第124号
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バイオテクノロジーに基づくウラン含有廃水処理に関する研究の進展(その2)

2017年 1月31日

譚文発:
南華大学環境工程系 南華大学放射性三廃 処理・処置重点実験室博士

研究テーマ:水処理技術

呂俊文、唐東山:
南華大学環境工程系 南華大学放射性三廃 処理・処置重点実験室

その1よりつづき)

2.3 生体還元

 1990年代初期、Lovelyら[33]によって、水素を電子供与体として、ゲオバクター属菌を利用して地下水中の可溶性U(VI)を安定的で、かつ、溶解度の低い4価ウランに還元・転換することにより、その移行や拡散を防止するという構想が提案されたことが契機となって、生体還元によるウラン除去技術に世界中の研究者から関心が集まった。その後、10年余りの研究を経て、いくつかの微生物にはウラン除去能力があり、その還元作用によって溶解性U(VI)を不溶性U(VI)に還元できることが証明された。微生物学研究者たちが、純粋培養物または混合菌によるU(VI)還元について実験した結果、硫酸塩還元菌やゲオバクター属菌、嫌気性粘液細菌、シェワネラ属菌やクロストリジウム等のさまざまな微生物にウラン還元機能があることがわかった[34-36]

 硫酸塩還元菌は典型的な金属還元菌であり、H2または乳酸塩等の電子供与体の存在下で酵素反応によってウランU(VI)を直接還元するうえに、ウランに対する優れた耐容性と除去効果がある。易正戟ら[37]は硫酸塩還元菌を利用して地中ウラン含有廃水中のウランを処理した結果、pH6.0の際のウラン除去率は99.4%に達し、pHがウランの生物沈殿に明らかな影響を及ぼすことが分かった。謝水波ら[38]はウラン除去効果に対する共存イオンMo(VI)およびCa2+の影響を研究した結果、Mo(VI)またはCa2+の初期濃度が≦5mg/Lの際は硫酸塩還元菌によるU(VI)への影響は小さいものの、濃度が20mg/Lに達するとU(VI)の還元は強い抑制作用を受けることが分かった。周泉宇ら[39]は土壌カラム実験によって硫酸塩還元菌と零価鉄の相乗効果によるウラン廃水除去の潜在性を研究した結果、U(VI)除去率は99.4%に達しうることが分かった。Barlettら[40]はウラン汚染のバイオレメディエーションにおける硫酸塩還元菌とゲオバクター属菌の相互関係を系統的に研究した結果、ゲオバクター属菌の数と活性に影響する重要な要素はFe(III)濃度であるうえに、ウランのin situバイオレメディエーション効果と密接に関係することが分かった。また、謝水波ら[41]の研究によって、シュワネラ・プトレファシエンス(Shewanella putrefaciens)は一部の有機酸塩を電子供与体として利用し、アントラキノン-2-スルホン酸ナトリウムを電子シャトルベクターとして効率的にU(VI)を還元できることが分かった。一方、Shiら[42]のシュワネラ属菌に関する研究によれば、細胞外膜の色素および構造タンパク質がウランの還元において重要な役割を果たすことがわかった。このほか、アメリカの一部の研究者たち[43-44]も微生物還元によるU(Ö)の土壌カラム実験およびin situ固定試験を実施した。呉唯民ら[45]は、アメリカ・エネルギー省がテネシー州オークリッジにおく総合試験場において、スタンフォード大学やオークリッジ国立研究所等が実施したウラン汚染に対する微生物によるin situバイオレメディエーションの段階的試験の結果を総括し、さらに溶存酸素と硝酸塩を加えることによって、微生物によるin situバイオレメディエーションを行った後の地下水層中の還元・固定態ウランの安定性を試験した結果、固定化後の4価ウランは嫌気的条件下でのみ安定し、溶存酸素と硝酸塩は地下水層への浸入後に、固定化した4価ウランを再び酸化して溶解態の6価ウランに変化させることがわかった。

 これらの研究によって、生物還元技術をウラン廃水の修復に応用するには嫌気的条件を維持する必要があることがわかる。嫌気的条件下ではじめて、還元態ウランの安定性を維持し、バイオレメディエーション効果を保証できる。このため、生物還元技術はNO3-、Fe3+およびMn6+等の酸化態イオンおよび水質パラメータの変わりやすい廃水の修復には適しない。

2.4バイオミネラリゼーション

 バイオミネラリゼーションとは、生物が大分子の有機物を分解・転換して無機物を生成するプロセスを指し、ここで生成されたリン酸塩や炭酸塩、水酸化物等の無機物を利用して廃水中のウランと化学反応を生じさせ、不溶性の無機ミクロドメインを形成させる。この研究により、大腸菌、セラチア属菌、シュードモナス属菌等は酵素反応によってリン酸塩類有機物を鉱化・分解してオルトリン酸塩を発生し、ウランと結合して、HUO2PO4、Ca(UO2)2(PO4)2やH2(UO2)2(PO4)2等の安定したリン酸ウラン沈殿を形成できることが分かった。

