核燃料要素における炭化ケイ素材料の応用(その2)
2017年 1月24日
劉栄正:
清華大学原子力エネルギー・新エネルギー技術研究院、
先進的原子炉エンジニアリング・安全に関する教育部重点実験室
1985年生まれ、博士、助理研究員。研究テーマ:被覆粒子燃料、機能性セラミックス複合材料。
劉馬林、邵友林、劉兵:
清華大学原子力エネルギー・新エネルギー技術研究院、
先進的原子炉エンジニアリング・安全に関する教育部重点実験室
(その1よりつづき)
2.3 溶融塩原子炉
溶融塩原子炉は液体フッ化物塩を冷却媒質として、グラファイトを減速材および炉心構造材料として採用している。溶融塩は良好な伝熱特性と低い蒸気圧を有し、圧力容器と配管に対する圧力を低減できる。冷却材の出口温度は650~850℃に達する[24]。
液体燃料がグラファイトを流れる際は、グラファイト内部に浸透しないことを保証する必要がある。さもなければ局部にホットスポットが形成され、グラファイトの温度が1100~1200℃に達し、この温度下でのグラファイトの破損率は700℃に比べて2倍高くなる[25]。ある研究によれば、グラファイト材料は溶融塩中で5.065×105Pa、650℃の環境下で12h保温された後に重量が14.8%増加するが、被覆の厚さが約7.8µmのSiCを用いたクラファイト材料では重量が1.2%しか増えない。このことは、SiC層が効果的に溶融塩の浸透を妨げることを示し、SiC材料は溶融塩原子炉で幅広い応用の将来性があることを証明している[26]。
また、固体燃料を採用する溶融塩原子炉もある。この燃料は高温ガス冷却炉の燃料要素を参考にしたもので、球形燃料要素、角柱形燃料要素または細管型燃料要素の使用が可能である。燃料要素の新たな設計概念の一つに、グラファイト基体の代わりにSiCを用い、TRISO燃料粒子をSiC基体中に拡散させて燃料要素を作製するというものがある。図3のとおり[27]。
2.4 ガス冷却高速炉
ガス冷却高速炉とは、高速中性子スペクトル・ヘリウムガス冷却炉であり、閉鎖系燃料サイクルを採用しているため、ウラン資源利用率を大幅に向上させ、核廃棄物生成量を低減し、放射性廃棄物の最少化を実現することができる。前述した数種類の原子炉と比べ、ガス冷却高速炉は出力密度が高く、核燃料含有量が多いが、グラファイトにおける中性子減速効果と放射性クリープのために、高温ガス冷却炉で使用されているグラファイト基体中に被覆粒子の拡散する燃料は、ガス冷却高速炉では使われなくなった[28,29]。
日本の原子力研究イニシアティブ(Nuclear energy research initiative,NERI)においては燃料要素の新たな設計概念が提案されており、それは未固結SiC層を被覆する窒化物混合燃料を円柱状の空洞を含むSiC基体に投入するというものである。基体中のSiC材料の作製プロセスは図4のとおりであり、まずは同時焼成によってミリメートルオーダーの炭素棒をSiC基体中に均一に分布させ、脱炭処理を経た後に、炭素棒の位置に空洞を残し、その空洞に燃料を挿入して燃料要素を得る[30]。
米国アイダホ国立研究所(INL)はこれとは別の燃料形式を設計している。この燃料は高温ガス冷却炉の燃料要素に類似し、図5のように分離された燃料粒子をSiC基材中に拡散させる。この設計構想では、U-Puの炭化物ペレットをコアとして外側に2層のSiC材料(未固結SiC緩衝層と緻密SiC層)を被覆させた後に、これら被覆粒子をSiC基体中に拡散させるというものである。これらの設計概念に基づき作製された2種類の異なる規格寸法の燃料要素の主なパラメータ・指標は、表2のとおり。
材料 | 設計値1 | 設計値2 | |
燃料粒子形式 | 2層のSiC被覆 (U,Pu)C燃料 |
1.64mm | 480μm |
内側被覆層 | 未固結SiC層 理論密度は30%未満 |
58μm | 17μm |
外側被覆層 | 緻密CVD SiC層 |
61μm | 18μm |
燃料コア | (U,Pu)C | 1.4mm | 410μm |
図4 軸方向に並ぶ空洞を含むSiC燃料基体の作製プロセス[30,31]
Fig.4 Process for producing sintered SiC matrix with axial penetrating holes to accommodate fuel microrods[30,31]
3 原子炉用SiC材料の共通性に関する分析
3.1 燃料要素の設計における共通性
燃料要素に用いられるSiC材料は、構造SiCと機能SiCの2種類に分けられる。燃料要素のさまざまな層の構造体系において、SiC材料は重要な役割を果たすことができる。具体的な分類は、以下のとおり。
(1)SiC未固結層。未固結層は燃料と直接的に接触する。大量の空洞を含むことから、気体状核分裂生成物を閉じ込め、一部の固体状核分裂生成物を遮ることができる。
(2)SiC緻密被覆。緻密なSiC被覆は燃料粒子または燃料要素構造を維持するための重要な支柱であり、高温および高速中性子束等の過酷な環境への抵抗が可能となる。ある球形粒子中では、燃料コアがSiC被覆で完全に包まれることから、核分裂生成物のほとんどが燃料粒子内に閉じ込められるため、原子炉の安全性が保証されている。
(3)SiC保護層または基体。最外層のSiCは、原子炉内の媒質と直接的に接触することによって、媒質による化学的腐食から燃料要素を効果的に保護する。
3.2 作製方法における共通性
燃料要素用SiC被覆材は、一般的に化学気相成長法により作製される。粒子状コアについては、燃料被覆層の基本的な作製方法は流動床化学気相成長法である。流動床においては、流動気体によって燃料粒子が浮遊状態となり、一定温度下で特定反応気体に注入されて被覆層を形成する。SiC層作製上の基本的な反応物質はメチルトリクロロシラン(CH3SiCl3,MTS)であり、その際に生じる反応は以下のとおり。
CH3SiCl3→SiC+3HCl↑ (2)
被覆プロセスにおいて、液体MTSを一定温度まで加熱すると、MTS蒸気が気体キャリアによって流動床炉に注入される。1550~1700℃の高温下では、MTSは流動状態下のコア粒子上にイン・サイチュ堆積されて緻密なSiC被覆層を形成する。燃料コアと直接的に接触するSiC未固結層については、HCIによるコア腐食作用のために、一般的にはハロゲン族元素を含まないシリコン由来反応物質を前駆体に選ぶ。バルク被覆については、一般的には最初にSiCを一定形状の炭素材料上に堆積させた後に、脱炭素工程によりSiC被覆を得る。
