高速鉄道車両に使用される空気ばねの縦方向における動態特性に関する研究(その1)
2017年 2月 9日
戚壮:西南交通大学機械工程学院 博士研究生
主な研究テーマは、機関車車両システムの動力学および高速鉄道車両の空気ばね。
李芾:西南交通大学機械工程学院 教授
博士、博士研究生指導教官。主な研究テーマは、機関車車両設計理論。
黄運華:西南交通大学機械工程学院 副研究員
博士。主な研究テーマは、機関車車両設計理論および都市鉄道車両システムの動力学。
周張義:西南交通大学機械工程学院
虞大聯:南車青島四方機車車両股フン有限公司国家工程実験室
概要:
本研究においては、空気ばねの空気力学/流体力学的モデルを構築し、空気ばねの縦方向の特徴とそのヒステリシス曲線の幾何学的特徴との関係式を導いた。そして、この空気力学的モデルに基づいて静的および動的シミュレーションを実施し、ゴム製エアバッグの体積、補助タンクおよびオリフィス径の3つの構造パラメータと空気ばねの縦方向における静剛性、動剛性およびダンピング特性との関係を重点的に研究した。これをベースに、当該空気ばねの空気力学的モデルを含む高速鉄道完成車両の動力学を利用し、空気ばねの構造パラメータが車両の縦方向の安定性に与える影響の規則性に関する研究を進めた。計算の結果、ゴム製エアバッグの体積を増大することによって、車両の縦方向の安定性が効果的に改善されることがわかった。また、補助タンクの体積がたとえ一定の値に達したとしても、車両の縦方向の安定性のさらなる拡大効果は薄いため、補助タンクの容積は少なくとも35Lを保証しなければならない。オリフィス径の拡大に伴い、車両の縦方向の安定性に関する指標は、最初は急速に減少したものの、後に緩やかに拡大した。これは、オリフィス径には比較的望ましい値が存在することを物語っている。それは約15~25mmであり、この値の際に、車両の縦方向の安定性が最善となる。
キーワード:高速鉄道車両、空気ばね、構造パラメータ、縦方向の安定性
はじめに
高速鉄道車両のスピードの向上に伴い、車両がレールに及ぼす影響が拡大した。車体の振動も激しさを増したために乗り心地が悪化し、ひどい時には列車運行の安全性にも影響が生じた。空気ばねを第2の系統のサスペンションシステムとして採用する高速鉄道車両にとって、空気ばねの縦方向における特性による車両の運行安定性への影響は大きい。空気ばねの縦方向における特性とその構造パラメータとの間には複雑な非線形関係があるため、空気ばねの動力学モデルを構築し、その構造パラメータの変化による縦方向の動態特性への影響を分析した上で、高速鉄道車両の縦方向の安定性と空気ばねの構造パラメータの変化との関係を一層明らかにすることは、高速鉄道車両の動力学的性能を最適化する上でプラスになるだろう。
空気ばねの動力学的モデリングと非線形特性分析は、中国と海外の多くの研究者の間で研究の焦点となっている。1970年代にはすでに、ODAら[1]が動剛性を周波数領域によって切り替えることのできる空気ばねの等価機械モデルを構築している。1990年代には、KRETTEKら[2]が有限要素法の理論に基づいて、非対称負荷における空気ばね特性の計算方法を検討した。2001年、QUAGLIAら[3]は空気ばねの設計とパラメータの選択において次元解析法を応用した。2008年、NIETOら[4]は空気ばねの試験特性に基づいてその非線形流体力学モデルを構築した。同年、DOCQUIERら[5-6]は空気ばねの各部品について、それぞれの空気力学的方程式を構築し、さらにそれぞれのモデルにおける車両の動力学特性を分析した。2010年、FACCHINETTIら[7]は空気ばね準静的および動的数理モデルによる車両動力学の計算の影響の比較を行った。一方、中国における空気ばねの鉄道車両への応用はスタートが遅く[8]、先行研究も少ない。2003年,李芾ら[9]は熱力学および流体力学の理論に基づき、物理学的モデルによる空気ばねの統一的な数式を導き、かつ、空気ばねのパラメータを決定する計算方法を発表した。2005年、原亮明ら[10]は有限要素法と試験を結びつけた方法により、空気ばねの縦方向における動態特性の分析モデルを構築し、空気ばねの変形および接触特性を正確に説明した。