 イギリスの科学者Paterson-Beedleら[46]は、大腸菌とイノシトールリン酸の組み合わせは、ウラン汚染水中のウラン回収に利用できることを発見した。この研究では、大腸菌とイノシトールリン酸を組み合わせて使用した結果、大腸菌がイノシトールリン酸を分解し、リン酸塩分子を自由な状態にできることがわかった。その後、リン酸塩分子がウランと結合するとウラン・リン酸塩となり、大腸菌の細胞表面に凝集・沈殿する。アメリカの研究者Rayら[47]が、ウランで汚染された沈殿物からスクリーニングした微生物菌株について、pH7.0の嫌気的環境においてウランに対する固化試験を行った結果、4価ウラン結晶相構造に加え、リン酸ウラニルの固相結晶もいくぶん生じた。この研究により、当該菌株は、還元6価ウランと放出されたリン酸塩により、リン酸ウラニル等を生成する方法との相互作用によって、ウラン除去作用を発揮できることが分かる。Handley-Sidhuら[48]はセラチア属菌を利用してグリセロリン酸を鉱化し、生成されたリン酸カルシウム塩ナノ粒子を利用してウラン等の放射性核種に対して修復試験を行い、固化体におけるウランの吸着点およびその安定性を考察した結果、リン酸カルシウム塩のナノ固化基材はウラン等の放射性物質によって汚染された地下水に優れた修復能力を持つことが分かった。Salomeら[49]は、さらに電子供与体とリン酸鉱物を加えることによって、嫌気的環境下における微生物のウラン固化方式について研究を行った結果、pH5.5の弱酸性環境およびpH7.0の中性環境下において、ウラニルイオンのほとんどはリン酸塩と1:1で結合してリン酸ウラニル類物質[HUO2PO4、Ca(UO2)2(PO4)2、H2(UO2)2(PO4)2]を生成することがわかった。このことは、当該方式で、微生物によるバイオミネラリゼーションにより生成される安定的なリン酸ウラニル沈殿は、還元によるウランの除去効果よりも顕著であるため、主なウラン固化方式となりうることを証明している。

 微生物によるミクロドメイン形成の長所は、沈殿生成物の安定性が強く、操作条件が難しくなく、好気的・嫌気的環境等のさまざまな複雑な環境に適用できることにあるが、現行の研究では主にグリセロリン酸を炭素源およびリン酸塩供与体としていることから、入手が困難で、コストが高い等の問題がある。入手元が幅広く、価格が低廉なリン酸塩基材を見つけ出すことができれば、効率的で応用範囲の広いウラン廃水処理法となるだろう。

3 展望

 バイオテクノロジーおよび近代的な分子検査技術の発展に伴い、微生物とウランの相互作用メカニズムに対する研究は進展を見せ、目覚ましい成果をあげている。とはいえ、ウラン含有廃水の効率的な処理方法としての生物学的方法においては、微生物によるウラン除去の全プロセスや微生物の適応性、生成物の安定性およびウランの除去効率等の問題について、さらなる研究が必要である。また、この点においては、以下の点が参考となり、追究に値するだろう。(1)微生物とウランの相互作用は非常に複雑であり、異なる微生物、あるいは同種の微生物であっても、ウラン除去方式は環境によって相違し、生成物の安定性も異なる。例えば、P-U細胞内/外のミクロドメイン形成は表面吸着や閃ウラン鉱より安定している。このため、微生物によるウラン除去方式の競争メカニズムや制御メカニズムについてはさらに研究を進め、より効率的で生成物が安定しているウラン転換菌を模索し、スクリーニングする必要がある。(2)単一の菌株では適応性が低いため、効率の高いウラン転換菌を数種類混合して培養し、ウラン転換プロセスにおいて互生および共生作用が生じるようにすれば、その適応性を大幅に強化し、さらなる除去率を達成できるであろう。(3)近代的な遺伝子工学の発展によって、有益な特徴を持つさまざまな遺伝子の再構成によって多機能かつ転換能力の高い「スーパー菌株」の作製が可能となり、この菌株に同時並行で長期的に安定してウラン除去機能を発揮させられるだろう。(4)ウラン含有廃水に対する微生物処理については、実験室でのシミュレーションで良好な効果が得られているが、実際の廃水処理に向けた事業化においての実践研究は少ない。中国の原子力工業の持続可能な発展を確保すべく、ウラン鉱物資源の利用率を高めるには、処理後のウラン沈殿生成物のリサイクル利用について研究する必要がある。たとえば、微生物-ウラン凝集体の灰化-浸出プロセス等については、さらなる考察が期待される。

(おわり)

参考文献

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※本稿は譚文発,呂俊文,唐東山「生物技術処理含鈾廃水的研究進展」(『生物技術通報』第31巻第3期,2015年、pp.82-87)を『生物技術通報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司