SiC基材については、ほとんどでNITE法(Nano Infiltration and Transient Eutectic phase)が採用され、一定のドーパントを注入したナノSiC粉末を高温で加圧・焼結・成形して燃料要素を得る。
3.3 解決すべき問題
燃料要素の開発段階は、原子炉の種類により異なる。燃料要素中のSiCの応用には、以下のとおり解決すべき問題が存在する。
(1)材料の作製。SiCは融点が高く、焼結性能が劣るために、バルクSiC材料またはSiC基複合材料の焼結・成形には往々にして特殊な製造条件が必要であり、特に形状が複雑な管状構造については、製造工程に過酷な条件が求められる。また、拡散的な粒子の形式については、粒子分布の均一性や、粒子と基体、ならびにさまざまな被覆層との間の界面の性質も材料の製造工程と密接に関係する。
(2)照射試験。SiC材料には良好な中性子特性と耐照射性能があるが、原子炉内の環境の複雑性のために、SiC材料については照射条件と原子炉内媒質の相互作用に関しても、さらなる研究が待たれる。現在、燃料要素の大部分はコンセプト設計の段階にあり、さらに全面的な原子炉内照射試験が必要とされる。
(3)事故条件の明示。原子炉燃料要素の設計においては、正常な運行条件とともに事故発生の条件も考慮する必要がある。仮定される事故条件において、燃料要素の挙動について試験とシミュレーションを行うことも重要な作業であるが、新型のSiC被覆による燃料粒子またはSiC基燃料要素については、現時点では事故条件下の性能評価がまだ系統的に行われていない。
(4)コンセプト設計から実際の燃料要素へ。燃料要素の設計、研究および製造は一連のシステム工学であるため、コンセプトの設計から実際の燃料要素の作製まで、さらには性能試験に至るまで、燃料要素が実用に至るプロセスにおいては、さまざまな問題を総合的に考慮する必要がある。現在の研究はコンセプト設計の段階にとどまっているため、設計方法については安全性や経済性の要求にともなって引き続き改善される必要がある。
4 おわりに
SiCおよびSiC基複合材料は優れた高温性能および耐照射性能を有するため、核燃料要素においてますます広範に応用されつつある。SiCを重要な被覆材および基材とするさまざまな構造において、機能の整備された新たな燃料要素が相次いで設計されている。現在、高温ガス冷却炉の燃料要素はすでに商用化に向かっていることから、SiC材料を含む他の燃料要素の開発も加速するだろう。燃料要素に加え、SiC材料は原子炉構造材料や原子炉配管のライニングの材料においても幅広い応用の見通しがある。原子力の安全性に対する要求の高まりに伴い、SiC材料は原子力分野でさらに広範に応用され、重要な役割を果たすだろう。
(おわり)
参考文献
[24] Delpech S,Cabet C,Slim C,et al.Molten fluorides for nuclear applications[J].Mater Today,2010,13(12):34
[25] Rosenthal M W,Haubenreich P N,Briggs R B.The development status of molten-salt breeder reactors,ORNL-4812[R].United States:Oak Ridge National Laboratory,1972
[26] He X J,Song J L,Tan J,et al.SiC coating:An alternative for the protection of nuclear graphite from liquid fluoride salt[J].J Nucl Mater,2014,448:1
[27] Forsberg C,Terrani K A,Snead L L,et al.Fluoride-saltcooled high-temperature reactor(FHR)with silicon-carbidematrix coated-particle fuel[C]//American Nuclear Society Annual Meeting Transactions.California,2012
[28] Meyer M,Fielding R,Gan J.Fuel development for gascooled fast reactors[J].J Nucl Mater,2007,371:281
[29] Fielding R,Meyer M,Jue J F,et al.Gas-cooled fast reactor fuel fabrication[J].J Nucl Mater,2007,371:243
[30] Kohyama A.Present status of NITE-SiC/SiC for advanced nuclear energy systems[C]//31st International Conference on Advanced Ceramics and Composites.Daytona Beach,2007
[31] Katoh Y,Wilson D F,Forsberg C W.Assessment of silicon carbide composites for advanced salt-cooled reactors,ORNL/TM-2007/168[R].United States:Oak Ridge National Laboratory,2007
[32] Weaver K D,Toemeier T C,Claek D E,et al.Gen IV nuclear energy systems gas-cooled fast reactor(GFR)FY-04annual report,INEEL/EXT-04-02361[R].United States: Idaho National Engineering and Environmental Laboratory,2004
※本稿は劉栄正、劉馬林、邵友林、劉兵「碳化硅材料在核燃料元件中的応用」(『材料導報』第29巻第1期,2015年、pp.1-5)を『材料導報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記 事提供:同方知網(北京)技術有限公司