2006年、劉増華ら[11]は空気ばねの減衰調節を目的とした最適制御プランを発表し、かつ、SIMULINKを運用して、空気ばねをセミアクティブに制御したサスペンションシステムについてコンピュータ・シミュレーションを行った。2010年、莫栄利ら[12]は空気ばねの減衰特性に関する基礎理論を検討し、かつ、エネルギー等価理論を用いてその動態減衰係数を測定した。2012年、李仲興ら[13]は補助タンクを持つ空気ばねの特性試験システムを構築し、かつ、補助タンクや連結管の直径の異なる空気ばねのそれぞれの特性試験に関する研究を行った。
これらの研究結果に基づき、本稿では、高速鉄道車両に用いられる空気ばねを研究対象として、空気力学・熱学動力学的理論に基づいてその数理モデルを構築し、かつ、ヒステリシス曲線を利用して、異なる結構パラメータにおける空気ばねの縦方向の動態特性を研究し、最終的には多体動力学原理を利用して、異なる特性を持つ空気ばねによる車両の縦方向の安定性について計算を行い、高速鉄道車両における空気ばねの設計とその最適化に貢献したいと考えている。
1 空気ばねの数理モデル
高速鉄道車両の2次サスペンションの大部分はフリーダイアフラム式空気ばねを採用しており、その構造は図1のとおりである。図1では、Fは空気ばねの上部カバープレート上の重りに対する支点反力を示し、hは空気ばねの上部カバープレートの縦方向の変位を示し、静的バランス時は0、下向き時は正とする。また、pb、Vb、Aeはそれぞれゴム製エアバックの内部圧力、体積、有效面積を、pt、Vtはそれぞれ補助タンクの内部圧力、体積を、d、Lはそれぞれゴム製エアバックと補助タンクとの間のオリフィスの直径および長さを示す。高速鉄道車両における縦方向の安定性を分析する際は、空気ばねの正常作動状態だけを考慮すれば良いため、高度调整弁と差圧弁の作用は考慮しなくて良い。緊急時用ゴム製ばねの剛性は空気ばねの剛性よりはるかに大きい上に、両者は連結関係にあるため、空気ばね本体の弾性作用は緊急時用ゴム製ばねの弾性作用よりはるかに大きく、正常モードにおいては空気ばねの上部カバープレートは緊急時用ゴム製ばねと接触しないため、モデリングにおいては緊急時用ゴム製ばねの剛性は無視する。
図1 高速鉄道車両の空気ばねの構造イメージ
空気ばねの支点反力Fとゴム製エアバック内部圧力pbの関係は以下のとおり。
式中、paは外界大気圧であり、一般的に101 300 Paとする。
ゴム製エアバックの内部圧力pbは複雑な動的変数であり、この解を求めるには、空気ばね内部の気体の熱力学プロセスを等エントロピープロセスに単純化する必要がある。すなわち、ゴム製エアバック内部の気体は、気体の多元方程式を満たす。
式中、nは気体のポリトロープ指数であり、一般的に1.4とし、下付き文字の0は各物理量の初期値を示す。ゴム製エアバックの体積変化は2つの部分により構成され、その1つは空気ばねの上部カバープレートの縦方向における変位hの変化であり、もう1つは気体がオリフィスと補助タンクを経て生じる気体交換である。これに基づいて、式(2)によって導かれる空気ばねのゴム製エアバックの内部圧力pbと空気ばねの上部カバープレートの縦方向における変位hとの変化の関係は以下のとおり。[2]
式中、uはオリフィス中の気体の変位である。
同じ理論で、補助タンク内部の圧力変化はゴム製エアバックと近似するが、ただその体積は一定を維持するに過ぎない。初期の静的バランスの際の補助タンクとゴム製エアバックの内部圧力が同等と仮定すると、補助タンクの内部圧力ptの表現式を以下のように導くことができる。
ゴム製エアバックと補助タンクとの間で気体交換を行う際、気体とオリフィス壁との間で摩擦が発生し、減衰が生じる。流体力学理論に基づけば、オリフィス内の気体の第2流動の微分方程式は以下のとおり。[5]
式中、λ、ζはそれぞれオリフィスの摩擦抵抗係数と局部抵抗係数であり、ρはオリフィス内部の気体密度であり、方程式(6)によって単純化した計算ができる。
式中、Tは大気の熱力学温度であり、今回の計算では298 Kとする。Maは大気のモル質量であり、一般的に0.029 kg/molとする。Rはモル気体定数であり、一般的に8.314 J/(mol·K)とする。
