米NASAによる多種金属混合レーザー造形品
(b)英ロールスロイス社によるレーザー金属直接造形のエンジン部品
(c)北京航空航天大学による航空機用チタン合金製主要耐力部品補強フレーム
(d)西安交通大学の耐熱合金製中空タービンブレード
レーザー積層造形技術の発展トレンド
1. 設備分野
レーザー積層造形技術の普及を図る上で、その基礎となるのは経済的で効率的な設備である [30] 。現在、大出力レーザーユニットの使用及び粉末供給効率の継続的向上に従い、現在、レーザー積層造形技術の加工効率はすでに大きく向上した。但し、大型部品の製造効率は依然として低く、し かもレーザー積層造形技術用設備も高価であるため、設備の加工効率を高めつつ設備コストを引き下げることが重要になる。このほか、レーザー積層造形技術設備と従来の加工技術とを組み合わせることも可能である。例 えば、ドイツのDMG森精機のLasertecシリーズは、レーザー積層造形技術と従来の切削技術を組み合わせたもので、従来のプロセスでは加工が困難だった複雑な形状を作製できるのみならず、レ ーザー金属積層造形プロセスにみられる表面の粗さの問題も解決し、部品の精度を高めている。
2. 材料分野
金属材料のレーザー積層造形技術において、金属粉末がその原材料となり、金属粉末の品質は部品の最終的な品質に直接影響を及ぼすものである。しかしながら、目 下のところレーザー積層造形技術の生産に用いる専用の金属粉末はなく、現在レーザー積層造形技術のプロセスに使用されている金属粉末は、いずれもプラズマ溶射や真空プラズマ溶射、高速フレーム溶射(HVOF)と いった高温コーティング向けに開発されたものを転用しており、ほとんどがミスト化プロセスで製造されている [31] 。こうした金属粉末は、製造過程において顆粒の内部に空洞が生じていることがあり、こうした金属粉末をレーザー積層造形技術に使用した場合、部品に空洞や亀裂などの欠陥が生じる恐れがある。2 015年3月に米国オーランドで開催された第七回レーザー積層造形技術シンポジウムでは、レーザー積層造形技術用の金属粉末が焦点の議題となり、参加した専門家や研究者らからの注目を集めた [32] 。このようなことから、レーザー積層造形技術に使用する金属粉末が、今後の研究の重点になるとみられる。
3. プロセス分野
現在、レーザー積層造形技術のプロセスに関する研究は多く展開されているものの、部品の造形過程にはなお多くの問題が存在している。SLM造形プロセスには複雑な物理、化学、金 属加工のプロセスが含まれるため、球状化、ピンホール、亀裂等などの欠陥が生じやすい [33] 。LMDF造形プロセスでは、高エネルギーレーザービームの長時間にわたる周期的かつ急激な加熱と冷却、移動する溶融池の底部での強い制約による急速な凝固収縮、さ らにこれにより発生する一時的でアンバランスな循環性の固体相転移により、部品内部で極めて大きな内応力が発生し、部品の重大な変形や割れが生じやすい [34] 。レーザー積層造形技術のプロセスをさらに最適化し、造形プロセスにおける欠陥を除き、レーザー積層造形技術プロセスにおける部品の内応力の変化の法則性や、変形・割れ、凝固組織の形成の法則性、内 部欠陥形成のメカニズムなど重要な基礎課題についての研究 [35] を強化することが、今後の研究の重点となろう。
おわりに
中国ではレーザー積層造形技術が早くから研究されており、すでに多くの研究成果を上げている。しかし、海外に比べればまだ遅れがあり、さらに力を入れて研究の進捗を加速すべきであろう。レ ーザー積層造形技術は、新興の技術であり、今後の開発においては「産、学、研」連携体制をより重視し、市場のニーズに合わせてプロセスに関する一連の規範・規格など標準化作業を進め、プ ロセスをめぐる重要課題を段階的に解決し、コスト低減を図り、レーザー積層造形技術が中国の産業モデル転換への重要な道筋の一つになるよう、促していくことが望まれる。
(おわり)
参考文献
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※本稿は楊強、魯中良、黄福享、李滌塵「激光増材製造技術的研究現状及発展趨勢」(『航空製造技術』2016年第12期(507号)、pp.26-31)を『航空製造技術』編集部の許可を得て日本語訳・転 載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司