上記の連立方程式によって構築された空気ばねの数理モデルによって、数値の方法で解を求めることができる。また、さらなる研究において、ある高速鉄道車両の空気ばねをサンプルとして数値計算を行い、その主な構造パラメータと初期変数を表1に示した。空気ばねは多くの物理変数を持つ複雑なシステムであり、さまざまな物理変数との間で、さまざまな数値によって組み合わせを行うことができる。このため、演算量を単純化し、演算結果をより明確にするべく、後述の空気ばねの構造パラメータの変化とその動態特性との関係の研究プロセスにおいては、1つの物理パラメータのみを変数と仮定し、その他のパラメータはすべて当該計算例に基づいて数値計算を行った。
物理量 | 数值 |
補助タンク体積 Vt/m3 | 0.07 |
オリフィス径 d/m | 0.014 |
オリフィス長さ L/m | 0.1 |
ゴム製エアバックの 初期体積 Vb0/m3 | 0.027 |
ゴム製エアバックの 初期圧力 pt0/Pa | 523×103 |
ゴム製エアバックの初期有效面積 Ae0/m2 | 0.222 3 |
2 空気ばねの縦方向特性の計算方法
空気ばねの縦方向における特性を研究するために、まずは空気ばねの台座を固定し、その上部カバープレートに対して縦方向の単調和振動を加え、それと同時に空気ばねの上部カバープレートにおける支点反力を測定した。支点反力Fを縦座標とし、空気ばねの上部カバープレートの縦方向の変位hを横座標とすると、空気ばねの力-変位ヒステリシス曲線が得られる。図2のとおり。図2の原点F0は静的バランスの際の空気ばねの支点反力を示す。図2aで載荷される単調和振動の周波数は0.02Hzであり、振動周波数が比較的低いため、オリフィスを経る気体流の摩擦減衰が明らかでない。力-変位は直線的変化を呈し、この直線の,通过该直线傾斜度によって空気ばねの縦方向の静剛性kstを算出できる。図2bで載荷される単調和振動の周波数は1 Hzで、オリフィスを経る気体流の摩擦減衰作用によって力-変位は楕円変化を呈し、この楕円の幾何学的特徴によって空気ばねの縦方向の動剛性kdynと動的減衰cdynを算出できる。このため、空気ばねの動的特性を計算するに選択する振動周波数は1Hzである。これは、車両の動力学研究において、車体に対するフレームの振動が主に1Hz前後に集中しているからでもある[14-16]。
図2 ヒステリシス曲線のイメージ
静剛性kstと動剛性kdynは、ヒステリシス曲線の最高点(hmin, Fmax)および最低点(hmax, Fmin)によって、式(7)によって直接求められる[5]。
動的減衰cdynは、ヒステリシス曲線の面積Sと関係する。単調和振動の作用下において、空気ばねの上部カバープレートの縦方向の振動変位hと振動速度hとの間には、以下の方程式の関係が存在する。
式中、a=H、b=2πfHであり、Hとfはそれぞれ単調和振動の振幅と周波数である。空気ばねの縦方向の振動の位相図は楕円であり、その面積は以下のとおりであることが分かる。
空気ばねが縦方向における各振動プロセスで消費するエネルギーは力-変位ヒステリシス曲線の面積Sであり、以下の方程式で示される。
連立方程式(9)および(10)によって導かれる動的減衰cdynとヒステリシス曲線の面積Sとの関係式は、以下のとおり。
つまり、式(7)および式(11)に基づけば、ある単調和振動下における空気ばねのヒステリシス曲線を得られさえすれば、当該ヒステリシス曲線の幾何学的特徴に基づいて空気ばねの縦方向における静的または動的特性を求めることができる。
(その2へつづく)
参考文献
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※本稿は戚壮、李芾、黄運華、周張義、虞大聯「高速動車組空気弾簧垂向動態特性研究」(『機械工程学報』第51巻第10期,2015年5月、pp.129-136)を『機械工程学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司